ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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ただいま 2〜グロリアの父〜

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 颯也は「おじいちゃ~ん♪」と無邪気にじゃれつく年齢はとうに過ぎているので

「お世話になります」

 と頭を下げた。

「寒がったべ、よぐ来た、よぐ来た」

 父は私の方を向き、履いているレインブーツに気づくと
「馬鹿でねえ。そっただそんな靴でぁお墓さ行けねえべ。母ちゃんさ長靴借りろ」
 と怒鳴り飛ばした。

 昔から外向きには腰の低い温厚で誠実な人、家族に対しては瞬間湯沸かし器の父だ。
 これでも歳とともにだいぶ丸くなった方だ。子どもの頃は宮沢賢治の童話に出てくるカルボナード大火山よろしく、いつ噴火するかわからない父を姉弟きょうだい揃ってただただ恐れ、側を通るのすら息を潜めて地雷に触れないよう抜き足差し足だったったが、さすがに大人になって色々わかってくると理不尽で馬鹿馬鹿しいと思うようになってきた。

 今暮らす街は晴天率全国何番目らしく、そうでなくても関東の都市部で暮らす分には長靴など持たなくても何とかなるのだーーそれはそれでいざ大雨や積雪という時の脆弱性でもあるので、どうかとも思うが。
 たとえ持っていたとしても、最先端の真新しい新幹線に親子揃って長靴で乗るのは勇気が要る。そう言い返せば伯母達もいるのに空気が悪くなるだろうし、本人は無駄に人を萎縮させてはストレスも溜めずけろりとしている。得な性格だ。

 母にあらかじめ祖母の亡くなった時の状況は聞いていたのだが、とにかく突然のことだったらしい。ショックでやつれていたらどうしよう、とチラッと思ったりもしたのだがその心配はなさそうだ。

 叔母と長内さんの二人分の荷物と手土産でトランクは一杯になり、私のボストンバッグと颯也のリュックとあと二人の大人(正確には大人並みの体格の子どもを含む)がセダン型のグロリアに乗ってしまうとかなり窮屈そうだ。

「颯也は 若ぇすけわかいから、後から一人で歩いてくるが」

 父が冗談混じりで聞くと、サッカークラブでゆる体育会系の洗礼を受けている颯也が大真面目に頷く。

「うん。道、教えて」

「冗談だ。お母さん(私)とタクシーで来う来い。タクシー代ば家で出すから」

「いいよ。荷物積んでくれたんなら、家まで歩けるよ」

んだらだったらどれ、晃夫さ電話してみるべ」

 父がそう言ってヤッケのポケットから真新しい携帯電話を出したので「おっ」と思った。

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