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北三陸への道 4〜遠縁の長内さん〜
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「あぃや。静子ちゃんが 40さなったんでば、やっぱり おらぁ年っことったやぁ」
「いやいや、まだギリギリ30代ですよ」
自分で言っておいてあれだか、そこにはちょっとこだわりたい私。「アラサー」「アラフォー」系の括りはまだ世に存在していなかった。
何年も会わない間にまあ立派になって、お子さんもこんな大きくなって……、と無邪気に相好を崩し続ける伯母に、くすぐったいような申し訳ないような気持ちでもう一度頭を下げる。年を食っただけでそう立派でもないのは自分でよくわかっているが、それでも無事と健在を手放しで喜んでくれる人がいるというのはありがたい。
これといって取り柄もないのになぜか五教科だけはよくできて、地元の公立高校にしては少し偏差値高めの、背伸びした大学にたまたま合格したもんだから親戚の間ではちょっとした神童扱いだった。
そんな私もトライアンドエラーの自分探しでであちこちさまよい歩いた挙げ句「大きくなればただの人」ーー結局今は子持ちのパートのおばさんだ。
母は五十代の早期退職までフルタイムで働いていたので、その辺は密かに忸怩たるものがある。
ふるさとの訛り懐かし停車場の………
と、人混みも何もない空間に完全に取り残された颯也の横にもう一人、輪に入れきれず「ぽつん」な人物の気配に気づく。伯父ではない。
「どうも静子ちゃん、この度はご愁傷様」
黒いコート姿のこちらの人物は、さらに訛りが少ない。丁寧に挨拶を返しはしたが、ロマンスグレーの長めのくせっ毛を形よく整えたワイルド風味は、母方の生真面目なおじ達にはないものだ。
「こちら、盛岡の長内さん。新幹線が一緒でね。降りた時に偶然会ったの」
父方の遠縁が盛岡にいるという話だけは聞いていたがその人だろうか。同じ便だったのはおそらく私達もそうで、下手すると同じ車両だったかもしれないのだが全然気づかなかった。
長内さんも穏やかで優しげな人で、
「前会った時はひいおばあさんの葬式ーーいや、魂抜きの時だったかな。静子ちゃんは中学の制服を着ていたね」
こんなに小さくて、と長内さんは胸のところに手をかざした。私の身長は中学一年の時に止まっているからそこまで小さくはなかった。人の記憶、特に年輩者の記憶ほど当てにならないものはない。
が、私の中でああ、となんとなく蘇った景色がある。
「いやいや、まだギリギリ30代ですよ」
自分で言っておいてあれだか、そこにはちょっとこだわりたい私。「アラサー」「アラフォー」系の括りはまだ世に存在していなかった。
何年も会わない間にまあ立派になって、お子さんもこんな大きくなって……、と無邪気に相好を崩し続ける伯母に、くすぐったいような申し訳ないような気持ちでもう一度頭を下げる。年を食っただけでそう立派でもないのは自分でよくわかっているが、それでも無事と健在を手放しで喜んでくれる人がいるというのはありがたい。
これといって取り柄もないのになぜか五教科だけはよくできて、地元の公立高校にしては少し偏差値高めの、背伸びした大学にたまたま合格したもんだから親戚の間ではちょっとした神童扱いだった。
そんな私もトライアンドエラーの自分探しでであちこちさまよい歩いた挙げ句「大きくなればただの人」ーー結局今は子持ちのパートのおばさんだ。
母は五十代の早期退職までフルタイムで働いていたので、その辺は密かに忸怩たるものがある。
ふるさとの訛り懐かし停車場の………
と、人混みも何もない空間に完全に取り残された颯也の横にもう一人、輪に入れきれず「ぽつん」な人物の気配に気づく。伯父ではない。
「どうも静子ちゃん、この度はご愁傷様」
黒いコート姿のこちらの人物は、さらに訛りが少ない。丁寧に挨拶を返しはしたが、ロマンスグレーの長めのくせっ毛を形よく整えたワイルド風味は、母方の生真面目なおじ達にはないものだ。
「こちら、盛岡の長内さん。新幹線が一緒でね。降りた時に偶然会ったの」
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長内さんも穏やかで優しげな人で、
「前会った時はひいおばあさんの葬式ーーいや、魂抜きの時だったかな。静子ちゃんは中学の制服を着ていたね」
こんなに小さくて、と長内さんは胸のところに手をかざした。私の身長は中学一年の時に止まっているからそこまで小さくはなかった。人の記憶、特に年輩者の記憶ほど当てにならないものはない。
が、私の中でああ、となんとなく蘇った景色がある。
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