ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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畑中君 1

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 園長先生とちょうど入れ替わるように葬儀屋の社員が来ていたが、それだって朝八時前だ。玄関の内外に臨時の靴箱とすのこ、上がり框用の踏み台を据え付けてくれていた。

 最近の体育会系の学生でもあまり見ないようなスポーツ刈りの黒スーツーー格闘技でもしていたような立派な体格をしているので、ぱっと見SPか恐い商売の人と勘違いしてしまいそうだ。
 
 バリアフリーという概念がまだない昭和の時代に建てられた実家は、敷居や段差がそこここにあって上がり框も高いし階段もきつい。
「バリアフリー」なんて言葉がなかった時代の方が昔ながらの家で暮らす年寄りが多かっただろうに、いったいどうしていたんだろう。曽祖母の生前はトイレと風呂まで外だから、入院する直前まで手すりも何も無い庭の掘立て小屋の汲み取り便所ポットントイレで用を足していたはずだ。

 その後、父が家を改築したのでやっと家の中に風呂とトイレができた。後年ーー私が家を出てからだったがーー集落に下水道が通る事になった事を機に手すりつき、段差なしの洋式トイレに改装した。

 祖母は洋式トイレを嫌がっていたそうだが、使い始めると楽だったのか文句は出なかった。私も二人の子どものトイレトレーニング期に帰省した時には両親の決断に感謝した。おそらく自らの老後も考えての事だったと思うが。

 なお「田舎の家あるある」で男性の小用トイレも別立てで造られている。
 台所の水回りにも手を入れ、窓はサッシに変わったが居室の敷居も段差も廊下の狭さも昔ながらのままだ。

 ところでこの葬儀屋らしからぬ人物がうちの担当者なのだろうか?ーー全くの先入観と偏見なのだが、何となく落ち着いた年配の人物を想像していた私は思わずしげしげと見入ってしまった。

「どうも。この度はご愁傷様です」

 男性は私に気づくと顔を上げ、丁寧に礼をした。

「あっ、どうも……お世話になります」

 慌てて頭を下げる。

「失礼ですが、竹花静子さんですか?」

 聞き返してきたのは私の旧姓だ。

 狭い地元だから昔の知り合いに会っても驚かないが、お互い容貌が変わり果ててしまい、名乗られない限りわからないこともしばしばだ。

「私、畑中恵一けいいちです。覚えてませんか」
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