ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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畑中君 2

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 この人の場合は会社の名札をしていたので、名乗られる前から苗字はわかっていた。「畑中」という名字はこの辺りによくある姓だが、小学校辺りの同級生か?男子の名前はあまりよく覚えていないのだが……

「高校の時、新聞部で一緒でした。竹花さんが三年生で、私は一年生で。三年生は一学期の新聞を作って引退してしまったから……やっぱり、覚えてないかもしれませんね」

 いや、思い出した。

 今は英語だかフランス語だかよくわからないメモリアル・ド・何とかという横文字の小洒落た会社名になっているのだが、元は地元で代々営業している「畑中葬儀店」という家族経営の老舗だ。
 高校の後輩にそこの息子がいて「葬儀屋の息子」というだけでちょっとした有名人だった。先輩同期問わず部の男子からも遠慮なく「店継ぐの?」なんていじられていた。

 多感な時期に無神経で脳天気な連中にあれだけネタにされて、嫌気がさしたかと思いきや結局家業を継いだんだ……と感心した。線の細い小柄な子だった印象があるので二度びっくりだ。

「ああ、畑中君。立派になったね。わからなかった」

「立派になった」という感想はまさにこういう時にこそぴったりだろう。

「よく覚えてたね、私のこと」

「竹花さんは副部長だったし、目立ってたから……」

 ゴツゴツと骨張った輪郭と目尻の皺の目立つ元・美少年にはにかんだように笑われて、番茶も出花の十八歳に戻ってしまったような妙な気持ちになる。

 目立った、だと……?

 同じ学年にはもっと美人でスポーツも出来て人気者の、いまでいうキラキラ女子が何人もいたが、私の方は目立たず地味でそういった子達とは対極にいた。見た目も流行もあんまり気にしていなかったし……「役つきだったから」くらいの意味なんだろうが、「実は悪目立ちしていた」なんて真相を今さら聞いて黒歴史を増やしてしまうのが恐ろしく、話題を変えた。

「じゃあ今、畑中君が社長なの?」

「いやいや、全然違いますよ。三十になる少し前にこっちに戻って来て中途入社したんですが、まだまだ勉強中です」

「こうして一人で担当任されてるんなら立派な中堅どころじゃない。頼りにしてる」

「お役に立てるよう頑張ります」

 畑中君は頭を下げた。ぱっと見威圧感はあるが、中身は腰の低い好青年だ。

「気づいたことがあったら何でも言ってくださいね」

「そうだ。『お水の係やれ』ってお父さんに言われたんだけど。何すればいいの?」

「ああなるほど。じゃあ説明しますね」

 畑中君と私はお祖母ちゃんの祭壇の前に移動した。脇に蓮の花模様の水差しと湯飲み、茶こぼし様の鉢の三点セットを乗せた膳が横向きに置いてある。
 畑中君がいかつい外見に似合わない綺麗な所作で祭壇に向かって膝を折り、「お座りください」と入り口側に座布団の敷いてある膳の正面を勧めたので私も正座した。

「仏様(故人)は喉が乾いていると言われています……」
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