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第1部

アマイワナ

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キジマ達は会社近くの喫茶店で、課長からの連絡を聞いていた。

「くっそ、なんなんだあのオンナ。この期におよんで新しいルートを見つけてくるなんて」

「やっぱ、今夜やりますか。たぶん浮かれてスキだらけのはずですよ」

「どこでやる?  奴らの会社から駅まで人通りが多いから拉致れねえぞ」

「壱ノ宮でならどうでしょう、田舎だから人通り少ないはずっす」

「お前、行ったことあんのかよ」

「ないっすけど、東京にくらべたら田舎にきまってますよ」

「あたりまえだ、東京とくらべるな。人通りの無い田舎でも、よく知らなきゃもたつくだろうが」

「地元に詳しいヤツいねえかな」

キジマ達が冷めたコーヒーをすすっていると、後ろから話しかける者がいた。

「あ、ひょっとしてお客さんじゃないですか」

キジマが振り返ると、茶髪にピアスでスーツ姿の男がいた。

「どちら様でしたか」

一応ビジネスマンなので、敬語で応対する。

「昨夜もうちの店に来てくれて、ありがとうございます」

そう言われてやっと気がつく。

「なんだ、バーテンさんかよ。明るいところで見たから気がつかなかったよ。こんなとこで何してんだい」

「今から仕入れなんですが、その前にコーヒーでも飲んでいこうかなと思いまして」

「へえ、大変だな。やっぱ、市場に行くのかい」

「たまには行きますが、じつはほとんど壱ノ宮で仕入れてるんです」

壱ノ宮と聞いて、キジマ達はピクリとした。

「バーテンさん、壱ノ宮にはよく行くのかい」

「ほぼ毎日っすね、じゃなくて、ほぼ毎日です」

「じゃあ、詳しいんだ」

「全部ってわけでは無いですけど、駅周辺なら詳しいっす、じゃなくて詳しいですよ」

キジマ達は目配せをする。

「なあバーテンさん、壱ノ宮駅周辺で人気の無いところあるかな」

「なんすかその質問は。そうですねイナリ公園辺りかな、以前も通り魔が出たことがありますし」

メンバーのひとりがマップアプリで検索して、それをキジマに見せる。
駅の北の方にある公園は国道に面していて、高架を挟んで駐車場もある。拉致しやすそうだ。

「そんなこと訊いてどうするんですか」

「いやちょっとな、ありがとな、バーテンさん」

キジマは手を降りバイバイの合図をする。バーテンはぺこりと頭を下げて店を出ていった。

「こういうのをタナボタって言うんだろうな」

キジマ達は笑った。
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