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第4章
大切な宝物
しおりを挟む「絵馬ちゃん。流星。僕たちは……――」
その先に続ける言葉を躊躇するまもりさんに代わって、流星さんはゆっくりと頷いて言った。
「俺は、覚えてる。お前たちのことを。今までのことも、全部」
「……聞かせてもらえませんか?」
無理を承知で、私はお願いした。
流星さんは少しだけ驚いたような顔でこちらを見る。
「私たちはまだ、全部を思い出せたわけじゃありません。でも……こうして一度失ったはずの記憶が戻りかけているのは、みんなが絶対に忘れたくないって、無意識のうちに思っているからなんじゃないかって、私は思うんです」
たとえ魔法の力で消されてしまっても、心の奥底で留まり続ける思い。
それは、私たちにとって何よりも大切なものなんじゃないだろうか。
「……俺がここで教えたら、また、まもりが危ない目に遭うかもしれないぞ」
「なら、そうならないように、みんなで一緒に考えませんか?」
魔法の代償を受けなくてもいい方法があるかもしれない。
記憶を消さなくてもいい方法が見つかるかもしれない。
みんなで一緒に考えれば、きっと。
「まもりさんは、どうしたいですか?」
一番大事なのは本人の気持ちだ。
いくらその人のためだとはいえ、周りの意見を一方的に押し付けるわけにはいかない。
たとえ最善の選択のように思えたとしても、それが本当の意味で、その人のためになるとは限らないから。
「僕は……」
まもりさんはほんの少しだけ間を置いた後、穏やかな微笑を浮かべて言った。
「……僕も、思い出したい。一人でいるのは、寂しいから。みんなと、もっと一緒にいたいから」
それを聞いた流星さんは「あー」と葛藤するような声を上げ、がしがしと頭をかく。
それから一度、ゆっくりと深呼吸をして。
改めて私たち三人の顔を眺め、困ったように苦笑した。
「後悔すんなよ」
彼の口から語られようとしている、私たちの思い出。
それはきっと、すべてが楽しいことばかりじゃない。
悲しいことや、後悔していることだってきっとたくさんある。
けれど、それらすべてをひっくるめて、今の私たちがあるのだ。
そして、今こうして何気なく一緒にいる時間だって、いつかは大切な思い出として記憶されていくのだ。
私たちにとって何物にも代えがたい、大切な宝物として。
「んじゃ、長い話になりそうだし……場所を移すとするか。とりあえず、あの荒屋のカフェにでもお邪魔しようかね」
「歓迎するよ。よかったら新作のケーキの味見もしてみてよ。ご馳走するから」
「えっ、ケーキ? やったぁ! 私ケーキ大好き!」
「わ、私は遠慮しておきます……」
夕焼けに包まれた、雨上がりの空の下で。
私たち四人は肩を並べて、以前のように笑い合いながら、再び歩き出した。
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みんなの感想(1件)
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読了致しました!
素敵な作品だと思います。
紫音さんの書く文章は、いつも中盤から 引き込まれていきます。
そこからはまた、一気に最後まで読んでしまいました。読みながら
本当の意味で、誰かを思いやるっていうのはどういう事なんだろって
考えさせられました。その先に、ほんとに魔法があるのかも知れない。
最後までお読みいただきありがとうございます!
本当の意味での思いやりって、難しいですよね。たとえ自分が良かれと思ってやったことでも、相手にとっては迷惑なだけかもしれないですし…。
でも、誰かのためを思う気持ちというのは、それ自体は良いものだと思うので、その思いだけでも報われてほしいなぁと思って、この物語を書きました。
中盤から引き込まれたと言ってもらえて嬉しいです!次は冒頭から引き込まれるような物語を目指します🙏✨