如何様陰陽師と顔のいい式神

銀タ篇

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陰陽師と式神、しびとの姫を拾う

01-02:刀岐昂明

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 長保二年。
 刀岐昂明ときのこうめいは齢十六にして陰陽寮の陰陽師となった。

 陰陽寮の学生でもなく、元服と共に陰陽師への大抜擢。
 そして陰陽師といえば陰陽頭や陰陽博士には及ばぬが、位階は従七位上相当。陰陽寮の中でも六人しかいないという官職だ。
 そんな六枠しかないうちの一枠を、ぽっと出の若造が奪ったという事実は、陰陽寮の者達を震撼させたと聞く。

 家人もおらず元来不器用なのが災いして、もとどりはいつもぼさぼさでやや曲がった立烏帽子からはみ出している。寝起きが悪く朝はいつも半目で気だるげ。出仕する際も直衣ではなく、故あって大概くたくたの狩衣姿。
 切れ者と思いきや案外それほどでもなく、のんびり屋に見えて短気で喧嘩っ早い。にも拘わらず喧嘩には弱く、そしてだらしない。

「銀」

 もう少しで山から出る、という所で昂明は振り返った。

「そろそろ日が昇る。頭と体、しっかり隠しておけ」

 もうそんな時間かと二人で空を仰げば、木々の隙間から日差しが漏れる。銀は慌てて羽織っていた上衣を頭からすっぽりと被ると「もう大丈夫だ」と答えた。

 ――抜けるような白い肌と日の光に煌めく白銀の髪。薄鈍色にも似た瞳は見る者を惹きつけ、様々な感情を呼び起こす。そして殊更、日の光に弱い。

 お陰で気兼ねなく外に出られるのは夜から朝日が昇る前まで。あとはこうして日の光から身を守って行動しなければならない。
 小さく溜め息をつく白銀の幼馴染みを見て、さぞや不便なことだろうなと昂明は思った。

    * * *

 出世も久しい貴族の邸宅としては意外なほどに、刀岐の邸は広い。それというのも刀岐氏のひいひい……爺様辺りの功績によるところらしいのだが、それも既に百五十年程前の話。確か天長何年かの頃の話だから、流石に年月の経過は否めない。さほど裕福な訳でもなく、当然邸の修繕などは二の次だったため、ともすればお化け屋敷か何かかと見間違えるものもいるほどだ。

「あれまあ昂明様、それに銀様も! ついに人攫いにまで身を落とされて……」
「婆や人聞きが悪い! 怪我人だよ。悪いんだけど泥を拭いて着替えさせてやってくれないか」

 邸に出入りする数少ない家人の中で、唯一の女性といっても過言ではない老婆にそう言い返すと、昂明は少女を床に下ろした。実はこういったことも一度や二度の出来事ではない。過去には瀕死の猪を「家で飼う」と連れ帰り、烈火の如く怒られたこともある。

 だから、今回も婆やは「はいはい、分かりましたよ」と言って深くは尋ねず少女の面倒を一通り見てくれたのだ。
 婆やから話を聞き終えた昂明が母屋に戻るなり、何か言いたげに銀は顔を上げた。

「傷の具合は」
「見えるところ以外は綺麗なものだ、って言ってたぜ。……婆やが」
「……そうか」

 「婆やが」とつけたのは、決して自分が見たわけではないという主張だ。銀の冷たい視線が「どうでもいいし」と語っている。
 怪我の治療をそこそこに、後は二人で彼女が目覚めるまで見守ることにした。

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