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第51話 神判
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翌朝アルゴスは天贈の儀が行われる教会へとやってきた。
アルゴスに授けられるスキルによってアガントス王国の運命が決まると言っても過言ではない大切な日だ。
父であるエバートン侯爵も病を押して付き添いに来ている。
教会の入り口の扉を開けて中に入ると、成人を迎えて間もない若者たちが列を作って天贈の儀を受ける順番を待っていた。
今王都は魔王軍によって包囲されているが天贈の儀は神事である。
こんな状況でも民衆たちは天贈の儀を受ける為に整列をして順番を待っていた。
いや、こんな状況だからこそそれを打開できるようなスキルの会得を期待する民衆も多い。
「ちっ、有象無象の愚民どもが無駄な事を。時間が勿体ない、あいつらを退かせ」
アルゴスは舌打ちをして順番待ちをしている民衆を退かすように使用人に命じた。
「しかしアルゴス坊ちゃま、そのような事をされてはシヴァン神のお怒りを買う事になるのでは……」
「この非常事態にそんな事を言っている場合か。僕は魔王軍を撃退して王国の民を救う為に一刻も早くユニークスキルを授からないといけないんだぞ。全ては民衆の為だ。それがどうしてシヴァン神の怒りを買う事になる? 分かったらさっさとやれ」
「は、はい……そこまで仰るのであれば……」
使用人はしぶしぶ列に並んでいる民衆を教会から追い出した。
「それでは行ってきます父上」
「あ、ああ……」
ルシフェルトが国外追放される前は猫を被っていたアルゴスも徐々に本性を現してきていた。
アルゴスの豹変ぶりにエバートン侯爵も違和感を覚え始めていた。
「神父様、今日は宜しくお願いします」
「はい、アルゴスどのこちらへどうぞ」
神父に案内されて教会の礼拝堂へ足を進めたアルゴスはシヴァン神の像の前で膝を折り両手を合わせて祈りの姿勢をとった。
「シヴァン神よ、王国の民を守る為どうかこの僕に魔王軍を討ち滅ぼす事ができるだけの強大なスキルをお授け下さい」
次の瞬間、アルゴスは自分の体の中に今まで感じた事がない大きな力が流れ込んでくるのを感じた。
◇◇◇◇
「父上、ただいま天贈の儀が終わりました」
「うむ、ご苦労だったなアルゴス。それでどのようなスキルを与えられたのだ?」
「それが、神父様に鑑定をお願いしたところ急に体調を崩されてまだ結果を聞いていないのです」
「何だと? この非常時に何をしているのだあやつは。まあいい、あれだけの神聖魔法を使いこなせるお前だ。きっと英雄ヘンシェルにも引けを取らない優れたユニークスキルを……うっ!?」
エバートン伯爵は急に顔を引きつらせて口を押えた。
「父上、まだお身体が宜しくないのですか?」
「……」
「父上?」
「この私に近寄るな!」
「父上、いきなり何を仰るのです!?」
「貴様の顔を見ていると気分が悪くなる。今すぐ私の前から消えろ!」
「旦那様、ここは私にお任せ下さい」
「何をする!?」
エバートン侯爵の使用人は困惑するアルゴスの襟首を掴み教会の外に放り出した。
「父上! これはいったどういう事ですか!? 何故私がこのような目に遭わなければならないのです!?」
アルゴスは訳が分からずに教会の外で喚いているが、エバートン侯爵は一切顧みようともせずに教会の奥へと向かった。
奥の部屋では神父が椅子に腰かけて休んでいた。
「神父どの、体調を崩したというのは嘘であろう。アルゴスの奴はどのようなスキルを授かったのだ?」
「エバートン侯爵……申し上げても良いものかどうか……」
「構わん、凡その想像はついている。私もたった今奴を教会から追い出したところだ」
「そうですか……アルゴスがシヴァン神から授けられたスキルは【際限のない憎悪】です。その効力は全ての生き物から憎悪の対象となるというものです。何故アルゴスどのがあのようなスキルを授かったのでしょう?」
「ふうむ……」
エバートン侯爵は腕を組み目を伏せながら答えた。
「シヴァン神は人の本質を見抜いて相応しいスキルを授けてくれる。あまり考えたくはないが、我々は今まで誰ひとりとしてアルゴスの本性に気付かなかっただけという事だろうな」
「あのようなスキルを授けられてしまった以上、アルゴスどのはこれから王国の全ての民から石を投げられましょうな。……お待ち下さい、そうなると大変な事になりますぞ!」
◇◇◇◇
「何をする、止めろ!」
「うるさい、お前の顔を見ているだけで胸糞が悪くなるんだよ!」
「今すぐこの国から出ていけ!」
神父の懸念通り、教会の外に出されたアルゴスに向かって民衆から罵詈雑言が浴びせられた。
暴行をする者もいる。
治安を守っているはずの衛兵ですらそれを止めようとはせず、逆に民衆たちに加わる有様だ。
「くそ、どうして僕がこんな目に……愚民どもめ、今誰がこの国を守っていると思っているんだ……僕にこんな事をしてどうなるか、後悔をさせてやる!」
アルゴスが神聖魔法の力を解除した事で王国を包んでいた結界が消え去った。
アルゴスに授けられるスキルによってアガントス王国の運命が決まると言っても過言ではない大切な日だ。
父であるエバートン侯爵も病を押して付き添いに来ている。
教会の入り口の扉を開けて中に入ると、成人を迎えて間もない若者たちが列を作って天贈の儀を受ける順番を待っていた。
今王都は魔王軍によって包囲されているが天贈の儀は神事である。
こんな状況でも民衆たちは天贈の儀を受ける為に整列をして順番を待っていた。
いや、こんな状況だからこそそれを打開できるようなスキルの会得を期待する民衆も多い。
「ちっ、有象無象の愚民どもが無駄な事を。時間が勿体ない、あいつらを退かせ」
アルゴスは舌打ちをして順番待ちをしている民衆を退かすように使用人に命じた。
「しかしアルゴス坊ちゃま、そのような事をされてはシヴァン神のお怒りを買う事になるのでは……」
「この非常事態にそんな事を言っている場合か。僕は魔王軍を撃退して王国の民を救う為に一刻も早くユニークスキルを授からないといけないんだぞ。全ては民衆の為だ。それがどうしてシヴァン神の怒りを買う事になる? 分かったらさっさとやれ」
「は、はい……そこまで仰るのであれば……」
使用人はしぶしぶ列に並んでいる民衆を教会から追い出した。
「それでは行ってきます父上」
「あ、ああ……」
ルシフェルトが国外追放される前は猫を被っていたアルゴスも徐々に本性を現してきていた。
アルゴスの豹変ぶりにエバートン侯爵も違和感を覚え始めていた。
「神父様、今日は宜しくお願いします」
「はい、アルゴスどのこちらへどうぞ」
神父に案内されて教会の礼拝堂へ足を進めたアルゴスはシヴァン神の像の前で膝を折り両手を合わせて祈りの姿勢をとった。
「シヴァン神よ、王国の民を守る為どうかこの僕に魔王軍を討ち滅ぼす事ができるだけの強大なスキルをお授け下さい」
次の瞬間、アルゴスは自分の体の中に今まで感じた事がない大きな力が流れ込んでくるのを感じた。
◇◇◇◇
「父上、ただいま天贈の儀が終わりました」
「うむ、ご苦労だったなアルゴス。それでどのようなスキルを与えられたのだ?」
「それが、神父様に鑑定をお願いしたところ急に体調を崩されてまだ結果を聞いていないのです」
「何だと? この非常時に何をしているのだあやつは。まあいい、あれだけの神聖魔法を使いこなせるお前だ。きっと英雄ヘンシェルにも引けを取らない優れたユニークスキルを……うっ!?」
エバートン伯爵は急に顔を引きつらせて口を押えた。
「父上、まだお身体が宜しくないのですか?」
「……」
「父上?」
「この私に近寄るな!」
「父上、いきなり何を仰るのです!?」
「貴様の顔を見ていると気分が悪くなる。今すぐ私の前から消えろ!」
「旦那様、ここは私にお任せ下さい」
「何をする!?」
エバートン侯爵の使用人は困惑するアルゴスの襟首を掴み教会の外に放り出した。
「父上! これはいったどういう事ですか!? 何故私がこのような目に遭わなければならないのです!?」
アルゴスは訳が分からずに教会の外で喚いているが、エバートン侯爵は一切顧みようともせずに教会の奥へと向かった。
奥の部屋では神父が椅子に腰かけて休んでいた。
「神父どの、体調を崩したというのは嘘であろう。アルゴスの奴はどのようなスキルを授かったのだ?」
「エバートン侯爵……申し上げても良いものかどうか……」
「構わん、凡その想像はついている。私もたった今奴を教会から追い出したところだ」
「そうですか……アルゴスがシヴァン神から授けられたスキルは【際限のない憎悪】です。その効力は全ての生き物から憎悪の対象となるというものです。何故アルゴスどのがあのようなスキルを授かったのでしょう?」
「ふうむ……」
エバートン侯爵は腕を組み目を伏せながら答えた。
「シヴァン神は人の本質を見抜いて相応しいスキルを授けてくれる。あまり考えたくはないが、我々は今まで誰ひとりとしてアルゴスの本性に気付かなかっただけという事だろうな」
「あのようなスキルを授けられてしまった以上、アルゴスどのはこれから王国の全ての民から石を投げられましょうな。……お待ち下さい、そうなると大変な事になりますぞ!」
◇◇◇◇
「何をする、止めろ!」
「うるさい、お前の顔を見ているだけで胸糞が悪くなるんだよ!」
「今すぐこの国から出ていけ!」
神父の懸念通り、教会の外に出されたアルゴスに向かって民衆から罵詈雑言が浴びせられた。
暴行をする者もいる。
治安を守っているはずの衛兵ですらそれを止めようとはせず、逆に民衆たちに加わる有様だ。
「くそ、どうして僕がこんな目に……愚民どもめ、今誰がこの国を守っていると思っているんだ……僕にこんな事をしてどうなるか、後悔をさせてやる!」
アルゴスが神聖魔法の力を解除した事で王国を包んでいた結界が消え去った。
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