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1【デブス女】
しおりを挟むーーとても変な人を好きになった。
彼は、『自分の中には幾つかの人格がある』と言った。
嘘を沢山つく人だったと思う。
でも、どれが嘘で本当なのかはわからない。
今。それを証明する術はないから。
当時、確認する度胸が私には無かったから。
嘘であって欲しい事に満ち溢れていた人だった。
弱いのか強いのかわからない人。
ーーとても変な人、だった。
とても綺麗な少年だった。
そう、少年。
出会った当時、同い年の高校生だった。
高校時代の私は特にーーデブで不細工だった。
痩せれば見られる見た目になるのがわかっていたから、痩せなかった。
ーー理由がなかったから。
太っていなかった幼稚園時代にモテ期のピークを迎えた私。
ーー太ってなければモテる私。
ーー太ったらモテなくなった私。
実際、体型意外にも成長と共に歪んだ性格に原因があったのは明確。
理由がわかっていながらも、当時の私は周りのせいにした。
ーー体の成長に対し、思考が幼かった。
足並み揃えて成長してくれなかった結果。
だらしない身体を生み出した。
憧れの高校の制服はネクタイとブレザーだった。
期待に膨らんだのは胸ではなく腹だった。
スカートは特注サイズでなければ入らなかった。
パンパンボディでブレザーの下にセーターを着る余地はなかった。
制服の着崩し方の知識は無駄になり、お披露目するタイミングは皆無だった。
ーーまわりとの自分の甘やかし方の違いに気付いた。
『自分はデブスだと自覚しているから、目立たない様にしよう』
周りの女は、自分ほどでは無いと前提を置く。
ーー謙虚な女ぶりながら。
制服を着崩さない自分は、なんて謙虚で真面目な良い子なんだろうと。
ーー自分に酔い続けた。
友達の前では、良く笑っていた。
卒業アルバムに載った個人写真は、私だけが笑っていなかった。
その写真を見て友人達が言うのだ。
『そうそう、この顔! アンタは露骨過ぎんのよ』
興味のない人間には毎回この仏頂面。
睨見つけるのに近いその表情は、誤解を生むから気を付けろと言われた。
ーー誤解? 利益のない相手に媚びてどうする。
私にとっての無表情からは、怒りが滲み出ていた。
私を理解してくれる人が好きだった。
私の事が好きな人が好きだった。
私の事を好きな人だけを大事にする。
それが許されない世間の価値観が憎かった。
そんな意思を突き通す自分が愛おしい反面。
そんな自分を他の人間に悟らせる程に表情に出していた自分に鳥肌が立った。
ーーここでやっと、危機感を覚えた。
私の1番は私。ーーナルシズム。
他に自分の芯をーー真を理解されたくない。
そんな自分に好意を抱いた男がいたのだ。
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