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2【無理な女】
しおりを挟む私を過剰評価してくれる、あまり親しくない友人ーー女子生徒がいた。
彼女を友人と呼んで良いのかすら怪しいほどの、淡い関係性の人間だった。
ーー淡い関係だからこそ。語り合った。
否定されない事を前提に。
彼女は漫画家を目指している事を気持ち良さそうに語り出したのだ。
それに感化されたのか。
私は深掘りされないだろうと安易な気持ちから、その場凌ぎの会話で話してしまった。
その後、『アナタと趣味が共通する友人がいるから紹介する』と言う。
お金の無い学生時代は携帯もガラケー時代。
パソコンでの無料通話での初対面だった。
ーーてっきり、来るのは女性だと思い込んでいた。
実際来たのは同い年の男子高校生2人だった。
私はすんなり参加したものの「騙された」とすぐに察した。
私が男性だと来ないのを察した友人は、その事実を隠して呼び出していた。
まんまと引っかかったのだ。
結局。
この会議通話において私は彼女引き立て役だったのか。
はたまた本当に紹介したかったのか。
真相は謎である。
ーー興味が無かったから追求しなかった?
ーー早く終わらせたかったから興味を持たなかった。
彼らが、私の声だけでどんな姿を想像していたのか。
「告白する」と意気込んでいた男子が1人。
頑張れ~、と応援していたもう1人の男子。
私は、後者のーー声が好きだった。
この時点では、恋する自分に酔っていたのだ。
付き合いたいとか、どうとかではない。
恋愛物語の登場人物になれて幸せだった。
何度でも言う。ーーとても変な人を好きになったのだ。
私の好きになった彼は、ある日突然。
友人だった他2人と絶交して、連絡を断った。
「君のことを『あの女は無理だわ』と笑う元友人を殴って、絶縁した」
「学校も辞めてきた」
「君以外の友達が居なくなった」
「僕と付き合って下さい」
「僕が凄く好きでいれば、君が僕のことを好きでなくてもデメリットって無いと思うんだ」
少女漫画の様にキュンと来るものは正直なかった。
超がつく自信に満ち溢れ、それにサイコパスが加わった様な。
ーーとても変な人だと思った。
でも。恋は盲目。
正常な感覚を狂わせる要素の塊が彼だった。
その時までに知り得た彼の全てが、私の好きなものでしかなかったのだ。
最初は声。
本名。字面。名前の呼び方。話し方。
実際に会った時に見た顔。触れた髪も、手も好みだった。
ーー今後彼は、私をひたすら狂わせ続ける。
『高校は辞めた』
『転校した』
『通信に通っている』
『辞めた』
『今はバイトをしている』
息をする様に嘘をつく。
それを責め無かったし、責められなかった。
私と彼との物理的な距離と心の距離がそうさせたし、成立させた。
私も沢山嘘をついた。
どれが本当でどれが嘘か、追求しなかった。
押し付け無い、問い詰めないのが良い女。
ーーそう思って疑わなかった。
気付いた時には、彼はバイトも辞めていた。
ーー高校を卒業して社会人になった私には、もう嘘を付かなくて良くなったから?
よく笑い、よく怒り、よくわからない人だった。
よく笑わせ、怒らせ、よく泣く人だった。
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