聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
93 / 785
第一部 宰相家の居候

109 シーベリー

しおりを挟む
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

 夕方、キヴェカス家の店舗から戻って来ると、セルヴァンが、エドヴァルドがフェリクス・ヘルマンの店舗に立ち寄ってから戻るので、夕食が不要になったとの言付けを知らせてくれた。

「……そっか」

 朝ちょっとギクシャクとしたので、有難いと言えば、有難いかも知れない。

 木綿関連の契約とか、あれこれ話をしにいったんだろう。

「レイナ様」

 じゃあ、書庫にこもってサンドイッチ貰おうかな…と思ったところを見透かしたかの様に、ニッコリと微笑うセルヴァンと視線が交錯した。

「……セルヴァン?」
「今日、出入りの業者がたまたま、王都に流通していたシーベリーを、ほんの僅かですが持ってきまして」
「えっ、ホント?」
「宜しければ厨房までお越しになって、夕食の補助として、何か試してみられませんか」

 どうやら本当に、カリフラワーもどきの野菜1個分程度の仕入れしか出来なかったらしく、エドヴァルドが夕食不要と言うのであれば、早速試してみてはどうかと思ったらしい。

 厨房の料理人たちも、出身で貴族令嬢でも何でもない私であれば、出入りしたところで誰も苦情は言わないだろうと言う事だった。

 量が多かった時に、申し訳なさそうに食事を残す程度で、出された料理に文句を言わない私は、そもそも料理人たちから悪く言われた事がないらしい。

 セルヴァンと連れ立って厨房まで行ったところ、作業台の真ん中に、他の野菜に埋もれるように、明るいオレンジ色が特徴的な、グミサイズの実が生る木の枝が置かれていた。

「これがシーベリー……」

「ええ。ユルハの領土は、実はシーベリー畑がかなりの割合を占めているのですが、知名度が低い所為せいか、並行して育てているブルーベリーが、かろうじての収入源となっている状況なのですよ」

 ブルーベリーは、他の公爵領でも割とポピュラーに育てられているものらしく、あえて「ユルハのブルーベリー」を指定する顧客は、あまりいないらしい。

 だからこそ、シーベリーの方に可能性を見出したいのかも知れない。

「ブルーベリーがあるなら、とりあえず、ジャムとジュースの技術はあるってコトよね?今日はまず、味を知るって事で、基本の二品をお願いしようかな?あ、その前にちょっと何本か除けさせて?」

 そう言った私は、2本ほどのシーベリーの枝を除けた。

「ちょっと薪じゃ太すぎるんだけど…もうちょっと細めの、あ、でも細すぎない、出来れば白っぽい木の枝とかないかな?」

「白っぽい枝ですか……ちょっとファルコにでも庭を探させましょう」

 電気なんてものはない筈で、既に外は日が暮れて――と、何とも言えない表情をした私に、セルヴァンは至極あっさりと「彼らは夜目が効きますから」などとのたまわれた。

 あ、いや、イザクに卵白かき混ぜさせた私が「それで良いのか〝鷹の眼〟!」なんて思っちゃいけないんだけど。

 そんな事を思っていると、姿は見えないのに、いきなり私の目の前に、色々な太さ長さの木の枝が、10数本ボロボロと降って来た。

「……誰です、横着をしているのは……」

 セルヴァンさん、ちょっとコワイです。

 私はとりあえず気が付かないフリをして、空いた作業台に、見た目白樺っぽい枝を何本か、梯子ハシゴ状に組み合わせて、置いた。

「えっと…お肉縛ってるような麻紐と、あと、リボン何本かないかな?で、手が空いてる、ちょっぴり手先の器用な方、結ぶの手伝って貰えると嬉しい」

 こっちは食用にしない。
 白樺もどきの枝を組んで結わえて作った梯子に、シーベリーの枝もくくりつけて、ディスプレイ用のアレンジメントに仕上げて貰っただけとも言える。

 …まあ、私がやると、たぶん結び目とかユルユルになるだろうから、コレも料理人さん仕上げで良しとして貰おう。

「必ずしも食用にしなきゃいけないってコトじゃないだろうから、コレだと例えばキヴェカス家のカフェインテリアとかにもピッタリだと思うんだよね」

 前に、南天を使ってこんな風にアレンジされて、吊り下げられていたセレクトショップを見た事がある。

「うーん…リボンをもうちょっと、草っぽいのにした方が映えるのかなぁ…まぁ、今日は試作品だから、良いかコレで」

 赤とオレンジの違いはあれど、どちらもハッキリとした色合いだから、似たような仕上げには出来る筈と、試行錯誤の結果だ。

「あ、セルヴァン、今度たくさん見本が届いたら、侍女さんたち集めて、アレンジの作りあいとかしてみちゃダメかな?私だとほら、壊滅的にこの手のセンスには欠けてるから」

 何より、アレンジメント作成能力が底辺をさまよっている。
 
 私が口にしなかったところまで察してくれた様に、セルヴァンも微笑わらった。

「そうですね。インテリアの一つにする事も考えていらっしゃるのでしたら、日々邸宅やしきの花を活けたりしている者たちを中心に、やらせてみても良いかも知れませんね。ああ、意外と庭師連中なんかを巻き込んでも面白いかもしれませんよ?」

「あっ、それ良い!そうしよう、決まりね!」

 しれっとセルヴァンが、公爵邸の「内向き」らしい事にも私を巻き込もうとしている事に、この時の私は気が付いていなかった。

「レイナ様、先にジュースが出来たようですよ。ハチミツも出させておきましたから、お好みで混ぜては如何ですか」

 料理人の一人から、ショットグラスサイズのグラスに入った、オレンジ色の液体を渡されて、とりあえずは原液状態のソレを一口、口に含む。

「……酸っぱいね、これ⁉」

 オレンジジュースの見た目からは、かなりかけ離れていた。
 なかなかに酸味が強い。

「うーん…ジャムだけじゃなく、コンフィチュールもアリ……?あ、そっちのシーベリーは、もうお砂糖入れた?これから?じゃあちょっとストップ!そっち更に二手に分けて、ジャムとコンフィチュール作って?」

 ジャムはともかく、コンフィチュールは彼らには耳慣れなかったらしい。
 私はちょっと考えて、お砂糖減らしてソース状にしてくれと頼んだ。

「レイナ様、それはどのように変わるものなのでしょう?」

「えーっと…コンフィチュールに関しては、パンやチーズとの相性が良いし、お肉とも相性が良い。どのお肉かは…合わせてみないと分からないけど。ジャムだと、この酸っぱさだと、かなりの砂糖が必要になりそうだから、コスト面でいったら、コンフィチュールの方が良いかも…と思って」

 質問してきた若手の料理人にそう答えたら、厨房全体が「おお…」と何故かどよめいた。

「じゃあ、そのコンフィチュールとやらを少し多めに作っておいて、明後日の朝くらいまでの間に、色々な肉料理にかけてみるか。ジャムは今日の夕食と、明日明後日の朝食に添えさせてもらう形でいいか?」

 話を引き継ぐ形で料理長がそう言ってくれたので、私もそれに賛成の意を示しておいた。

「今回は私の方でメニューを絞り込ませて貰ったけど、もっとたくさんの見本が届いたら、厨房ここのみんなで色々味見してみようね!」

 この量じゃ仕方ないですねー…と、皆も一応納得はしてくれたようだった。

 結局今日は一人で、クリームチーズに生ハム(的なナニか)を巻いた上からシーベリーソースをかけた、おつまみ的な試食品と、ヨーグルトにシーベリージャムをかけた物とを、夕食と併せて頂いてしまった。

 ――うん、一人で味わってしまってゴメンナサイ。
しおりを挟む
感想 1,464

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。