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第二部 宰相閣下の謹慎事情
262 想定外の申し込み
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
舞菜がダメならその姉でも――。
聖女としての話題性が欲しいなら、舞菜がダメならシャルリーヌに話がいってもよさそうなものだったが、何故に私。
一瞬そんな表情を見せたのを読み取ったエドヴァルドが、苦い表情で続きを教えてくれた。
エドヴァルドが着いた時には、王子王女は「丁重に」別室に放り込まれていたらしく、エドヴァルド自身は国王陛下とフォルシアン公爵から状況だけを聞かされたらしかった。
「…ボードリエ伯爵令嬢は『婚約破棄をされたご令嬢』だから、国内貴族が納得しない。バカ王子はそうも言ったらしい。奇しくも貴女としていた話が表面化したと言っても良いのかも知れないな」
どうやらエドヴァルドはドナート第二王子の名前を呼ぶ気もないらしい。
それはさておき、やはりシャルリーヌ自身の国内外での地位を底上げするには、エドヴァルドの言う「悲運のご令嬢物語」を広げてしまうべきと言う事なんだろうと内心で私も納得した。
この世界、相手側の有責にしろ、婚約破棄自体あまり外聞がよろしくないらしい。
まだ「解消」なら良かったんだろうけれど。
「聖女マナに関しては『ギーレンに留学予定で国内不在なら、聖女を支える麗しき姉妹愛を持つ姉でも充分に、サレステーデの側妃に受け入れられるだろうから、こちらは構わない』と。その上『聖女がギーレンにそのまま留まるなら、姉妹の繋がりを通してギーレンとも友好関係が築ける。姉の爵位なら、いくらでもサレステーデ国内の貴族に縁付かせられる』と、ふんぞり返って言ったようだな」
聖女を支える麗しき姉妹愛!
そんな鳥肌モノの話は聞きたくもないけれど、それよりも私は、今の話で気になる事が出てきてしまった。
不機嫌全開のエドヴァルドをなんとか宥めようと、思いつく事を片っ端から口にしていく。
「それ……最初は〝聖女〟の知名度狙いで来たけれど、そっちがギーレンにいるなら、むしろ私をとりこめば、妹のいるギーレンとの友好関係をチラつかせながら、第一王子派なり隣国バリエンダールなりに圧力かけられるんじゃないかと、急遽方針転換した風にしか聞こえませんけど……?」
どうやらそこは、エドヴァルドも有り得なくはないと思ったらしい。
姉妹の不和を知らなければ、そう考えたとしてもおかしくはない。
口元に手をあてて、少し考える仕種を見せた。
「………なるほど。聞いていると、第一王女が率先して騒いでいたらしいから、てっきり兄も同じバカの類かと思って皆聞いていたようだったんだが……」
「エドヴァルド様は、まだその二人に会ってないんですか?」
「とりあえず国としての対応を決めてからにした方が良いんじゃないかと、フォルシアン公爵とフィルバートで話し合って、ギーレンに聖女を送りに行ってまだ戻っていないと言う事にしたらしい」
まあそれでも、明日には会わないとならないだろうが…と、顔を顰めている。
「第一王女の方は、フォルシアン公爵の息子さんをご指名なんでしたっけ……?」
ユセフ・フォルシアン公爵令息。
フォルシアン公爵家唯一の嫡子でありながら家に寄り付かず、高等法院で働く文字通りの独身貴族。
こちらはどうして、サレステーデの王女サマからいきなり結婚を強要されているのかと言えば、どうやら原因はクヴィスト公爵家にあると言う事だった。
そもそも二人は、アンジェスの王宮へは、クヴィスト家の紋章が入った馬車で乗りつけて来たらしい。
「クヴィスト公爵令嬢と、ユセフとの縁談が以前にあって、結局まとまらなかったと前に話した事があったろう」
「そうですね、間接的でしたけど、伺いました」
「その後クヴィスト公爵令嬢は、バリエンダール国に嫁いだ親族からの紹介で、サレステーデのベイエルス公爵家に側室として嫁いでいったそうだ。フォルシアン家に断られたとなれば、次をアンジェス国内で探すのは難しくなるからな。クヴィスト家は、フォルシアン領下アムレアン侯爵家の様な、絶対的な特産品を持って、決して格下とみなされない家を抱えている訳じゃない。公爵令嬢で側室とは、随分な扱いだと思わなくもないが、その公爵家の正室は、先代国王の妹らしく、格の面から言っても仕方がなかったんだろう」
「サレステーデの公爵家に…先王の妹……」
何となく見えてきた。
エドヴァルドも、多分私が考えた通りだと言わんばかりに、頷いてくれた。
「今押しかけてきているドロテア第一王女は、ユセフよりも年上だが、未だ婚約者すら見つかっていない。まあ…第二王子もしかりだが」
その時点で、第二王子はともかく、第一王女の底は見えると、冷淡にエドヴァルドが言った。
「恐らくは、サレステーデ国内で己の地位を高めたい元クヴィスト公爵令嬢、現ベイエルス第二夫人が、うってつけの相手がいるとでも言って、ユセフと聖女マナの話をしたんだろう。まあ、自分を袖にしたユセフ・フォルシアン公爵令息への嫌がらせとして、引き取り手のない王女を押しつけようとしていると言うのが、理由の九割を占めている気はするがな。聖女マナに関しては、ドロテア王女を動かせば、側妃派の旗印であるドナート第二王子が洩れなくくっついてくるだろうから、苦肉の策で名前を出した。多少は実父であるクヴィスト公爵から話を聞いていたのかも知れない。姉である貴女の話も、そのついで。そんなところだろう」
「嫌がらせって……」
ベイエルス公爵家正室である夫人が先代国王の妹なら、側妃やその周囲が、第二王子や第一王女をどこにも縁づかせられずに焦っていたのが目に留まっていた可能性はある。
そこに元クヴィスト公爵令嬢が、いい考えがあるとばかりに話を持ち出せば、側妃派が話に喰いつくのも早かったんだろう。
上手くいけばベイエルス公爵家も側妃派の中で重宝されるだろうから、お互いにウィンウィンに見えたのかも知れない。
それにしても、ユセフ・フォルシアン公爵令息は、そんなにこっぴどくクヴィスト公爵令嬢をフッたんだろうか。
ちょっと気になる。
「フォルシアン公爵からの急使を受けて、クヴィスト公爵もさっき王宮へ駆けつけていたがな。ヤツ曰く『友人関係にあるベイエルス第二夫人の実家を一度訪ねてみたかったと言われたから、受け入れた。まさか王都中心街に買物に行くと言い置いて、王宮に乗り付けるなどと、予想だにしなかった』――さて、どこまでが真実なんだか」
確かに、元は他国出身の公爵家第二夫人と、一国の第一王女とが親しい友人と言うのもピンと来ないが、他人の実家に王女と王子だけがやって来るなどと、尚更納得しづらい。
私も「確かにそうですね」と頷いた。
「それにしても、フォルシアン公爵令息とドロテア第一王女との話はともかく、ドナート第二王子のお相手なら、まずはアンジェス国内なら、コンティオラ公爵令嬢が、高位貴族ご令嬢としてはトップの地位で、お相手がいらっしゃらない筈でしょうに。何故のっけから『聖女かその姉』指定なんですか。まあ、舞菜や私にもそれなりに理由があるのは理解しましたけど」
「……レイナ、それはフォルシアン公爵の前では言ってくれるなよ。公爵が泣くからな」
息子が筋金入りの女性嫌いである事を理解しているフォルシアン公爵は、エドヴァルドが王宮に着いた時、今にも泣きそうな表情で頭を抱えていたらしい。
国際問題間違いなしで、息子が不敬を働く事が目に見えている――と。
いやいや。
勝手に名前を挙げられているこちらも、結構深刻ですよと言いたい。
どうやら、令息がドロテア王女に一目惚れする――と言った可能性は微塵も考えていないようだ。
「コンティオラ公爵令嬢の件は確かにその通りなんだが、聞いたところによると、サレステーデの第一王子の婚約者は、ベルィフの第二王女だそうだから、コンティオラ公爵令嬢個人がどうと言うのではなく、公爵令嬢の地位では第一王子には勝てないと、そう言う話らしい」
「…例えド平民でも、聖女なりギーレンと繋がりのある姉なら、第一王子派に対抗出来るとでも?」
「…だから言ったろう、バカ王子と」
私と舞菜との不仲を知らなくても、絵に描いた餅も良いところだ。
聖女がいないとなって、即座に姉に切り替えて、もっともらしい理由までつけてきたのは、本来そこまで「バカ王子」じゃないのかも知れないけど、せめてもっとアンジェスの国情を調べてから来いとは言いたい。
それとも、ユセフ・フォルシアン公爵令息に会いたいと叫ぶドロテア第一王女を誰も止められなかったんだろうか。
それもそれで、派閥としては問題だと思うんだけど。
私とエドヴァルドは、そこで奇しくも同じタイミングでため息をついてしまった。
「今、フォルシアン公爵もエリサベト夫人に話をしに邸宅に戻っている。ユセフを高等法院にそのまま置いておくと、高等法院内で揉め事が起きる未来しか見えないからな。だったら一時的に休暇を取らせて、フォルシアン公爵家に突撃される方が余程マシだと思っているようだ」
確かに王宮にいきなり押しかけるような王女様なら、勤務先にだって押しかけかねない。
令息はフォルシアン公爵によく似ているらしいので、王宮で公爵に会ったなら、期待値が爆上がりしている可能性はあった。
なるほど…と頷く私に、エドヴァルドが「それと貴女だ」と、じっとこちらを見つめてきた。
「明日王宮で『まだ公表前だったが〝聖女の姉〟は私の婚約者となる。良い機会だからこの場で宣言させて貰う』と、バカ王子とクヴィスト公爵に叩きつけてくるつもりだ。それで引き下がればよし、そのつもりがないなら話を国ごと叩き潰す。もし私のいないところで、関係者が押しかけてくるようなら、貴女も明日からはそのつもりで振る舞って欲しい」
「ええっと……?」
婚約者…って……単なるご令嬢除けより立ち位置が重いような……?
目を丸くした私の頬に、そっとエドヴァルドの手が添えられた。
「本当は、ちゃんと段階を踏むつもりで、こんな風に話をする筈じゃなかった。だから今すぐにとは言わない。今はまだ、王子と王女を帰国させるまでの方便と捉えて、それらしく振る舞ってくれていて良い。ただ――いずれ正式な申し込みはすると、そのつもりでいてくれないか」
「……っ⁉」
「しまらない話だな。本当に、今すぐサレステーデの国ごとバカ王子を沈めてやりたいくらいだ」
色々と台無しだと苦笑するエドヴァルドに、私はすぐさま答えを返す事が出来なかった。
舞菜がダメならその姉でも――。
聖女としての話題性が欲しいなら、舞菜がダメならシャルリーヌに話がいってもよさそうなものだったが、何故に私。
一瞬そんな表情を見せたのを読み取ったエドヴァルドが、苦い表情で続きを教えてくれた。
エドヴァルドが着いた時には、王子王女は「丁重に」別室に放り込まれていたらしく、エドヴァルド自身は国王陛下とフォルシアン公爵から状況だけを聞かされたらしかった。
「…ボードリエ伯爵令嬢は『婚約破棄をされたご令嬢』だから、国内貴族が納得しない。バカ王子はそうも言ったらしい。奇しくも貴女としていた話が表面化したと言っても良いのかも知れないな」
どうやらエドヴァルドはドナート第二王子の名前を呼ぶ気もないらしい。
それはさておき、やはりシャルリーヌ自身の国内外での地位を底上げするには、エドヴァルドの言う「悲運のご令嬢物語」を広げてしまうべきと言う事なんだろうと内心で私も納得した。
この世界、相手側の有責にしろ、婚約破棄自体あまり外聞がよろしくないらしい。
まだ「解消」なら良かったんだろうけれど。
「聖女マナに関しては『ギーレンに留学予定で国内不在なら、聖女を支える麗しき姉妹愛を持つ姉でも充分に、サレステーデの側妃に受け入れられるだろうから、こちらは構わない』と。その上『聖女がギーレンにそのまま留まるなら、姉妹の繋がりを通してギーレンとも友好関係が築ける。姉の爵位なら、いくらでもサレステーデ国内の貴族に縁付かせられる』と、ふんぞり返って言ったようだな」
聖女を支える麗しき姉妹愛!
そんな鳥肌モノの話は聞きたくもないけれど、それよりも私は、今の話で気になる事が出てきてしまった。
不機嫌全開のエドヴァルドをなんとか宥めようと、思いつく事を片っ端から口にしていく。
「それ……最初は〝聖女〟の知名度狙いで来たけれど、そっちがギーレンにいるなら、むしろ私をとりこめば、妹のいるギーレンとの友好関係をチラつかせながら、第一王子派なり隣国バリエンダールなりに圧力かけられるんじゃないかと、急遽方針転換した風にしか聞こえませんけど……?」
どうやらそこは、エドヴァルドも有り得なくはないと思ったらしい。
姉妹の不和を知らなければ、そう考えたとしてもおかしくはない。
口元に手をあてて、少し考える仕種を見せた。
「………なるほど。聞いていると、第一王女が率先して騒いでいたらしいから、てっきり兄も同じバカの類かと思って皆聞いていたようだったんだが……」
「エドヴァルド様は、まだその二人に会ってないんですか?」
「とりあえず国としての対応を決めてからにした方が良いんじゃないかと、フォルシアン公爵とフィルバートで話し合って、ギーレンに聖女を送りに行ってまだ戻っていないと言う事にしたらしい」
まあそれでも、明日には会わないとならないだろうが…と、顔を顰めている。
「第一王女の方は、フォルシアン公爵の息子さんをご指名なんでしたっけ……?」
ユセフ・フォルシアン公爵令息。
フォルシアン公爵家唯一の嫡子でありながら家に寄り付かず、高等法院で働く文字通りの独身貴族。
こちらはどうして、サレステーデの王女サマからいきなり結婚を強要されているのかと言えば、どうやら原因はクヴィスト公爵家にあると言う事だった。
そもそも二人は、アンジェスの王宮へは、クヴィスト家の紋章が入った馬車で乗りつけて来たらしい。
「クヴィスト公爵令嬢と、ユセフとの縁談が以前にあって、結局まとまらなかったと前に話した事があったろう」
「そうですね、間接的でしたけど、伺いました」
「その後クヴィスト公爵令嬢は、バリエンダール国に嫁いだ親族からの紹介で、サレステーデのベイエルス公爵家に側室として嫁いでいったそうだ。フォルシアン家に断られたとなれば、次をアンジェス国内で探すのは難しくなるからな。クヴィスト家は、フォルシアン領下アムレアン侯爵家の様な、絶対的な特産品を持って、決して格下とみなされない家を抱えている訳じゃない。公爵令嬢で側室とは、随分な扱いだと思わなくもないが、その公爵家の正室は、先代国王の妹らしく、格の面から言っても仕方がなかったんだろう」
「サレステーデの公爵家に…先王の妹……」
何となく見えてきた。
エドヴァルドも、多分私が考えた通りだと言わんばかりに、頷いてくれた。
「今押しかけてきているドロテア第一王女は、ユセフよりも年上だが、未だ婚約者すら見つかっていない。まあ…第二王子もしかりだが」
その時点で、第二王子はともかく、第一王女の底は見えると、冷淡にエドヴァルドが言った。
「恐らくは、サレステーデ国内で己の地位を高めたい元クヴィスト公爵令嬢、現ベイエルス第二夫人が、うってつけの相手がいるとでも言って、ユセフと聖女マナの話をしたんだろう。まあ、自分を袖にしたユセフ・フォルシアン公爵令息への嫌がらせとして、引き取り手のない王女を押しつけようとしていると言うのが、理由の九割を占めている気はするがな。聖女マナに関しては、ドロテア王女を動かせば、側妃派の旗印であるドナート第二王子が洩れなくくっついてくるだろうから、苦肉の策で名前を出した。多少は実父であるクヴィスト公爵から話を聞いていたのかも知れない。姉である貴女の話も、そのついで。そんなところだろう」
「嫌がらせって……」
ベイエルス公爵家正室である夫人が先代国王の妹なら、側妃やその周囲が、第二王子や第一王女をどこにも縁づかせられずに焦っていたのが目に留まっていた可能性はある。
そこに元クヴィスト公爵令嬢が、いい考えがあるとばかりに話を持ち出せば、側妃派が話に喰いつくのも早かったんだろう。
上手くいけばベイエルス公爵家も側妃派の中で重宝されるだろうから、お互いにウィンウィンに見えたのかも知れない。
それにしても、ユセフ・フォルシアン公爵令息は、そんなにこっぴどくクヴィスト公爵令嬢をフッたんだろうか。
ちょっと気になる。
「フォルシアン公爵からの急使を受けて、クヴィスト公爵もさっき王宮へ駆けつけていたがな。ヤツ曰く『友人関係にあるベイエルス第二夫人の実家を一度訪ねてみたかったと言われたから、受け入れた。まさか王都中心街に買物に行くと言い置いて、王宮に乗り付けるなどと、予想だにしなかった』――さて、どこまでが真実なんだか」
確かに、元は他国出身の公爵家第二夫人と、一国の第一王女とが親しい友人と言うのもピンと来ないが、他人の実家に王女と王子だけがやって来るなどと、尚更納得しづらい。
私も「確かにそうですね」と頷いた。
「それにしても、フォルシアン公爵令息とドロテア第一王女との話はともかく、ドナート第二王子のお相手なら、まずはアンジェス国内なら、コンティオラ公爵令嬢が、高位貴族ご令嬢としてはトップの地位で、お相手がいらっしゃらない筈でしょうに。何故のっけから『聖女かその姉』指定なんですか。まあ、舞菜や私にもそれなりに理由があるのは理解しましたけど」
「……レイナ、それはフォルシアン公爵の前では言ってくれるなよ。公爵が泣くからな」
息子が筋金入りの女性嫌いである事を理解しているフォルシアン公爵は、エドヴァルドが王宮に着いた時、今にも泣きそうな表情で頭を抱えていたらしい。
国際問題間違いなしで、息子が不敬を働く事が目に見えている――と。
いやいや。
勝手に名前を挙げられているこちらも、結構深刻ですよと言いたい。
どうやら、令息がドロテア王女に一目惚れする――と言った可能性は微塵も考えていないようだ。
「コンティオラ公爵令嬢の件は確かにその通りなんだが、聞いたところによると、サレステーデの第一王子の婚約者は、ベルィフの第二王女だそうだから、コンティオラ公爵令嬢個人がどうと言うのではなく、公爵令嬢の地位では第一王子には勝てないと、そう言う話らしい」
「…例えド平民でも、聖女なりギーレンと繋がりのある姉なら、第一王子派に対抗出来るとでも?」
「…だから言ったろう、バカ王子と」
私と舞菜との不仲を知らなくても、絵に描いた餅も良いところだ。
聖女がいないとなって、即座に姉に切り替えて、もっともらしい理由までつけてきたのは、本来そこまで「バカ王子」じゃないのかも知れないけど、せめてもっとアンジェスの国情を調べてから来いとは言いたい。
それとも、ユセフ・フォルシアン公爵令息に会いたいと叫ぶドロテア第一王女を誰も止められなかったんだろうか。
それもそれで、派閥としては問題だと思うんだけど。
私とエドヴァルドは、そこで奇しくも同じタイミングでため息をついてしまった。
「今、フォルシアン公爵もエリサベト夫人に話をしに邸宅に戻っている。ユセフを高等法院にそのまま置いておくと、高等法院内で揉め事が起きる未来しか見えないからな。だったら一時的に休暇を取らせて、フォルシアン公爵家に突撃される方が余程マシだと思っているようだ」
確かに王宮にいきなり押しかけるような王女様なら、勤務先にだって押しかけかねない。
令息はフォルシアン公爵によく似ているらしいので、王宮で公爵に会ったなら、期待値が爆上がりしている可能性はあった。
なるほど…と頷く私に、エドヴァルドが「それと貴女だ」と、じっとこちらを見つめてきた。
「明日王宮で『まだ公表前だったが〝聖女の姉〟は私の婚約者となる。良い機会だからこの場で宣言させて貰う』と、バカ王子とクヴィスト公爵に叩きつけてくるつもりだ。それで引き下がればよし、そのつもりがないなら話を国ごと叩き潰す。もし私のいないところで、関係者が押しかけてくるようなら、貴女も明日からはそのつもりで振る舞って欲しい」
「ええっと……?」
婚約者…って……単なるご令嬢除けより立ち位置が重いような……?
目を丸くした私の頬に、そっとエドヴァルドの手が添えられた。
「本当は、ちゃんと段階を踏むつもりで、こんな風に話をする筈じゃなかった。だから今すぐにとは言わない。今はまだ、王子と王女を帰国させるまでの方便と捉えて、それらしく振る舞ってくれていて良い。ただ――いずれ正式な申し込みはすると、そのつもりでいてくれないか」
「……っ⁉」
「しまらない話だな。本当に、今すぐサレステーデの国ごとバカ王子を沈めてやりたいくらいだ」
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