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第二部 宰相閣下の謹慎事情
281 宰相閣下は不良在庫処分をお望みです
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。(朝うっかり予約登録を間違え、短時間だけ公開されました。見覚えのある方すみません(;'∀'))
「第二王子が考えていたところの『アンジェスとギーレン、両方と繋がる人物』と言うのは、なにもレイナだけじゃない。まがりなりにもアンジェスの王族であり、娘はギーレンの辺境伯家に嫁ぐレイフ殿下とて、充分にその条件に相当する。むしろ、聖女とその姉と言う繋がりよりもよほど権威主義者たちにとっては訴求力がある」
エドヴァルドの言葉に、私どころか国王陛下も、きれいさっぱりその事が抜け落ちていたとばかりに、目を瞠っていた。
「あ……?いやだけど、姉君と違って婚姻の縁は結べないぞ。確かに理由としては成り立つが、どうやってサレステーデに行かせるんだ?何かサレステーデの役職を与えて着任させるとでも?」
フィルバートの言葉に、エドヴァルドは微笑った。
――ものすごく、真っ黒に見える笑みで。
「ああ。第二王子さえ腹を括るなら、サレステーデは第一王子廃嫡後、バリエンダールの自治領に落とす。一見すると王家の断絶になるが、クヴィスト公爵が第二王子派である娘の婚家の為、命がけで第二王子を匿った事情を領袖であるレイフ殿下が汲んで、自ら第二王子の後見となって、バリエンダール自治領サレステーデに赴く――そうだな〝総督〟としてでも着任して貰おうか」
「あ…」
「レイナ?」
「――イイエ、ナンデモナイデス」
あくどい…っと言いかけて、口を閉ざしたのは秘密だ。
実際には、幼馴染の方がもっと直接的だった。
「おまえ…っ、それ、態の良い叔父上と第二王子の不良在庫処分じゃ――」
「何か問題が?」
「………ないな」
珍しく、フィルバートの方が乾いた笑いを洩らしている。
しかも、クヴィスト公爵の殺害に関しても、下手をすれば第一王子と第二王子との争いの渦中で…と紛れ込ませてしまう事が可能だ。
「バリエンダールの国王と王太子は、サレステーデが取り込めるなら否とは言うまいよ。ギーレンに対しての良い牽制になるからな。ベルィフ国王には、第一王子ではなく第二王子が代わって王女を娶ると言えば、これも反対の声はあがるまい」
淡々と説明をするエドヴァルドに、まぁな…と、フィルバートも頷いている。
「アンジェスは、自治領になったサレステーデの総督…でも何でも良いが、その代表者の地位を、殿下の次は元クヴィスト公爵令嬢の血縁者が継いでいくとすれば、現在のサレステーデの中からも、反対の声は上がりづらい筈だ。ベイエルス公爵家は、サレステーデの土着貴族なのだから」
「いや…だがエディ、第二王子が自治領主になった方が良いと言う声は確実にあがるぞ。そこにアンジェスの人間が上に立つなどと、王子の周囲が納得するか?」
「サレステーデの王族が他国で揉め事を起こしたと言う事実が存在する以上は、アンジェスが上の立場になったとしても、内も外も文句は言えないだろう。それに自治領にしたからと言って、バリエンダールから統治者を出せば、属国になったと、国民の反発は必至だ。第二王子と殿下と双方に波風の立たないような呼称は、あとでいくらでも捻りだせば良いが、ともかくもレイフ殿下が向こうに赴くのが、一番各国の反発が少ない」
名称は消えても、実質サレステーデの王とも言えるのだから、呼称次第ではレイフ殿下のプライドも保たれるし、アンジェス国内で無駄に野心を抱えたまま、燻る事もない。
もともと、フィルバートを追い落とす為とは言え、銀市場で荒稼ぎをして、特殊部隊を抱えただけの能力はある筈で、キチンと時勢が読める補佐さえ近くにいたなら、サレステーデを回していけるのではと、エドヴァルドは考えているに違いない。
(もしかしたら、アルノシュト伯爵くらいは連れて行かせるつもりなんじゃないだろうか)
まさに、面倒な連中はまとめて国の外に放り出してしまえ――だ。
ふむ…と、フィルバートは、もはやほとんど説得されかかっていたが、エドヴァルドはまだプレゼンの手を緩めない。
「殿下が持つ銀の権利は全て国に返上して貰う。ただしサレステーデ産のカラハティ…だったか?毛皮は、質によっては銀以上の価値を産むと聞く。銀の権利ごとき、手放しても惜しくはない程の価値はあるだろうから、せいぜい外貨を稼いで、周辺諸国に還元して貰えば良い」
少なくとも正妃の実家があるアンジェス、娘が嫁いだギーレンには、多少なりと有利な取引が出来る筈だ。
そこまでいけば、ギーレンとて表立った反対はしづらくなるのだ。
「ただし、パトリック元第一王子が住まうメッツァ辺境伯家にのみ外貨の恩恵がいってしまうのも、エドベリ殿下とその派閥からすれば、不安しか生まない。――あとはバリエンダールの王女との縁談に縋るしか、孤立を避ける手立てはなくなると言う訳だ」
「エディ……既定路線であるかのように語るのはやめろ。うっかり頷きそうになる。あくまで第一王子の出方と、第二王子が何を言ってくるかによるんだろう?」
思わずなのか、フィルバートが寒そうに身体を震わせている。
ああ、はい。私も心なしか空気が冷たいと思います。
「まあそうだが、第一王子を招く返信には、日時以外に晩餐会の誘いと『今回の事をしでかした動機に関して、第一王子が来てから話をしたいとしか言わない』と一言書けば良い。最初の連絡では『結婚してやるとか馬鹿な事を言って押しかけて来た』としか言っていないんだろう?」
「……まあ、もうちょっと儀礼は遵守しているだろうが、概ねそんな感じだな」
細かい文面は、文官達がそれらしくこねくり回したんだろうから、フィルバートもそうとしか答えようがないんだろうなと、見ていて思った。
「だったら、今の一文を書いておけば、第一王子に後ろ暗いところがあるなら、恐らくは晩餐会の裏で第二王子と第一王女を狙おうとするだろう。その後だと、何をぶちまけられるか分からなくなるし、強制帰国させる訳にもいかなくなる」
「なるほどな……それは分かったが、良いのか?」
「何がだ」
「第二王子が押しかけてきた経緯を考えれば、姉君を第一王子に引き合わせない訳にはいくまいよ。おまえと言う婚約者がいるから、と衆人環視の前で断ってのけたんだからな。第二王子を断るための方便だと思われても後が面倒だろう?フォルシアンの息子に関しては、王女が現行犯で捕まっている以上は、息子本人が寝込んでいるといったところで、同情と謝罪でコトは済むだろうがな」
「―――」
答える代わりに、エドヴァルドが微かに顔を顰めた。
「出来れば、騒動が起きると分かっているところに、彼女を置きたくはないんだがな」
「だからと言って、ただ第二王子を引き渡す気もないんだろう?」
「ああ。間違いなく各国の均衡が崩れる」
うわぁ…エドヴァルドが話している傍から、陛下の視線の圧がすごいです、ええ。
分かりましたよ、私は大丈夫だから夕食会に出るって言えってコトなんですよね?
パチパチと目を瞬かせて「分かってますって!」って言う無言の合図を、フィルバートに送る。
「あ…あの、エドヴァルド様……」
とりあえず、上着の袖をちょっと引いてみたところで、何故か思い切りそっぽを向かれてしまった。
「ええっ⁉」
「どうせ、自分が出た方が良い、とか言うつもりだったんだろう」
「いや、だってこの流れってどう聞いても――」
出ろってコトじゃ…と言いかけたところまで、遮られてしまう。
「第二王子が貴女を連れ帰る事で、自分の優位性を強調しようとしていたのなら、貴女を消して、その話を潰してしまえば良いと、第一王子側が考えない保証があるか?」
「……ない、ですね。あ、じゃあ今回限りって言う事で、イデオン公爵邸の護衛とか、ベルセリウス侯爵様とかも、王宮内に入れて貰うとかすれば、どうでしょう?」
「貴女はそんなに夕食会に出たいのか?」
「いや、出来る事なら心からご辞退申し上げたいんですけれども!ご存知の通り、魔力も腕っぷしもゼロな訳ですし!だけど一番とっととサレステーデご一行様にお引き取りいただくのって、夕食会で決着つける事ですよね?」
「それは……」
明後日の方向を向いたまま、気のせいか口惜しげに見えるエドヴァルドに、くつくつと、国王陛下が低い笑い声を発した。
「諦めろ、エディ。殊、この件に関しては姉君が正しい」
「……っ」
「と言ってもそれだけでは、宰相閣下はご不満だろうから、姉君の言う護衛の条件は、今回限りで全て吞んでやるとも。寛大な君主に感謝する事だ」
言ってろ、と小声の反発が聞こえた気はしたけれど、それ以上の反論を、エドヴァルドもあげなかった。
それしかない事は、きっと本人も分かっているからだ。
背後は黒いし周りの空気は冷たいし……ワタシハナニモミテマセン。
ちょっと公爵邸に帰ってからが怖いだけです。
うん、ちょっ…と?
「第二王子が考えていたところの『アンジェスとギーレン、両方と繋がる人物』と言うのは、なにもレイナだけじゃない。まがりなりにもアンジェスの王族であり、娘はギーレンの辺境伯家に嫁ぐレイフ殿下とて、充分にその条件に相当する。むしろ、聖女とその姉と言う繋がりよりもよほど権威主義者たちにとっては訴求力がある」
エドヴァルドの言葉に、私どころか国王陛下も、きれいさっぱりその事が抜け落ちていたとばかりに、目を瞠っていた。
「あ……?いやだけど、姉君と違って婚姻の縁は結べないぞ。確かに理由としては成り立つが、どうやってサレステーデに行かせるんだ?何かサレステーデの役職を与えて着任させるとでも?」
フィルバートの言葉に、エドヴァルドは微笑った。
――ものすごく、真っ黒に見える笑みで。
「ああ。第二王子さえ腹を括るなら、サレステーデは第一王子廃嫡後、バリエンダールの自治領に落とす。一見すると王家の断絶になるが、クヴィスト公爵が第二王子派である娘の婚家の為、命がけで第二王子を匿った事情を領袖であるレイフ殿下が汲んで、自ら第二王子の後見となって、バリエンダール自治領サレステーデに赴く――そうだな〝総督〟としてでも着任して貰おうか」
「あ…」
「レイナ?」
「――イイエ、ナンデモナイデス」
あくどい…っと言いかけて、口を閉ざしたのは秘密だ。
実際には、幼馴染の方がもっと直接的だった。
「おまえ…っ、それ、態の良い叔父上と第二王子の不良在庫処分じゃ――」
「何か問題が?」
「………ないな」
珍しく、フィルバートの方が乾いた笑いを洩らしている。
しかも、クヴィスト公爵の殺害に関しても、下手をすれば第一王子と第二王子との争いの渦中で…と紛れ込ませてしまう事が可能だ。
「バリエンダールの国王と王太子は、サレステーデが取り込めるなら否とは言うまいよ。ギーレンに対しての良い牽制になるからな。ベルィフ国王には、第一王子ではなく第二王子が代わって王女を娶ると言えば、これも反対の声はあがるまい」
淡々と説明をするエドヴァルドに、まぁな…と、フィルバートも頷いている。
「アンジェスは、自治領になったサレステーデの総督…でも何でも良いが、その代表者の地位を、殿下の次は元クヴィスト公爵令嬢の血縁者が継いでいくとすれば、現在のサレステーデの中からも、反対の声は上がりづらい筈だ。ベイエルス公爵家は、サレステーデの土着貴族なのだから」
「いや…だがエディ、第二王子が自治領主になった方が良いと言う声は確実にあがるぞ。そこにアンジェスの人間が上に立つなどと、王子の周囲が納得するか?」
「サレステーデの王族が他国で揉め事を起こしたと言う事実が存在する以上は、アンジェスが上の立場になったとしても、内も外も文句は言えないだろう。それに自治領にしたからと言って、バリエンダールから統治者を出せば、属国になったと、国民の反発は必至だ。第二王子と殿下と双方に波風の立たないような呼称は、あとでいくらでも捻りだせば良いが、ともかくもレイフ殿下が向こうに赴くのが、一番各国の反発が少ない」
名称は消えても、実質サレステーデの王とも言えるのだから、呼称次第ではレイフ殿下のプライドも保たれるし、アンジェス国内で無駄に野心を抱えたまま、燻る事もない。
もともと、フィルバートを追い落とす為とは言え、銀市場で荒稼ぎをして、特殊部隊を抱えただけの能力はある筈で、キチンと時勢が読める補佐さえ近くにいたなら、サレステーデを回していけるのではと、エドヴァルドは考えているに違いない。
(もしかしたら、アルノシュト伯爵くらいは連れて行かせるつもりなんじゃないだろうか)
まさに、面倒な連中はまとめて国の外に放り出してしまえ――だ。
ふむ…と、フィルバートは、もはやほとんど説得されかかっていたが、エドヴァルドはまだプレゼンの手を緩めない。
「殿下が持つ銀の権利は全て国に返上して貰う。ただしサレステーデ産のカラハティ…だったか?毛皮は、質によっては銀以上の価値を産むと聞く。銀の権利ごとき、手放しても惜しくはない程の価値はあるだろうから、せいぜい外貨を稼いで、周辺諸国に還元して貰えば良い」
少なくとも正妃の実家があるアンジェス、娘が嫁いだギーレンには、多少なりと有利な取引が出来る筈だ。
そこまでいけば、ギーレンとて表立った反対はしづらくなるのだ。
「ただし、パトリック元第一王子が住まうメッツァ辺境伯家にのみ外貨の恩恵がいってしまうのも、エドベリ殿下とその派閥からすれば、不安しか生まない。――あとはバリエンダールの王女との縁談に縋るしか、孤立を避ける手立てはなくなると言う訳だ」
「エディ……既定路線であるかのように語るのはやめろ。うっかり頷きそうになる。あくまで第一王子の出方と、第二王子が何を言ってくるかによるんだろう?」
思わずなのか、フィルバートが寒そうに身体を震わせている。
ああ、はい。私も心なしか空気が冷たいと思います。
「まあそうだが、第一王子を招く返信には、日時以外に晩餐会の誘いと『今回の事をしでかした動機に関して、第一王子が来てから話をしたいとしか言わない』と一言書けば良い。最初の連絡では『結婚してやるとか馬鹿な事を言って押しかけて来た』としか言っていないんだろう?」
「……まあ、もうちょっと儀礼は遵守しているだろうが、概ねそんな感じだな」
細かい文面は、文官達がそれらしくこねくり回したんだろうから、フィルバートもそうとしか答えようがないんだろうなと、見ていて思った。
「だったら、今の一文を書いておけば、第一王子に後ろ暗いところがあるなら、恐らくは晩餐会の裏で第二王子と第一王女を狙おうとするだろう。その後だと、何をぶちまけられるか分からなくなるし、強制帰国させる訳にもいかなくなる」
「なるほどな……それは分かったが、良いのか?」
「何がだ」
「第二王子が押しかけてきた経緯を考えれば、姉君を第一王子に引き合わせない訳にはいくまいよ。おまえと言う婚約者がいるから、と衆人環視の前で断ってのけたんだからな。第二王子を断るための方便だと思われても後が面倒だろう?フォルシアンの息子に関しては、王女が現行犯で捕まっている以上は、息子本人が寝込んでいるといったところで、同情と謝罪でコトは済むだろうがな」
「―――」
答える代わりに、エドヴァルドが微かに顔を顰めた。
「出来れば、騒動が起きると分かっているところに、彼女を置きたくはないんだがな」
「だからと言って、ただ第二王子を引き渡す気もないんだろう?」
「ああ。間違いなく各国の均衡が崩れる」
うわぁ…エドヴァルドが話している傍から、陛下の視線の圧がすごいです、ええ。
分かりましたよ、私は大丈夫だから夕食会に出るって言えってコトなんですよね?
パチパチと目を瞬かせて「分かってますって!」って言う無言の合図を、フィルバートに送る。
「あ…あの、エドヴァルド様……」
とりあえず、上着の袖をちょっと引いてみたところで、何故か思い切りそっぽを向かれてしまった。
「ええっ⁉」
「どうせ、自分が出た方が良い、とか言うつもりだったんだろう」
「いや、だってこの流れってどう聞いても――」
出ろってコトじゃ…と言いかけたところまで、遮られてしまう。
「第二王子が貴女を連れ帰る事で、自分の優位性を強調しようとしていたのなら、貴女を消して、その話を潰してしまえば良いと、第一王子側が考えない保証があるか?」
「……ない、ですね。あ、じゃあ今回限りって言う事で、イデオン公爵邸の護衛とか、ベルセリウス侯爵様とかも、王宮内に入れて貰うとかすれば、どうでしょう?」
「貴女はそんなに夕食会に出たいのか?」
「いや、出来る事なら心からご辞退申し上げたいんですけれども!ご存知の通り、魔力も腕っぷしもゼロな訳ですし!だけど一番とっととサレステーデご一行様にお引き取りいただくのって、夕食会で決着つける事ですよね?」
「それは……」
明後日の方向を向いたまま、気のせいか口惜しげに見えるエドヴァルドに、くつくつと、国王陛下が低い笑い声を発した。
「諦めろ、エディ。殊、この件に関しては姉君が正しい」
「……っ」
「と言ってもそれだけでは、宰相閣下はご不満だろうから、姉君の言う護衛の条件は、今回限りで全て吞んでやるとも。寛大な君主に感謝する事だ」
言ってろ、と小声の反発が聞こえた気はしたけれど、それ以上の反論を、エドヴァルドもあげなかった。
それしかない事は、きっと本人も分かっているからだ。
背後は黒いし周りの空気は冷たいし……ワタシハナニモミテマセン。
ちょっと公爵邸に帰ってからが怖いだけです。
うん、ちょっ…と?
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