聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
194 / 785
第二部 宰相閣下の謹慎事情

293 立っている者は将軍でも使う!

しおりを挟む
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

「ごめんね、ミカ君?お昼間、色んな人が来る事になっちゃって」

 私がそう言って、こちらに走り寄って来たミカ君と同じ目線にまで腰を落とすと、何故かミカ君はちょっと赤い顔で、首をブンブンと横に振った。

 うん?走って来たから暑いのかな?

「大丈夫だよ、レイナ様!新しいお料理メニューが食べられる事には変わりないし、スヴェンテ老公爵様って、僕の父上の事を良く知っている人だって聞いたから!僕の知らない父上の話とかが聞けたら嬉しいな…って!」

「ありがとう。そう言ってくれると、私も嬉しいな」

「それに『きのこがり』と『さんさいがり』?って言うのも、初めてだから楽しみにしてたんだ!」

「うん。これはね、あとでお料理するところまでが一括りになるんだけど、今回土砂災害で苦しんでるハーグルンド領の手助けを少しでも出来ればって考えたものなの。だからもうしばらくは、イリナ様とかチャペックとかには秘密にして欲しいんだけど、良いかな?」

「レイナ様と僕のヒミツ⁉」

 ……ああ、きらきらと目が輝くミカ君が可愛い。癒される。
 多分、無意識にのけぞりかけているシャルリーヌも、同じ心境なんだろうなと思う。

「そうだね。正確には、ここにいるみんなのヒミツかな」

 私がそう言って、ミカ君から少し遅れてやって来たベルセリウス将軍とウルリック副長に軽く〝カーテシー〟をしてみせると、将軍は軽く片手を上げて、ウルリック副長は黙礼を返してくれた。

「うむ、今日食す料理はハーグルンド領の為の料理と言う事だな!分かった、軍でも取り入れたいとなった場合には、落ち着いた頃にでもハーグルンド伯爵と話をさせて貰うとしよう!」

「そうですね。レシピ化して使用権を買うとなれば、それはそれでハーグルンドの為になるでしょうからね」

 まだ、皆の口に合って、レシピ化出来るとは限らない――と言いかけたけれど、ウルリック副長は「これまでの事もありますが、ハーグルンド復興の為と聞いて、動かない者はおりませんよ。特にウチの上司とか」と、微笑わらってそれを遮ってきた。

「んじゃ、まあ、これが食える植物の絵図と、採取出来る場所の地図な。つい最近、公爵邸の連中がほぼ総出でやって、ちゃんと食い物になるって事は分かってるから、見つけたら引っこ抜いて袋に入れる事」

 そうしてファルコが、バラした植物図鑑の紙片と、庭師と〝鷹の眼〟共同作成の地図を、一人一人に手渡していく。

「なっ…これらが全て食用になるだと⁉︎」
「コレは……」

 目を見開いているベルセリウス将軍とウルリック副長の内心を、すぐさま察した私は、二人に慌てて訂正をかけた。

「いえいえ、そのまま食べられる訳じゃないですから、すぐさま兵糧になると思わないで下さいね⁉︎どうやって食べるかは後で分かりますから、ご判断はそれからで!」

 私から速攻で釘を刺された事に、珍しく二人が揃って怯んでいて、ファルコがちょっと呆れた顔つきになっていた。

「そりゃ、お嬢さんならそのくらいの事はその表情かおから読み取れるだろうよ。いいから、とっとと採って来てくれ。ただ、二度と生えないくらいに、むやみやたらに引っこ抜いたりするなよ。場所はバラけさせてな。あと、似たりよったりな毒キノコとか毒草とかもあるから、適当に採るな。その為に紙渡してんだからな」

 ビシッと紙を指差された、ベルセリウス将軍とウルリック副長は、気圧された様に頷いている。

「そ、そうか…毒…」
「それは確かに、手軽に兵糧確保!とはいきませんね……」
「そ、そうなんだ……」

 何故かミカ君も一緒に小さくなっていて、ちょっとファルコが慌てているのが面白かったけど。

「じゃあ、シャーリーとミカ君は一緒に回ろうか?お互い視界に入る範囲に散らばって、集めようよ」
「そうね、この紙に書かれているモノと合っているかどうか確認しあうのも良いわよね」
「うん!僕一人だと自信がないから、一緒が良いな!」

 気を取り直したミカ君が、顔を上げてこちらを向いたので、他の皆もすぐに気を取り直して、それぞれが、もはや森とも林とも呼べる「敷地の庭」に散って行った。

*        *         *

「ラズディル料理長、今日の戦利品ですー!」

 ハッキリ言って、お昼の昼食会に向けて厨房は戦場状態だったけど、キノコや山菜が必要なのも確かで、厨房の動線を遮らない場所に、収穫物を並べるスペースは確保されていた。

「おお、とりあえずそこに並べてくれ。それとさっきカフェ〝ヘンリエッタ〟から調理用の板チョコとやらを従業員が持ってきたぞ。後でフォルシアン公爵閣下が持って来る分は、別の日にでも使ってくれってよ。だから、今もう溶かし作業に入ってるぞ。キノコの泥落としと山菜洗うのは、その辺の連中に任せて、お嬢さんたちはチョコ塗りとやらをやり始めたらどうだ?すぐに〝スヴァレーフ〟も揚げさせるから」

 体育会系料理長は、ビシバシと料理人に指示を飛ばしながらも、こちらにもそう提案をしてきた。

 こう言う時は、料理長や料理人たちが考えている調理ペースを乱さないに限るので、こちらは大人しくその指示に従うだけだ。

「え、俺らもか⁉」

 了解ー、と答える私とは対照的に、厨房の様子に若干引きぎみだったファルコや〝鷹の眼〟の皆は、ギョッと顔を痙攣ひきつらせていた。

「たりめーだろ!ただでさえ今日は、厨房総出、それでも人数ギリギリなんだよ!ちったぁ手伝え、下拵えくらいは出来んだろ‼」

 もともと、ロクに晩餐会も開いてこなかった上に、親兄弟もおらず、仕事仕事で滅多に邸宅やしきにも帰らなかったイデオン公爵家の厨房には、下位貴族レベルの数の料理人しか雇われてはいない。

 前回のガーデンパーティーの際は、侍女まで引っ張り出して、素材の皮むきとかに手を貸していたらしい。

 エドヴァルド自身が、高級レストランの様な盛り付けや切り口の料理を要求しないからこそ、少ない人数でも回っていたのだけれど、こうなると料理人を増やした方が良いのかも知れないと、最近セルヴァンとエドヴァルドは話をしているらしい。

 ただ、ここは仮にも公爵家であり、王都の紹介所を通すにしても、誰でも良いからすぐに雇うと言う訳にもいかず、今はまだ現状維持に留まっていた。

 そして「北の館」でミカ君とイリナ夫人に、野営とは言え料理を振る舞った「前科」がある以上、ファルコ達がラズディル料理長に「手伝え!」と詰め寄られるのも無理からぬ話だった。

 ……間違いなく私が原因ですね、ゴメンナサイ。

 ラズディル料理長始め厨房の皆にしても、味付けや仕上げと言った部分での、料理人としてのプライドはあるにせよ、下拵えの部分にまでは拘っていられないと、良い意味で柔軟な思考を持っていた。

 下手に貴族家の次男三男でおかしなプライドを持たれるより、料理で身を立てたいと願う非貴族層を雇う方が、勝手な退職もしないだろうと、先代家令からの助言で今の体制が出来上がったとか。

 彼ら自身が来客にあたる事もないし、邸宅やしきの主人であるエドヴァルドにさえ、必要最低限の敬語が使えればOK、基本は料理の腕重視――が、今のこの状況らしい。
 うん、私も気楽でいいけれど。

「しょうがねぇなぁ……あとで食わせろよ?」
「食いたきゃ、そんだけ皮剥くなり切るなり、キノコの泥落とすなりするんだな」

 ファルコだけではなく〝鷹の眼〟の他の皆も「しょうがねぇなぁ」と言った空気がある。
 多分、戦場状態の厨房を見て、気が引けるところはあったと思われた。
 食べさせろ、とは半分本音、半分照れ隠しだ。

「うむ。我らも急遽参加した側であるしな。手を貸すとしようか」

 そこに、一緒に山菜とキノコを運んで来たベルセリウス将軍までが頷いたため、さすがに厨房の皆がギョッと目を見開いた。

「こ、侯爵閣下⁉」
「気にするな。何でもとまでは言わないが、指示してくれれば良い」
「………」

 さすがに、ファルコ達〝鷹の眼〟に言いつけるのとは、ワケが違うと思っている料理長に、私が「ハイ、ハイ!」と、救いの手?を差し伸べた。

「料理長!将軍なら『うどん』の生地を捏ねて貰うのが、うってつけだと思いますー!」

「「「えっ⁉︎」」」

 勢いこんだ私のセリフに、その場にいた全員の声が、綺麗にハモった。
しおりを挟む
感想 1,464

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。