聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
215 / 785
第二部 宰相閣下の謹慎事情

309 レッドカーペットは思い込みだった

しおりを挟む
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

 サレステーデご一行が〝転移扉〟を通じてやって来る時間までは、宰相室の控室で待てば良いと言われて聞いたところによると、やって来るのは第一王子、宰相補佐であるバルキン公爵、あとは第二王子と第一王女の引き渡しに関する取り決めを交わす為の書記官および彼らの護衛で総勢15名と言う事らしい。

 こちらからは17ある侯爵家関係者に加えて、五公爵の下に付く長官職の人間がこの場に呼ばれていた。
 あとは当事者である私とフォルシアン公爵令息が本件の参加者と言う事になっていた。

「まあ、通路の両端や両方の壁際、扉に添うように護衛騎士達が威嚇する形になるから、謁見の間では何をしようもないだろう。コトを起こせば即座に斬り捨てられる。それだけだ」

 別にそれはそれで構わんが――と、しれっと物騒な事をエドヴァルドは呟いている。

「そう言えば、さっきからローベルト副官さんを見ませんね?おつかいですか、お休みですか?」

 元祖・忠犬1号なら、何を置いても宰相室にしがみついていそうで、私が思わず扉の向こうに視線を向けると、エドヴァルドが「ああ…」と、何気なく顔を上げた。

 気になるのか?と何故か不機嫌な声で聞かれたので、思わずブンブンと首を横に振る。

「ほらっ、なんていうか、いつもいる筈の人がいないと違和感と言うか……そういうレベルです、ハイ」

「……まあ、そういう事にしておくが。あいつは今、陛下の許可を貰って〝転移扉〟を使って、アンディション侯爵を迎えに行っている。今後の話もあるし、今は『元』が付こうが数少ないアンジェスの王族だ。サレステーデご一行が到着する前なら、使っても問題ないし、むしろお呼びした方が良いとの判断でな。朝から手紙を持たせて行かせている」

「そっか、今は五人の公爵邸と王宮以外の外部との繋がりは止めてますものね。お呼びするなら、この王宮内の本来の扉を使う事になるんですね」

 仮にも「元王族」が、とばっちりで「真判部屋」に飛ばされたりしたら大問題だ。

 そう言う事だ、とエドヴァルドも頷いた。

「シモンには、時間まではアンディション侯爵にもこちらでお待ちいただくと言っておいたから、そろそろ一緒に来るだろう。夫人もとなるとすぐには無理だろうが、侯爵お一人なら、そうは時間もかからないだろうしな」

「え、もしかして『今すぐ王宮へ』って、お呼びしたんですか」

「ドナート王子が決断した時間を考えれば、そうならざるを得なかった。仮にも元王族。特使による急な呼び出しは、前例のない事ではなかった筈だ」

 宰相室付の副官が来たとなれば、侯爵とて信用せざるを得なかったに違いない。

「そう言えば、今はまだ『アンディション侯爵』様なんですね」

 話をしながら、私がふと思い浮かんだ疑問を口にすれば、エドヴァルドは「今はまだ、な」と答えた。

「実際のサレステーデの王族三人およびバルキン公爵とやらの実像を、レイフ殿下もそうだが、アンディション侯爵にも見て貰わないと、は出来ないからな。もちろん我々五公爵家の人間とて、ドナート王子の話だけを鵜吞みにして事は進められない」

 サレステーデ国王が、第二王子を後継にしようとしていたと言うのは、あくまでドナート本人の証言でしかないからだ。

「…でも、そっちの話をこの際真実にしようとしていますよね?」

 私の話に、宰相サマは一瞬だけ目を瞬いた後で、とても不穏な笑みをお返しになられた。

 あ、ハイ。余計なことは言いません。

「――閣下」

 その時、ちょうど良いタイミングで扉がノックされた。

「失礼致します。アンディション侯爵様をお連れ致しました」

 どうやら戻って来たらしいシモンの声と共に扉は開いて、口髭豊かな、矍鑠かくしゃくたるご老人が中へと足を踏み入れていらっしゃった。

 立ち上がって〝カーテシー〟の姿勢をとる私の向かいで、エドヴァルドはそのままソファの一角を片手で指し示した。

 あくまで今は「侯爵」として接すると言う事なんだろう。

「お呼びだてして申し訳ない。詳しい説明は謁見の後とさせて頂きたく、今はこちらでお待ち頂けるだろうか」

 エドヴァルドの第一声に、ふむ…と、侯爵は顎髭を撫でた。

「使者からは、サレステーデの王族が来るのに立ち会えと聞いたが?」

 視線が私の方を向いているからには、何故私まで…と言ったところなんだろう。

「彼女とフォルシアン公爵令息が、今回の騒動に巻き込まれていまして。謁見イコール謝罪の場でもあるのですよ、今回は」

「ほう。では、下手に舐められぬ様に、元王族の威厳でも振り撒きながら立っておけと言う事か」

「あながち間違いではありませんね。詳しい状況は、陛下がまず、サレステーデ側に通告されるでしょうが、どうか驚かれませんよう」

「補足説明はその後で、と?」

「謁見後、夕食会までの時間潰しとして取り置きさせて貰いますよ」

「えらく勿体ぶりおるわ」

 妙に緊張感のある、この会話をどうしたものかと思っていると、アンディション侯爵が腰を下ろすよりも早く、護衛騎士からの「謁見の間にご案内致します」との声が、扉の向こうから聞こえてきた。

「レイナ」

 ここでは、礼儀作法に則ったエスコートを、と言う事で、エドヴァルドが軽く左の肘を曲げて、部屋を出る事を促した。

「では、ひとまず儂が先を行くとしようか」

 扉に近い位置にいたアンディション侯爵が、そう言って護衛騎士のすぐ後に続いた。

 いかにも案内され慣れている大貴族、と言った雰囲気満載だ。

「正面扉は、サレステーデの皆様にお通り頂きますので、立ち会いの方々はこちらからお入り頂いております」

 言われて入った「謁見の間」は、どうやら玉座にほど近い位置から中に入っていたらしく、私は目線だけでざっと辺りを見回した。

 謁見の間自体は、思ったほどに広くはなく、何なら夜会で踊った「軍神デュールの間」の方が広いんじゃないかとさえ思った。

 ただ、天井の吹き抜け具合が「軍神デュールの間」よりも高い造りである事と、大理石に囲まれた室内やら柱の彫刻やらが、明らかに荘厳さを高めている事とで、諸国からの客人を最初に迎える場としては相応しい造りなんだと思えた。

 ゲーム内のスチルからは、足元はレッドカーペット的なものかと勝手に想像をしていたものの、実際には、王に会う人間が入口の扉から玉座まで歩く通路部分を、貝殻の内側、紫に近い深紅色を持った貝を、螺鈿細工に近い手法で敷き詰めてあるとの事だった。

 そして通路の両端に、護衛騎士達が等間隔に並んでいて、王以外の謁見に臨席する貴族たちは、全てその騎士の後ろ、左右いずれかに立ったまま拝謁者と相対する――と言うのが形式の基本らしかった。

 私もエドヴァルドもアンディション侯爵も、玉座寄りの通路脇に立って、相手を待つ事にした。
しおりを挟む
感想 1,464

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。