聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第二部 宰相閣下の謹慎事情

315 元王族サマのダメ出し

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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

 言われて見れば、あの体型といい、王族教育はどうしたと言う傍若無人っぷりといい、一緒にいたバルキン公爵と血のつながりがあると言われれば、思わず納得しそうな雰囲気ではある。

 ただ、私はサレステーデの現国王陛下もその正妃サマも知らないので、鵜呑みにはしづらい。

 確かにエドヴァルドを通して、ドナート王子なりドロテア王女なりに聞いて貰うべき案件なのかも知れないと、ファルコ同様に私も思った。

(それと今日来た中で、一人異様に腕の立つヤツがいたろ。多分オルヴォなら警告の一つも出していたと思うが)

 確かに一人、ベルセリウス将軍の警告を受けて見ていて、油断ならないと感じた男がいた。

 私は軽く頷いて、ファルコに同意を示す。

(どうやら現国王が王位を継ぐ際にもゴタゴタがあって、現王の兄弟で一人、生死不明の王族がいるらしいんだよ。多分裏稼業に足を突っ込んで、王に復讐をする為の刺客に成り果てたんじゃないかと、これも『噂』だ。しかもソイツ、生死不明になった時点ではまだ子供だったみたいでな。今の容貌では誰も判断出来んって話だ)

 バルキン公爵家お抱えの護衛と称し、名乗っているのは名前のみとなると、嘘かホントかも確かめようがないと、そう言う事らしい。

 つまりあの彼は、素性不明の危険人物と言う事なんだろう。

 と言うかファルコ、バリエンダールより遠方には〝鷹の眼〟の情報網が届かないって言ってた筈。
 だからこそ「噂」と前置きしているんだろうけど、それにしたって。

「…ふむ。何やら難しい顔をしておるな」

 宰相室の扉の近くまで来た時、ファルコの「声」は聞こえていないにしろ、私が地面に視線を落としたまま、眉を顰めている事に気が付いたんだろう。
 アンディション侯爵が、訝しげに声をかけてきた。

 私は慌ててかぶりを振る。

「あ…ああ、いえ、大変失礼を致しました。何か仰られてましたでしょうか?」

「いやいや。ちょうど今から聞こうとしていたところだ。まあ、ちょうど宰相室に着いたことだし、話は中でするとしようか」

 護衛騎士の後から宰相室へと入ると中で通常業務をこなしていた宰相副官シモン・ローベルト青年が、アンディション侯爵の姿を先に認めて慌てて立ち上がっていた。

「ああ、そのまま己の職務をこなしていてくれて構わんよ。イデオン宰相はまだ謁見の間だが、そう長くはかからんからと、奥の部屋で彼女ともども待つよう言われてな。故に過剰な接待もいらんよ」

 とは言え、根がドのつく真面目サンな忠犬1号シモンは、そんな事が出来る筈がない。
 恐らくだけどお茶の用意の為に、部屋を慌てて出て行った。

 私の分は要りません――なんて、きっと聞こえていないだろうな。
 自分が戻るまで誰も通すなって言うエドヴァルドの伝言も伝えそびれたし。

 この部屋の警護は、シモンなら、戦力的には私並みに数に入れられないだろうから、それもまあいいか。

「…とりあえず、奥の部屋で待つかね。宰相も、相手がわしならば、中で二人でいようととやかく言うまいよ」

 護衛もおるし、扉も開けておくしな?などと、茶目っ気混じりに言われれば、私も否やはない。

 立っていても仕方がないので、アンディション侯爵と私は、奥の部屋のソファで向かい合わせに腰を下ろした。

「さて、其方そなたさっきの表情から察するに、今日の三文芝居に関して、何か聞かされておったのかね」

 三文芝居。
 そんな表現がアンジェスにあるのか、私のアタマの中で近い表現に自動翻訳されたのかは分からないけど、第一王子や後見の公爵の二流三流っぷりを見ていると、確かに他に言い様はなかったとも言えた。

 私は、エドヴァルドのいない今、先にどこまで説明して良いものやら――と、小首を傾げた。

「侯爵閣下は、どこまでをお聞きになられて、今日、王宮にいらっしゃったんでしょうか?」

 質問に質問を返すのは、本来良い事ではないのだけれど、アンディション侯爵はそれを特に咎める事なく、ふむ…と口元に手をあてた。

「基本的には、さっきの謁見の前に言った通りだがな。サレステーデの王族が来るのに立ち会え、と。それ以上の話は聞いておらんよ。さしずめアレの証人の一人にでもなれば良いのかと、勝手に判断しておったが」

「そう…ですね。閣下からご覧になられても、第二王子の『第一王子は国を継ぐに値しない』と言う話に信憑性はあると思われましたか?」

「まあ、そうだな。儂が国王なら一生国の外には出さんだろうな。教育係の首を刎ねてやりたいとすら思うだろうよ」

 間髪入れずにそう答えたアンディション侯爵は、その上、鼻で笑っていた。
 完全なるダメ出しである。

「だからと言って、何の根回しもなく他国に押しかけている第二王子もあまり利口だとは言えまいよ。まあ、見ているに余程何やら切羽詰まった事情はあったのかも知れんがな。それで全てが許される筈もなかろう」

 あんな事態の中でも、どうやら核となる部分はすぐに把握をしていたらしい。

 ならばと、私はエドヴァルドが来るまで、外側から少しずつ話を詰めていく事にした。

「申し訳ありません、閣下。私の立場では、現時点では申し上げられない部分も多くございまして……。代わりにもう幾つか伺わせて頂きますので、そちらから察していただく訳には参りませんでしょうか」

「……ほう?」

 何と言っても貴族中の貴族、元王族サマである。
 それはそれで喰いついてくれるんじゃないかと思ったら、案の定、興味深げに片眉が動いていた。

「ふむ、良かろう。どうせ時間もある事だしな」

「有難うございます。あの、閣下からご覧になって、バリエンダールとサレステーデとの関係性はどのように思われますか?友好、敵対、可もなく不可もなく…で分類したとすると」

「うん?バリエンダールとな?」

「はい。アンジェスにいると、海とバリエンダールを隔てる分、サレステーデの情報が入りづらいです。閣下はバリエンダールの情報を得やすいお立場にいらっしゃると伺いましたので、だとすればより正確な情報をお持ちかと思いまして」

 思わぬ事を聞かれた、と言う表情をアンディション侯爵が見せた。

「バリエンダールのメダルド国王は穏健派の国王で、余程の事がない限り王位継承はまだ先と言われておるよ。サレステーデのセゴール国王に関しては、直接うた事はないから何とも言えんが、バリエンダール側から話を聞く事がない以上は、敵対する意思はなかったと思うがな。其方の言葉を借りるなら、それこそ『可もなく不可もなく』だ」

 ただ、とそこで何とも言えない表情に変わる。

「バリエンダールのミラン王太子は、若さゆえと言うか何と言うか、やや血気盛んでな。サレステーデの出方次第では、物騒な方向に傾かん保証がない。と言ってもあの王太子は武闘派ではないから、やるとすれば人流を止めるか経済制裁をかけるか、いずれにせよイヤな方向に舵を切ってくるだろうな」

「な、なるほど」

 それは〝蘇芳戦記〟のバッドエンドで妹監禁するわ、と私は脳裡で密かに納得していた。

「今回、サレステーデの王族がアンジェスで外交問題を引き起こしたと知れれば、バリエンダールはどう動くと閣下は思われますか?」

「……ふむ」

 私の問いかけに、アンディション侯爵はすぐには答えなかった。

「なるほど察して欲しい事、か……。確かにこれは、イデオン宰相も其方を手放せん筈だ。さすがに執着が過ぎると思う事もあるが、さもありなんとも思えるな」

「え……」

 ちょっ…侯爵様、一人で納得しないで下さい⁉
 戻って来て下さい――⁉
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