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第二部 宰相閣下の謹慎事情
【ハルヴァラSide】ミカと家令の追憶(後)
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
イデオン公爵様は、忙し過ぎて何年も食事会ひとつ開けなかったらしいんだけど、スヴェンテ公爵家は少し事情が違うみたいだった。
多分、僕やリオル君にも分かる様にと少し簡単に説明をしてくれたんだろうけど、整理してみたところ「リオル君のお祖父さん、つまり先代スヴェンテ公爵が、やって良いことと悪いことの区別がつかずに、国王陛下に迷惑をかけた」「それは、ごめんなさいだけでは済まない程の事だった」「家が潰れない代わりに、家族離れ離れに暮らすようにと言われて、リオル君は曾祖父の下にいる」――と、言う事みたいだった。
あからさまには誰も言わないけれど、リオル君のお祖父さんと、伯父さん――本来なら次のスヴェンテ公爵になる筈だった人は、もうこの世の人ではない、って言う空気をヒシヒシと感じる。
だからかも知れないけど、イデオン公爵様は、僕とリオル君が友達になるのはまだ早いって言う立場に立っている様に見えた。
リオル君のお祖父さんが、そんなにダメな事をしてしまったんだったら、きっと表舞台に立つ時に、あることないこと言う人が出るだろうからって言う事なんだろう。
母上の父上も「やって良いことと悪いことの区別がつかずに、王都で色んな人に迷惑をかけた」事を考えれば、僕とリオル君の立場は、ちょっと似ているのかも知れない。
案内された老公爵夫人の部屋で、もうハルヴァラ伯爵邸には、僕の家族が母上しかいない事や、父上に恩があるって言う家令がいなかったら、領は回っていないかも知れないって僕が言ったら、老公爵様も老公爵夫人も涙ぐんでいたんだ。
「チャペックとレイナ様は、僕の中では別格なんです!母上も僕も、二人がいなかったら、今ここでこうしていられたかどうかは分からないから!」
そして老公爵様は、成人まで自分の事は、お祖父様の代わりと思ってくれて良いとまで言ってくれた。
ホントに僕のお祖父様と仲良かったんだなぁ……。
セラシフェラの実を漬け込んで出来たお酒は、父上もお祖父様も好んで飲んでいたんだって!
母上はあまり飲まない…と言うか飲めないみたいだから、チャペックに持って帰ってあげよう!
同じ実を使って出来ている〝クラフティ〟って言うお菓子は、伯爵邸みんなの分もあるみたいだから、これはこれで母上とチャペックと三人でお茶が出来るかな⁉
「ぼ、僕、来年、母上と来ます!定例報告の後にこの庭園にも寄らせて頂きますから!」
うん、きっと僕とリオル君も、将来良い友達になれると思うよ!
話の途中で、老公爵夫人のお部屋で眠ってしまったリオル君を思い返しながら、僕はそんな風に確信していた。
「――また来年かな、ミカ君?」
レイナ様はどうしてか、僕がチャペックの話をすると、毎回ちょっと表情を痙攣らせている。
チャペックもチャペックで、この前手紙を読んで物凄く複雑そうな表情を見せていたから、きっと、今の僕には分からない何かがあるのかも知れない。
やっぱり、もっともっと僕には勉強が必要なんだろうな。
「スヴェンテ老公爵様、今日はありがとうございました。イデオン公爵様、レイナ様、お世話になりました」
僕はそう言って頭を下げた後、ウルリック副長に付いて来て貰って、ハルヴァラ伯爵邸へと戻ったんだ。
「――ミカ!」
「ミカ様」
スヴェンテ公爵邸の扉が一瞬光を放って、僕とウルリック副長とがその先へと歩を進めると、次に視界に現れたのは、見慣れたハルヴァラ伯爵邸の玄関ホールだった。
「ただいま、母上!チャペック!」
簡易型と言っても〝転移扉〟を通る事自体が生まれて初めての経験で、僕はまずは、ちゃんと魔道具に行先登録が出来ていて、ハルヴァラ伯爵邸に戻って来れた事に胸を撫で下ろした。
どうやら僕の知らないところで、公爵様とウルリック副長が、僕が帰る事を連絡していたみたいで、玄関ホールには、母上もチャペックも待ってくれていて、嬉しいような、安心したような、そんな笑みで僕を出迎えてくれたんだ。
「ウルリック様、ミカ様をお送り下さって深謝申し上げます。この様な帰還方法となったからには、差し迫る事情もあろうかと拝察致しますが、お茶の一杯も許される状況にはなくていらっしゃいますか」
まず御礼と頭を下げた後で、そう言ってウルリック副長の様子を窺うチャペックに、副長の口元がちょっとひくついていた。
これは確かに、お館様がすぐ帰れと釘を刺す訳だ…なんて呟きが、僕の耳にも届いた。
言いながら上着の内ポケットから、公爵様に手渡されていた手紙を、チャペックに渡している。
「委細はこちらに。出来れば一人で読むようにとの、公爵閣下からの伝言付で」
「―――」
「ミカ殿。家令には果実酒と菓子を渡して、まずは公爵閣下からの手紙に目を通して貰うと良いですよ。その間、ミカ殿は御母堂と、果実ジュースと菓子を味わいながら、土産話をたくさんして差し上げるのはどうでしょう」
「…そっか、そうするよ!」
チャペックとウルリック副長との間で意味ありげな視線が交錯していたけど、あの様子じゃ詳しくは聞けないだろうなと、僕自身は諦めるしかなかった。
「ではミカ殿、私はこれで。また定例報告あるいは王宮行事でお会い出来るのを、将軍共々楽しみにしていますよ」
「あっ、ハイ!副長、ありがとう!将軍にも御礼お願いします!さっきちゃんと言えなかったから!」
「分かりました、伝言預かりますよ。ウチの上司単純ですし、子供と女性には怯えられがちだから、喜ぶと思いますよ。今度会った時は抱きつきに行ってあげて下さい」
…僕に分かったのは、副長多分、チャペックより上手かも知れないってコトだけだ。
最後、いつもの副長節を残して、ハルヴァラ伯爵邸の面々に御礼以上の事を言わせない内に、手にしていた転移装置で王都のイデオン公爵邸へと戻って行った。
「ミカ様、先程ウルリック様がお酒やケーキと仰っていたのは、あの木箱の中身ですか?」
チャペックの言葉に、僕はあっ!と、木箱の存在を思い出した。
戻って来て早々、ウルリック副長は抱えていた木箱を3人ほどの侍女に手分けして渡していた。
ああ言うのって、転移中に落っことしたら何処にいっちゃうんだろう…とか一瞬思ったけど、誰も答えてくれなそうなのでその疑問は胸の中にしまっておいた。
いつか、誰か答えてくれるかな。
「…ミカ様?」
「ああっ、えと、ゴメン!それ、お茶会に招いて貰った、スヴェンテ公爵家の庭園に咲いてた〝セラシフェラ〟って言う花の実を漬け込んで出来た、お酒とジュースと、あとお茶会の名物お菓子で〝クラフティ〟って言うタルトが入ってるんだ!お祖父様と王都学園で親しかったって言う、先々代の公爵様が、持って帰って、伯爵邸の皆で食べると良いよって!」
「―――」
母上は「まあ、公爵家のお茶会!」ってビックリしていたけど、どちらかと言うとチャペックは、言葉を空気と一緒に呑み込んで、顔色を変えているみたいに見えた。
だから僕は慌てて「レイナ様やイデオン公爵様も一緒だったから、失礼な事はしていないよ⁉︎」って、チャペックに両手を振ってみせたんだけど、チャペックの顔色は冴えないままだった。
「…ちなみに、どんな話を?」
「ええと、定例報告に行った時に父上やお祖父様がよく立ち寄ってたって事かな。僕が領主になったら、父上やお祖父様が好きだったお酒を教えてくれるって。それまで頑張って長生きするから、曾孫のリオル君とも仲良くして欲しいって言われたかな?」
「曾孫……」
僕が、大体が父上とお祖父様の話、あとは学園の事とかかな?って首を傾げると、何故だかチャペックはちょっとホッとした表情になって、手元の手紙に視線を落としていた。
「……ダフネ侍女長、ミカ様とイリナ様にお茶の用意を。あと、スヴェンテ公爵様からの心遣いです。お二人に取り分けた残りを、皆でいただきましょう」
一礼した侍女長がダイニングに向かうのに、チャペックも続こうと背を向けたので、僕は思わず「チャペック!」って、声を上げていた。
「手紙を読む間に、チャペックも食べてね⁉︎」
「………有難うございます、ミカ様」
何だろう、いつも穏やかで、感情を露にする事が少ないチャペックの表情が、ちょっと泣き笑い…と言うか、どう言う表情をすれば良いのか、困っている風に見えた。
その後、僕が母上とダイニングでお茶をしている間、チャペックはしばらく執務室から出て来なくて、やっと出て来たと思ったら、ちょっと目が赤くなっていた気がした。
「ミカ様、明日から少し、各国の王族の事を勉強しましょうか」
そんな風にチャペックが言うくらいだから、手紙はきっと、サレステーデの残念な王族の話に触れられていたんだろう。
ダフネ侍女長が、チャペックにも果実酒とお菓子を届けた後、一人きりの部屋から嗚咽に似た声が聞こえた――なんて言ってはいたけど、チャペックの態度が、何も聞かないようにと全身で主張している気がした。
前にレイナ様が、僕もあっという間に、無邪気なままではいられなくなるんだって、愚痴みたいに呟いてたけど、きっと、こんな風に相手が出す空気を感じ取れるようになってきたのが、そう言う事なのかも知れない。
「……チャペックは、これからも伯爵邸にいてくれるの?」
「もちろんです。私の忠誠は亡くなられても、変わらず旦那様の上にあります。そしてミカ様とイリナ様に引き継がれたのです。そこだけは、何があっても揺らぎません」
過去に何かあったのかも知れない。
だけど、父上が信じたチャペックを、僕も信じないと!
落ち着いたら、伯爵邸でも〝セラシフェラ〟が育つのか、庭師にこっそり聞いてみよう――。
イデオン公爵様は、忙し過ぎて何年も食事会ひとつ開けなかったらしいんだけど、スヴェンテ公爵家は少し事情が違うみたいだった。
多分、僕やリオル君にも分かる様にと少し簡単に説明をしてくれたんだろうけど、整理してみたところ「リオル君のお祖父さん、つまり先代スヴェンテ公爵が、やって良いことと悪いことの区別がつかずに、国王陛下に迷惑をかけた」「それは、ごめんなさいだけでは済まない程の事だった」「家が潰れない代わりに、家族離れ離れに暮らすようにと言われて、リオル君は曾祖父の下にいる」――と、言う事みたいだった。
あからさまには誰も言わないけれど、リオル君のお祖父さんと、伯父さん――本来なら次のスヴェンテ公爵になる筈だった人は、もうこの世の人ではない、って言う空気をヒシヒシと感じる。
だからかも知れないけど、イデオン公爵様は、僕とリオル君が友達になるのはまだ早いって言う立場に立っている様に見えた。
リオル君のお祖父さんが、そんなにダメな事をしてしまったんだったら、きっと表舞台に立つ時に、あることないこと言う人が出るだろうからって言う事なんだろう。
母上の父上も「やって良いことと悪いことの区別がつかずに、王都で色んな人に迷惑をかけた」事を考えれば、僕とリオル君の立場は、ちょっと似ているのかも知れない。
案内された老公爵夫人の部屋で、もうハルヴァラ伯爵邸には、僕の家族が母上しかいない事や、父上に恩があるって言う家令がいなかったら、領は回っていないかも知れないって僕が言ったら、老公爵様も老公爵夫人も涙ぐんでいたんだ。
「チャペックとレイナ様は、僕の中では別格なんです!母上も僕も、二人がいなかったら、今ここでこうしていられたかどうかは分からないから!」
そして老公爵様は、成人まで自分の事は、お祖父様の代わりと思ってくれて良いとまで言ってくれた。
ホントに僕のお祖父様と仲良かったんだなぁ……。
セラシフェラの実を漬け込んで出来たお酒は、父上もお祖父様も好んで飲んでいたんだって!
母上はあまり飲まない…と言うか飲めないみたいだから、チャペックに持って帰ってあげよう!
同じ実を使って出来ている〝クラフティ〟って言うお菓子は、伯爵邸みんなの分もあるみたいだから、これはこれで母上とチャペックと三人でお茶が出来るかな⁉
「ぼ、僕、来年、母上と来ます!定例報告の後にこの庭園にも寄らせて頂きますから!」
うん、きっと僕とリオル君も、将来良い友達になれると思うよ!
話の途中で、老公爵夫人のお部屋で眠ってしまったリオル君を思い返しながら、僕はそんな風に確信していた。
「――また来年かな、ミカ君?」
レイナ様はどうしてか、僕がチャペックの話をすると、毎回ちょっと表情を痙攣らせている。
チャペックもチャペックで、この前手紙を読んで物凄く複雑そうな表情を見せていたから、きっと、今の僕には分からない何かがあるのかも知れない。
やっぱり、もっともっと僕には勉強が必要なんだろうな。
「スヴェンテ老公爵様、今日はありがとうございました。イデオン公爵様、レイナ様、お世話になりました」
僕はそう言って頭を下げた後、ウルリック副長に付いて来て貰って、ハルヴァラ伯爵邸へと戻ったんだ。
「――ミカ!」
「ミカ様」
スヴェンテ公爵邸の扉が一瞬光を放って、僕とウルリック副長とがその先へと歩を進めると、次に視界に現れたのは、見慣れたハルヴァラ伯爵邸の玄関ホールだった。
「ただいま、母上!チャペック!」
簡易型と言っても〝転移扉〟を通る事自体が生まれて初めての経験で、僕はまずは、ちゃんと魔道具に行先登録が出来ていて、ハルヴァラ伯爵邸に戻って来れた事に胸を撫で下ろした。
どうやら僕の知らないところで、公爵様とウルリック副長が、僕が帰る事を連絡していたみたいで、玄関ホールには、母上もチャペックも待ってくれていて、嬉しいような、安心したような、そんな笑みで僕を出迎えてくれたんだ。
「ウルリック様、ミカ様をお送り下さって深謝申し上げます。この様な帰還方法となったからには、差し迫る事情もあろうかと拝察致しますが、お茶の一杯も許される状況にはなくていらっしゃいますか」
まず御礼と頭を下げた後で、そう言ってウルリック副長の様子を窺うチャペックに、副長の口元がちょっとひくついていた。
これは確かに、お館様がすぐ帰れと釘を刺す訳だ…なんて呟きが、僕の耳にも届いた。
言いながら上着の内ポケットから、公爵様に手渡されていた手紙を、チャペックに渡している。
「委細はこちらに。出来れば一人で読むようにとの、公爵閣下からの伝言付で」
「―――」
「ミカ殿。家令には果実酒と菓子を渡して、まずは公爵閣下からの手紙に目を通して貰うと良いですよ。その間、ミカ殿は御母堂と、果実ジュースと菓子を味わいながら、土産話をたくさんして差し上げるのはどうでしょう」
「…そっか、そうするよ!」
チャペックとウルリック副長との間で意味ありげな視線が交錯していたけど、あの様子じゃ詳しくは聞けないだろうなと、僕自身は諦めるしかなかった。
「ではミカ殿、私はこれで。また定例報告あるいは王宮行事でお会い出来るのを、将軍共々楽しみにしていますよ」
「あっ、ハイ!副長、ありがとう!将軍にも御礼お願いします!さっきちゃんと言えなかったから!」
「分かりました、伝言預かりますよ。ウチの上司単純ですし、子供と女性には怯えられがちだから、喜ぶと思いますよ。今度会った時は抱きつきに行ってあげて下さい」
…僕に分かったのは、副長多分、チャペックより上手かも知れないってコトだけだ。
最後、いつもの副長節を残して、ハルヴァラ伯爵邸の面々に御礼以上の事を言わせない内に、手にしていた転移装置で王都のイデオン公爵邸へと戻って行った。
「ミカ様、先程ウルリック様がお酒やケーキと仰っていたのは、あの木箱の中身ですか?」
チャペックの言葉に、僕はあっ!と、木箱の存在を思い出した。
戻って来て早々、ウルリック副長は抱えていた木箱を3人ほどの侍女に手分けして渡していた。
ああ言うのって、転移中に落っことしたら何処にいっちゃうんだろう…とか一瞬思ったけど、誰も答えてくれなそうなのでその疑問は胸の中にしまっておいた。
いつか、誰か答えてくれるかな。
「…ミカ様?」
「ああっ、えと、ゴメン!それ、お茶会に招いて貰った、スヴェンテ公爵家の庭園に咲いてた〝セラシフェラ〟って言う花の実を漬け込んで出来た、お酒とジュースと、あとお茶会の名物お菓子で〝クラフティ〟って言うタルトが入ってるんだ!お祖父様と王都学園で親しかったって言う、先々代の公爵様が、持って帰って、伯爵邸の皆で食べると良いよって!」
「―――」
母上は「まあ、公爵家のお茶会!」ってビックリしていたけど、どちらかと言うとチャペックは、言葉を空気と一緒に呑み込んで、顔色を変えているみたいに見えた。
だから僕は慌てて「レイナ様やイデオン公爵様も一緒だったから、失礼な事はしていないよ⁉︎」って、チャペックに両手を振ってみせたんだけど、チャペックの顔色は冴えないままだった。
「…ちなみに、どんな話を?」
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「曾孫……」
僕が、大体が父上とお祖父様の話、あとは学園の事とかかな?って首を傾げると、何故だかチャペックはちょっとホッとした表情になって、手元の手紙に視線を落としていた。
「……ダフネ侍女長、ミカ様とイリナ様にお茶の用意を。あと、スヴェンテ公爵様からの心遣いです。お二人に取り分けた残りを、皆でいただきましょう」
一礼した侍女長がダイニングに向かうのに、チャペックも続こうと背を向けたので、僕は思わず「チャペック!」って、声を上げていた。
「手紙を読む間に、チャペックも食べてね⁉︎」
「………有難うございます、ミカ様」
何だろう、いつも穏やかで、感情を露にする事が少ないチャペックの表情が、ちょっと泣き笑い…と言うか、どう言う表情をすれば良いのか、困っている風に見えた。
その後、僕が母上とダイニングでお茶をしている間、チャペックはしばらく執務室から出て来なくて、やっと出て来たと思ったら、ちょっと目が赤くなっていた気がした。
「ミカ様、明日から少し、各国の王族の事を勉強しましょうか」
そんな風にチャペックが言うくらいだから、手紙はきっと、サレステーデの残念な王族の話に触れられていたんだろう。
ダフネ侍女長が、チャペックにも果実酒とお菓子を届けた後、一人きりの部屋から嗚咽に似た声が聞こえた――なんて言ってはいたけど、チャペックの態度が、何も聞かないようにと全身で主張している気がした。
前にレイナ様が、僕もあっという間に、無邪気なままではいられなくなるんだって、愚痴みたいに呟いてたけど、きっと、こんな風に相手が出す空気を感じ取れるようになってきたのが、そう言う事なのかも知れない。
「……チャペックは、これからも伯爵邸にいてくれるの?」
「もちろんです。私の忠誠は亡くなられても、変わらず旦那様の上にあります。そしてミカ様とイリナ様に引き継がれたのです。そこだけは、何があっても揺らぎません」
過去に何かあったのかも知れない。
だけど、父上が信じたチャペックを、僕も信じないと!
落ち着いたら、伯爵邸でも〝セラシフェラ〟が育つのか、庭師にこっそり聞いてみよう――。
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