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第二部 宰相閣下の謹慎事情
392 シーグリックの調査報告
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
高級リゾートホテルのスイートルームみたいだったテオドル大公の部屋に比べれば、こちらはスタンダードルームと言った感じではあるけれど、それでも外資系高級ホテル程度の広さと見晴らしはあって、大公殿下の随行者として、充分に気は遣われていると感じられた。
幅広なソファに、居心地悪そうにシーグが腰掛けている。
一応、あまり聞かれない方が良いだろうと言う事で、シーグはギーレン語で話すと言い、私はそれには黙って頷いた。
シーグから先に話を始めてさえくれれば済む話だからだ。
そして私の頷きを見たシーグが、一呼吸置いて話し始めた。
『王都に常駐の邸宅なり、領館なりがある高位貴族で、適齢期の令嬢を持つ家をリックと手分けして確認してきました。今日は本当に、年齢と婚約者がいるかどうかの情報くらいで、明日はその中から、条件を絞り込んで詳しく調べようかと……』
王都に邸宅なり、領館なりがあると言う事は、バリエンダール国内においてもそれなりに地位あるいは知名度があって、他国の王族に嫁げる条件としても、第一段階はクリアしていると言う事だ。
二人はその中から更に、適齢期の令嬢候補を絞って来たんだろう。
婚約者の有無は、最終的には恐らく考慮されない。
いざとなれば、王族からの指名である事の方が、どの家でも重視されるだろうからだ。
さすがに、政略的に言って、バリエンダール王家からの反対を受けそうであれば除外されるかも知れないけど、それはあくまで、令嬢の素質が他国の王妃足り得ると見做されて初めて考慮される話でしかない。
『そっか。ならもし、ハールマン侯爵家やその血縁者に、ミラン王太子殿下の婚約者であるフランカ嬢以外に適齢期の令嬢がいるようなら、それはちょっと外した方が良いかも知れないって言うのは忠告しておくね?』
『え…そう、なんですか…?』
思いがけない事を言われた、と言う風な表情を見せたシーグに『そりゃあ、そうよ』と、私は詳細を説明した。
『もしそれで選ばれでもしたら、バリエンダール、ギーレンの王家に正妃を嫁がせた家系ってコトになるのよ?どんなに現当主が清廉潔白な人物だったとしても、周囲や次代以降はどうなると思う?いずれ揉め事になる未来しか見えないわ』
そこだけは、本人の資質とは別の話になる。
どうしても、それでも、その令嬢しかいないとなれば、勘当なり死んだ事にするなりして、ハールマン侯爵家とは無関係な状態にした上で、ラハデ公爵家やその派閥なりの養女とするくらいでなければ、収まりがつかないだろう。
『まあ、対象の令嬢がいたとして、その彼女しかもう選択肢がないとなれば…って言う仮定の話は、今は置いておこっか。まずは他に候補の令嬢がいれば、その方が良いし、王女様に資質があれば、それに越した事はないし』
『あ…確かに』
『元々ミラン王太子殿下の正妃候補になっていた家とかなら、家格としては充分なんだろうけど、中には権力に固執して面倒なコトになりそうな家もあるかもだから、その辺りはご令嬢の評判に加えて、家の評判も探らないとね』
『………』
ふと私は、そこでシーグが黙り込んでしまった事に気が付いた。
『うん?どうかした?』
『あ…その…その観点だと、サレステーデもベルィフもちょっと問題あったかな…と思って』
どうやらシーグは、自分達が今まで調べてきた両国の事情を振り返っていたみたいだった。
『まあ、サレステーデは王女サマがアレだったし、バルキン公爵家もあんなだし、ご正妃サマもバルキン公爵家寄りじゃ周辺も問題大アリっぽいし……あとはソーニャ妃とその実家派閥とかかな?気にかけるとしたら』
『はい。ただ、ソーニャ妃の元婚約者の家は中立派の公爵家。第二王子の実父らしい公爵は既に故人。現当主には令嬢が一人いるのですが、こちらは既に嫁いだ後…と言う訳で。当人の実家に関しては、どうやら国内の少数民族を束ねている部族の部族長と言う事で、国内の政治色が濃すぎて、仮にご令嬢がいたとしても殿下のお相手には不向きと判断したんです』
『……国内の少数民族』
私は思わずソファにかけられた民族衣装に視線を向けてしまった。
『ああ、はい。調べてませんけど、この衣装を預かった時に、サレステーデとバリエンダールとの間にまたがっている少数民族があると聞いたので、可能性はあるかも知れないと思ってます』
なるほど確かに「シーグリック」の判断として、それは正しいと思えた。
『他にも何人か、侯爵家や伯爵家のご令嬢はいたんですが……その……』
何だかひどく言いづらそうにしているシーグに、私は首を傾げたものの、聞かないワケにもいかない。
しばらくじっと待っていると、シーグも諦めたように溜息をついた。
『……軒並み、トール第三王子のお手が付いた後でした……』
うっかり『え、マジで』と、シーグに通じない言葉が零れたのは勘弁して欲しい。
うん、それは14歳15歳のシーグには言いづらいわ、ゴメン。
『うわ…それは早々に臣籍降下もさせられるわ……』
誰が後見についたら、そうなるのかと言う話だ。
まさか、ホントにドナート第二王子がアレで一番マトモだったとは。
『逆に、よくサレステーデとベルィフの間で縁談がまとまったものよね。聞いてしまえばそっちに驚くわ』
『……それなんですけど、ベルィフの王家中枢は、どうもサレステーデ王家がそう遠くない将来、崩壊するんじゃないかと察していたフシがあります』
『え』
それはそれで、大国ギーレンと海を挟んでいるにも関わらず、凄腕の情報収集能力を持っていると言う事になる。
それを裏付けるように、王宮の守りもなかなかに堅固で、あまり長い時間留まって情報を探れなかったのだとシーグは言った。
『どうも嫁ぐ予定だった王女と言うのが、現王の娘ではなく、王兄と側妃との不義の子で、それを隠して二人が王女を女王に就けようとしていたのが発覚したが故の、事実上の追放処分らしいと、国内では周知されている状況なんです』
『え、そうなの⁉』
サレステーデどころか、ベルィフ王家にもあったのか、実の子じゃない問題!
海を越えて、更に雪の降る山脈を越えてまでの輿入れですしね――と、シーグも苦笑ぎみだ。
『どうやら、必要以上に国内を騒がせずに遠くにやるにはどうしたら良いかと、上層部があちこち探らせた結果、サレステーデの状況にも行き当ったみたいで。逆に輿入れした後で、その王女が王妃になれるとは誰も思っていないのが実状っぽかったです』
既に王兄も側妃も毒杯を仰がされた状態で、短時間ではシーグもリックもそれ以上は分からなかったとの事だった。
『なので側妃や王兄派閥の家は対象に出来ませんし、王弟殿下は現在も独身です。王と正妃との間には王子ばかりで王女がいなくて、そうなると目ぼしい国内の令嬢は、既にベルィフ王家に嫁ぐ事が決まっている状態で、サレステーデとは別の意味で、これと言う令嬢を挙げられなかったんです』
王弟殿下が独身――そう言ったところで、シーグが僅かに表情を歪めた様に見えたけど、敢えて今はそこには触れないでおいた。
カストル・ベルィフ王弟殿下。
かつてギーレン王宮に勤めていた、当時の副侍女長メイサ・エリダヌス男爵令嬢と恋に落ち、双子の兄妹まで授かったものの、国と身分の違いの前に、遂に婚姻が許されず、今に至っている。
政略にしろ白い結婚にしろ、名ばかりの妃さえも受け入れようとしないのだから、王弟殿下の気持ちは今も双子の母にあると言う事なんだろう。
もしも二人の婚姻が認められていたなら、シーグがギーレン暗部に属すような事になっていなければ、シーグだってエドベリ王子の妃候補に充分なり得ただろうけど、それはもはや「たられば」の話だ。どうしようもない。
『…そう言う事なら、その王女の相手が第一王子じゃなくなっても、第二王子に代わったうえに王位を継ぐ可能性がなくなっても、軍トップの肩書と公爵位程度あれば、そのままベルィフからは輿入れしてくれそうってコトだよね』
私が、ベルィフの王弟殿下の話に必要以上に触れなかった事に、明らかにホッとした表情を見せながら、シーグは頷いた。
『ベルィフから外に出す事に重きを置いているみたいだったので、多分大丈夫な気がします』
『オッケー、それが聞ければ充分。多分同じ事をエヴェリーナ妃に言えば、エヴェリーナ妃も私がバリエンダールのミルテ王女を推す理由を察して下さると思う。後は、王女サマがお花畑でない事を祈るだけだわ。あ、でも選択肢を絞る意味でも、他のご令嬢の情報は集めておいてね?夜にまた、情報のすり合わせをしましょ』
どうやら明日のお茶会は、テオドル大公と縁のある家から数名招いているだけの、小規模なお茶会との事で、私の方では王女様以外を探る事は難しそうだった。
だからシーグに『ファイト!』と、発破をかけておくくらいしか出来なかった。
高級リゾートホテルのスイートルームみたいだったテオドル大公の部屋に比べれば、こちらはスタンダードルームと言った感じではあるけれど、それでも外資系高級ホテル程度の広さと見晴らしはあって、大公殿下の随行者として、充分に気は遣われていると感じられた。
幅広なソファに、居心地悪そうにシーグが腰掛けている。
一応、あまり聞かれない方が良いだろうと言う事で、シーグはギーレン語で話すと言い、私はそれには黙って頷いた。
シーグから先に話を始めてさえくれれば済む話だからだ。
そして私の頷きを見たシーグが、一呼吸置いて話し始めた。
『王都に常駐の邸宅なり、領館なりがある高位貴族で、適齢期の令嬢を持つ家をリックと手分けして確認してきました。今日は本当に、年齢と婚約者がいるかどうかの情報くらいで、明日はその中から、条件を絞り込んで詳しく調べようかと……』
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二人はその中から更に、適齢期の令嬢候補を絞って来たんだろう。
婚約者の有無は、最終的には恐らく考慮されない。
いざとなれば、王族からの指名である事の方が、どの家でも重視されるだろうからだ。
さすがに、政略的に言って、バリエンダール王家からの反対を受けそうであれば除外されるかも知れないけど、それはあくまで、令嬢の素質が他国の王妃足り得ると見做されて初めて考慮される話でしかない。
『そっか。ならもし、ハールマン侯爵家やその血縁者に、ミラン王太子殿下の婚約者であるフランカ嬢以外に適齢期の令嬢がいるようなら、それはちょっと外した方が良いかも知れないって言うのは忠告しておくね?』
『え…そう、なんですか…?』
思いがけない事を言われた、と言う風な表情を見せたシーグに『そりゃあ、そうよ』と、私は詳細を説明した。
『もしそれで選ばれでもしたら、バリエンダール、ギーレンの王家に正妃を嫁がせた家系ってコトになるのよ?どんなに現当主が清廉潔白な人物だったとしても、周囲や次代以降はどうなると思う?いずれ揉め事になる未来しか見えないわ』
そこだけは、本人の資質とは別の話になる。
どうしても、それでも、その令嬢しかいないとなれば、勘当なり死んだ事にするなりして、ハールマン侯爵家とは無関係な状態にした上で、ラハデ公爵家やその派閥なりの養女とするくらいでなければ、収まりがつかないだろう。
『まあ、対象の令嬢がいたとして、その彼女しかもう選択肢がないとなれば…って言う仮定の話は、今は置いておこっか。まずは他に候補の令嬢がいれば、その方が良いし、王女様に資質があれば、それに越した事はないし』
『あ…確かに』
『元々ミラン王太子殿下の正妃候補になっていた家とかなら、家格としては充分なんだろうけど、中には権力に固執して面倒なコトになりそうな家もあるかもだから、その辺りはご令嬢の評判に加えて、家の評判も探らないとね』
『………』
ふと私は、そこでシーグが黙り込んでしまった事に気が付いた。
『うん?どうかした?』
『あ…その…その観点だと、サレステーデもベルィフもちょっと問題あったかな…と思って』
どうやらシーグは、自分達が今まで調べてきた両国の事情を振り返っていたみたいだった。
『まあ、サレステーデは王女サマがアレだったし、バルキン公爵家もあんなだし、ご正妃サマもバルキン公爵家寄りじゃ周辺も問題大アリっぽいし……あとはソーニャ妃とその実家派閥とかかな?気にかけるとしたら』
『はい。ただ、ソーニャ妃の元婚約者の家は中立派の公爵家。第二王子の実父らしい公爵は既に故人。現当主には令嬢が一人いるのですが、こちらは既に嫁いだ後…と言う訳で。当人の実家に関しては、どうやら国内の少数民族を束ねている部族の部族長と言う事で、国内の政治色が濃すぎて、仮にご令嬢がいたとしても殿下のお相手には不向きと判断したんです』
『……国内の少数民族』
私は思わずソファにかけられた民族衣装に視線を向けてしまった。
『ああ、はい。調べてませんけど、この衣装を預かった時に、サレステーデとバリエンダールとの間にまたがっている少数民族があると聞いたので、可能性はあるかも知れないと思ってます』
なるほど確かに「シーグリック」の判断として、それは正しいと思えた。
『他にも何人か、侯爵家や伯爵家のご令嬢はいたんですが……その……』
何だかひどく言いづらそうにしているシーグに、私は首を傾げたものの、聞かないワケにもいかない。
しばらくじっと待っていると、シーグも諦めたように溜息をついた。
『……軒並み、トール第三王子のお手が付いた後でした……』
うっかり『え、マジで』と、シーグに通じない言葉が零れたのは勘弁して欲しい。
うん、それは14歳15歳のシーグには言いづらいわ、ゴメン。
『うわ…それは早々に臣籍降下もさせられるわ……』
誰が後見についたら、そうなるのかと言う話だ。
まさか、ホントにドナート第二王子がアレで一番マトモだったとは。
『逆に、よくサレステーデとベルィフの間で縁談がまとまったものよね。聞いてしまえばそっちに驚くわ』
『……それなんですけど、ベルィフの王家中枢は、どうもサレステーデ王家がそう遠くない将来、崩壊するんじゃないかと察していたフシがあります』
『え』
それはそれで、大国ギーレンと海を挟んでいるにも関わらず、凄腕の情報収集能力を持っていると言う事になる。
それを裏付けるように、王宮の守りもなかなかに堅固で、あまり長い時間留まって情報を探れなかったのだとシーグは言った。
『どうも嫁ぐ予定だった王女と言うのが、現王の娘ではなく、王兄と側妃との不義の子で、それを隠して二人が王女を女王に就けようとしていたのが発覚したが故の、事実上の追放処分らしいと、国内では周知されている状況なんです』
『え、そうなの⁉』
サレステーデどころか、ベルィフ王家にもあったのか、実の子じゃない問題!
海を越えて、更に雪の降る山脈を越えてまでの輿入れですしね――と、シーグも苦笑ぎみだ。
『どうやら、必要以上に国内を騒がせずに遠くにやるにはどうしたら良いかと、上層部があちこち探らせた結果、サレステーデの状況にも行き当ったみたいで。逆に輿入れした後で、その王女が王妃になれるとは誰も思っていないのが実状っぽかったです』
既に王兄も側妃も毒杯を仰がされた状態で、短時間ではシーグもリックもそれ以上は分からなかったとの事だった。
『なので側妃や王兄派閥の家は対象に出来ませんし、王弟殿下は現在も独身です。王と正妃との間には王子ばかりで王女がいなくて、そうなると目ぼしい国内の令嬢は、既にベルィフ王家に嫁ぐ事が決まっている状態で、サレステーデとは別の意味で、これと言う令嬢を挙げられなかったんです』
王弟殿下が独身――そう言ったところで、シーグが僅かに表情を歪めた様に見えたけど、敢えて今はそこには触れないでおいた。
カストル・ベルィフ王弟殿下。
かつてギーレン王宮に勤めていた、当時の副侍女長メイサ・エリダヌス男爵令嬢と恋に落ち、双子の兄妹まで授かったものの、国と身分の違いの前に、遂に婚姻が許されず、今に至っている。
政略にしろ白い結婚にしろ、名ばかりの妃さえも受け入れようとしないのだから、王弟殿下の気持ちは今も双子の母にあると言う事なんだろう。
もしも二人の婚姻が認められていたなら、シーグがギーレン暗部に属すような事になっていなければ、シーグだってエドベリ王子の妃候補に充分なり得ただろうけど、それはもはや「たられば」の話だ。どうしようもない。
『…そう言う事なら、その王女の相手が第一王子じゃなくなっても、第二王子に代わったうえに王位を継ぐ可能性がなくなっても、軍トップの肩書と公爵位程度あれば、そのままベルィフからは輿入れしてくれそうってコトだよね』
私が、ベルィフの王弟殿下の話に必要以上に触れなかった事に、明らかにホッとした表情を見せながら、シーグは頷いた。
『ベルィフから外に出す事に重きを置いているみたいだったので、多分大丈夫な気がします』
『オッケー、それが聞ければ充分。多分同じ事をエヴェリーナ妃に言えば、エヴェリーナ妃も私がバリエンダールのミルテ王女を推す理由を察して下さると思う。後は、王女サマがお花畑でない事を祈るだけだわ。あ、でも選択肢を絞る意味でも、他のご令嬢の情報は集めておいてね?夜にまた、情報のすり合わせをしましょ』
どうやら明日のお茶会は、テオドル大公と縁のある家から数名招いているだけの、小規模なお茶会との事で、私の方では王女様以外を探る事は難しそうだった。
だからシーグに『ファイト!』と、発破をかけておくくらいしか出来なかった。
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