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第二部 宰相閣下の謹慎事情
400 甘ちゃん!
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
王女様の夫たるに相応しい後継者が決まった際に、まだお相手がいらっしゃらず、周囲の情勢が許すなら、改めてお話を――。
宰相は当時、そう国王に返したらしい。
即断で返したのであれば、ミラン王太子とて反対も何もなかったんだろうし、その場にいた者と関係者以外、王宮の外側にも伝わらなかったんだろう。
「養子を取って、王女の降嫁を断った事で、グイドには自分が宰相家を継ぐに相応しいと思われていない事を察して欲しかったみたいですよ。ジーノの方は、養子になって日が浅かった点で、まだ後継者と主張出来るだけの実績がないと、その時点での現状を良く分かっていたみたいですが」
「それは息子の改心を期待したとか、そんな感じ?」
「まあ、見限るにしても、ジーノの補佐となって二人で宰相家を盛り立ててくれないか…くらいの思惑はあったのかも知れませ――」
「――え、父、甘ちゃん!」
バルトリが言い終わらないうちに、私はうっかり本音を口に出してしまった。
あまちゃん……?と、テオドル大公がちょっと怪訝そうだ。
「ああ、すみません。うっかりお国言葉が……いえ、つまり、見限られて尚、新たな後継者の為に粉骨砕身働いてくれるような人格者なら、そもそも後継者失格になんてならないでしょうに、って話ですよ。見限る事に罪悪感があるからって、都合の良い夢を見ちゃダメですよ。実の姉妹にしたって助け合えるとは限らないのに、まして養子で突然出来た兄弟なんて」
「―――」
それは…とか、確かに…とか、そこかしこに声が上がる。
「うーん……宰相サマの行動って、色々と矛盾が多いなぁ……何をしたいんだろう?ちょっとまだ、考えるには材料が足りないなぁ……」
本来ならば、少数民族との融和を図りたい当代国王の意向にそぐわない行動をとっている時点で、グイドは廃嫡や追放があってもおかしくはない筈だ。
それを生かしているからには、宰相自身もその政策に反対なのかと思えば、少数民族の血を引くジーノ青年を養子にして、後を継がせようとしている。
王の治世に最も協力的である事を、宰相家の内側にも外側にもアピールしようとしている。
その一方で、王家の意向もあるのかも知れないけど、ビリエル・イェスタフをサレステーデに送り返す事に反対をせず、彼を得たバルキン公爵家が国内を引っ掻き回すのを黙認もしている。
ただ側室や息子を溺愛しているだけとするには、行動に矛盾があるのだ。
「――バルトリ。この国の宰相サマの側室周辺って、調べられるかな」
私はこめかみを揉み解しながら、足りない材料は何かを必死に考えた。
「側室……グイドの母親周辺って事ですか?」
「うん。普通ならとっくに表舞台から退かせているだろう、側室や息子を、この期に及んで未だ残しているって言う事は…『何か』あるのかな、と思って。政略とかもあるだろうから、そもそも何で結婚したんだとまでは言わないけどね?いずれにせよ、現状放置はあまりにも不自然かなと」
「そう言えば、ジーノからはグイドの足らなさっぷりは散々聞かされていても、義母にあたる正室や側室の話はほとんど聞いた事がなかったですね……分かりました、ギルドでの用が済んだらその後は、可能な範囲で調べてみます」
ヨロシク――と、話をそこで切り上げようとしたところで、それまでほぼ黙って耳を傾けていたテオドル大公が「宰相の正室と言う話なら」と、不意に口を開いた。
「今も息災かどうか分からぬが、そもそも随分前から王都にはおらぬぞ。アンジェスとは逆方向の海に浮かぶピアーネと言う島でずっと過ごしていると聞くがな」
「え、そうなんですか⁉」
うむ…と、記憶を遡るかの様な表情を見せたテオドル大公は、そう間を置かずに思い出したみたいで「そうだ、そうだ」と一人頷いた。
「結婚してすぐの頃には、宰相に紹介されて一、二度会っておったんだがな。確か三十年くらい前に、奥方の実家で何かあって、自分は宰相家の正室たる資格はないと、新たな妻を娶って宰相家を継がせる事を進言して、王都から退いたと聞いた覚えがあるな」
「……っ」
実家で、何か。
私は思わずひゅっと息を吞んでしまった。
「大公様、ちなみにその奥様のお名前は……」
「もう何十年もたっておるしな……確かキアラ夫人、だったか?」
思わず天井を仰いだ私の傍で、双子も微かに身動ぎしていた。
(そうか。嫁いで来てしばらくしてから父親の暴挙を耳にして、自分なりにオーグレーン家の人間としてのケジメをつけようとされたのか……)
王都から離れた島で暮らしているのであれば、それを確かめに行く事も今更出来ないけれど、あながち大きく間違ってはいない気がした。
「儂の勝手な憶測だが、宰相は宰相なりにキアラ夫人を大事に思っておると思うよ。側室に関しては、先代陛下からの王命で仕方なく…と言うのが、当時から透けて見えておった気がするしな」
それで側室が慎ましやかな性格だったり、息子が優秀だったりすれば、まだ救いはあったのかも知れないが、どちらも欠けていた――と。
誰も口にはしないものの、その感情が共有された気がした。
「先代陛下の王命、なんて言う経緯があるから、迂闊には側室派閥を処断出来ないんですかね?養子をとったのも、側室派閥を誰の目にも分かる形で一網打尽にしたいから……?」
「さあな……確かジーノは宰相家の養子になった直後、教育の為として一時期、ピアーネ島の奥方の所で教育を受けておった筈だが……さすがにそれ以上は、儂も知らんよ」
現代日本では敬遠される一方、下手をすればアルハラとまで言われる「飲みニケーション」だけど、殊テオドル大公に関しては、それが情報収集の最強の手段になっている事は間違いなかった。
「うーん…じゃあバルトリ、依頼はちょっと変更して、側室派閥を洗い出して、弱点とか、狙いとか調べて貰おうかな。現状放置の理由は、多分大公様の仰られた話で合っている様な気がするし」
「……ちなみに、調べてどうするんです?」
「うーん…あわよくば、王家なり宰相なりに恩を売る?だってその派閥がサレステーデの自治領化に反対しそうとか、ユングベリ商会の商売の邪魔をしそうとかだったら困るじゃない」
ここではさすがに言わないにしても、出来ればミルテ王女を宰相家に降嫁――と言う可能性も、潰しておきたい。
王女様がお花畑の住人だったなら、宰相家のどちらに降嫁しようと、こちらは自由だけれど。
それは双子の方が何となく察してくれたっぽかった。
「ふむ。レイナ嬢の言う事にも一理あるな。フィルバート陛下からの提案を呑んでもらう為の手間は惜しまぬ方が良かろうよ」
こうしてバルトリと私との間の話は、この瞬間にテオドル大公公認の話になった。
王女様の夫たるに相応しい後継者が決まった際に、まだお相手がいらっしゃらず、周囲の情勢が許すなら、改めてお話を――。
宰相は当時、そう国王に返したらしい。
即断で返したのであれば、ミラン王太子とて反対も何もなかったんだろうし、その場にいた者と関係者以外、王宮の外側にも伝わらなかったんだろう。
「養子を取って、王女の降嫁を断った事で、グイドには自分が宰相家を継ぐに相応しいと思われていない事を察して欲しかったみたいですよ。ジーノの方は、養子になって日が浅かった点で、まだ後継者と主張出来るだけの実績がないと、その時点での現状を良く分かっていたみたいですが」
「それは息子の改心を期待したとか、そんな感じ?」
「まあ、見限るにしても、ジーノの補佐となって二人で宰相家を盛り立ててくれないか…くらいの思惑はあったのかも知れませ――」
「――え、父、甘ちゃん!」
バルトリが言い終わらないうちに、私はうっかり本音を口に出してしまった。
あまちゃん……?と、テオドル大公がちょっと怪訝そうだ。
「ああ、すみません。うっかりお国言葉が……いえ、つまり、見限られて尚、新たな後継者の為に粉骨砕身働いてくれるような人格者なら、そもそも後継者失格になんてならないでしょうに、って話ですよ。見限る事に罪悪感があるからって、都合の良い夢を見ちゃダメですよ。実の姉妹にしたって助け合えるとは限らないのに、まして養子で突然出来た兄弟なんて」
「―――」
それは…とか、確かに…とか、そこかしこに声が上がる。
「うーん……宰相サマの行動って、色々と矛盾が多いなぁ……何をしたいんだろう?ちょっとまだ、考えるには材料が足りないなぁ……」
本来ならば、少数民族との融和を図りたい当代国王の意向にそぐわない行動をとっている時点で、グイドは廃嫡や追放があってもおかしくはない筈だ。
それを生かしているからには、宰相自身もその政策に反対なのかと思えば、少数民族の血を引くジーノ青年を養子にして、後を継がせようとしている。
王の治世に最も協力的である事を、宰相家の内側にも外側にもアピールしようとしている。
その一方で、王家の意向もあるのかも知れないけど、ビリエル・イェスタフをサレステーデに送り返す事に反対をせず、彼を得たバルキン公爵家が国内を引っ掻き回すのを黙認もしている。
ただ側室や息子を溺愛しているだけとするには、行動に矛盾があるのだ。
「――バルトリ。この国の宰相サマの側室周辺って、調べられるかな」
私はこめかみを揉み解しながら、足りない材料は何かを必死に考えた。
「側室……グイドの母親周辺って事ですか?」
「うん。普通ならとっくに表舞台から退かせているだろう、側室や息子を、この期に及んで未だ残しているって言う事は…『何か』あるのかな、と思って。政略とかもあるだろうから、そもそも何で結婚したんだとまでは言わないけどね?いずれにせよ、現状放置はあまりにも不自然かなと」
「そう言えば、ジーノからはグイドの足らなさっぷりは散々聞かされていても、義母にあたる正室や側室の話はほとんど聞いた事がなかったですね……分かりました、ギルドでの用が済んだらその後は、可能な範囲で調べてみます」
ヨロシク――と、話をそこで切り上げようとしたところで、それまでほぼ黙って耳を傾けていたテオドル大公が「宰相の正室と言う話なら」と、不意に口を開いた。
「今も息災かどうか分からぬが、そもそも随分前から王都にはおらぬぞ。アンジェスとは逆方向の海に浮かぶピアーネと言う島でずっと過ごしていると聞くがな」
「え、そうなんですか⁉」
うむ…と、記憶を遡るかの様な表情を見せたテオドル大公は、そう間を置かずに思い出したみたいで「そうだ、そうだ」と一人頷いた。
「結婚してすぐの頃には、宰相に紹介されて一、二度会っておったんだがな。確か三十年くらい前に、奥方の実家で何かあって、自分は宰相家の正室たる資格はないと、新たな妻を娶って宰相家を継がせる事を進言して、王都から退いたと聞いた覚えがあるな」
「……っ」
実家で、何か。
私は思わずひゅっと息を吞んでしまった。
「大公様、ちなみにその奥様のお名前は……」
「もう何十年もたっておるしな……確かキアラ夫人、だったか?」
思わず天井を仰いだ私の傍で、双子も微かに身動ぎしていた。
(そうか。嫁いで来てしばらくしてから父親の暴挙を耳にして、自分なりにオーグレーン家の人間としてのケジメをつけようとされたのか……)
王都から離れた島で暮らしているのであれば、それを確かめに行く事も今更出来ないけれど、あながち大きく間違ってはいない気がした。
「儂の勝手な憶測だが、宰相は宰相なりにキアラ夫人を大事に思っておると思うよ。側室に関しては、先代陛下からの王命で仕方なく…と言うのが、当時から透けて見えておった気がするしな」
それで側室が慎ましやかな性格だったり、息子が優秀だったりすれば、まだ救いはあったのかも知れないが、どちらも欠けていた――と。
誰も口にはしないものの、その感情が共有された気がした。
「先代陛下の王命、なんて言う経緯があるから、迂闊には側室派閥を処断出来ないんですかね?養子をとったのも、側室派閥を誰の目にも分かる形で一網打尽にしたいから……?」
「さあな……確かジーノは宰相家の養子になった直後、教育の為として一時期、ピアーネ島の奥方の所で教育を受けておった筈だが……さすがにそれ以上は、儂も知らんよ」
現代日本では敬遠される一方、下手をすればアルハラとまで言われる「飲みニケーション」だけど、殊テオドル大公に関しては、それが情報収集の最強の手段になっている事は間違いなかった。
「うーん…じゃあバルトリ、依頼はちょっと変更して、側室派閥を洗い出して、弱点とか、狙いとか調べて貰おうかな。現状放置の理由は、多分大公様の仰られた話で合っている様な気がするし」
「……ちなみに、調べてどうするんです?」
「うーん…あわよくば、王家なり宰相なりに恩を売る?だってその派閥がサレステーデの自治領化に反対しそうとか、ユングベリ商会の商売の邪魔をしそうとかだったら困るじゃない」
ここではさすがに言わないにしても、出来ればミルテ王女を宰相家に降嫁――と言う可能性も、潰しておきたい。
王女様がお花畑の住人だったなら、宰相家のどちらに降嫁しようと、こちらは自由だけれど。
それは双子の方が何となく察してくれたっぽかった。
「ふむ。レイナ嬢の言う事にも一理あるな。フィルバート陛下からの提案を呑んでもらう為の手間は惜しまぬ方が良かろうよ」
こうしてバルトリと私との間の話は、この瞬間にテオドル大公公認の話になった。
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