聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第二部 宰相閣下の謹慎事情

422 お説教の時間です

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「さてお説教の時間ですよ、レイナ嬢」
「う……」

 どうやら、メダルド国王とテオドル大公との話し合いはまだ終わっていなかったらしい。
 とは言え、こちらとの話の擦り合わせは必須だろうと言う事で、ミラン王太子達との話し合いの後、テオドル大公の部屋で待たせて貰う話になった――のだが。

 私は窓際に置かれていたティーテーブルの前の椅子に座らされ、そのテーブルをウルリック副長がトントンと人差し指で叩いていた。

「お、おいケネト。説教って――」

「結果が良ければそれで良い、なんて思われては困りますからね。危機感はキチンと持っておいて貰わないと、本人も我々も、仲良く氷漬けです。たとえもし、自分でも分かっていたとしても、第三者が指摘しなくてはならない時もある。それが今なんです」

 そこまでしなくても…と言いかけていたベルセリウス将軍を、ウルリック副長はピシャリと遮っていた。

『とりあえず、どこで失礼にあたるか分かりませんから、アンジェス語でここからは話をしますが』

 そう言ったウルリック副長は『まずは』と、私が手に握りしめていた、ブローチ入りの封筒を指さした。

『ソレは後でバルトリに預けて下さい。商会案件で見せる必要が生じた際には、バルトリから提示して貰う形にして下さい。決してご自身の身にはつけないで下さい』

『………ハイ』

 ウルリック副長の圧が強すぎて、私はコクコクと頷く事しか出来ない。

 そうか、ベルセリウス将軍はいっつもこんな感じに怒られているんだな――なんて、思考を逃避させていたのも、どうやらバレていたみたいで「レイナ嬢?」と、超絶にこやかに微笑まれてしまった。

『お、おいケネト……そのブローチ、何が問題なんだ?さっきの会話からはさっぱり分からんかったのだが』

 どうやら将軍は、自分が慣れているからか、将軍なりに私の矢面に立とうとしてくれている風にも見える。

 副長はじろりと上司を見たものの、一応、説明を省こうとはしなかった。

『バルトリが護衛から戻って来たら、念の為確認はするつもりでしたが、コレは間違いなく、民族固有のアクセサリー、それも族長、ヨメ、子供と言った直系血族にのみ所有が許されている様な希少品の筈です』

 淡々とした説明に、将軍はあんぐりと口を開けている。

 だろうなー…と思った私は、右頬を人差し指で軽く掻く仕種をしながら、明後日の方向を向く。

『単に信用を得て取引がしやすくなるだけならばともかく、ヘタをすればユレルミ族にす予定があると認識されかねない。あのジーノと言う青年、多分、くらいには思っていた筈ですよ』

『あ⁉』

『婚約者がいる、と言うのは来た時から分かっていた。無理強いすれば国際問題になるだろうとは認識している。ただ、バリエンダールに残らざるを得ない様な状況になってしまえば、もしかしたら可能性はあるかも知れない。軽く策を弄すくらいは――と言ったところじゃないですか』

 ううむ…と、眉間に皺を寄せながらベルセリウス将軍が腕組みをした。

『将軍に期待はしていませんでしたが、レイナ嬢もさすがに王太子殿下があれだけ「本人が望めば」を連呼されれば、自分がになっていた事くらいはお分かりになったでしょう?まさか商会の可能性を買われたとか、子供みたいな予測をされていた訳じゃありませんよね?』

 ……副長、今のはちょっと抉られました。

『えー……触るな危険……くらいには思ってましたよ?でもやっぱり、ほら、商会を認めて欲しいと言う願望もあったワケで……』

 明後日の方向を向いたまま、正直なところを答えてみたところ、それはもう盛大なため息が聞こえてきた。

『ああ言う時は、お館様を思い浮かべて、背筋を寒くしながらのお断り一択でしょうに!あそこで躊躇されなければ、その後の王家の闇の話まで聞かされる事はなかったんですよ⁉』

『……っ』

 副長、どさくさ紛れにディスってませんか。大丈夫ですか。

 とは言え、私からすればぐうの音も出ないワケなんだけど。

『闇……確かに闇でしたね、ハイ……』

 ちょっとサレステーデの自称・王弟を、誰がどう言う意図を持ってバリエンダールから送り返したのか、自治領化にあたっての障害になったりしないか、確かめておこうとしただけだったんだけど。

 エドヴァルドやテオドル大公に報告する必要がある私はともかくとして、本来であればここへ来る事もなかった、ベルセリウス将軍はじめ軍の皆さんまでが、他国の先代国王の死因云々と言った、トップシークレットと言って良い話を聞かされるなどど、ウルリック副長の胃は大丈夫かと、もはや冷や汗ものだ。

『ケネトは王太子殿下とレイナ嬢が何の話をしていたのか、分かったのか?含み置かれている部分が多すぎて、さっぱりだったぞ!』

『あー……もう、冗談抜きで、むしろそのまま知らずにいて下さい。他の連中も、分からなければそのまま、分かっている人間に聞こうとはしないように。もしもの時に殺される人数は一人でも少ない方が良い』

 殺される、などと物騒な事を言われて、将軍を始め何人かが目を見開いていて、残りの何人かが「さもありなん」とばかりに頷いていた。

 おかげで副長どころか私にも、バリエンダールの先代国王陛下の死にまつわる話を、他に誰が理解したか――と言う点で、がついてしまった。

 ベルセリウス将軍の様に、言葉の裏をあまり探らないタイプの人であれば、額面通りに「公式には不慮の事故。実際には愛妾に刺殺された」と、多少は裏を探った事実がある事に満足して、終わる。

 防衛軍に何か絡む様な事態が起きなければ、恐らくはそれ以上を追求する事もない。問題があれば副長の指摘が入る事を本能で理解しているからだ。

 ただ、ウルリック副長の様な参謀型、元特殊部隊出身のトーカレヴァの様に、王宮のドロドロっぷりを肌で知る人間からすると、私とミラン王太子との会話の奥が読めてしまうのだ。

 ミラン王太子がビリエルを焚きつけて、ヘリストとしてサレステーデに送り返す事と引き換えに――先代陛下を暗殺させた、と。

 それも己の父親さえ、預かり知らぬところで。

 あの様子では、フォサーティ宰相は知っていて、手を貸している。警備を緩めるか、見当違いの所に追っ手を向かわせるかはしたのかも知れない…特に示し合わせておらずとも、密やかに。

『テオドル大公殿下も仰っていましたが、勝手な判断でバリエンダールに残る事はしない。それとお館様に話を通さないで北方遊牧民達に会いに行かない、ベルィフの王都商業ギルドを訪問しない。他は勝手に引き寄せてるところもありますから、妥協できなくもありませんが、今言った三点だけは遵守して下さい、いいですね⁉』

『えー……気を付けます』

 敢えて「はい」と言わなかったところで、ウルリック副長のこめかみが盛大に痙攣ひきつった。

 努力目標大事!世の中、不可抗力って言葉もあると思うんです!
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