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第二部 宰相閣下の謹慎事情
451 運び屋の明暗
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「先ほど『家は関係ない』『他意はない』と仰っていらっしゃいましたけど」
屈みこんだ私の前で、ラディズ・ロサーナ公爵令息は身体をビクつかせている。
王女様のお茶会で、礼儀作法をどこかに置き忘れていたグイド・フォサーティ宰相令息もどうかとは思ったけど、こちらもこちらで、王宮や社交界でやっていけるのかと思うほどの気弱っぷりだ。
事情はあるにしても、いっそ足して二で割って欲しいと思う程だ。
とりあえず、病人に聞かせる内容ではないだろうと、私は横になっている女性が視界に入る範囲で、ラディズ青年に場所を少し移動して貰って、本題に入った。
「本当は、関係も他意も大アリだったりしません?」
「……っ」
「ちなみに」
こう言う場合には、怯えている原因を少しでも軽減させるしかない。
某公爵家に何かしら原因があるなら、彼の家の影響力が削がれつつある事を当人に理解して貰わないと、話は進まないだろう。
何せジーノ青年が手こずっていたくらいなのだから。
「問題のお茶は誰も口にしていませんでしたけど、だからと言って王女様に公爵令嬢に他国の王族が参加していたお茶会だったものですから、流石に『何事もなくて良かった』で済まされる筈がなくて……今、王宮総出で背後関係や入手経路の洗い出しをされているようですよ?」
もしかしたら、身の危険はなくなるかも――?
敢えてそんな風に水を向けてみたところ、弾かれた様に青年が顔を上げた。
「オリエッタは無事……」
「はい」
「犯人は……」
「実行犯は捕まってますよ。ただ、誰がそれを手渡したかの証拠がちょっと弱いみたいで」
知らない、私ではない、言いがかりだ――等々、王宮勤めの者何人かを捕らえはしたものの、取調は堂々巡りになっているらしい。
「証拠……」
「何かお持ちだったりします?」
「………」
ラディズ青年はすぐには答えなかったけれど、不安げに辺りを見回したところを見ると、それこそが「ある」と言う答えの様に見えた。
だから「大丈夫ですよ」と、微笑ってあげた。
「今、ここにいるのはユングベリ商会の選りすぐりの護衛だけですから。身元でしたら、ジーノ・フォサーティ卿のお墨付きですよ?あと、オリエッタちゃんとは昨日お友達になりました」
どちらかと言えば、ミルテ王女の方が積極的に話しかけて来てくれていた気はするけど、ロサーナ公爵令嬢母娘共に、邸宅に来て良いと言っていたから、嘘は言っていない筈だ。
ジーノ青年は、この場を任せて行ったくらいだから、名前を借りたところで文句も言えまい。
じっと見ていると、相当な逡巡はあったようだけど、このままでは自分に打つ手がない事も分かっていたんだろう。
やがて「……ここにはない」と、ぼそりと声を洩らした。
「ここにはないんだ。ただ……心当たりなら言えると思う……」
「……なるほど?」
私は微かに眉根を寄せた。
* * *
きっかけは、父親であるロサーナ公爵と領地の視察に行った事だったらしい。
少し息抜きがしたくなって、夜こっそりと街の酒場へと出かけて、意気投合した青年がいたんだそうだ。
「スティーノ、とその時は名乗っていたけど、その彼に頼まれたんだ。珍しい茶葉を手に入れた。王都に住む母に届けたいが、まだ仕事が残っている。良かったら届けて貰えないか…って」
わぁ、と思わず乾いた笑い声で天井を見上げてしまった。
(それ、典型的な「運び屋」の手口……)
普通「運び屋」と聞けば、ギルドで荷物や手紙を預かって、そこに書かれた相手の所までそれを届ける、至極真っ当な職業だ。
だけどこの場合は、海外旅行の注意喚起のホームページなんかによく出てくる、中身を知らずに現地で軽い気持ちで預かって、結果的に帰国後、違法薬物の密輸入容疑で空港で逮捕される――と言う、手口だ。
麻薬が「痺れ茶」になっているだけ。
まさか異世界で実例にお目にかかるとは。
「預かった時に、公爵様には仰らなかったんですね?」
「茶葉を預かって届けるだけだし、いちいち言わなくても良いかと……」
どう考えても、次期公爵としての危機感には欠ける所業だと思うものの、現在進行形でしっぺ返しを喰らっている気もするので、とりあえず話を進めて貰おうかと、私の方からクドクドと注意する事はやめた。
「で、王都に戻って届けに行ったら、どうなったんですか?」
とだけ聞いてみたら、それでも充分に彼にとってはクリティカルヒットだったみたいだけど。
うっ…と、胸元を押さえるのはやめて欲しい。私が虐めていると思われるのは不本意だから。
「その……フォサーティ宰相家の側室夫人がいて……」
「え」
「だから、あの場でジーノ君には言いにくくて……」
ぼそぼそと、話し方が遠回りなところも、さっきまでナザリオギルド長なんかと話をしていた事を思えば、しっかりしてー!と、胸倉を掴んで揺さぶりたくなってしまう。
どうやらここでは、私は忍耐力を試されているらしい。
「側室夫人からは、何を……?」
頑張って根気よく聞いていると、どうやら茶葉が、表沙汰になるとマズイ茶葉だと言う事をその場で聞かされて、ロサーナ公爵家が処罰を受けたくなければ、自分達の派閥に入るようにと強要をされたと言う事らしかった。
それでも、間違った情報を渡したり、わざと夜会でミスをしたりと、協力をしているようでしていないと言う、曖昧な状態をしばらくは精一杯の抵抗として続けていたらしい。
だけどそれにも限界があって、悩んでいた時に、そこで横になっている女性――サラチェーニ嬢と知り合ったと言う事だった。
「彼女はサレステーデ出身の行商人で、色々な土地を巡って商品を売り歩いていると言った。だから僕が次期公爵となる事を弟に譲って、彼女と共にサレステーデに行こうと思ったんだ……!」
何でも彼女も、そろそろ商売に見切りをつけて実家に戻るよう言われていたとからしく、そこで望まない結婚を強要されるくらいなら――と、バリエンダールから出たいラディズ青年との利害の一致で、恋人関係になったとの事だった。
と言っても、最初はお互いの目的があったにせよ、旅を続けているうちに、本当に心が通い合っていたらしい。
サレステーデに行って、女性の父親に結婚したいと告げて、向こうで暮らそうと考えていたそうだ。
「えーっと……ロサーナ公爵様には、何も言わずに家を……?」
念のため聞いてみれば、ラディズ青年はゆっくりと首を横に振った。
「さすがに何度もおかしな行動をしていると、父にバレてね。父は僕を『急な病による領地療養』として、王都から出してくれた。僕と父以外は、それが真実だと思っているよ。多分、父は一人で裏を探ろうと動いているんじゃないかな……」
屈みこんだ私の前で、ラディズ・ロサーナ公爵令息は身体をビクつかせている。
王女様のお茶会で、礼儀作法をどこかに置き忘れていたグイド・フォサーティ宰相令息もどうかとは思ったけど、こちらもこちらで、王宮や社交界でやっていけるのかと思うほどの気弱っぷりだ。
事情はあるにしても、いっそ足して二で割って欲しいと思う程だ。
とりあえず、病人に聞かせる内容ではないだろうと、私は横になっている女性が視界に入る範囲で、ラディズ青年に場所を少し移動して貰って、本題に入った。
「本当は、関係も他意も大アリだったりしません?」
「……っ」
「ちなみに」
こう言う場合には、怯えている原因を少しでも軽減させるしかない。
某公爵家に何かしら原因があるなら、彼の家の影響力が削がれつつある事を当人に理解して貰わないと、話は進まないだろう。
何せジーノ青年が手こずっていたくらいなのだから。
「問題のお茶は誰も口にしていませんでしたけど、だからと言って王女様に公爵令嬢に他国の王族が参加していたお茶会だったものですから、流石に『何事もなくて良かった』で済まされる筈がなくて……今、王宮総出で背後関係や入手経路の洗い出しをされているようですよ?」
もしかしたら、身の危険はなくなるかも――?
敢えてそんな風に水を向けてみたところ、弾かれた様に青年が顔を上げた。
「オリエッタは無事……」
「はい」
「犯人は……」
「実行犯は捕まってますよ。ただ、誰がそれを手渡したかの証拠がちょっと弱いみたいで」
知らない、私ではない、言いがかりだ――等々、王宮勤めの者何人かを捕らえはしたものの、取調は堂々巡りになっているらしい。
「証拠……」
「何かお持ちだったりします?」
「………」
ラディズ青年はすぐには答えなかったけれど、不安げに辺りを見回したところを見ると、それこそが「ある」と言う答えの様に見えた。
だから「大丈夫ですよ」と、微笑ってあげた。
「今、ここにいるのはユングベリ商会の選りすぐりの護衛だけですから。身元でしたら、ジーノ・フォサーティ卿のお墨付きですよ?あと、オリエッタちゃんとは昨日お友達になりました」
どちらかと言えば、ミルテ王女の方が積極的に話しかけて来てくれていた気はするけど、ロサーナ公爵令嬢母娘共に、邸宅に来て良いと言っていたから、嘘は言っていない筈だ。
ジーノ青年は、この場を任せて行ったくらいだから、名前を借りたところで文句も言えまい。
じっと見ていると、相当な逡巡はあったようだけど、このままでは自分に打つ手がない事も分かっていたんだろう。
やがて「……ここにはない」と、ぼそりと声を洩らした。
「ここにはないんだ。ただ……心当たりなら言えると思う……」
「……なるほど?」
私は微かに眉根を寄せた。
* * *
きっかけは、父親であるロサーナ公爵と領地の視察に行った事だったらしい。
少し息抜きがしたくなって、夜こっそりと街の酒場へと出かけて、意気投合した青年がいたんだそうだ。
「スティーノ、とその時は名乗っていたけど、その彼に頼まれたんだ。珍しい茶葉を手に入れた。王都に住む母に届けたいが、まだ仕事が残っている。良かったら届けて貰えないか…って」
わぁ、と思わず乾いた笑い声で天井を見上げてしまった。
(それ、典型的な「運び屋」の手口……)
普通「運び屋」と聞けば、ギルドで荷物や手紙を預かって、そこに書かれた相手の所までそれを届ける、至極真っ当な職業だ。
だけどこの場合は、海外旅行の注意喚起のホームページなんかによく出てくる、中身を知らずに現地で軽い気持ちで預かって、結果的に帰国後、違法薬物の密輸入容疑で空港で逮捕される――と言う、手口だ。
麻薬が「痺れ茶」になっているだけ。
まさか異世界で実例にお目にかかるとは。
「預かった時に、公爵様には仰らなかったんですね?」
「茶葉を預かって届けるだけだし、いちいち言わなくても良いかと……」
どう考えても、次期公爵としての危機感には欠ける所業だと思うものの、現在進行形でしっぺ返しを喰らっている気もするので、とりあえず話を進めて貰おうかと、私の方からクドクドと注意する事はやめた。
「で、王都に戻って届けに行ったら、どうなったんですか?」
とだけ聞いてみたら、それでも充分に彼にとってはクリティカルヒットだったみたいだけど。
うっ…と、胸元を押さえるのはやめて欲しい。私が虐めていると思われるのは不本意だから。
「その……フォサーティ宰相家の側室夫人がいて……」
「え」
「だから、あの場でジーノ君には言いにくくて……」
ぼそぼそと、話し方が遠回りなところも、さっきまでナザリオギルド長なんかと話をしていた事を思えば、しっかりしてー!と、胸倉を掴んで揺さぶりたくなってしまう。
どうやらここでは、私は忍耐力を試されているらしい。
「側室夫人からは、何を……?」
頑張って根気よく聞いていると、どうやら茶葉が、表沙汰になるとマズイ茶葉だと言う事をその場で聞かされて、ロサーナ公爵家が処罰を受けたくなければ、自分達の派閥に入るようにと強要をされたと言う事らしかった。
それでも、間違った情報を渡したり、わざと夜会でミスをしたりと、協力をしているようでしていないと言う、曖昧な状態をしばらくは精一杯の抵抗として続けていたらしい。
だけどそれにも限界があって、悩んでいた時に、そこで横になっている女性――サラチェーニ嬢と知り合ったと言う事だった。
「彼女はサレステーデ出身の行商人で、色々な土地を巡って商品を売り歩いていると言った。だから僕が次期公爵となる事を弟に譲って、彼女と共にサレステーデに行こうと思ったんだ……!」
何でも彼女も、そろそろ商売に見切りをつけて実家に戻るよう言われていたとからしく、そこで望まない結婚を強要されるくらいなら――と、バリエンダールから出たいラディズ青年との利害の一致で、恋人関係になったとの事だった。
と言っても、最初はお互いの目的があったにせよ、旅を続けているうちに、本当に心が通い合っていたらしい。
サレステーデに行って、女性の父親に結婚したいと告げて、向こうで暮らそうと考えていたそうだ。
「えーっと……ロサーナ公爵様には、何も言わずに家を……?」
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