395 / 790
第二部 宰相閣下の謹慎事情
471 追憶と追悼の薔薇(前)
「しかし…そうか、トーレン殿下の……」
「エドヴァルド様?」
「ああ、いや、陛下が……」
聞けば、今回のサレステーデの暴挙にあたって、バリエンダールと足並みを揃える事になった以上は、今までテオドル大公が非公式に墓参をしていた事を、一度は公の事として扱う事で、長く冷えた関係になっていた両王室の関係にケリをつけても良いのでは――となったらしい。
「次の宰相としての立場から言えば、私が行くのが妥当だろうし、まだ表向きの政情が不安定ならば、いざとなれば謹慎中の独断にしてしまえば済む、と」
「……謹慎と言う単語の意味が分からなくなりそうです」
真面目に呟く私に、エドヴァルドが僅かに口の端を上げた。
「ユングベリ商会の販路を伸ばす点でも、貴女と行くのが効率的だとも言っていた」
「所々マトモなんですよね、陛下って……」
ところどころ、のあたりでエドヴァルドが苦笑いしている。
「陛下をそんな風に言えるのは貴女くらいだろうな」
「いえ、きっとボードリエ伯爵令嬢も同意見です」
サイコパス陛下の性質は、少なくとも〝蘇芳戦記〟プレイヤーならば、知っている。
そこまでは言わないにしても、私とシャルリーヌの繋がり方を知るエドヴァルドは「…そうか」と、何となく納得した、と言う風に軽く頷いていた。
「まあいずれにせよ、落ち着いたらその場所に花を手向けに行くよう言われていたんだ。まさか今回、そのすぐ側に移動して来るとは思わなかったから……花の用意がない。さて、どうしたものか……」
「――なるほど、貴方がトーレン殿の後継者でいらっしゃるか」
「「‼︎」」
そこへ不意に割って入って来た声があり、私とエドヴァルドがそれぞれに辺りを見回した。
「いや、すまぬ事をした、イデオン公。まあ、この通り五体満足にはしておるのだ」
気が付くと「なんちゃって釣り竿」を手にしたままの、フェドート元公爵とテオドル大公が、湖のある方角からこちらへと歩いて来るところだった。
「イオタが知らせに来てくれてな。儂とヴァシリーは、釣りは一時中断だ。しかし、これは興味深かった。アンディション侯爵領に戻っても、近くの湖で妻と二人で釣り糸を垂らしてみるのも楽しそうだ」
「うむ。其方達が戻ってからも、一人でも楽しめそうだしな」
思いがけず、釣りはお二方の性には合ったようです。
「……レイナ?」
今度は何だ、と言いたげなエドヴァルドの問いかけに、私は乾いた笑いを返してしまった。
「私がやった前提なんですね」
「まさか、違うと?」
「いえ、違ってないんですけど」
いまひとつ、エドヴァルドの釣り姿は想像出来ないな……と思ったのが表情に出ていたのか、テオドル大公も「うむ。せめてマトヴェイ卿の年齢くらいになって、余裕が出ているかどうかだろうな」と、相槌を打つかの様に頷いていた。
「エドヴァルド様、アレは『釣り竿』と、私の居た国では言うんですけど、個人で魚を獲る為の道具です。ただ、アレを一般流通させると、下手をすると資源が枯渇しかねないので、軍ではいざと言う時の隠し道具、この湖畔では個人の趣味として、広めずにおきたいんです。今は夕食の為に、銛で魚を突くよりは良いかな、と提案したにすぎないので」
海上の漁だって、山での狩猟だって、手当たり次第の収穫はしていない筈。
そう言った私に「…なるほど」と、エドヴァルドの理解も及んだらしかった。
「それで、イデオン公。儂の隣におるこの男が、フェドート公爵家先代当主であり、トーレン殿下の婚約者だった、ジュゼッタ姫の実の兄、ヴァシリー・フェドートだ」
距離がある程度近くなったところでの、テオドル大公の紹介に、フェドート元公爵は綺麗で上品な〝ボウアンドスクレープ〟の礼を見せた。
「いや、先触れもなきところ、こちらこそ謝らなくてはならない。イデオン公爵家当主エドヴァルド・イデオンだ。トーレン殿下亡き後の宰相位を引き継いでいる」
返礼するエドヴァルドの〝ボウアンドスクレープ〟と言うのも、実はちょっと珍しい。
元々、彼は各国の国王以外に下げる頭はない筈だけれど、やはりそこは先代宰相絡みと言う事で、思うところがあったのかも知れなかった。
その珍しい姿に、うっかり見とれてしまっていたのはヒミツだ。
「そうか……」
そんな私の隠れた動揺はさておき「宰相位を引き継いでいる」と聞いたフェドート元公爵は、泣き笑いと表するのが一番近い表情を浮かべていた。
「以前にテオドルがここへ来たのは、トーレン殿が身罷られた事を知らせる為のものだったが……こうして後継を名乗る者が改めて現れたと聞くと、月日の流れと世の儚さを感じるな……」
「ヴァシリー……」
お互いにファーストネームを呼び合う二人に、エドヴァルドが少しだけ眉根を寄せていたけれど、口に出しては何も言わなかった。
「ああ、すまんすまん、テオドル。それでイデオン公爵、我が妹の為に、トーレン殿の遺志を汲んで花を手向けてくれようとしていたと、今耳にしたが」
「申し訳ない。本来であれば、先触れ含め、正式なやり取りをさせて貰った上で、訪ねさせて貰うつもりだった。何分想定外の事であった為に、何も持たず、侵入者の様な振る舞いになってしまった事、平にご容赦願いたい。今回は礼だけでも尽くさせていただいて、また機会を改めさせて貰えないだろうか」
「儂からも頼めるか、ヴァシリー。今回に限っては、儂が約束通りに戻れなかった事もあるからな」
トーレン・アンジェス先代宰相とジュゼッタ姫との間に起きた事は、エドヴァルドやフィルバートの代にあった事じゃないけれど、それでも政治の中枢に身を置く者として、目を背けてはならない事と、エドヴァルドも居丈高に出る事をしなかったし、テオドル大公もそこに口添えをしているのだ。
「―――」
フェドート元公爵は一瞬だけ目を閉じた後、何かを決断したと言った表情のまま、くるりと身を翻した。
「付いて来られるが良い」
エドヴァルドやテオドル大公は確かにそうだろうけど、私はどうしたものかと思ったところ、明らかにそれを見透かしたエドヴァルドに、あっという間に腰に手を回されてしまった。
……あ、はい。
そっとキノコ狩り、あるいは釣りの戦列に復帰するとかはダメなんですね。
「いつもテオドルが来る時も、よほど季節外れでなければ、その花で良いと伝えてあるのですよ」
「うむ。しかし、良いのかヴァシリー?」
後に続くテオドル大公がそう言うからには、敷地のどこかで花を育てていると言う事だろうか。
確かに、ここから街までは近いとは言えないし、いつでも自分でも花を捧げられる様にしているのかも知れない。
「トーレン殿の後継者なのだろう?であれば、構わんよ。代理ではなく自らが来る。今回は不可抗力だったと言い、またの機会にと言う。その気持ちは充分に伝わったとも」
「ヴァシリー……」
やがて元の邸宅が見え、その建物の右手に、背の低い門扉のあるアイアンアーチが見えた。
「鋏は今持って来させる。ここから持って行って貰えれば良い。妹も喜ぶだろうしな」
「……うわぁ」
もちろん、感嘆の声を上げたのは私だ。
エドヴァルドは、軽く目を見開いただけだ。
「バラ……?」
そこには、左右二種類、色の違う薔薇が綺麗に咲き誇っていた――。
「エドヴァルド様?」
「ああ、いや、陛下が……」
聞けば、今回のサレステーデの暴挙にあたって、バリエンダールと足並みを揃える事になった以上は、今までテオドル大公が非公式に墓参をしていた事を、一度は公の事として扱う事で、長く冷えた関係になっていた両王室の関係にケリをつけても良いのでは――となったらしい。
「次の宰相としての立場から言えば、私が行くのが妥当だろうし、まだ表向きの政情が不安定ならば、いざとなれば謹慎中の独断にしてしまえば済む、と」
「……謹慎と言う単語の意味が分からなくなりそうです」
真面目に呟く私に、エドヴァルドが僅かに口の端を上げた。
「ユングベリ商会の販路を伸ばす点でも、貴女と行くのが効率的だとも言っていた」
「所々マトモなんですよね、陛下って……」
ところどころ、のあたりでエドヴァルドが苦笑いしている。
「陛下をそんな風に言えるのは貴女くらいだろうな」
「いえ、きっとボードリエ伯爵令嬢も同意見です」
サイコパス陛下の性質は、少なくとも〝蘇芳戦記〟プレイヤーならば、知っている。
そこまでは言わないにしても、私とシャルリーヌの繋がり方を知るエドヴァルドは「…そうか」と、何となく納得した、と言う風に軽く頷いていた。
「まあいずれにせよ、落ち着いたらその場所に花を手向けに行くよう言われていたんだ。まさか今回、そのすぐ側に移動して来るとは思わなかったから……花の用意がない。さて、どうしたものか……」
「――なるほど、貴方がトーレン殿の後継者でいらっしゃるか」
「「‼︎」」
そこへ不意に割って入って来た声があり、私とエドヴァルドがそれぞれに辺りを見回した。
「いや、すまぬ事をした、イデオン公。まあ、この通り五体満足にはしておるのだ」
気が付くと「なんちゃって釣り竿」を手にしたままの、フェドート元公爵とテオドル大公が、湖のある方角からこちらへと歩いて来るところだった。
「イオタが知らせに来てくれてな。儂とヴァシリーは、釣りは一時中断だ。しかし、これは興味深かった。アンディション侯爵領に戻っても、近くの湖で妻と二人で釣り糸を垂らしてみるのも楽しそうだ」
「うむ。其方達が戻ってからも、一人でも楽しめそうだしな」
思いがけず、釣りはお二方の性には合ったようです。
「……レイナ?」
今度は何だ、と言いたげなエドヴァルドの問いかけに、私は乾いた笑いを返してしまった。
「私がやった前提なんですね」
「まさか、違うと?」
「いえ、違ってないんですけど」
いまひとつ、エドヴァルドの釣り姿は想像出来ないな……と思ったのが表情に出ていたのか、テオドル大公も「うむ。せめてマトヴェイ卿の年齢くらいになって、余裕が出ているかどうかだろうな」と、相槌を打つかの様に頷いていた。
「エドヴァルド様、アレは『釣り竿』と、私の居た国では言うんですけど、個人で魚を獲る為の道具です。ただ、アレを一般流通させると、下手をすると資源が枯渇しかねないので、軍ではいざと言う時の隠し道具、この湖畔では個人の趣味として、広めずにおきたいんです。今は夕食の為に、銛で魚を突くよりは良いかな、と提案したにすぎないので」
海上の漁だって、山での狩猟だって、手当たり次第の収穫はしていない筈。
そう言った私に「…なるほど」と、エドヴァルドの理解も及んだらしかった。
「それで、イデオン公。儂の隣におるこの男が、フェドート公爵家先代当主であり、トーレン殿下の婚約者だった、ジュゼッタ姫の実の兄、ヴァシリー・フェドートだ」
距離がある程度近くなったところでの、テオドル大公の紹介に、フェドート元公爵は綺麗で上品な〝ボウアンドスクレープ〟の礼を見せた。
「いや、先触れもなきところ、こちらこそ謝らなくてはならない。イデオン公爵家当主エドヴァルド・イデオンだ。トーレン殿下亡き後の宰相位を引き継いでいる」
返礼するエドヴァルドの〝ボウアンドスクレープ〟と言うのも、実はちょっと珍しい。
元々、彼は各国の国王以外に下げる頭はない筈だけれど、やはりそこは先代宰相絡みと言う事で、思うところがあったのかも知れなかった。
その珍しい姿に、うっかり見とれてしまっていたのはヒミツだ。
「そうか……」
そんな私の隠れた動揺はさておき「宰相位を引き継いでいる」と聞いたフェドート元公爵は、泣き笑いと表するのが一番近い表情を浮かべていた。
「以前にテオドルがここへ来たのは、トーレン殿が身罷られた事を知らせる為のものだったが……こうして後継を名乗る者が改めて現れたと聞くと、月日の流れと世の儚さを感じるな……」
「ヴァシリー……」
お互いにファーストネームを呼び合う二人に、エドヴァルドが少しだけ眉根を寄せていたけれど、口に出しては何も言わなかった。
「ああ、すまんすまん、テオドル。それでイデオン公爵、我が妹の為に、トーレン殿の遺志を汲んで花を手向けてくれようとしていたと、今耳にしたが」
「申し訳ない。本来であれば、先触れ含め、正式なやり取りをさせて貰った上で、訪ねさせて貰うつもりだった。何分想定外の事であった為に、何も持たず、侵入者の様な振る舞いになってしまった事、平にご容赦願いたい。今回は礼だけでも尽くさせていただいて、また機会を改めさせて貰えないだろうか」
「儂からも頼めるか、ヴァシリー。今回に限っては、儂が約束通りに戻れなかった事もあるからな」
トーレン・アンジェス先代宰相とジュゼッタ姫との間に起きた事は、エドヴァルドやフィルバートの代にあった事じゃないけれど、それでも政治の中枢に身を置く者として、目を背けてはならない事と、エドヴァルドも居丈高に出る事をしなかったし、テオドル大公もそこに口添えをしているのだ。
「―――」
フェドート元公爵は一瞬だけ目を閉じた後、何かを決断したと言った表情のまま、くるりと身を翻した。
「付いて来られるが良い」
エドヴァルドやテオドル大公は確かにそうだろうけど、私はどうしたものかと思ったところ、明らかにそれを見透かしたエドヴァルドに、あっという間に腰に手を回されてしまった。
……あ、はい。
そっとキノコ狩り、あるいは釣りの戦列に復帰するとかはダメなんですね。
「いつもテオドルが来る時も、よほど季節外れでなければ、その花で良いと伝えてあるのですよ」
「うむ。しかし、良いのかヴァシリー?」
後に続くテオドル大公がそう言うからには、敷地のどこかで花を育てていると言う事だろうか。
確かに、ここから街までは近いとは言えないし、いつでも自分でも花を捧げられる様にしているのかも知れない。
「トーレン殿の後継者なのだろう?であれば、構わんよ。代理ではなく自らが来る。今回は不可抗力だったと言い、またの機会にと言う。その気持ちは充分に伝わったとも」
「ヴァシリー……」
やがて元の邸宅が見え、その建物の右手に、背の低い門扉のあるアイアンアーチが見えた。
「鋏は今持って来させる。ここから持って行って貰えれば良い。妹も喜ぶだろうしな」
「……うわぁ」
もちろん、感嘆の声を上げたのは私だ。
エドヴァルドは、軽く目を見開いただけだ。
「バラ……?」
そこには、左右二種類、色の違う薔薇が綺麗に咲き誇っていた――。
あなたにおすすめの小説
夫の不倫相手に「妻の座を譲れ」と言われたので、譲る代わりに全部置いていきます 〜行き先は老舗旅館。追いかけてきても、もう遅いです〜
なつめ
恋愛
夫の愛人に「妻の座を譲れ」と言い渡された主人公は、怒鳴り返すこともしがみつくこともせず、ただ静かに頷いた。
家のこと、食事のこと、社交のこと、義実家のこと、会社の裏方のこと。 誰も価値を知らなかった“妻の座”の中身を、そっくりそのまま置いて家を出る。
向かった先は、かつて傷ついた自分を受け入れてくれた老舗旅館。 再建に奔走する若旦那とともに働く中で、主人公は初めて「役に立つから愛される」のではなく、「あなた自身がいてほしい」と言われる温かさを知っていく。
一方、主人公を軽んじた元夫の家では、生活も体裁も仕事もじわじわと崩壊を始める。 これは、何も持たずに出ていったはずの女が、自分の人生を取り戻し、最後には新しい恋と居場所を手に入れる再生の物語。
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた
歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。
「静かで、退屈な婚約者だった」と切り捨てられたので、最後くらい全部言って去ることにしました
桃我タロー
恋愛
「静かで、退屈な婚約者だった」
婚約破棄のその日、王太子は広間でそう言い捨てた。
三年間、失言を隠し、場を整え、黙って支えてきたのに。
どうやら私に必要だったのは婚約者ではなく、“便利な人”という役割だけだったらしい。
しかも隣には、つい三日前まで殿下の従兄に求婚していた令嬢まで立っていて――。
ならばもう、黙っている理由はない。
これは、最後まで笑って終わるつもりだった令嬢が、自分の声を取り戻す話。
王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました
明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。
十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。
一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。
「仕方ない」には疲れました ~三年続いた白い結婚を終わらせたら、辺境公爵の溺愛が待っていました~
ゆぷしろん
恋愛
「仕方ない」と白い結婚に耐え続けていた伯爵夫人エリス。
彼女の誕生日、夫は幼なじみのセシリアを屋敷に連れ帰り、エリスが大切にしてきた猫を彼女に見せろと言う。冷めた晩餐の前で心が折れたエリスは、ついに離縁を宣言し実家へ戻った。
彼女の薬草知識と領地経営の才は、北方を守る公爵ディートリヒが目を留める。流行り病に苦しむ公爵領を救うため奮闘するエリスは、初めて努力を認められ、大切に扱われる喜びを知っていく。一方で彼女を失った元夫の伯爵家は傾き、身勝手な幼なじみの嘘も暴かれて――。
我慢をやめた傷心令嬢が、辺境公爵に溺愛され、自分らしい幸せを選び直す逆転愛されファンタジー。
『妹が「お姉様の仕事くらい私にもできます」と言うので、婚約者も王妃教育も譲りました。ですが三日で王宮が止まりました』
常陸之介寛浩📚️書籍・本能寺から始める
恋愛
公爵令嬢クラリスは、十年ものあいだ王太子妃になるための教育を受けてきた。
けれど実際に彼女がしていたのは、教育などという可愛らしいものではなかった。
王妃主催の茶会。
隣国大使への根回し。
慈善事業の予算配分。
貴族夫人たちの席次調整。
王太子の失言の後始末。
病がちな王妃に代わる王妃執務院の実務。
すべてを、正式な役職も報酬もないまま、クラリスは黙って支えていた。
そんなある日、妹ミレーヌが笑顔で言う。
「お姉様の仕事くらい、私にもできますわ」
王太子ジュリアスはその言葉を信じ、クラリスとの婚約を解消。
妹ミレーヌを新たな婚約者に選んだ。
クラリスは泣かなかった。
怒りもしなかった。
ただ、王宮の机に置いていた自分の資料をすべて片付け、静かに一礼した。
「では、明日からお願いいたします」
翌日、王宮の朝会が止まった。
二日目、隣国大使が怒った。
三日目、王太子は青ざめた。
そして四日目。
クラリスのもとへ、王弟レオンハルトが訪れる。
「君を連れ戻しに来た。ただし、誰かの婚約者としてではない。この国に必要な人材としてだ」
奪われたのは、婚約者ではなかった。
無償で押しつけられていた責任だった。
これは、王宮を支えていた有能令嬢が、自分の価値を正しく取り戻す物語。
婚約破棄から始まる、実務系令嬢の王宮逆転劇。