聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第二部 宰相閣下の謹慎事情

504 気弱な長男の決意(中)

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「シレアンさん、イユノヴァさんのお店の製品って、何かお持ちですか?」

 今回、出発前にナザリオギルド長が王宮にまで持ち込んで来た見本は、人形を始め「あくまでこれから商業ベースに乗せる予定のモノ」だった。

 店を共有しようと言う話の途中で、立ち退きを迫られていたイユノヴァさんのお店の製品に関しては、私はノータッチだったからだ。

 ラディズ青年にイユノヴァさんのフリをさせようと言うのであれば「自分が作った製品」として見せるくらいの小細工は、あった方が良い筈。

「……あぁ……」

 問われたシレアンさんは、何だか困った様に天井を仰いでいた。

「シレアンさん?」
「つくづく、あの人の先見性には脱帽する……」
「……それって」
「お察しの通り、ギルド長から持たされている」

 あの掴みどころのない笑顔でニコニコと笑いながら「各部族とも、家族意識が強いんだろう?いざと言う時に、こちら側の人質にだって出来るってコトだからねー」などと、言い放っていたらしい。

 なるほど、ナザリオギルド長としては、某公爵家や〝ソラータ〟に関しては、王都で物理的に司直の手を入れさせれば、それで店は保護される。更にイユノヴァさん本人に関しては、イラクシ族の「彼の帰郷を望まない側」を牽制して、イユノヴァさんを王都に留め置こうと画策しているんだろう。

 彼の作った銀細工が手元にあれば、彼の命運はギルドが担っていると圧力がかけられる。

 何せ、イラクシ族の紋様をモチーフにした商品を売りに出しているのだから、部族の関係者でないなどとは、相手側は主張出来なくなる。

 店と人、両方を保護するために保険をかけたと言う事になる。

 と言うか、まさにいま「イラクシ族関係者を牽制しようと言う状況」だ。

「それって、もう、シレアンさんに矢面に立てって言ってる様なものですよね。もしかして、ギルドの研修とか評価的な何かも兼ねてたりしません?」

 ナザリオギルド長は、かねてからこのシレアンさんを次期ギルド長に推しているようだから、機会があれば実績を積ませようと動いてくる可能性は多分にある。

 シレアンさんは、返事の代わりに片手で額を覆ったので、あながち間違いじゃないんだろう。

 さすが史上最年少ギルド長は、やることが阿漕アコギだ。容赦ない。

「…………レイナ」

 どうやら、私とシレアンさんがひそひそ、ぽんぽんと話を進めていることが、宰相閣下の逆り――ゴホン、に触れたらしい。

「ひゃいっ」

 答えた私は、思い切り噛んでいたけど、慌てて釈…説明を試みた。

「ええっとですね、エドヴァルド様、その、こちらのシレアン部門長がですね、このあとの場を仕切って下さるそうです」

 何?と声を発したのはエドヴァルドだけれど、これにはジーノ青年やサラさんたちも反応して、ピクリと身体を震わせていた。

「ロサーナ公爵令息は各部族の言語は、あまり得意ではないとの事ですし、ユングベリ商会との取引を王都商業ギルドが仲介するとして、イユノヴァさんにはこの村に戻って貰って、王都と北部地域との雪解けをアピールする広告塔になって貰う――的な脚本シナリオを押し通して下さるみたいです」

 そこまで言っていない、とシレアンさんの口がパクパクと開いていたけど、私は無視スルー

 宰相閣下に納得して貰う方が大事です、ええ、それはもう!

「何故、ギルドがそんなことを?」

「バリエンダールの王都商業ギルドは、他国に比べてかなり特殊みたいで……えっと、その話は今じゃなくて、あとでゆっくりお話し出来ればと思うんですけど」

 ナザリオギルド長の着任事情は、一度説明している。
 そこから先、今に至るまでの状況を一から説明している時間は、今はない。

 エドヴァルドも、それは認めているのか、微かに眉根を寄せていた。

「ギルド長が、イユノヴァ・シルバーギャラリーを広告塔にしての、バリエンダールにおける王宮と北部地域との雪解けをアピールしようと考えているのは、間違いないんですよ。ギルド長にはギルド長の思惑があって、そこは確認済みなので」

 ナザリオギルド長の最終的な目標は、故郷であるベルィフに戻ることだ。
 そのために、後顧の憂いをなくして、この地を離れたいと思っていて、その話はどこにも隠してはいない。

 ただ、彼の能力が圧倒的過ぎて、後継と言われたところで、シレアンさんも今のところは委縮が先に立っているのだ。

「だから、店にギルドが目をかけている事は、事実として告げて貰って大丈夫なんですよ。お店の商品だって持たされているみたいですからね。ロサーナ公爵令息は、銀細工が作れて、サラさんと一緒にいられれば生活はどこでだって出来る――例えばそんな一言だけ、相手に匂わせて貰えば、あとはシレアンさんが何とかしてくれます」

「……僕はその一言だけ、イラクシ族の言葉を覚えれば良いと?」

 苦い表情のシレアンさんの近くで、サラさんと顔を見合わせたラディズ青年は、そんな風にこちらへと問いかけてきた。

「まあ、実際のセリフはちゃんと練り上げます。何というか……演技、下手そうなんで。一応、仮として、そんな感じです。それくらいでしたら、何とかなりそうですか?」

 演技が下手、と言われてちょっと肩を落としているラディズ青年をサラさんが苦笑交じりにぽんぽんと背中を叩いていた。

 どうやら、いくらサラさんと言えどなかなかフォローが出来なかったみたいだ。

「……僕とサラとが、この先もずっと一緒にいるために必要だと言うなら、僕は何だって受け入れるよ。うまい下手じゃなく、個性と思って貰えば済む話だ」

 おお、ラディズ青年、初対面の時に比べたら、ヘタレはまだ残ってますけど、ちょっとしっかりしてきたかな?

 うんうん、と頷く私の上に、何故か突然エドヴァルドの手がポンと置かれた。

「エドヴァルド様……?」

「貴女の言いたいことは分かった。まったく……戻ったら話して貰わねばならない事が、朝までかかっても足りない程に積み重なっていはいないか?」

「……え」

 朝って……。
 何か今、聞き返すのも怖い単語が耳に届いた気はしたけれど、私も今は、もっと現実的な話を優先させなくちゃいけないと、思い返して首を横に振った。
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