聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第三部 宰相閣下の婚約者

558 海鮮BBQ・女子会トーク編

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『ちょっと待って、確かに私は〝蘇芳戦記〟のアンジェスルートはバッドエンドにしかならなかったけど……宰相ルートのエンディングって、そんな延々と抱き潰されるようなR18仕様だったっけ?初耳なんだけど』

『……シャーリー……何気にエグるのやめてくれない……ってか、伯爵令嬢が何てこと言ってるのよ……』

 どうやら周囲に聞かれた時のことを考えて、日本語に切り替えたらしいシャルリーヌにもたれかかるようにして歩きながら、私は「う……」と胸を押さえた。

 R18。そんなワケない。アレはちょっと攻略に難があるだけの普通のゲームだった。

 ゲームでハピエンだったエドヴァルドルートは「私と共にアンジェスの発展のために歩いて行こう」と手をとって求婚されるエンディングだったのだ。

 そもそもが、のことなんてシナリオになかった。

『確かに実生活ならハピエンだってその先はあるわよね。結婚式がゴールじゃない、なんて私たちのいた世界でも言われてたくらいだし。まあでも、私はもうちょっと穏便な相手を見つけたいわ』

 あはは、とシャルリーヌは私を見ながら「ご愁傷様」とでも言わんばかりに笑っていた。

 ギーレンに戻るのだけは御免被る、と言い切っているシャルリーヌは、アンジェスの聖女になる予定である点と、ギーレンで婚約破棄騒動があったと言う点とがあって、伯爵令嬢と言うそれなりの身分はあるものの、なかなか縁談が持ち上がらずにいる。

 今、発言権を失っているクヴィスト家以外の公爵たちの間では、このシャルリーヌとフィルバートとを縁づかせられないかと言う話が密かに出ている――と言うのは、私も随分と後になってからエドヴァルドに聞いたくらいで、この時点では「誰か紹介してー」と、合コンを持ちかけるかの如く愚痴るシャルリーヌに「うーん……」と、私も首を捻っているのが実情だった。

 ゲームをプレイした私としては、本人が惚れない限りは、まかり間違ってもサイコパス陛下サマとくっつけようなどとは思わない。

 そうでなくとも〝聖女〟と言う立場になれば、何に巻き込まれないとも限らないのだから、今はじっくり情報を集めておけば良いんじゃないかと思っていた。

 エドベリ王子のために令嬢情報を集めるシーグやリックと、心境は似たようなものなのかも知れない。

 シャルリーヌ本人が「キミに決めた!」ならぬ「フィルバートに決めた!」とでも言わない限りは、基本的には静観の構えでいる。

 そんな、それこそ夜に女子会で語るようなことを話しながら、スローペースで廊下を歩き、私とシャルリーヌは皆から遅れるように、中庭へと出た。

 たどり着いた中庭で、右手を額にあてて遠くを見渡す姿勢で、アンジェス語に戻したシャルリーヌが独り言ちた。

「あー……なるほど、家庭用の丸形BBQバーベキューコンロをいっぱい並べてる感じかぁ……いや、たこつぼ……?」

「たこつぼ……せめてタンドール窯にしない?まぁとにかく、各コンロ?で違うモノを焼いて、それぞれに好きな具材を取って回れば良いかと思ったのよ」

 ラズディル料理長と事前に打ち合わせをしている途中で気が付いたのだけれど、厨房で肉や野菜などを焼いて、焼きあがった物をテーブルに持って行って取り分けるのがガーデンパーティーの原則で、屋外で焼きながら食べると言う食べ方が、どうやらなかったみたいだった。

 バリエンダールの北方遊牧民族の間では、放牧の合間に焚き火を利用して焼いて食べたりしていたけれど、街に出てしまうと、その食べ方をしようにも場所がなく、徐々に屋内での調理へと変質をしていっている。

「出来ればもっと横長のBBQコンロを、職人ギルドに行って作って貰おうかと思ったりもするんだけどね?果たして一般的な需要はあるのか、と」

 座して食べるのが基本の貴族の食事スタイルでは、なかなかすぐには浸透しないのではないだろうか。
 デモンストレーションとしてのパーティーを複数回開いて、どうなるかと言う感じだ。

「うーん……逆に、商人とか富裕層、中間層の市民とかだったら、家族で楽しめる!ってならないかな……?ほら、街の屋台って、近いスタイルなワケじゃない」

 私の言葉に、シャルリーヌがそう言って首を傾げる。

 街に出ている屋台は、確かに今ここに並んでいる丸形コンロスタイルによく似ている。

「そっか。じゃあ、まあそのうち、ラヴォリ商会にでも相談してみようかな?需要の有無くらいは判断してくれるだろうし。ダメならダメで、特注で公爵邸ここ用に依頼すればいい話だし」

 ギーレン出身のシャルリーヌでも、しばらくアンジェスで生活をすれば、ラヴォリ商会が国内最大規模を誇る商会であることは理解している。
 商会のこと自体をくどく聞いてくることはしなかった。

「あ、それはもう決定事項なのね」

「うん。だってせっかくバリエンダールで天幕テント買って来たんだもの。キャンプしたいし、キャンプと言えばBBQだし」

「…………ハイ? テント? 買った?」

 ただ、途中まで頷きながら話を聞いていた筈のシャルリーヌが、私の「テント」「キャンプ」と言った言葉に、不意に声を裏返らせた。

「そう。公爵邸の敷地内でなら、キャンプして良いって許可も貰ったし。あ、シャーリーはキャンプは興味ある?こればっかりは、ハラスメントになりかねないから、無理に誘わない。興味があるなら、いずれ一緒にキャンプしよ」

「……公爵邸の敷地内でキャンプ……いやでも、この敷地面積ならキャンプでいいのか……」

 思わず、と言うかほぼ無意識に辺りを見回しながら、シャルリーヌがそんな呟きを洩らしている。

「うん、まあ、レイナとならキャンプもいいかな?昔家族で行ったときには、父親がビール飲んで寝っころがるだけで何にもしないから、母親がキレて『二度と行かない!』なんて揉めてたのよね。今となっては懐かしい話だけどね」

「……それ、私も電車の中で見知らぬ彼氏彼女が揉めてたの聞いたコトあるわ……」

「あはは。キャンプとかBBQとか、アウトドアあるあるなのかもね。まあでも、レイナとこっちの世界で初のキャンプ体験とか楽しそうだから、宰相閣下の許可が下りるなら誘ってよ。ぶっちゃけ、そこの許可が最難関でしょ」

 相手が私にしても、許可しないように見えると笑うシャルリーヌに、私は反論の言葉が思い浮かばなかった。

「――レイナ様」

 そこへ、邸宅やしきの中から家令補佐ユーハンが姿を見せた。

「お待ちかねのものが届きましたけど、いかがなさいますか?直接もう、こちらへ運ばせますか?」

「えっ、届いたの?それ〝ジェイ〟ほたてで合ってる?」

 すぐさま喰いついた私に、ユーハンは苦笑しながらも首を縦に振った。

「じゃあ、もう、こっちに運んで貰って?いつでも火にくべられる状態にしておこう!」

 かしこまりました、と一礼して身を翻すユーハンに、こちらの期待は一段と高まったのだった。
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