聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第三部 宰相閣下の婚約者

559 海鮮BBQ・堪能編(中)

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 エドヴァルドたちもじきに来るとマトヴェイ部長から聞いたので、とりあえず殻付きホタテ貝やムール貝、マテ貝なんかを火にくべ始めることにした。

 オムレツやピカタ、アクアパッツァなどはある程度厨房の方で作っておいて、ここでは温めなおす程度として並べていく。

 クレープもテーブルの端に大量に積み上げておき、とりあえず私が実地で、薄い一枚を剥がして、そこに野菜とピカタを乗せてくるりと巻くことを説明した。

「なるほど、薄いサンドイッチ……亜種のようなものですか。何を挟んでも良い、と」

 出来上がりをみたセルヴァンが、ちょっと感心しながら私の手元を眺めている。

「そうそう。生クリームとフルーツの方がむしろ主流かも知れない。だけど今回、ここに主食らしい主食がなかったから、コレもありかと思って」

 エドヴァルドたちには、自分で巻けと言うわけにもいかないだろうから、具材だけ目で見て貰えば良いかと思っている。

 ピカタが嫌なら、鮭のタタキやゆで卵を作って挟んでも良いだろうし。
 デザート用の方は、いくつかフルーツを並べて、あとで選んでもらおう。

「本日はレイナ様もこちらにおかけ下さい。私どもで旦那様同様に取り分けさせていただきますので」

 そう言ったセルヴァンは、当初はエドヴァルドとテオドル大公、コンティオラ公爵の三人用のテーブルと椅子を用意する予定だったものを、急遽一回り大きなテーブルを持ち出して来て、私とシャルリーヌの座席も急遽セッティングしていた。

 本来であれば、自分で取りに行って皆とワイワイ喋りながら食べるつもりだったところが、歩き方がおかしいことを衆目にさらす羽目になるとやんわりと言われ、撃沈したのだ。

 マトヴェイ部長に関しても、同じテーブルで席を用意しようとしていたみたいだったけど、こちらはこちらで、ベルセリウス将軍やウルリック副長たち、イデオン公爵領防衛軍の皆さま方が、あまりバリエンダールで交流を深められなかった分、今日こそは色々と「英雄」の話が聞きたいと、別テーブルのセッティングをセルヴァンに詰め寄り、結果、着席テーブルが二つセットされることとなっていた。

「――おお、賑やかだな」

 落ち着いた声に振り返ると、入口の方からテオドル大公が片手を上げていて、その後ろにエドヴァルドとコンティオラ公爵が続く形で、中へと歩いて来ていた。

「大公様」

 いち早く反応したシャルリーヌが「伯爵令嬢」の仮面を被って、ギーレン仕込みの〝カーテシー〟を披露する。
 私は――色々な意味で、ちょっと出遅れた。

 頭を下げようとしたところ「い、い」と、先にテオドル大公に止められてしまう。

「其方達二人は、知らぬ仲でもないからな。要らぬ気遣いは不要だ。それにレイナ嬢は、バリエンダールでの強行軍がたたって、昨日はとも聞く。楽にしてくれて構わん」

「「「…………」」」

 テオドル大公の表情を見るに、どうやら純粋にこちらを心配してくれている。

 とすると、間違っているようで合っているその話を吹き込んだのは誰だ、と言う話になる。

 皆が恐る恐るエドヴァルドを見ていたけれど、肝心の当人は誰とも視線を合わさずに、何事もなかったかの様な表情で、大公サマの後ろを歩いていた。

(……エドヴァルド様……)

 それでも、私を含め幾人かは、その無表情の向こうの偽りをしっかりと悟っていた。

「あ……りがとうございます、大公殿下。氷漬けの魚や貝がそろそろ限界かと思い、今日の昼食会となりました。座っていれば問題ありませんので、一部作法に反する部分はどうかご容赦いただきたく思います」

 テオドル大公に、そう説明をした私の表情は、十中八九痙攣ひきつっていたことだろう。

「うむ。其方も気にはせんであろう?コンティオラ公」

 気配り上手なテオドル大公は、コンティオラ公爵にも「無礼講」とでも言いたげな、柔らかな圧をかけていた。

 アンディション侯爵と名乗っていた頃は、好々爺的な印象も濃かっただけに、改めて、王族の血を持つ人なのだなと実感させられた。

 コンティオラ公爵としても、黙って頷く以外に取れる態度はなかっただろう。
 大公殿下の言う通りだ、と相変わらずの声量のない声で、そう答えていた。

「ボードリエ伯爵令嬢も、ここでは過剰な挨拶は不要だ。王宮の外で言葉を交わすのは初めてかも知れぬな。ケイス・コンティオラ――コンティオラ公爵家当主だ」

 テオドル大公に続いてしようとしていた〝カーテシー〟を、手で押しとどめるようにしながら、コンティオラ公爵は先にこちらへと話しかけてきた。

 ……後でシャルリーヌに聞いたところによると、一割の聞き取りを九割の想像で補っていた、と言うことらしいけど、この時はニッコリ笑って見事な外交用の仮面を顔に貼り付けていた。

「ボードリエ伯爵が娘シャルリーヌにございます。以後お見知りおき下さいませ」
「ああ」

 そしてここは私も、ホタテのお礼をしなくちゃ!と、お腹に気合を入れて言葉を発する。

「コンティオラ公爵閣下、先ほどマトヴェイ外交部長より、予想以上の〝ジェイ〟ほたてをいただきました。ありがとうございます。本日は色々な調理法を試させて頂きましたので、参考になれば幸いにございます」

「ああ……参加料には足りただろうか」

「小娘が生意気を申し上げました。閣下の寛大なお心に感謝いたします」

「王都は内地だ。なかなか味も名前も浸透しづらいところはあるのだが、確かに今日は、少しでも裾野が広がればと、期待して来た面があるのは否定をしない」

 そう言いながら、コンティオラ公爵は視界の端にホタテの貝殻を収めている。

「アレは……そのまま、火にくべるのか?」

「はい」

 私も軽い相槌を打ちながら、ホタテの説明から始めることにした。
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