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第三部 宰相閣下の婚約者
585 成立しない五公爵会議
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今日エドヴァルドが王宮に行くのは、一昨日推敲して送り付けた、サレステーデのバレス宰相に対する「召喚状」の返信が届く筈だから――と言うことだった。
「三日以内に来いと書いて、使者が手渡した時点での回答は保留。昨日一日、対応方を考えたうえで、さすがに三日以内に来ないにしても、返事は今日が妥当なところだろうからな」
家令補佐の青年が珈琲をテーブルに置いて行くのを横目に、エドヴァルドは淡々とそう告げた。
「届いたところで、それを五公爵会議に諮って、陛下の裁可を経てバリエンダールにも知らせる必要がある。その時点で、宰相がいないなどと言うこともあり得ない」
確かに。
そのうえ、その返信を吟味したうえで、アンジェスの優位性が覆らないよう三国会談の進め方やバリエンダール、サレステーデに対してそれぞれ提示する条件もまとめあげなくてはならない筈。
「……もしかして、三国会談まで王宮に泊まり込み――とかですか?」
何気なく聞いた私の言葉に、エドヴァルドのこめかみが明らかに痙攣った。
「……夕食と朝食は今まで通りにする」
それは遠回しの肯定とも言えた。
「あなた……」
私とエドヴァルドの様子から、同じことが自分の夫にも言えるのではと察したエリィお義母様が、じっと夫の横顔を見つめた。
「まあ、少なくとも私とエドヴァルドとコンティオラ公爵は、そう言うことになるだろうね」
イルお義父様は、ちょっとバツが悪そうに軽く肩を竦めていた。
「クヴィスト公爵家は表向きは喪に服しつつ、実質は謹慎相当で公務に口出しを禁じられている状態。スヴェンテ老公爵は、もとより次の代までの繋ぎであって、五公爵会議以外の場での発言権はお持ちではない。五公爵会議が定められてよりこちら、今までにない事態と言って良い。残る人間にしわ寄せがいくのも当然だ」
エドヴァルドの「謹慎」まで考慮していられない――。
イルお義父様の声は、存外切実だった。
「言い方が悪いのは自覚しているが、当主本人が裁かれたクヴィスト家やスヴェンテ家に比べれば、イデオン公爵家は地方のいち子爵家の犯罪。しでかした場所が王都でさえなければ、地方法院でカタがついていた程度のもの。エドヴァルドには、働いて貰わないと困るんだよ」
「――――」
唇を噛んで、あらぬ方角を向きながらもエドヴァルドが何も言わないところからすると、そこは本人も心のどこかで分かっていることなんだろう。
「出来ればベルセリウス侯爵と同様に、しばしの給与返上で折れて欲しいところなんだけどね」
「断る」
一言の下に切り捨てているエドヴァルドに、お義父様も苦笑したままだ。
「おかしいだろう。何故、表向き反省と口にする側が上から目線なんだ。ここはしおらしく肯定をするところだろうに」
「そんな言い方をするのは、らしくないな。どうせ陛下の差し金だろう」
「……否定はしない。自分には休みがないのにと、時折零していらっしゃるからね」
「え?そうなんですか?」
イルお義父様の言葉に思わず不審げな声をあげたところで、バッチリ目が合ってしまった。
知らなかった。
フィルバート陛下もエドヴァルド的社畜思考の人なのか。
「レイナ、惑わされるな」
その直後、私の頭の上にあった手に、少し力が入った気がした。
「陛下とて公休の日はある。ただ、その日はほぼ洩れなく管理部の魔道具開発を見るか試すかされている。あとは剣の練習か?いずれにせよ、自分の意思で休んでいないんだ。いらぬ気遣いだ」
フィルバートがもし王位につかず「アンディション侯爵」として臣籍降下する未来があったのだとしたら、本当は魔道具の研究者あるいは開発者になりたかったのかも知れないと、ふと思った。
「いずれにせよ、人手があってないようなものだ。皆が帰宅しづらい事態になるのは目に見えている」
思考に沈む私に、エドヴァルドのため息が落ちた。
「昼はサンドイッチを持参するにしても、せめて朝と夜は食卓を共にしたい。フォルシアン公もそれは心から賛同をしてくれた。三国会談のカタが付くまでは……恐らく、そういった日が続くと思う」
「……分かりました。寂しいですけど、仕方ないですね」
「……っ」
私は意図してそれを言ったワケではなかったのだけど、どうやらどこかがエドヴァルドの鳩尾にクリーンヒットしたらしい。
頭を撫でていた筈の手が肩に回って、いつのまにか椅子ごと抱き寄せられていた。
「寂しい、か……戻ってきたら、我が邸宅とフォルシアン邸とボードリエ邸の滞在割合を相談しようか。私も、あまり貴女のいない夜を耐え抜く自信はないんだ」
「⁉」
それは耳元で囁かれたので、どこまでフォルシアン公爵夫妻に聞こえたかは分からない。
多分、耳まで赤くなった私に、ナニカを察してくれているっぽかったけど、表立っては何も言わなかった。
オシドリ夫婦と名高い夫妻には、それさえもきっとお見通しなんだろう。
「レイナ。一応ファルコとルヴェックを連れて来てある。出かけるのであれば、彼らの共は必須としてくれ」
「あ、はい、分かりました」
よかった。
とりあえずは、出かけるなとまでは言われずに済みそうだ。
************************
聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?
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「届いたところで、それを五公爵会議に諮って、陛下の裁可を経てバリエンダールにも知らせる必要がある。その時点で、宰相がいないなどと言うこともあり得ない」
確かに。
そのうえ、その返信を吟味したうえで、アンジェスの優位性が覆らないよう三国会談の進め方やバリエンダール、サレステーデに対してそれぞれ提示する条件もまとめあげなくてはならない筈。
「……もしかして、三国会談まで王宮に泊まり込み――とかですか?」
何気なく聞いた私の言葉に、エドヴァルドのこめかみが明らかに痙攣った。
「……夕食と朝食は今まで通りにする」
それは遠回しの肯定とも言えた。
「あなた……」
私とエドヴァルドの様子から、同じことが自分の夫にも言えるのではと察したエリィお義母様が、じっと夫の横顔を見つめた。
「まあ、少なくとも私とエドヴァルドとコンティオラ公爵は、そう言うことになるだろうね」
イルお義父様は、ちょっとバツが悪そうに軽く肩を竦めていた。
「クヴィスト公爵家は表向きは喪に服しつつ、実質は謹慎相当で公務に口出しを禁じられている状態。スヴェンテ老公爵は、もとより次の代までの繋ぎであって、五公爵会議以外の場での発言権はお持ちではない。五公爵会議が定められてよりこちら、今までにない事態と言って良い。残る人間にしわ寄せがいくのも当然だ」
エドヴァルドの「謹慎」まで考慮していられない――。
イルお義父様の声は、存外切実だった。
「言い方が悪いのは自覚しているが、当主本人が裁かれたクヴィスト家やスヴェンテ家に比べれば、イデオン公爵家は地方のいち子爵家の犯罪。しでかした場所が王都でさえなければ、地方法院でカタがついていた程度のもの。エドヴァルドには、働いて貰わないと困るんだよ」
「――――」
唇を噛んで、あらぬ方角を向きながらもエドヴァルドが何も言わないところからすると、そこは本人も心のどこかで分かっていることなんだろう。
「出来ればベルセリウス侯爵と同様に、しばしの給与返上で折れて欲しいところなんだけどね」
「断る」
一言の下に切り捨てているエドヴァルドに、お義父様も苦笑したままだ。
「おかしいだろう。何故、表向き反省と口にする側が上から目線なんだ。ここはしおらしく肯定をするところだろうに」
「そんな言い方をするのは、らしくないな。どうせ陛下の差し金だろう」
「……否定はしない。自分には休みがないのにと、時折零していらっしゃるからね」
「え?そうなんですか?」
イルお義父様の言葉に思わず不審げな声をあげたところで、バッチリ目が合ってしまった。
知らなかった。
フィルバート陛下もエドヴァルド的社畜思考の人なのか。
「レイナ、惑わされるな」
その直後、私の頭の上にあった手に、少し力が入った気がした。
「陛下とて公休の日はある。ただ、その日はほぼ洩れなく管理部の魔道具開発を見るか試すかされている。あとは剣の練習か?いずれにせよ、自分の意思で休んでいないんだ。いらぬ気遣いだ」
フィルバートがもし王位につかず「アンディション侯爵」として臣籍降下する未来があったのだとしたら、本当は魔道具の研究者あるいは開発者になりたかったのかも知れないと、ふと思った。
「いずれにせよ、人手があってないようなものだ。皆が帰宅しづらい事態になるのは目に見えている」
思考に沈む私に、エドヴァルドのため息が落ちた。
「昼はサンドイッチを持参するにしても、せめて朝と夜は食卓を共にしたい。フォルシアン公もそれは心から賛同をしてくれた。三国会談のカタが付くまでは……恐らく、そういった日が続くと思う」
「……分かりました。寂しいですけど、仕方ないですね」
「……っ」
私は意図してそれを言ったワケではなかったのだけど、どうやらどこかがエドヴァルドの鳩尾にクリーンヒットしたらしい。
頭を撫でていた筈の手が肩に回って、いつのまにか椅子ごと抱き寄せられていた。
「寂しい、か……戻ってきたら、我が邸宅とフォルシアン邸とボードリエ邸の滞在割合を相談しようか。私も、あまり貴女のいない夜を耐え抜く自信はないんだ」
「⁉」
それは耳元で囁かれたので、どこまでフォルシアン公爵夫妻に聞こえたかは分からない。
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