聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
532 / 785
第三部 宰相閣下の婚約者

594 カモネギの危機(前)

しおりを挟む
 そもそもは、ついさっきラヴォリ商会のカール商会長代理が緊急の用件だと、カルメル商会の商会長とギルドを訪ねて来たところから端を発していて、投資詐欺にあったらしいこと、カルメル商会だけではないらしいこと、何より背後に貴族の影が見え隠れしていることを告げたんだそうだ。

 そして事情聴取と、カルメル商会関係者をギルド預かりとすることを依頼して、本店へと戻って行き、その途中で私とすれ違ったと言うことのようだった。

 ラヴォリ商会の方でも情報収集をしており、本店を拠点にしているから戻ると言うのと、ユングベリ商会との面会約束があるから、貴族の情報が得られないか聞いてみると、リーリャギルド長に言い置いて帰ったらしい。

 ――それが、よりによってコンティオラ公爵家とか。

 サレステーデの宰相の娘、侯爵令嬢であるサラの例もあるし、ご令嬢が商売のことを学びたいというのは、青天の霹靂と言うほどのことではないのだけれど。

「……そんな高尚な理由じゃないと思うわよ、レイナちゃん」

 私の呟きと、深刻に考え込む様子を横目に、エリィ義母様が不意にそんなことを言った。

「エリィ義母様?」

「コンティオラ家のお嬢様と、オルセン家のお嬢様は、イデオン公狙いの二大巨頭でしたもの。どう考えても、イデオン公と貴女の話を聞いて、自分でも商会を作ろうとしたのではないかしら?。今のままだと、彼の視界にも入れないから」

「え」

 ギョッとする私に、リーリャギルド長も「おやおや」と、純粋に驚きの表情を浮かべていた。

「商会、ましてやその長となると、甘やかされて育てられ――ああ、失礼。ともかく、一般的な貴族のご令嬢が思いつきでなれるものでもないのだけどね」

 目の前にいるのが、五公爵家の一員であることに思い至って、慌てて手を振っているものの、リーリャギルド長も  さほど間違った話はしていない。

 私だって、エドヴァルドの名前があってこそのユングベリ商会だと分かっているからだ。

「いいえ、仰ることはもっともですわ」

 そしてエリィ義母様も、表面上不快な様子は見せなかった。

わたくし、もう一人娘がおりますけれど、父親の経営する店舗の品揃えを調整して、新商品を考えるだけで四苦八苦しておりましたもの。昨日今日思い立った、でどうにか出来るものではないと思いますわ」

 そう言えば以前にも、ユティラ・フォルシアン公爵令嬢は、嫁ぎ先であるカカオの生産地、アムレアン侯爵領の為にチョコレートカフェ〝ヘンリエッタ〟の新商品を考えたりしていたと聞いたことはある。

 なるほどそれを見ていれば、母として、コンティオラ公爵家での「講義」には、真剣味を感じないと言うことなのかも知れなかった。

「悪あがきですわね」

 バッサリと切って捨てるエリィ義母様に、思わず表情かお痙攣ひきつらせてしまう。

「エ、エリィ義母様、まだそうだと決まった訳では……」

「そうね、それだけではない。そんな気がしますわ」

 閉じた扇の先を口元にあてながら、そんな言い方をエリィ義母様はした。

「間違いなくコンティオラ公爵はご存じないことでしょうけど、ヒルダ夫人がご存知かどうか、と言うのは気になりますわ。本来のあの方であれば、おいそれと詐欺にかかる方ではない筈ですもの」

 エモニエ侯爵令嬢時代からのナルディーニ侯爵家との確執は、社交界の方でも知られており、コンティオラ公爵家との縁組がまとまってからもしばらく続いていたらしい「浮気の誘い」を、夫人自身が撃退する様は多くの高位貴族が目撃しているらしい。

「自分のようにナルディーニ侯爵家に苦労させられないように、との思いが行き過ぎて、娘の望む縁組を!と躍起になっていらっしゃるのがね……」

 そこが夫人自身の残念な点、と言うことか。

「コンティオラ公爵夫人が、エリィ義母様の仰る通りの方なのであれば」

 私は一度エドベリ王子の歓迎式典の時にチラ見した程度だ。
 それならば、エリィ義母様の人物評の方がよほど正確な気もした。
 そして、だとすれば。

「エリィ義母様の如くお怒りになって、実家に帰っちゃった可能性は……?」

「……っ」

 私の言葉に、エリィ義母様が絶句している。

「コデルリーエ男爵領の関与の可能性を聞かされたエリィ義母様が『実家に帰ってダリアン侯爵家ご当主様を問い詰める』とお怒りになった様に、コンティオラ公爵夫人がブロッカ商会の存在を、カルメル商会が令嬢に紹介した商会なり商人なりから聞かされて、エモニエ侯爵家は何をしているのか!――って、なっちゃった可能性は……」

 私の言葉に、エリィ義母様はかなり考えた末に「……あり得るわ」と声を絞り出した。

「そうなると、ご令嬢はネギ背負った鴨――あ、いえ、お金を巻き上げる格好の標的と思われてると思います。エリィ義母様、ここはフォルシアン家の護衛に先行して貰って、コンティオラ公爵夫人が今も邸宅おやしきにいるのかを探って貰っては……?」

 カモネギ話が通じる筈もないので、私は慌てて言い直した。

 イデオン家とコンティオラ家は、公爵家当主同士しか今のところ接点がない。万一、調べに来たことがバレても、フォルシアン家の護衛であれば、エリィ義母様が面会を希望しているとでも言って、ごまかせる筈。

 そう言った私に、先にリーリャギルド長が賛成をした。

「いくらギルド長が国王以外に膝をつかぬ身とは言え、証拠もなく揉め事は起こせないからね。法に反しない協力はぜひお願いしたいよ」

 エリィ義母様は、一瞬だけ迷いの表情を浮かべた。
 ただそれは、そう長い間のことじゃなかった。

「……レイナちゃん、王宮へはいつ知らせるつもり?」

 王宮と言うよりは、イル義父様だろう。
 私も、エドヴァルドに知らせないと言う選択肢は存在しない。

 問題なのはタイミングだけだ。

「出来ればコンティオラ公爵夫人が今、公爵邸にいらっしゃるかどうかの確認は先に取りたいです。そして王宮への連絡は、この場合、コンティオラ公爵の下についていらっしゃる、マトヴェイ卿を指名したいと思うんです」

「……え、マトヴェイ卿?」

 エリィ義母様にとっての、それは予想外だったらしく、驚いたように目を見開いていた。











※※※※※※ ※※※※※※ ※※※※※※ ※※※※※※



家族の体調不良により、更新が遅れてすみません。
今日明日と、時間は定まらないかも知れません。

どうか引き続き宜しくお願いします。
しおりを挟む
感想 1,464

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。