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第三部 宰相閣下の婚約者
594 カモネギの危機(前)
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そもそもは、ついさっきラヴォリ商会のカール商会長代理が緊急の用件だと、カルメル商会の商会長とギルドを訪ねて来たところから端を発していて、投資詐欺にあったらしいこと、カルメル商会だけではないらしいこと、何より背後に貴族の影が見え隠れしていることを告げたんだそうだ。
そして事情聴取と、カルメル商会関係者をギルド預かりとすることを依頼して、本店へと戻って行き、その途中で私とすれ違ったと言うことのようだった。
ラヴォリ商会の方でも情報収集をしており、本店を拠点にしているから戻ると言うのと、ユングベリ商会との面会約束があるから、貴族の情報が得られないか聞いてみると、リーリャギルド長に言い置いて帰ったらしい。
――それが、よりによってコンティオラ公爵家とか。
サレステーデの宰相の娘、侯爵令嬢であるサラの例もあるし、ご令嬢が商売のことを学びたいというのは、青天の霹靂と言うほどのことではないのだけれど。
「……そんな高尚な理由じゃないと思うわよ、レイナちゃん」
私の呟きと、深刻に考え込む様子を横目に、エリィ義母様が不意にそんなことを言った。
「エリィ義母様?」
「コンティオラ家のお嬢様と、オルセン家のお嬢様は、イデオン公狙いの二大巨頭でしたもの。どう考えても、イデオン公と貴女の話を聞いて、自分でも商会を作ろうとしたのではないかしら?。今のままだと、彼の視界にも入れないから」
「え」
ギョッとする私に、リーリャギルド長も「おやおや」と、純粋に驚きの表情を浮かべていた。
「商会、ましてやその長となると、甘やかされて育てられ――ああ、失礼。ともかく、一般的な貴族のご令嬢が思いつきでなれるものでもないのだけどね」
目の前にいるのが、五公爵家の一員であることに思い至って、慌てて手を振っているものの、リーリャギルド長も さほど間違った話はしていない。
私だって、エドヴァルドの名前があってこそのユングベリ商会だと分かっているからだ。
「いいえ、仰ることはもっともですわ」
そしてエリィ義母様も、表面上不快な様子は見せなかった。
「私、もう一人娘がおりますけれど、父親の経営する店舗の品揃えを調整して、新商品を考えるだけで四苦八苦しておりましたもの。昨日今日思い立った、にわかでどうにか出来るものではないと思いますわ」
そう言えば以前にも、ユティラ・フォルシアン公爵令嬢は、嫁ぎ先であるカカオの生産地、アムレアン侯爵領の為にチョコレートカフェ〝ヘンリエッタ〟の新商品を考えたりしていたと聞いたことはある。
なるほどそれを見ていれば、母として、コンティオラ公爵家での「講義」には、真剣味を感じないと言うことなのかも知れなかった。
「悪あがきですわね」
バッサリと切って捨てるエリィ義母様に、思わず表情を痙攣らせてしまう。
「エ、エリィ義母様、まだそうだと決まった訳では……」
「そうね、それだけではない。そんな気がしますわ」
閉じた扇の先を口元にあてながら、そんな言い方をエリィ義母様はした。
「間違いなくコンティオラ公爵はご存じないことでしょうけど、ヒルダ夫人がご存知かどうか、と言うのは気になりますわ。本来のあの方であれば、おいそれと詐欺にかかる方ではない筈ですもの」
エモニエ侯爵令嬢時代からのナルディーニ侯爵家との確執は、社交界の方でも知られており、コンティオラ公爵家との縁組がまとまってからもしばらく続いていたらしい「浮気の誘い」を、夫人自身が撃退する様は多くの高位貴族が目撃しているらしい。
「自分のようにナルディーニ侯爵家に苦労させられないように、との思いが行き過ぎて、娘の望む縁組を!と躍起になっていらっしゃるのがね……」
そこが夫人自身の残念な点、と言うことか。
「コンティオラ公爵夫人が、エリィ義母様の仰る通りの方なのであれば」
私は一度エドベリ王子の歓迎式典の時にチラ見した程度だ。
それならば、エリィ義母様の人物評の方がよほど正確な気もした。
そして、だとすれば。
「エリィ義母様の如くお怒りになって、実家に帰っちゃった可能性は……?」
「……っ」
私の言葉に、エリィ義母様が絶句している。
「コデルリーエ男爵領の関与の可能性を聞かされたエリィ義母様が『実家に帰ってダリアン侯爵家ご当主様を問い詰める』とお怒りになった様に、コンティオラ公爵夫人がブロッカ商会の存在を、カルメル商会が令嬢に紹介した商会なり商人なりから聞かされて、エモニエ侯爵家は何をしているのか!――って、なっちゃった可能性は……」
私の言葉に、エリィ義母様はかなり考えた末に「……あり得るわ」と声を絞り出した。
「そうなると、ご令嬢はネギ背負った鴨――あ、いえ、お金を巻き上げる格好の標的と思われてると思います。エリィ義母様、ここはフォルシアン家の護衛に先行して貰って、コンティオラ公爵夫人が今も邸宅にいるのかを探って貰っては……?」
カモネギ話が通じる筈もないので、私は慌てて言い直した。
イデオン家とコンティオラ家は、公爵家当主同士しか今のところ接点がない。万一、調べに来たことがバレても、フォルシアン家の護衛であれば、エリィ義母様が面会を希望しているとでも言って、ごまかせる筈。
そう言った私に、先にリーリャギルド長が賛成をした。
「いくらギルド長が国王以外に膝をつかぬ身とは言え、証拠もなく揉め事は起こせないからね。法に反しない協力はぜひお願いしたいよ」
エリィ義母様は、一瞬だけ迷いの表情を浮かべた。
ただそれは、そう長い間のことじゃなかった。
「……レイナちゃん、王宮へはいつ知らせるつもり?」
王宮と言うよりは、イル義父様だろう。
私も、エドヴァルドに知らせないと言う選択肢は存在しない。
問題なのはタイミングだけだ。
「出来ればコンティオラ公爵夫人が今、公爵邸にいらっしゃるかどうかの確認は先に取りたいです。そして王宮への連絡は、この場合、コンティオラ公爵の下についていらっしゃる、マトヴェイ卿を指名したいと思うんです」
「……え、マトヴェイ卿?」
エリィ義母様にとっての、それは予想外だったらしく、驚いたように目を見開いていた。
※※※※※※ ※※※※※※ ※※※※※※ ※※※※※※
家族の体調不良により、更新が遅れてすみません。
今日明日と、時間は定まらないかも知れません。
どうか引き続き宜しくお願いします。
そして事情聴取と、カルメル商会関係者をギルド預かりとすることを依頼して、本店へと戻って行き、その途中で私とすれ違ったと言うことのようだった。
ラヴォリ商会の方でも情報収集をしており、本店を拠点にしているから戻ると言うのと、ユングベリ商会との面会約束があるから、貴族の情報が得られないか聞いてみると、リーリャギルド長に言い置いて帰ったらしい。
――それが、よりによってコンティオラ公爵家とか。
サレステーデの宰相の娘、侯爵令嬢であるサラの例もあるし、ご令嬢が商売のことを学びたいというのは、青天の霹靂と言うほどのことではないのだけれど。
「……そんな高尚な理由じゃないと思うわよ、レイナちゃん」
私の呟きと、深刻に考え込む様子を横目に、エリィ義母様が不意にそんなことを言った。
「エリィ義母様?」
「コンティオラ家のお嬢様と、オルセン家のお嬢様は、イデオン公狙いの二大巨頭でしたもの。どう考えても、イデオン公と貴女の話を聞いて、自分でも商会を作ろうとしたのではないかしら?。今のままだと、彼の視界にも入れないから」
「え」
ギョッとする私に、リーリャギルド長も「おやおや」と、純粋に驚きの表情を浮かべていた。
「商会、ましてやその長となると、甘やかされて育てられ――ああ、失礼。ともかく、一般的な貴族のご令嬢が思いつきでなれるものでもないのだけどね」
目の前にいるのが、五公爵家の一員であることに思い至って、慌てて手を振っているものの、リーリャギルド長も さほど間違った話はしていない。
私だって、エドヴァルドの名前があってこそのユングベリ商会だと分かっているからだ。
「いいえ、仰ることはもっともですわ」
そしてエリィ義母様も、表面上不快な様子は見せなかった。
「私、もう一人娘がおりますけれど、父親の経営する店舗の品揃えを調整して、新商品を考えるだけで四苦八苦しておりましたもの。昨日今日思い立った、にわかでどうにか出来るものではないと思いますわ」
そう言えば以前にも、ユティラ・フォルシアン公爵令嬢は、嫁ぎ先であるカカオの生産地、アムレアン侯爵領の為にチョコレートカフェ〝ヘンリエッタ〟の新商品を考えたりしていたと聞いたことはある。
なるほどそれを見ていれば、母として、コンティオラ公爵家での「講義」には、真剣味を感じないと言うことなのかも知れなかった。
「悪あがきですわね」
バッサリと切って捨てるエリィ義母様に、思わず表情を痙攣らせてしまう。
「エ、エリィ義母様、まだそうだと決まった訳では……」
「そうね、それだけではない。そんな気がしますわ」
閉じた扇の先を口元にあてながら、そんな言い方をエリィ義母様はした。
「間違いなくコンティオラ公爵はご存じないことでしょうけど、ヒルダ夫人がご存知かどうか、と言うのは気になりますわ。本来のあの方であれば、おいそれと詐欺にかかる方ではない筈ですもの」
エモニエ侯爵令嬢時代からのナルディーニ侯爵家との確執は、社交界の方でも知られており、コンティオラ公爵家との縁組がまとまってからもしばらく続いていたらしい「浮気の誘い」を、夫人自身が撃退する様は多くの高位貴族が目撃しているらしい。
「自分のようにナルディーニ侯爵家に苦労させられないように、との思いが行き過ぎて、娘の望む縁組を!と躍起になっていらっしゃるのがね……」
そこが夫人自身の残念な点、と言うことか。
「コンティオラ公爵夫人が、エリィ義母様の仰る通りの方なのであれば」
私は一度エドベリ王子の歓迎式典の時にチラ見した程度だ。
それならば、エリィ義母様の人物評の方がよほど正確な気もした。
そして、だとすれば。
「エリィ義母様の如くお怒りになって、実家に帰っちゃった可能性は……?」
「……っ」
私の言葉に、エリィ義母様が絶句している。
「コデルリーエ男爵領の関与の可能性を聞かされたエリィ義母様が『実家に帰ってダリアン侯爵家ご当主様を問い詰める』とお怒りになった様に、コンティオラ公爵夫人がブロッカ商会の存在を、カルメル商会が令嬢に紹介した商会なり商人なりから聞かされて、エモニエ侯爵家は何をしているのか!――って、なっちゃった可能性は……」
私の言葉に、エリィ義母様はかなり考えた末に「……あり得るわ」と声を絞り出した。
「そうなると、ご令嬢はネギ背負った鴨――あ、いえ、お金を巻き上げる格好の標的と思われてると思います。エリィ義母様、ここはフォルシアン家の護衛に先行して貰って、コンティオラ公爵夫人が今も邸宅にいるのかを探って貰っては……?」
カモネギ話が通じる筈もないので、私は慌てて言い直した。
イデオン家とコンティオラ家は、公爵家当主同士しか今のところ接点がない。万一、調べに来たことがバレても、フォルシアン家の護衛であれば、エリィ義母様が面会を希望しているとでも言って、ごまかせる筈。
そう言った私に、先にリーリャギルド長が賛成をした。
「いくらギルド長が国王以外に膝をつかぬ身とは言え、証拠もなく揉め事は起こせないからね。法に反しない協力はぜひお願いしたいよ」
エリィ義母様は、一瞬だけ迷いの表情を浮かべた。
ただそれは、そう長い間のことじゃなかった。
「……レイナちゃん、王宮へはいつ知らせるつもり?」
王宮と言うよりは、イル義父様だろう。
私も、エドヴァルドに知らせないと言う選択肢は存在しない。
問題なのはタイミングだけだ。
「出来ればコンティオラ公爵夫人が今、公爵邸にいらっしゃるかどうかの確認は先に取りたいです。そして王宮への連絡は、この場合、コンティオラ公爵の下についていらっしゃる、マトヴェイ卿を指名したいと思うんです」
「……え、マトヴェイ卿?」
エリィ義母様にとっての、それは予想外だったらしく、驚いたように目を見開いていた。
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今日明日と、時間は定まらないかも知れません。
どうか引き続き宜しくお願いします。
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