聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第三部 宰相閣下の婚約者

601 その鳥は今日も役目を果たす

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「……まずはカルメル商会が引っ張り出された理由と、商業の教師として、ブロッカ商会なりシャプル商会なりから人がコンティオラ公爵家に派遣出来た理由は理解しました」

 ブロッカ商会の商会長が、エモニエ侯爵家の令嬢と結婚して、地方の子爵家を名乗るようになったとしても、元がビュケ男爵領の人間だったなら、カルメル商会のことはよく知っていただろう。

 そしてコンティオラ公爵家側としても、エモニエ侯爵家の令嬢――つまりはコンティオラ公爵夫人の、姪の夫が興した商会の口利きで教師が派遣されてくるのであれば、どこの馬の骨……とはならず、多少の信用の上に受け入れが成り立ってもおかしくはない。

 ブツブツと呟いた私に「レイナちゃん?」と、エリィ義母様がこちらを覗き込む。

「あとは何故、シャプル商会がコデルリーエ男爵領でギルドカードを作ったかと言うことなんですけど……」

「あら、それは鉱山の採掘が関係しているとの話じゃなかったかしら?」

「それはそうなんですが、正直、当座の現金を必要としている領地って他にもあると思うんですよね。露見しづらいように隣接領地を避けたって言うのも、もちろん理由の一つではあるでしょうけど、ちょっとそれだけじゃ弱いと言うか――」

 それに投資詐欺に使うための商品として、なぜホタテの話になったのかが見えてこない。

 どうにも完全には腹落ちせずにウンウンと唸る私を、コンティオラ公爵夫人が「貴女……」と、さすがにこちらを訝しみ始めた。

 それは、そうだろう。

 投資詐欺の話をまだ知らない夫人からすれば、コンティオラ公爵領内での取引の話に、フォルシアン公爵家の夫人や養女が絡んでくることの意味が理解出来ないに違いない。

「カール商会長代理」

 私はふと思い立って、後ろで静かにこちらの様子を窺っていた、カール商会長代理に声をかけた。

 馬車事故の当事者同士と言う立場も含めて、彼はずっと一歩引いている。

 夫人の体調を気遣う素振りは見せるものの、事故への謝罪を口にすることは控えていることから考えれば、馬車は多分、夫人の乗る馬車の方が非が大きいのかも知れない。

 セルマに急ごうとしていたことから考えれば、さもありなんだ。
 そして貴族に対して一般市民の方が立場が弱い事実を考えれば、迂闊に頭を下げることは避けたいのかも知れなかった。

 それは商会の自衛手段でもあるだろうから、私もそこは深く追求することは避けた。
 自警団なり王都警備隊なりと、いかようにもやりとりはするだろう。

 私が聞きたいのは別のことだった。

「コデルリーエ男爵家のことに詳しい方は、お店にいらっしゃいませんか?」

「え?」

 どうされましたか、と問いかけたカール商会長代理は、思いもしなかったらしい問いかけに軽く目を瞠っていた。

「それは……どういう……?」

「貴族教育として、コデルリーエ男爵領がフォルシアン公爵領内にあることは、こちらでも分かるとして……家族構成とか、お金遣いとか、もうちょっと踏み込んだところが分からないかなと思いまして。もしこちらの商会の出入りがあれば、多少は耳にするのではないか、と」

 本来であれば、商人が出入りをする家のことをあれこれ吹聴するのは、一番やってはいけない、商人としての信頼を根本から覆す行為だ。

 だけど詐欺事件が絡んでいるし、この国の警察機構は仕組みがかなり細かく、日本のように「じゃああとは警察に……」と言うわけにはいかない。

 商会側の視点から言えば自警団案件であり、貴族側からすれば王都警備隊案件、貴族側に非があった場合は高等法院での裁きに発展する可能性もある。

 下手をすればギルドとイデオン家とフォルシアン家の三すくみ状態になり、事件の解決が遠のいてしまう可能性さえある。

「……ここで口にするのが憚られるようでしたら、ギルド長か副ギルド長に立ち会っていただきましょうか?それであれば、自警団も警備隊もどの公爵家も絡みませんし」

 私がそう言葉を足せば、カール商会長代理の眉根が微かに寄せられた。

 すぐに「知らない」と言わなかったところからすれば、やはりラヴォリ商会として、コデルリーエ男爵家とも何かしら取引をしていると言うことなんだろう。

「……残念ながら、私自身がその男爵領に行ったことはないのですが」

 ややあって、カール商会長代理がそう口を開いた。

「ただ、フォルシアン公爵領内を担当する者が何名か商会にはおります。その者に聞いてみることなら――」

 その途中で、不意に窓ガラスが「カンッ」と、音を立てた。

「チチチッ!」
「⁉」

 覚えのある鳴き声に、私はハッと窓の外に視線を投げた。

「……リファちゃん!」

 見れば窓の外で、シマエナガ――もとい、ヘリファルテ種のリファちゃんが、羽根をパタパタ動かしながら、目の前の窓を開けるようをしていた。

 ちょっとすみません!と私はその場で断りを入れて、慌てて窓を開ける。

「ぴっ」

 もう、頭の上にぽすっと着地をするのは慣れた。

「レ、レイナちゃん……?」

 さすがに驚いているエリィ義母様に、私はどう説明したものかと、一瞬考えた。

「エリィ義母様、このコがさっき話していた、が飼っている鳥です。しょっちゅうしては、私のところに遊びに来てくれるんですよ」

「え……脱走……?」

 フォルシアン公爵邸にいた時には、連絡を取って、連れて来て貰うようなことを言っていたのに――と、エリィ義母様は不思議そうだったけど、私は敢えてそこは無視スルーしておいた。

 リファちゃんが「お手紙鳥」であることは、一部の人を除いてヒミツだ。

 フォルシアン公爵家の養女となるからには、いつまでも黙っていられるものでもないとは思うものの、今はまだ早い。

「もう……リファちゃん、またレヴのところ抜け出してきたのね?あとで遣いを出して、に来て貰わないとね?」

「ぴ?」

 どうやらリファちゃんは、私の頭の上で小首を傾げたようだ。
 何となく、そんな気がした。

 部屋にいる皆が戸惑う中、エリィ義母様は私が言った「迎え」の一言で、むしろ何かしら察した――と言った表情を浮かべていた。

 そう。

 リファちゃんは多分、本来の飼い主である王宮護衛騎士トーカレヴァか、トーカレヴァのところにリファちゃんの「貸出」を依頼しにいった〝鷹の眼〟ルヴェックか、あるいは呼び出しをかけたマトヴェイ外交部長か、誰かを既にここまで案内して来た筈だ。

 そのことに齟齬をきたさないように、私は敢えて「脱走した鳥の迎え」を、ここで装ったのだ。

「――商会長代理」

 後で虫をあげなきゃ……と思っていると、部屋の入口の扉が、ためらいがちにノックされた。










◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

たまには癒しのリファちゃんをどうぞ♪(#ぼく、シマエナガより)

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