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第三部 宰相閣下の婚約者
621 絶対零度の晩餐会~団欒の間②~
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恐らく各公爵サマ方は、マトヴェイ部長あるいはトーカレヴァから、多少の事情は聞いて来る筈。
ここでヒース君に説明をしても、二度手間にはならないだろうと私は判断した。
ただ、姉は投資をする気になっているところ、弟はどう判断するのか。
純粋な好奇心も手伝って「ジェイの漁場が新たに開拓されると言う話をどう思うか」と言う、マトヴェイ部長に聞いたのと同じ聞き方をしてみた。
外交部のベテラン部長と同じ思考回路を持つとはもちろん思わないし、多分周りも求めていないだろうけど、せめてお金を出すか、出さないか。どう判断をするのか聞いてみたかった。
「漁場の開拓……その話を、父が貴女にされたんですか?」
果たしてヒース君は、誰がとは言わないまでも、父親であるコンティオラ公爵が情報源なのかと確認をしてきた。
「ああ、今はフォルシアン家の娘であると言う話は横に置いて貰えるかしら?この娘、自分で商会を一つ持っているのよ。名ばかりではない、れっきとした商会長の肩書をね。貴方のお父様は、自らの職務の倫理に背くような事はなさっておられない。純粋に商会の業務の中で得た話と思って?」
エリィ義母様が、隣から援護射撃をしてくれた。
マトヴェイ部長は、こちらから問いかけをして、なおかつ存在しない話だったからこそ答えてくれたのだ。
何も聞いていないうちから、もしも存在する話としてそんな話をすれば、日本ならインサイダー取引で双方が捕まってしまう。
「そう……ですか」
そんな法律があるかどうかは知らないけれど、ヒース君がややホッとしているのは、近い法律はあると言うことなんだろう。
ただ、一瞬とは言え息子に疑われたと知ったら、コンティオラ公爵の方が立ち直れなそうだから、今のやりとりは黙っていてあげようと、私は密かに決意した。
「えっと……そこだけは安心して貰って良いんですけど」
「……だけ」
どうやら「聞く耳」があって、ある程度腹の探り合いも出来るヒース君は、なかなかに優秀な次期公爵だと言えた。
こういうのはやはり、家庭環境に苦労が垣間見えると、しっかり育つと言うことなんだろうか。
こうなると、オブラートに包もうが煙に巻こうが、多分彼は察するだろうと、私は正直に彼に伝えることにした。
「実は貴方のお姉様が、この件で投資をすることをお考えみたいで」
「――――」
発言の効果は劇的だった。
「はあぁぁっつ⁉」
「「「⁉」」」
あまりの勢いに、頭を抱えてしまったコンティオラ公爵夫人と、叫んだ本人を除く全員が、目を見開いたほどである。
気付いた本人が、慌てて両手をブンブンと横に振っていた。
「あ……っ、申し訳ありません!つい、愚姉の馬鹿さ加減もここまでかと――いえ、とにかく、母上!アレを甘やかすのもいい加減にして下さい‼もしやお金を払いかけたのを、こちらのフォルシアン公爵令嬢にお止め頂いたとか、そんな馬鹿なオチがあったりはしないでしょうね⁉」
フォルシアン公爵令嬢、と呼ばれたのもまだちょっと違和感があるけれど、何より愚弟愚息なんかと違って、愚姉って初めて聞いたかも知れない。
もちろん、存在しない単語ではない筈だけど。
しかも、愚姉の次は「アレ」って……。
「ええっと……コンティオラ公爵令息……」
「ヒースで結構です。愚姉が絡んだ時点で、母に聞いても仕方がないと言うのは理解しました。普段はともかく、ナルディーニ家と姉が絡む時だけは、母はなんっにもあてになりませんので!お手数ですが、一から説明していただけますか」
「…………」
普段はともかく、とは何とも微妙だ。
公爵夫人としての尊敬はあれど、一家庭の母としては評価が大暴落していると言うことだろうか。
「だいたい、新たな漁場を無許可で確保出来ないことなんて、僕が嫡男であるか否かに関わらず、家庭教師が愚姉にも平等に説明をしている筈なんですよ!コンティオラ公爵家の領政の根幹に関わる話だし、もし僕が次期公爵として相応しくないとなれば、愚姉に婿養子をとる可能性だってあったわけなんですから!」
と言うか、ヒース君の一人称が興奮のあまり「僕」になっている。
まあでも、可能性があった――と自ら過去形で語っているからには、ヒース君自身は、次期コンティオラ公爵としての覚悟があって、努力を重ねていると言うことなんだろう。
私、ユティラやユセフにどう思われているのかしらね……?なんて呟くエリィ義母様は、ヒース君の発言が地味に刺さっているっぽい。
「わ……私はエリィ義母様、好きですからね……?」
ヒース君の質問に答える前に、私はエリィ義母様の服の袖を引きながら、こそっとフォローを入れておいた。
「ありがとう。いいコね、レイナちゃん……!」
それが功を奏したのかどうか「ひと通り説明してあげて……?」と、エリィ義母様のお許しも出たので、私は改めてヒース君にここまでの話を説明することにした。
「お察しの通りです、えっと………」
様、とか殿とか付けたところで、いらぬ吹雪を巻き起こしそうなので、せめてヤンネの「キヴェカス卿」みたく「ヒース卿」としておくことにした。
この場にいない「どなたか」が、何とかそのあたりで妥協をしてくれると信じたい。
閑話休題。
「卿のお姉様は、まだ投資の資金を渡す前でいらっしゃいましたけど、既に支払ってしまった商会が領内にあって、その商会がギルドに泣きついたことで、もみ消しようのない詐欺事件として、既に公になっています」
「……っ」
「そのうえ、騙すにあたっての架空の商会をフォルシアン公爵領で作っていたので、そう言う意味でも、もみ消せません」
ヒース君は、片手で額を覆っている。
「ここから……コンティオラ公爵家の人間の手で解決出来るのですか……?」
「……そこでちょっとご相談なんですが」
このまま一気に囮の話までした方が良いのかと、私が迷ったその時。
「――え、来客?」
邸宅の奥から、別の声が聞こえてきた。
ここでヒース君に説明をしても、二度手間にはならないだろうと私は判断した。
ただ、姉は投資をする気になっているところ、弟はどう判断するのか。
純粋な好奇心も手伝って「ジェイの漁場が新たに開拓されると言う話をどう思うか」と言う、マトヴェイ部長に聞いたのと同じ聞き方をしてみた。
外交部のベテラン部長と同じ思考回路を持つとはもちろん思わないし、多分周りも求めていないだろうけど、せめてお金を出すか、出さないか。どう判断をするのか聞いてみたかった。
「漁場の開拓……その話を、父が貴女にされたんですか?」
果たしてヒース君は、誰がとは言わないまでも、父親であるコンティオラ公爵が情報源なのかと確認をしてきた。
「ああ、今はフォルシアン家の娘であると言う話は横に置いて貰えるかしら?この娘、自分で商会を一つ持っているのよ。名ばかりではない、れっきとした商会長の肩書をね。貴方のお父様は、自らの職務の倫理に背くような事はなさっておられない。純粋に商会の業務の中で得た話と思って?」
エリィ義母様が、隣から援護射撃をしてくれた。
マトヴェイ部長は、こちらから問いかけをして、なおかつ存在しない話だったからこそ答えてくれたのだ。
何も聞いていないうちから、もしも存在する話としてそんな話をすれば、日本ならインサイダー取引で双方が捕まってしまう。
「そう……ですか」
そんな法律があるかどうかは知らないけれど、ヒース君がややホッとしているのは、近い法律はあると言うことなんだろう。
ただ、一瞬とは言え息子に疑われたと知ったら、コンティオラ公爵の方が立ち直れなそうだから、今のやりとりは黙っていてあげようと、私は密かに決意した。
「えっと……そこだけは安心して貰って良いんですけど」
「……だけ」
どうやら「聞く耳」があって、ある程度腹の探り合いも出来るヒース君は、なかなかに優秀な次期公爵だと言えた。
こういうのはやはり、家庭環境に苦労が垣間見えると、しっかり育つと言うことなんだろうか。
こうなると、オブラートに包もうが煙に巻こうが、多分彼は察するだろうと、私は正直に彼に伝えることにした。
「実は貴方のお姉様が、この件で投資をすることをお考えみたいで」
「――――」
発言の効果は劇的だった。
「はあぁぁっつ⁉」
「「「⁉」」」
あまりの勢いに、頭を抱えてしまったコンティオラ公爵夫人と、叫んだ本人を除く全員が、目を見開いたほどである。
気付いた本人が、慌てて両手をブンブンと横に振っていた。
「あ……っ、申し訳ありません!つい、愚姉の馬鹿さ加減もここまでかと――いえ、とにかく、母上!アレを甘やかすのもいい加減にして下さい‼もしやお金を払いかけたのを、こちらのフォルシアン公爵令嬢にお止め頂いたとか、そんな馬鹿なオチがあったりはしないでしょうね⁉」
フォルシアン公爵令嬢、と呼ばれたのもまだちょっと違和感があるけれど、何より愚弟愚息なんかと違って、愚姉って初めて聞いたかも知れない。
もちろん、存在しない単語ではない筈だけど。
しかも、愚姉の次は「アレ」って……。
「ええっと……コンティオラ公爵令息……」
「ヒースで結構です。愚姉が絡んだ時点で、母に聞いても仕方がないと言うのは理解しました。普段はともかく、ナルディーニ家と姉が絡む時だけは、母はなんっにもあてになりませんので!お手数ですが、一から説明していただけますか」
「…………」
普段はともかく、とは何とも微妙だ。
公爵夫人としての尊敬はあれど、一家庭の母としては評価が大暴落していると言うことだろうか。
「だいたい、新たな漁場を無許可で確保出来ないことなんて、僕が嫡男であるか否かに関わらず、家庭教師が愚姉にも平等に説明をしている筈なんですよ!コンティオラ公爵家の領政の根幹に関わる話だし、もし僕が次期公爵として相応しくないとなれば、愚姉に婿養子をとる可能性だってあったわけなんですから!」
と言うか、ヒース君の一人称が興奮のあまり「僕」になっている。
まあでも、可能性があった――と自ら過去形で語っているからには、ヒース君自身は、次期コンティオラ公爵としての覚悟があって、努力を重ねていると言うことなんだろう。
私、ユティラやユセフにどう思われているのかしらね……?なんて呟くエリィ義母様は、ヒース君の発言が地味に刺さっているっぽい。
「わ……私はエリィ義母様、好きですからね……?」
ヒース君の質問に答える前に、私はエリィ義母様の服の袖を引きながら、こそっとフォローを入れておいた。
「ありがとう。いいコね、レイナちゃん……!」
それが功を奏したのかどうか「ひと通り説明してあげて……?」と、エリィ義母様のお許しも出たので、私は改めてヒース君にここまでの話を説明することにした。
「お察しの通りです、えっと………」
様、とか殿とか付けたところで、いらぬ吹雪を巻き起こしそうなので、せめてヤンネの「キヴェカス卿」みたく「ヒース卿」としておくことにした。
この場にいない「どなたか」が、何とかそのあたりで妥協をしてくれると信じたい。
閑話休題。
「卿のお姉様は、まだ投資の資金を渡す前でいらっしゃいましたけど、既に支払ってしまった商会が領内にあって、その商会がギルドに泣きついたことで、もみ消しようのない詐欺事件として、既に公になっています」
「……っ」
「そのうえ、騙すにあたっての架空の商会をフォルシアン公爵領で作っていたので、そう言う意味でも、もみ消せません」
ヒース君は、片手で額を覆っている。
「ここから……コンティオラ公爵家の人間の手で解決出来るのですか……?」
「……そこでちょっとご相談なんですが」
このまま一気に囮の話までした方が良いのかと、私が迷ったその時。
「――え、来客?」
邸宅の奥から、別の声が聞こえてきた。
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