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第三部 宰相閣下の婚約者
629 絶対零度の晩餐会~食堂の間④~
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「レイナ……ミルテ王女の茶会で飲まされそうになったお茶と言うのは、どう言うお茶だった?」
エドヴァルドが、自分の記憶を確認するかの様にこちらに問いかけてきた。
多分、ここにいる人たちへの説明も兼ねているのかも知れない。
「えっと、痺れ茶の話ですか?」
「ああ、それだ」
「一見すると、お湯を注いで花が開く工芸茶を装っていますけど、実際に花が開いたら痺れ薬がお茶に溶け込むと言う、とんでもないお茶ですね。ベッカリーア公爵家の誰かが流通を担っていて、一時期アンジェスにも流れ出たことがある、と」
ただ少なくとも、自分がバリエンダールを発つまでに、流通経路の全ては明らかになっていなかった。
「宰相の側室夫人が持っていたモノですけど、彼女の実家はベッカリーア公爵家。お茶が作られていた島も、ベッカリーア公爵家の領地内。それでも具体的に『誰』が夫人の手元に渡るよう指図をしたのかは、経路が幾重にも絡んでいて、まだ解けきれていないと聞きました」
これはバリエンダール王都商業ギルドのナザリオギルド長が、海産物に紛らせた手紙の中で追加で書かれていたことだ。
それなりに信憑性はある筈と私が言うと、王女の次はギルド長なのかと、私が関わった人物の名を聞いた、この場のエドヴァルド以外の皆が、それぞれ目を見開いていた。
「レイナちゃん……なんだか、もの凄い伝手を持ってない?」
「エリィ義母様、この時はテオドル大公殿下付の書記官として渡航しましたし、元はユングベリ商会商会長の肩書もありますから、知り合うべくして知り合ったと言った方が近いですよ」
「そ、そう……それでもその伝手は、イデオン公の為にしか活かすつもりはないのよね?」
「直接的でなくとも、間接的にでもイデオン公爵領に利益が流れるなら、手を貸すことはやぶさかじゃないですよ?そこまで融通のきかないことは言いません」
「融通……それはいい心がけだわ。どこかの愚息にも見倣って欲しいわね」
ほう、とため息を溢したエリィ義母様に、どこかの愚息呼ばわりされたユセフは、ぐっと言葉に詰まっていた。
確かにちょっと四角四面、杓子定規なところがあるっぽいお義兄様だから、エリィ義母様としてもため息を溢したくなるのかも知れない。
そんな、チクチクと母が息子をディスっているところに、話が逸れそうだと、再びエドヴァルドが「レイナ」と、割って入ってきた。
「その『痺れ茶』が流れ出た先が、先代エモニエ侯爵夫人、あるいは仲介としてナルディーニ侯爵家が関わっている可能性は?向こうで何か耳にしたか?」
「ええっと……」
さすがにそれは、私に聞かれても困ると思ったものの、今ここにいる中で「痺れ茶」を目にしているのは私しかいないのもまた確かだった。
バリエンダールに後から行ったにせよ、エドヴァルドは茶会の場にはいなかったのだ。
私はお茶会の様子を思い返しながら、ふと思いついたことを口にした。
「そうだ、エドヴァルド様。あの時私に痺れ茶のことを教えてくれたのは、トーカレヴァです。王宮護衛騎士になる前の職場で、口にしたことがあると。もしかしたらアンジェスのどこで主に流通をしていたのか、彼なら知ってるかも……あ、でも王都警備隊に籍を置く元同僚を、詐欺現場の立ち会いにここに寄越してくれると言ってましたから、その人に聞く方が早いかも知れません」
今ここで、レイフ殿下がかつて抱えていた特殊部隊の話をして良いものなのか判断がつかず、私は「職場」と言葉を濁したけれど、エドヴァルドはしっかりと、そこは汲み取ってくれていた。
「なるほど……ではそうしようか」
「エドヴァルド……そのお茶の話を聞いて、どうするつもりなんだ?それで少しでも陛下が前に出て来られるのを押さえられるのか?」
なるほど、刑務と共に各領の防衛軍軍務を仕切るとは言え、国外折衝になれば権限は外交部に移る。
イル義父様が、何故今茶葉の話――と思ったのは、職務上無理からぬことなのかも知れなかった。
「断言は出来ない。ただ、陛下の剣を血塗れにしないためには、それ以上の何かを提供する必要がある。ミラン王太子と折衝の上、茶葉のルートを一つ潰すとなれば、少しは興味を持つのではないかと言う……まあ、期待だな」
明らかに娯楽と聞こえたであろう、そして免疫のあまりないヒース君とユセフが顔を痙攣らせているけど、イル義父様もコンティオラ公爵もそこを咎めようとはしない。
「茶葉のルートを一つ潰す程度で満足されるとはあまり思えないが……」
イル義父様、イル義父様、本音がダダ洩れです!
ただ、よりフィルバートとの付き合いが長いエドヴァルドは「そうとは限らない」と、真面目な顔で答えた。
「まあ、事後のフォローは必須になるが、ただ一言『ミラン王太子と折衝後、潰す手段は一任する』と言えば良い。そうすれば恐らく、王宮内外の自分の手駒を使って、茶葉のルートどころか関係者全員をピンポイントで干上がらせるくらいのことはする筈だ。しかもバリエンダール側も巻き込んで、ミラン王太子に恩を売る形で」
イル義父様も、そんなことはないだろうと言えずに黙り込んでしまっていた。
「処断するのは一瞬。とことんまで相手を追い詰めるのなら、それだけ楽しみは伸びる――そう言えば、陛下は確実に後者を取るだろう。ただそうなると、終わった後は焼け野原。ただただ後任が苦労をすることになるから、そこは考えないといけないだろうがな」
エドヴァルドの言葉に、何故か私の方が背中がうすら寒くなってきた。
喜べ、潰したルートはユングベリ商会で好きにして良いぞ?……などと宣われる陛下の姿が、一瞬頭をよぎってしまった。
「エドヴァルド様……その……」
「そこまでだ、レイナ。口にすると真実になってしまうこともある」
「…………」
どうやらエドヴァルドも同じことを危惧しているらしいと察せられても、どうにも見解の一致を喜ぶ気にはなれなかった。
エドヴァルドが、自分の記憶を確認するかの様にこちらに問いかけてきた。
多分、ここにいる人たちへの説明も兼ねているのかも知れない。
「えっと、痺れ茶の話ですか?」
「ああ、それだ」
「一見すると、お湯を注いで花が開く工芸茶を装っていますけど、実際に花が開いたら痺れ薬がお茶に溶け込むと言う、とんでもないお茶ですね。ベッカリーア公爵家の誰かが流通を担っていて、一時期アンジェスにも流れ出たことがある、と」
ただ少なくとも、自分がバリエンダールを発つまでに、流通経路の全ては明らかになっていなかった。
「宰相の側室夫人が持っていたモノですけど、彼女の実家はベッカリーア公爵家。お茶が作られていた島も、ベッカリーア公爵家の領地内。それでも具体的に『誰』が夫人の手元に渡るよう指図をしたのかは、経路が幾重にも絡んでいて、まだ解けきれていないと聞きました」
これはバリエンダール王都商業ギルドのナザリオギルド長が、海産物に紛らせた手紙の中で追加で書かれていたことだ。
それなりに信憑性はある筈と私が言うと、王女の次はギルド長なのかと、私が関わった人物の名を聞いた、この場のエドヴァルド以外の皆が、それぞれ目を見開いていた。
「レイナちゃん……なんだか、もの凄い伝手を持ってない?」
「エリィ義母様、この時はテオドル大公殿下付の書記官として渡航しましたし、元はユングベリ商会商会長の肩書もありますから、知り合うべくして知り合ったと言った方が近いですよ」
「そ、そう……それでもその伝手は、イデオン公の為にしか活かすつもりはないのよね?」
「直接的でなくとも、間接的にでもイデオン公爵領に利益が流れるなら、手を貸すことはやぶさかじゃないですよ?そこまで融通のきかないことは言いません」
「融通……それはいい心がけだわ。どこかの愚息にも見倣って欲しいわね」
ほう、とため息を溢したエリィ義母様に、どこかの愚息呼ばわりされたユセフは、ぐっと言葉に詰まっていた。
確かにちょっと四角四面、杓子定規なところがあるっぽいお義兄様だから、エリィ義母様としてもため息を溢したくなるのかも知れない。
そんな、チクチクと母が息子をディスっているところに、話が逸れそうだと、再びエドヴァルドが「レイナ」と、割って入ってきた。
「その『痺れ茶』が流れ出た先が、先代エモニエ侯爵夫人、あるいは仲介としてナルディーニ侯爵家が関わっている可能性は?向こうで何か耳にしたか?」
「ええっと……」
さすがにそれは、私に聞かれても困ると思ったものの、今ここにいる中で「痺れ茶」を目にしているのは私しかいないのもまた確かだった。
バリエンダールに後から行ったにせよ、エドヴァルドは茶会の場にはいなかったのだ。
私はお茶会の様子を思い返しながら、ふと思いついたことを口にした。
「そうだ、エドヴァルド様。あの時私に痺れ茶のことを教えてくれたのは、トーカレヴァです。王宮護衛騎士になる前の職場で、口にしたことがあると。もしかしたらアンジェスのどこで主に流通をしていたのか、彼なら知ってるかも……あ、でも王都警備隊に籍を置く元同僚を、詐欺現場の立ち会いにここに寄越してくれると言ってましたから、その人に聞く方が早いかも知れません」
今ここで、レイフ殿下がかつて抱えていた特殊部隊の話をして良いものなのか判断がつかず、私は「職場」と言葉を濁したけれど、エドヴァルドはしっかりと、そこは汲み取ってくれていた。
「なるほど……ではそうしようか」
「エドヴァルド……そのお茶の話を聞いて、どうするつもりなんだ?それで少しでも陛下が前に出て来られるのを押さえられるのか?」
なるほど、刑務と共に各領の防衛軍軍務を仕切るとは言え、国外折衝になれば権限は外交部に移る。
イル義父様が、何故今茶葉の話――と思ったのは、職務上無理からぬことなのかも知れなかった。
「断言は出来ない。ただ、陛下の剣を血塗れにしないためには、それ以上の何かを提供する必要がある。ミラン王太子と折衝の上、茶葉のルートを一つ潰すとなれば、少しは興味を持つのではないかと言う……まあ、期待だな」
明らかに娯楽と聞こえたであろう、そして免疫のあまりないヒース君とユセフが顔を痙攣らせているけど、イル義父様もコンティオラ公爵もそこを咎めようとはしない。
「茶葉のルートを一つ潰す程度で満足されるとはあまり思えないが……」
イル義父様、イル義父様、本音がダダ洩れです!
ただ、よりフィルバートとの付き合いが長いエドヴァルドは「そうとは限らない」と、真面目な顔で答えた。
「まあ、事後のフォローは必須になるが、ただ一言『ミラン王太子と折衝後、潰す手段は一任する』と言えば良い。そうすれば恐らく、王宮内外の自分の手駒を使って、茶葉のルートどころか関係者全員をピンポイントで干上がらせるくらいのことはする筈だ。しかもバリエンダール側も巻き込んで、ミラン王太子に恩を売る形で」
イル義父様も、そんなことはないだろうと言えずに黙り込んでしまっていた。
「処断するのは一瞬。とことんまで相手を追い詰めるのなら、それだけ楽しみは伸びる――そう言えば、陛下は確実に後者を取るだろう。ただそうなると、終わった後は焼け野原。ただただ後任が苦労をすることになるから、そこは考えないといけないだろうがな」
エドヴァルドの言葉に、何故か私の方が背中がうすら寒くなってきた。
喜べ、潰したルートはユングベリ商会で好きにして良いぞ?……などと宣われる陛下の姿が、一瞬頭をよぎってしまった。
「エドヴァルド様……その……」
「そこまでだ、レイナ。口にすると真実になってしまうこともある」
「…………」
どうやらエドヴァルドも同じことを危惧しているらしいと察せられても、どうにも見解の一致を喜ぶ気にはなれなかった。
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