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第三部 宰相閣下の婚約者
632 絶対零度の晩餐会~団欒の間、再び②~
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「ええっと……おおむね間違ってはいないんですが……」
今はまだ、コンティオラ公爵令嬢に詐欺の話を知られるワケにはいかない。
邸宅でヒース君が目立つ動きをするのは避けた方が良い気がしていた。
「話がコンティオラ公爵令嬢に知られたり、護衛やナルディーニ侯爵の弟夫人が外と繋ぎを取って集団をそこから退かせたりされても困るので……むしろ話は聞かずに、こちらから送る人手を邸内に入りやすくして下さる方が良いですね」
仮に〝鷹の眼〟の誰かにコンティオラ公爵家の問題の護衛を演じさせるとして、うっかり辻褄の合わない話をした時にでも、さりげなくフォローが出来れば、その方が良い筈だ。
「……こちらが勘付いていることを、邸宅にいる誰にも気取られない様に、と言うことですか?」
呑み込みの早いヒース君に、私はコクリと頷いた。
「ちょっと、帰って愚姉を責めない自信がないのですが、仕方がありませんね……」
そう、それが一番困るので、ここは大きく頷いておくしかない。
「お嬢さん」
そこで、それまで黙って話の成り行きを窺っていたファルコが、自分たちの名前が出て来たタイミングでこちらへと話しかけてきた。
「邸宅の中の連中に極力気取られたくないなら、あまり頻繁に人の出入りはさせない方が良いと思うぞ。入れ替わるにしても、その護衛を邸宅の外には出さない方が良い。もちろん、内通しているかも知れない夫人とやらもそうだが」
「翌朝、学園に向けて馬車が出るのに乗じるのがせいぜいだと?」
「逆に人手を送り込むんだから、中に置いておく方が安全だ」
「証人保護しやすい?」
「ああ」
「じゃあ、中で誰か事情聴取引き受けてくれる?」
「お館様に許可取ってくれさえすれば、いくらでも」
イデオン公爵家の護衛集団〝鷹の眼〟は、何でもアリだろうと私が思うくらいには優秀だ。
やれと言われれば、本当に苦も無くやってのけるだろう。
それでも、私が彼らと正面から意見を交わすことが出来る立ち位置にいると、それと同時にイデオン公爵家の護衛としても弁えていると言うコトを、周囲に示そうとしてくれているようだった。
私がじっとエドヴァルドを見上げれば、当然、今のやりとりで仄めかせたことは理解しているとばかりに、片手を上げていた。
「分かった。どのみち私は王宮でしばらく身動きが取れないだろうから、ある程度の裁量権は委ねておく。ただしレイナへの報告は怠るな。出来るな?」
「――御意にございます」
部屋の空気がこれ以上冷えるのは勘弁、とばかりにファルコは深々と頭を下げていた。
「……フォルシアン公爵」
それと前後する様に、無言で表情を痙攣らせながら様子を伺っていたコンティオラ公爵が、聞こえるか聞こえないかと言った声量の声で、イル義父様へと話しかけていた。
「その……本当に、妻が今日お世話になっても良いのだろうか」
「まあ、相手を油断させるにはその方が良いだろうし、そうでなくとも、馬車の事故があったんだろう?今は我が邸宅で羽根を休める方が、奥方の精神衛生上から言っても良いように思うがね。それにここまできたら、明日もナルディーニ侯爵家の子どもたちを預かっておくさ。……頼めるかい、愛しい人?」
やや申し訳なさげに見えるイル義父様に「もちろんですわ、あなた」とエリィ義母様は静かに微笑んだ。
「むしろ私は〝善意の第三者〟として、レイナちゃんにコンティオラ公爵邸に堂々と正面玄関から乗り込まれる方が心配ですわ」
イデオン公爵家だけでなく、フォルシアン公爵家の護衛も付けたい、と言うエリィ義母様にイル義父様は一瞬悩んで天井を見上げた。
「うーん……そこは……そうだね、せっかく義兄になったのだから、義兄らしくユセフに上手く立ち回って貰うとしようか」
「⁉」
多分義兄にとっては、なぜこのタイミングで自分が呼ばれるのかと言いたかったのかも知れない。
驚いた様に目を瞠っていた。
「私は……」
「いいかい、ユセフ? 高等法院のオノレ子爵に、おまえ自身、論理が破綻することなく説明出来るよう、事態を誘導するんだ。間違えるな。報告書の結論は、既に定まっている」
イル義父様は、嘘をつけとは一言も言っていない。
ただ、八方丸く収まる様な報告書を書け、と言っているのだ。
グレーゾーンを攻めて書け、などと言うあたり、イル義父様やエリィ義母様も義兄の杓子定規に硬い部分はちょっと心配をしているのかも知れなかった。
「とりあえずは、ここでレイナちゃんと護衛達の様子を伺いながら考えることだね。いざと言う時のフォルシアン公爵家の護衛の使用に関する裁量はおまえに委ねておくよ」
「……っ」
高等法院勤務とは言え、当代フォルシアン公爵の実子、嫡嗣だ。
恐らく護衛たちも、ユセフの血統自体には何の文句も言わない筈だ。
「コンティオラ公爵家の護衛も置かせて貰ってよろしいか?ウリッセでなくともヒルダを心配する護衛は複数いる。皆、それぞれの本分を果たすのが最も事態収拾に対しては難なくあたれる気がしたのだが」
「……そうだな、むやみに邸宅の中に入られるのは困るが、人手として貸していただける分には否定はしない」
そこでイル義父様は「ただ」と、ひと息置いた。
「私が言えたことでもないが……家族それぞれ、きちんと向き合って話をされることを、強く推奨しておこう。後悔の海に沈む様な何かに巻き込まれたくないだろう?」
――家族で話し合え。
もっともなイル義父様からの苦言に、その場にいた誰もが、何も言えなかった。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
いつも読んで頂いてありがとうございます。
今日からまた再開しますので、宜しくお願いします!
今はまだ、コンティオラ公爵令嬢に詐欺の話を知られるワケにはいかない。
邸宅でヒース君が目立つ動きをするのは避けた方が良い気がしていた。
「話がコンティオラ公爵令嬢に知られたり、護衛やナルディーニ侯爵の弟夫人が外と繋ぎを取って集団をそこから退かせたりされても困るので……むしろ話は聞かずに、こちらから送る人手を邸内に入りやすくして下さる方が良いですね」
仮に〝鷹の眼〟の誰かにコンティオラ公爵家の問題の護衛を演じさせるとして、うっかり辻褄の合わない話をした時にでも、さりげなくフォローが出来れば、その方が良い筈だ。
「……こちらが勘付いていることを、邸宅にいる誰にも気取られない様に、と言うことですか?」
呑み込みの早いヒース君に、私はコクリと頷いた。
「ちょっと、帰って愚姉を責めない自信がないのですが、仕方がありませんね……」
そう、それが一番困るので、ここは大きく頷いておくしかない。
「お嬢さん」
そこで、それまで黙って話の成り行きを窺っていたファルコが、自分たちの名前が出て来たタイミングでこちらへと話しかけてきた。
「邸宅の中の連中に極力気取られたくないなら、あまり頻繁に人の出入りはさせない方が良いと思うぞ。入れ替わるにしても、その護衛を邸宅の外には出さない方が良い。もちろん、内通しているかも知れない夫人とやらもそうだが」
「翌朝、学園に向けて馬車が出るのに乗じるのがせいぜいだと?」
「逆に人手を送り込むんだから、中に置いておく方が安全だ」
「証人保護しやすい?」
「ああ」
「じゃあ、中で誰か事情聴取引き受けてくれる?」
「お館様に許可取ってくれさえすれば、いくらでも」
イデオン公爵家の護衛集団〝鷹の眼〟は、何でもアリだろうと私が思うくらいには優秀だ。
やれと言われれば、本当に苦も無くやってのけるだろう。
それでも、私が彼らと正面から意見を交わすことが出来る立ち位置にいると、それと同時にイデオン公爵家の護衛としても弁えていると言うコトを、周囲に示そうとしてくれているようだった。
私がじっとエドヴァルドを見上げれば、当然、今のやりとりで仄めかせたことは理解しているとばかりに、片手を上げていた。
「分かった。どのみち私は王宮でしばらく身動きが取れないだろうから、ある程度の裁量権は委ねておく。ただしレイナへの報告は怠るな。出来るな?」
「――御意にございます」
部屋の空気がこれ以上冷えるのは勘弁、とばかりにファルコは深々と頭を下げていた。
「……フォルシアン公爵」
それと前後する様に、無言で表情を痙攣らせながら様子を伺っていたコンティオラ公爵が、聞こえるか聞こえないかと言った声量の声で、イル義父様へと話しかけていた。
「その……本当に、妻が今日お世話になっても良いのだろうか」
「まあ、相手を油断させるにはその方が良いだろうし、そうでなくとも、馬車の事故があったんだろう?今は我が邸宅で羽根を休める方が、奥方の精神衛生上から言っても良いように思うがね。それにここまできたら、明日もナルディーニ侯爵家の子どもたちを預かっておくさ。……頼めるかい、愛しい人?」
やや申し訳なさげに見えるイル義父様に「もちろんですわ、あなた」とエリィ義母様は静かに微笑んだ。
「むしろ私は〝善意の第三者〟として、レイナちゃんにコンティオラ公爵邸に堂々と正面玄関から乗り込まれる方が心配ですわ」
イデオン公爵家だけでなく、フォルシアン公爵家の護衛も付けたい、と言うエリィ義母様にイル義父様は一瞬悩んで天井を見上げた。
「うーん……そこは……そうだね、せっかく義兄になったのだから、義兄らしくユセフに上手く立ち回って貰うとしようか」
「⁉」
多分義兄にとっては、なぜこのタイミングで自分が呼ばれるのかと言いたかったのかも知れない。
驚いた様に目を瞠っていた。
「私は……」
「いいかい、ユセフ? 高等法院のオノレ子爵に、おまえ自身、論理が破綻することなく説明出来るよう、事態を誘導するんだ。間違えるな。報告書の結論は、既に定まっている」
イル義父様は、嘘をつけとは一言も言っていない。
ただ、八方丸く収まる様な報告書を書け、と言っているのだ。
グレーゾーンを攻めて書け、などと言うあたり、イル義父様やエリィ義母様も義兄の杓子定規に硬い部分はちょっと心配をしているのかも知れなかった。
「とりあえずは、ここでレイナちゃんと護衛達の様子を伺いながら考えることだね。いざと言う時のフォルシアン公爵家の護衛の使用に関する裁量はおまえに委ねておくよ」
「……っ」
高等法院勤務とは言え、当代フォルシアン公爵の実子、嫡嗣だ。
恐らく護衛たちも、ユセフの血統自体には何の文句も言わない筈だ。
「コンティオラ公爵家の護衛も置かせて貰ってよろしいか?ウリッセでなくともヒルダを心配する護衛は複数いる。皆、それぞれの本分を果たすのが最も事態収拾に対しては難なくあたれる気がしたのだが」
「……そうだな、むやみに邸宅の中に入られるのは困るが、人手として貸していただける分には否定はしない」
そこでイル義父様は「ただ」と、ひと息置いた。
「私が言えたことでもないが……家族それぞれ、きちんと向き合って話をされることを、強く推奨しておこう。後悔の海に沈む様な何かに巻き込まれたくないだろう?」
――家族で話し合え。
もっともなイル義父様からの苦言に、その場にいた誰もが、何も言えなかった。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
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