聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第三部 宰相閣下の婚約者

635 護衛とは

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「コンティオラ公爵令息は、そろそろ出発して頂く事は出来ますか?」

 私の問いかけに、ヒース君がピシリと背筋を伸ばした。

「大丈夫です。その……私は学園から直行したと、そう言う振る舞いをする必要があるのですよね?」

「はい、ぜひ。ただウソをつくのがヘタだと言う自負がおありなら、お友達と食事をされたとか、追加の言い訳をご用意下さい」

「……嘘……言い訳……」

 16歳前後の少年に、腹芸だ仄めかしだとのごまかしを指示するのも酷かと思って、敢えてぶっちゃけてみたら、逆にちょっと引かれてしまった。

「要はこちらが勘付いて、罠にかけようとしていることを悟られなければ何でもオッケーです。怪しまれない事を最優先にお願いします。言いたいことは明日、詐欺犯が捕まるまで呑み込んで下さい」

 ナルディーニ侯爵の弟夫人を問い詰めようとしたり、姉を叱り飛ばそうとされるのが、一番困る。

 もしかしたらヒース君が何かを言うことで、姉の方が意固地になって詐欺集団と会おうとするかも知れないけれど、それはそれで弟夫人を警戒させる可能性もある。

「潜入させる護衛が見つからないよう、気付いた時にさりげなくフォローしていただけたら、それが一番助かります」

「例えば入れ替わったと悟っても気付かないフリをする……とかですか?」

「そうですね。あと、邸宅やしき内で『事情聴取』している場面を目撃したとしても見逃していただく……とかでしょうか」

「それは……」

 私の言葉に、ヒース君は一瞬だけ考える仕種を見せた。

「……愚姉やデリツィア夫人にバレなければ、私が立ち会ったり、ウリッセに何かを尋ねたりしても構わないんですよね?」

「ウリッセとその夫人以外に内通者がいないことがハッキリしていれば構いませんよ?もしいれば、そちらから露見しないとも限りませんし」

「それは、イデオン公爵家の護衛の方が確認していただける?」

 ヒース君の問いかけに、私が「潜入班」となったルヴェックの方を振り返ると、視線の意味が分かったのか――

「承りました。確認して、何らかの方法でご子息にお知らせしましょう」

 と、片手を上げた。

 ありがとう、そうして欲しい……と、ルヴェックに対して頷いたヒース君は、再び私の方へと向き直った。

「では、その時に我がコンティオラ公爵家の護衛の長を立ち会わさせて下さい。さすがに邸宅やしき内で、他家の護衛だけで話を進めるのはいただけないと思います。高等法院での裁判となった際、我が家は何をしていたのかと言う話になってしまう」

 恐らく妹のことが原因だとしても、そのウリッセの内通を知った時点で、護衛の長としては後悔に苛まれる筈。

 立ち会わせて、彼にも役割を与えたいと、ヒース君は口にした。

「他に内通者がいるかいないかと言う話は、身内ではなくイデオン公爵家の護衛と言う第三者の確認があった方が良いと思いますが、いないと分かればその後は、やはりコンティオラ公爵邸内のことですから、彼らとて指をくわえて見ていたくはないかと」

「あー……じゃあ、まあ、明日詐欺集団の一部を邸宅おやしきの中に招いた後の流れとかを話し合っておいて下さい。いつもご令嬢がどこで勉強をしているのかは分かっているでしょうから、そこにこっそり立ち会うのにはどこが最適か――とか、特に」

「ああ、そうですね。私も普段は学園の寮にいますから、そう言ったところは詳しくありません。邸宅やしきの内外の配置とかも含めて、外にバレないように話し合うようにしましょう」

 他に内通者がいないことが分かれば、弟夫人とマリセラ嬢にだけ注意をして、邸宅やしき内で動けば良いと言う話になるから、幾分負担は軽くなる筈だ。

 確かに、外にバレないようにだけ気を遣えば良いと言う話になる。
 私は微かに頷いて、賛同の意を見せた。

「決まったらこちらに知らせて下さい。イデオン公爵家の護衛でも、コンティオラ公爵家の護衛でも、誰がどうやってこちらに知らせるかは任せますので。最終的に、外から見張っている『敵』とは、中と連携しつつ潰して行きたいので、連絡役を立てておいて頂けると助かります」

「分かりました」

 コンティオラ公爵邸内のことは、それで良いだろう。

 私はそのまま、自警団のラジス副団長と王都警備隊のキーロの方へと向き直った。

「ラジス副団長とキーロは、明日、一緒にコンティオラ公爵邸に行きましょう。理想は令嬢の教師を装った詐欺師が邸宅やしき内に入ったあたりで、使用人用の出入り口からでも入って、勉強部屋の近くで待機……と言ったところですかね」

 私の言葉に「うーん……」と、ラジス副団長が口元を手で覆った。

「外の連中を捕まえるのはどうするんだ?自警団もそうだが、王都警備隊から人を出すことだってやぶさかじゃないだろうよ」

 自分とキーロ、それぞれを指でさすラジス副団長に、キーロも無言で首を縦に振っている。

「もし、捕らえるのが得意な人がいれば、助っ人していただいて構いませんが……難しそうなら、副団長とキーロの護衛程度の人を出して貰えれば、それで構いませんよ?」

 秘密裡、を強調した私に、二人はそれぞれに眉根を寄せた。

「コンティオラ公爵家は、五公爵家の中でも特に王宮よりのところに邸宅おやしきがあるでしょう?昼間から目立つ形で大捕物をやらかしては、誰に目撃されないとも限らないし、尾ひれがついたおかしな噂が立たないとも限らない。真っ昼間ですけど、あくまでひっそりと、外のゴロツキ――ごほん、詐欺集団は捕まえて貰いたいので、そのあたり情報共有をお願いします」

 自警団はもちろんのこと、王都警備隊も、元特殊部隊出身と言うキーロが異質なのであって、基本的には隠密行動には不向き、堂々と正面から乗り込んで相手を捕らえるのが標準仕様デフォルトの筈だ。

「「……なるほど」」

 果たして思い当たるフシがあるのか、一瞬言葉に詰まったタイミングまで同じに、ラジス副団長とキーロが気圧された様に頷いた。

「お二人は、むしろ中にいる詐欺犯を逃がさないよう、取り押さえて貰うのに手をお貸し下さい。現行犯逮捕が最優先ですから、逃げられないように」

 頷いた二人を横目に、私はそして「最後の一人」を、改めて振り返った。

「そんな理由ワケで、

「⁉」

 私の「お義兄にい様」呼びをどうこう言う余裕もなく、唖然と事の成り行きを窺っていたっぽいユセフが、返事の代わりにピクリと肩を震わせた。

「当日、ご一緒にコンティオラ公爵邸に行って頂くための護衛と、コンティオラ公爵邸の外で様子を窺っている詐欺集団を捉えるための人手をお貸し下さい」

 各邸宅付の護衛の方が、裏方職に近い――と捕り物をするのに向いているだろうとは〝鷹の眼〟を知る私の勝手な思い込みだ。

 だけど多分、そう間違ってはいない筈なのだ。

 ――ほら、ちゃんと考えているでしょう?

 私は多分にエリィ義母様への主張をそこに含ませつつ、じっと義兄の顔を覗き込んだ。
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