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第三部 宰相閣下の婚約者
634 死亡フラグを立てないで
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全て片付いたら、ちゃんと話をしよう――。
コンティオラ公爵は、まるで離婚前の夫、あるいは死亡フラグでも立てたいのかと言うようなセリフを妻に言い置いて、王宮へと戻って行った。
ヒース君が「父上……」と、片手で額を覆いながら首を横に振ったくらいだ。
そうですか、基本ヘタレパパなんですね、コンティオラ公爵閣下。
圧倒的に言葉が足りない。
「――何、他人事みたいな顔してんだよ、アンタも」
そんな父子をじっと見ていたら、ファルコに、全力ではないものの、握り拳を頭の上にゴンと落とされた。
「痛っ」
「全力で殴ってねぇだろうが。すっとぼけてないで、この後どうすんのか指示を出せ。分かってんのか?アンタに何かあったら、こっちは氷窟に放り込まれるどころじゃ済まねぇし、アンタはアンタで一生邸宅から出られなくなるんだからな」
あっ、やっぱりさっきのエドヴァルドのアレはそう言う意味だった!
それもそれで、ある意味死亡フラグ……人の事は言えませんでした。ハイ。
ちょっと遠い目の私に、私と〝鷹の眼〟以外、このノリに慣れていない面々はそれぞれ目を大きく見開いていた。
「レイナちゃん……?」
「あっ、エリィ義母様ごめんなさい、淑女らしくなくて!私と彼ら、いつもこの距離感なんで、つい」
「ええ、まあ、それは自覚があるのなら今日は目を瞑りますけれど……」
何だか物騒じゃなくって……? とこちらを窺うエリィ義母様に、ヒース君もお義兄様もコンティオラ公爵夫人も、同意の表情を見せていた。
私は「気にしないで下さい!」と、なるべく明るく笑って両手を振っておく。
「イデオン公爵邸における日常的交流の一環です! ね、ファルコ⁉」
「あ⁉ おう、そ、そう……なのか? あ、いや、そうだな!」
首を傾げかけたファルコをキッと睨んだところ、どうやら意図は伝わったらしく、すぐにブンブンと首を縦に振って方向転換していた。
「詐欺犯をちゃんと捕まえれば済む話だしな!」
――そうそう、エリィ義母様に「納得」と「安心」を!
「ね!」
間違ってはいないのだ。
万一のことがあれば、ちょっと怖いだけだ。
それ以上は、かえっておかしなフラグが立つから黙っておく……それだけだ。
「レイナちゃんがそれで良いなら、これ以上は何も言わないけれど……ちゃんと、どうするのか道筋は立ててあるのね? 遠慮して、イデオン家の者だけを使うと言うのもナシよ?」
「だ、大丈夫です!ほら、この後コンティオラ公爵令息には邸宅に戻って貰わないといけませんし、協力必須ですよ?」
「それはそうなんだけど……」
私は、まだ懐疑的な空気を醸し出したままのエリィ義母様に特に聞かせるように、ややボリュームを上げて、この後の「指示」をファルコに出した。
「ファルコ、確か一番変装が得意なのって、ハジェスだったよね?」
「そうだな、二人入り用なら次点はゲルトナーだな」
「うーん……とりあえず一人でいいかな。ハジェスをコンティオラ公爵令息が戻る馬車に潜ませて、コンティオラ邸に着いたところで、ウワサの護衛君と入れ替わらせてくれる?」
出来るのか、とは私は聞かない。
だって〝鷹の眼〟全員、何でもアリだと思っているから。
お義兄様やヒース君が無言のまま驚いているけれど、きっとファルコは〝鷹の眼〟の長として「出来ない」とは言わない。
「入れ替わらせるだけか? 元の男に事情聴取しなくて良いのか?」
そして案の定、ファルコは「何言ってんだ」とすら言わなかった。
だから私も、そのまま話を続ける。
「や、それは必須。さっき、外には連れ出さない方が良いって言ってたよね? その彼、バリエンダールの北方遊牧民族の血を引くと言っても、お母様が出身って言うことだけだから、言葉は大丈夫だと思うんだけど、念の為グザヴィエかコトヴァを一緒に付けて、事情聴取して貰って良い?」
もしかしたら、直近の母の故郷の様子を語るだけでも、何か変わったりするかも知れない。
実際にそんなにチョロかったら苦労はしないだろうけど、仕込んでおくにこしたことはない。
もともとはアンジェス語とバリエンダール語のバイリンガルだったグザヴィエとコトヴァは、エドヴァルドの護衛を兼ねて北部地域にまで足を延ばしたことで、バルトリからネーミ語を少しだけ教わっていた。
本人たち曰くまだまだカタコトで、バルトリが戻り次第続きを教わると言うことらしい。
ウリッセと言う、そのコンティオラ公爵邸の護衛がどの民族の血を引くにせよ、単語は似ていると聞いているから、もしもの時でも多少は対応出来るのではないかと思うのだ。
「あー……じゃあ、コトヴァに行かせるわ。グザヴィエは背も高いし体格も良い。潜入をバレない前提でする以上は、小柄なコトヴァの方が適任だろうな。ルヴェックも付けておけば、最悪ダンマリを決め込んだとしても何とかなるだろ」
ルヴェックは暗示や洗脳が得意だ。自白剤と同等の効果を持って、相手に話をさせることも出来る。
私は「ん」と簡略化しつつ、それを許可した。
「何か聞き出せたらすぐにこっちに連絡回してくれる?とりあえず今夜は起きてるから」
「……アンタなぁ……」
その後の私の「今夜は起きている」発言に、ファルコが盛大に顔を顰めた。
残りは、私の「徹夜も辞さない」発言に、ちょっと引いていると言ったところだろうか。
「一晩だったら、エドヴァルド様も怒らないでしょ」
「胸はって言えるか?」
「…………多分?」
「俺らを殺す気か?」
「そう思うなら、なるべく早く事情聴取終わらせてくれたら良いでしょうよー」
ルヴェックも行くなら、徹夜にならない内に「素直に話して」貰えば良いだけの話じゃないか。
私の小さな抗議を、ファルコは忌々しげに受け止めた。
「わーったよ! で、残りは明日乗り込むのか?」
「そう。コンティオラ公爵令息が学園へ行くと見せかけて、ナルディーニ侯爵家のお子さん達を連れ出したあたりからかな。多分、そう間を置かずに詐欺犯が邸宅にやって来るだろうから、それは確実に中に通して」
「そうそう都合良く来るのか?」
「そこは、来させるんじゃない。ハジェスに言って、入れ替わったところで外の連中に嘘の情報を吹き込んで貰うから」
「嘘の情報?」
「正確には、ウソとホントの入り混じる情報。言い方は任せるけど、例えば……『当代エモニエ侯爵から何やら手紙が届いて、奥様が邸宅を飛び出して行かれた』とか? 別に私が言った通りじゃなくても良いのよ。夫人がいない今なら、弟夫人を使って令嬢から更にお金を搾り取れるかも――って、思わせられれば何でも」
「いいのか?それやったら、その弟夫人とやらは助けられないかも知れねぇぞ?」
ファルコの言い分も、もっともだった。
コンティオラ公爵令嬢がお金を支払うところを現行犯逮捕するなら、金払いをよくさせようと、その場で耳に良いことを囁くかも知れないナルディーニ侯爵の弟夫人は、詐欺集団の一員の側に回ることになる。
ここまでの話を聞いていると、どうやら何かしらの理由はあるようだけど、現時点ではそこはまだ曖昧だ。
「そこはほら、ウリッセだっけ?彼と入れ替わった時にでも事情を聞いて、明け方までに確認出来るところまで確認してくれれば」
「何気にしれっと、無茶ぶりすんな!」
「氷漬け回避! 一蓮托生! 目指せ監禁回避!」
「いや、最後のは違ぇだろ! そこはアンタが『自重』を旅から呼び戻せば済む話じゃねぇかよ!」
二人してヒートアップしかかっていたそこへ、パンッ……と、柏手を打つような音が辺りに響き渡った。
「そこまで」
「エリィ義母様……」
「ここは、揉めるところじゃないでしょう、レイナちゃん?やれるのか、やれないのか。貴女はそれだけを確認すべきところよ?」
「「…………」」
エリィ義母様の仲裁の言葉と、その迫力に、私もファルコも反論が出来ずに言葉に詰まってしまった。
「ま、まぁ……やれなくはないけどな」
「あ、うん……ヨロシク」
――それ以外に、何を言える筈もなかった。
コンティオラ公爵は、まるで離婚前の夫、あるいは死亡フラグでも立てたいのかと言うようなセリフを妻に言い置いて、王宮へと戻って行った。
ヒース君が「父上……」と、片手で額を覆いながら首を横に振ったくらいだ。
そうですか、基本ヘタレパパなんですね、コンティオラ公爵閣下。
圧倒的に言葉が足りない。
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ちょっと遠い目の私に、私と〝鷹の眼〟以外、このノリに慣れていない面々はそれぞれ目を大きく見開いていた。
「レイナちゃん……?」
「あっ、エリィ義母様ごめんなさい、淑女らしくなくて!私と彼ら、いつもこの距離感なんで、つい」
「ええ、まあ、それは自覚があるのなら今日は目を瞑りますけれど……」
何だか物騒じゃなくって……? とこちらを窺うエリィ義母様に、ヒース君もお義兄様もコンティオラ公爵夫人も、同意の表情を見せていた。
私は「気にしないで下さい!」と、なるべく明るく笑って両手を振っておく。
「イデオン公爵邸における日常的交流の一環です! ね、ファルコ⁉」
「あ⁉ おう、そ、そう……なのか? あ、いや、そうだな!」
首を傾げかけたファルコをキッと睨んだところ、どうやら意図は伝わったらしく、すぐにブンブンと首を縦に振って方向転換していた。
「詐欺犯をちゃんと捕まえれば済む話だしな!」
――そうそう、エリィ義母様に「納得」と「安心」を!
「ね!」
間違ってはいないのだ。
万一のことがあれば、ちょっと怖いだけだ。
それ以上は、かえっておかしなフラグが立つから黙っておく……それだけだ。
「レイナちゃんがそれで良いなら、これ以上は何も言わないけれど……ちゃんと、どうするのか道筋は立ててあるのね? 遠慮して、イデオン家の者だけを使うと言うのもナシよ?」
「だ、大丈夫です!ほら、この後コンティオラ公爵令息には邸宅に戻って貰わないといけませんし、協力必須ですよ?」
「それはそうなんだけど……」
私は、まだ懐疑的な空気を醸し出したままのエリィ義母様に特に聞かせるように、ややボリュームを上げて、この後の「指示」をファルコに出した。
「ファルコ、確か一番変装が得意なのって、ハジェスだったよね?」
「そうだな、二人入り用なら次点はゲルトナーだな」
「うーん……とりあえず一人でいいかな。ハジェスをコンティオラ公爵令息が戻る馬車に潜ませて、コンティオラ邸に着いたところで、ウワサの護衛君と入れ替わらせてくれる?」
出来るのか、とは私は聞かない。
だって〝鷹の眼〟全員、何でもアリだと思っているから。
お義兄様やヒース君が無言のまま驚いているけれど、きっとファルコは〝鷹の眼〟の長として「出来ない」とは言わない。
「入れ替わらせるだけか? 元の男に事情聴取しなくて良いのか?」
そして案の定、ファルコは「何言ってんだ」とすら言わなかった。
だから私も、そのまま話を続ける。
「や、それは必須。さっき、外には連れ出さない方が良いって言ってたよね? その彼、バリエンダールの北方遊牧民族の血を引くと言っても、お母様が出身って言うことだけだから、言葉は大丈夫だと思うんだけど、念の為グザヴィエかコトヴァを一緒に付けて、事情聴取して貰って良い?」
もしかしたら、直近の母の故郷の様子を語るだけでも、何か変わったりするかも知れない。
実際にそんなにチョロかったら苦労はしないだろうけど、仕込んでおくにこしたことはない。
もともとはアンジェス語とバリエンダール語のバイリンガルだったグザヴィエとコトヴァは、エドヴァルドの護衛を兼ねて北部地域にまで足を延ばしたことで、バルトリからネーミ語を少しだけ教わっていた。
本人たち曰くまだまだカタコトで、バルトリが戻り次第続きを教わると言うことらしい。
ウリッセと言う、そのコンティオラ公爵邸の護衛がどの民族の血を引くにせよ、単語は似ていると聞いているから、もしもの時でも多少は対応出来るのではないかと思うのだ。
「あー……じゃあ、コトヴァに行かせるわ。グザヴィエは背も高いし体格も良い。潜入をバレない前提でする以上は、小柄なコトヴァの方が適任だろうな。ルヴェックも付けておけば、最悪ダンマリを決め込んだとしても何とかなるだろ」
ルヴェックは暗示や洗脳が得意だ。自白剤と同等の効果を持って、相手に話をさせることも出来る。
私は「ん」と簡略化しつつ、それを許可した。
「何か聞き出せたらすぐにこっちに連絡回してくれる?とりあえず今夜は起きてるから」
「……アンタなぁ……」
その後の私の「今夜は起きている」発言に、ファルコが盛大に顔を顰めた。
残りは、私の「徹夜も辞さない」発言に、ちょっと引いていると言ったところだろうか。
「一晩だったら、エドヴァルド様も怒らないでしょ」
「胸はって言えるか?」
「…………多分?」
「俺らを殺す気か?」
「そう思うなら、なるべく早く事情聴取終わらせてくれたら良いでしょうよー」
ルヴェックも行くなら、徹夜にならない内に「素直に話して」貰えば良いだけの話じゃないか。
私の小さな抗議を、ファルコは忌々しげに受け止めた。
「わーったよ! で、残りは明日乗り込むのか?」
「そう。コンティオラ公爵令息が学園へ行くと見せかけて、ナルディーニ侯爵家のお子さん達を連れ出したあたりからかな。多分、そう間を置かずに詐欺犯が邸宅にやって来るだろうから、それは確実に中に通して」
「そうそう都合良く来るのか?」
「そこは、来させるんじゃない。ハジェスに言って、入れ替わったところで外の連中に嘘の情報を吹き込んで貰うから」
「嘘の情報?」
「正確には、ウソとホントの入り混じる情報。言い方は任せるけど、例えば……『当代エモニエ侯爵から何やら手紙が届いて、奥様が邸宅を飛び出して行かれた』とか? 別に私が言った通りじゃなくても良いのよ。夫人がいない今なら、弟夫人を使って令嬢から更にお金を搾り取れるかも――って、思わせられれば何でも」
「いいのか?それやったら、その弟夫人とやらは助けられないかも知れねぇぞ?」
ファルコの言い分も、もっともだった。
コンティオラ公爵令嬢がお金を支払うところを現行犯逮捕するなら、金払いをよくさせようと、その場で耳に良いことを囁くかも知れないナルディーニ侯爵の弟夫人は、詐欺集団の一員の側に回ることになる。
ここまでの話を聞いていると、どうやら何かしらの理由はあるようだけど、現時点ではそこはまだ曖昧だ。
「そこはほら、ウリッセだっけ?彼と入れ替わった時にでも事情を聞いて、明け方までに確認出来るところまで確認してくれれば」
「何気にしれっと、無茶ぶりすんな!」
「氷漬け回避! 一蓮托生! 目指せ監禁回避!」
「いや、最後のは違ぇだろ! そこはアンタが『自重』を旅から呼び戻せば済む話じゃねぇかよ!」
二人してヒートアップしかかっていたそこへ、パンッ……と、柏手を打つような音が辺りに響き渡った。
「そこまで」
「エリィ義母様……」
「ここは、揉めるところじゃないでしょう、レイナちゃん?やれるのか、やれないのか。貴女はそれだけを確認すべきところよ?」
「「…………」」
エリィ義母様の仲裁の言葉と、その迫力に、私もファルコも反論が出来ずに言葉に詰まってしまった。
「ま、まぁ……やれなくはないけどな」
「あ、うん……ヨロシク」
――それ以外に、何を言える筈もなかった。
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