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第三部 宰相閣下の婚約者
638 派遣の事情
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『コンティオラ公爵邸の外には、7人いた』
それまでは「居る筈」と言う予測だったところが、この時点でキーロによって、明確な形となって「敵」の存在が浮き彫りになった。
『7人……』
『とは言え、オレとラジス副団長がその場にいた間に、一人がどこかへ何かを知らせにそこから抜けた。時間帯を考えても、恐らくは寝泊りをしている宿が王都にも別にあるのだろうと、その場で相談をして、ラジス副団長がその後を追った。腕力も体力も持て余しているようだったし、今は場所さえ分かれば良いだろうと思ったんだ』
なるほど今回、詐欺犯の「捕り物」を想定してこちらに派遣されたラジス副団長は、普通に考えれば尾行や宿への潜入には向いていないように見える。
だけど今回は、滞在先さえ把握をしておけば、あとは夜が明けてからでも対応すれば良いだろうと、何より意気込んできた分、ヤル気が宙に浮いている状態の副団長のガス抜きをさせようと、キーロは考えたのかも知れなかった。
『あと、話には出ていなかったがフォルシアン公爵家の護衛が一人付いて来ていたから、副団長に同行させた。多分、副団長はこちらに報告に来るとして、宿の見張りとして残る筈だ』
『……へぇ……』
確かに私は話をしていないし、指示も出していない。
お義兄様の指示だろうか。
副団長と、どちらか早くこの場に現れた方に、それは確認しておこうと思った。
『とすると、全員外に出てるって話にはならないから、少なくとも10人前後はいるって話に――あ、セルマの街にいる分も含めたら、もっとかな』
『ああ。あのフォルシアン公爵家の息子の方に、それは言っておいた方が良い。全員捕縛するなら、の話だが』
『?』
『首謀者以外処分して良いなら、今からオレがそうしてもいい』
『いやいやいや!』
真顔で何言ってんの!
私はぶんぶんと両手を横に振って、キーロを宥めた。
『無駄な血は流さなくて良いから!』
『だが――』
『今回、関係者は全員陛下に献上するから! 勝手にオモチャ取り上げたら怒られるからね⁉』
『……オモチャ』
正しく「オモチャ」だろう。
そう言いかけて、私は慌てて口を閉ざした。
キーロも元・特殊部隊所属として思うところがあるのか、それ以上こちらにはツッコんでこなかった。
『ま、まあ、陛下じゃなくても良いんだけどね? 王宮関係者皆、ただでさえ忙しいところに仕事増やされて怒り倍増中だろうから、ここは犯人献上して、矛を収めて貰わないと』
それはもう、煮るなり焼くなりお好きにどうぞ、だ。
『生贄?』
『そうとも言うかな』
『…………』
『ほら、ひょっとしたらバリエンダール王家に恩だって売れるかも知れないし?』
ね? と微笑う私に、キーロはかなり複雑そうな表情を浮かべた。
ここでは言わないし、キーロが知っているのかどうか分からないけど、近日中に行われる三国会談にあたっての「手土産」としてはうってつけだろう。
たった一本でも、隣国ベッカリーア公爵家に繋がる、目に見える証拠が出れば、バリエンダールと対等の交渉が可能になる。
特に外交部――コンティオラ公爵にとっては、公爵家自体が重い処分を下される可能性が激減する筈だ。
『もちろん、宰相閣下に最初に許可は貰うけどね? 外交部への献上は、あくまで個人的な案』
エドヴァルドが、国王陛下を通してミラン王太子への「貸し」とした方が良いと考えるかも知れないし、あるいはその両方を成り立たせる案を持っているかも知れない。
どちらにしても、こちらで勝手に「処分」をすると言う策は、私の選択肢としては存在しないのだ。
『ああ……ただ可哀想だとか、血を見たくないとか、そう言う話ではないのか……』
いや、血なんて誰だって見たくないだろうに。
そう言い返したくなったものの、キーロは一人で何かを納得した様に頷いていて、私もこの時点で、あれこれと反論をすることは諦めた。
『分かった。では当面は、王都警備隊の一員らしく仕事をしておく。それ以上の手が必要になったら言ってくれ』
もしもし、キーロさん。
らしくも何も、現役の警備隊士ですよね?
いったい何を命令されると思っていたんですか?
『一番の目的は、明日の証言者になって貰うことだよ、キーロ? まあ次点で明日、ご令嬢や敵側協力者の夫人の身に危険が及んだ場合に、手を借りることもあるかもだけど』
『詐欺犯連中が、コトが露見して逆ギレしてきた場合に、二人が殺されないように動けと?』
『そうだね、そんな感じ。もしくはこちらの目を盗んで、邸宅から出ようとする人間がいたら、問答無用で捕まえる……とか』
『なるほど、逃げる気を失くすくらい大人しくさせれば良いと言うことだな?』
『…………間違いではないのかな、うん』
このテの詐欺は、手を変え品を変え名前を変えと、雨後の筍のごとく湧いて出るものだ。
関係者全員捕縛は絶対条件になる。
誰か一人でも逃がしてしまえば、次は別の領地で伊勢海老詐欺とか起きるかも知れない。
『そう言うことなら、任せておけ』
伊勢海老云々は通じないだろうから言わないにせよ、私の視線がやや不安げに見えたのかも知れない。
任せておけ、のところをキーロは強調した。
『レヴが自分の代わりに、俺なら役に立てると考えたんだろう。だったらその期待に応えるまでのことだ』
『……えーっと、うん、ヨロシク』
『殺伐とした特殊部隊に居続けるのもな、と思って王都警備隊に移ったが、たまにこんな機会があると、あの日々も無駄じゃなかったのかと思える』
多少の刺激はあっても良いかも知れない――なんて、楽しそうに言われましても。反応に困るんですが、キーロさん。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アンケート、ご協力有難うございます!
私一人では想像しえない案をたくさんいただいて、楽しく拝見しています(*ノωノ)
本日深夜を最終受付とさせて頂く予定ですm(_ _)m
コメント欄への返信も、その後でさせて頂けたらと思います。
引き続きどうぞ宜しくお願い致します。
それまでは「居る筈」と言う予測だったところが、この時点でキーロによって、明確な形となって「敵」の存在が浮き彫りになった。
『7人……』
『とは言え、オレとラジス副団長がその場にいた間に、一人がどこかへ何かを知らせにそこから抜けた。時間帯を考えても、恐らくは寝泊りをしている宿が王都にも別にあるのだろうと、その場で相談をして、ラジス副団長がその後を追った。腕力も体力も持て余しているようだったし、今は場所さえ分かれば良いだろうと思ったんだ』
なるほど今回、詐欺犯の「捕り物」を想定してこちらに派遣されたラジス副団長は、普通に考えれば尾行や宿への潜入には向いていないように見える。
だけど今回は、滞在先さえ把握をしておけば、あとは夜が明けてからでも対応すれば良いだろうと、何より意気込んできた分、ヤル気が宙に浮いている状態の副団長のガス抜きをさせようと、キーロは考えたのかも知れなかった。
『あと、話には出ていなかったがフォルシアン公爵家の護衛が一人付いて来ていたから、副団長に同行させた。多分、副団長はこちらに報告に来るとして、宿の見張りとして残る筈だ』
『……へぇ……』
確かに私は話をしていないし、指示も出していない。
お義兄様の指示だろうか。
副団長と、どちらか早くこの場に現れた方に、それは確認しておこうと思った。
『とすると、全員外に出てるって話にはならないから、少なくとも10人前後はいるって話に――あ、セルマの街にいる分も含めたら、もっとかな』
『ああ。あのフォルシアン公爵家の息子の方に、それは言っておいた方が良い。全員捕縛するなら、の話だが』
『?』
『首謀者以外処分して良いなら、今からオレがそうしてもいい』
『いやいやいや!』
真顔で何言ってんの!
私はぶんぶんと両手を横に振って、キーロを宥めた。
『無駄な血は流さなくて良いから!』
『だが――』
『今回、関係者は全員陛下に献上するから! 勝手にオモチャ取り上げたら怒られるからね⁉』
『……オモチャ』
正しく「オモチャ」だろう。
そう言いかけて、私は慌てて口を閉ざした。
キーロも元・特殊部隊所属として思うところがあるのか、それ以上こちらにはツッコんでこなかった。
『ま、まあ、陛下じゃなくても良いんだけどね? 王宮関係者皆、ただでさえ忙しいところに仕事増やされて怒り倍増中だろうから、ここは犯人献上して、矛を収めて貰わないと』
それはもう、煮るなり焼くなりお好きにどうぞ、だ。
『生贄?』
『そうとも言うかな』
『…………』
『ほら、ひょっとしたらバリエンダール王家に恩だって売れるかも知れないし?』
ね? と微笑う私に、キーロはかなり複雑そうな表情を浮かべた。
ここでは言わないし、キーロが知っているのかどうか分からないけど、近日中に行われる三国会談にあたっての「手土産」としてはうってつけだろう。
たった一本でも、隣国ベッカリーア公爵家に繋がる、目に見える証拠が出れば、バリエンダールと対等の交渉が可能になる。
特に外交部――コンティオラ公爵にとっては、公爵家自体が重い処分を下される可能性が激減する筈だ。
『もちろん、宰相閣下に最初に許可は貰うけどね? 外交部への献上は、あくまで個人的な案』
エドヴァルドが、国王陛下を通してミラン王太子への「貸し」とした方が良いと考えるかも知れないし、あるいはその両方を成り立たせる案を持っているかも知れない。
どちらにしても、こちらで勝手に「処分」をすると言う策は、私の選択肢としては存在しないのだ。
『ああ……ただ可哀想だとか、血を見たくないとか、そう言う話ではないのか……』
いや、血なんて誰だって見たくないだろうに。
そう言い返したくなったものの、キーロは一人で何かを納得した様に頷いていて、私もこの時点で、あれこれと反論をすることは諦めた。
『分かった。では当面は、王都警備隊の一員らしく仕事をしておく。それ以上の手が必要になったら言ってくれ』
もしもし、キーロさん。
らしくも何も、現役の警備隊士ですよね?
いったい何を命令されると思っていたんですか?
『一番の目的は、明日の証言者になって貰うことだよ、キーロ? まあ次点で明日、ご令嬢や敵側協力者の夫人の身に危険が及んだ場合に、手を借りることもあるかもだけど』
『詐欺犯連中が、コトが露見して逆ギレしてきた場合に、二人が殺されないように動けと?』
『そうだね、そんな感じ。もしくはこちらの目を盗んで、邸宅から出ようとする人間がいたら、問答無用で捕まえる……とか』
『なるほど、逃げる気を失くすくらい大人しくさせれば良いと言うことだな?』
『…………間違いではないのかな、うん』
このテの詐欺は、手を変え品を変え名前を変えと、雨後の筍のごとく湧いて出るものだ。
関係者全員捕縛は絶対条件になる。
誰か一人でも逃がしてしまえば、次は別の領地で伊勢海老詐欺とか起きるかも知れない。
『そう言うことなら、任せておけ』
伊勢海老云々は通じないだろうから言わないにせよ、私の視線がやや不安げに見えたのかも知れない。
任せておけ、のところをキーロは強調した。
『レヴが自分の代わりに、俺なら役に立てると考えたんだろう。だったらその期待に応えるまでのことだ』
『……えーっと、うん、ヨロシク』
『殺伐とした特殊部隊に居続けるのもな、と思って王都警備隊に移ったが、たまにこんな機会があると、あの日々も無駄じゃなかったのかと思える』
多少の刺激はあっても良いかも知れない――なんて、楽しそうに言われましても。反応に困るんですが、キーロさん。
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