聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第三部 宰相閣下の婚約者

647 静かな朝食

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 あれからファルコはフォルシアン邸の方には戻って来なかった。

 王宮にいるゲルトナーと、イデオン邸に戻って何人か選抜ピックアップして、王都内の宿で待機している詐欺集団の関係者を捕らえる方に回る、と言うことらしい。

 その宿に「念話」の魔道具が使える人間を一人回すことで、コンティオラ邸で詐欺集団を捕らえるタイミングと合わせられる――と。

 私の護衛には今、フィトとグザヴィエがいるし、コンティオラ邸に行けば更に潜入中のハジェス、ルヴェック、コトヴァがいる訳だから、自分が行くのは彼らを軽視することにもなると思っているみたいだった。

 そう言うところは、さすが〝鷹の眼〟のトップだなぁと思う。

 そう言えば、宿ってどこなのか具体的にラジス副団長から聞いていなかったな……と思って聞けば「中心街の〝ブルクハウセン〟って宿だ。歓楽街にも近いし、高すぎず安すぎずで下位貴族や商人なんかがよく利用する」と、グザヴィエ越しに答えが返ってきた。

 どこかで聞いた名前だなと思っていたら「以前まえどこぞのコヴァネン子爵サマがオルヴォに取っ捕まった時に予約していた宿だ」と、疑問を読まれたかのように答えを提示された。

 正直、もっと場末な宿にいるものだと思っていたけど、表向きはブロッカ商会なりダミーのシャプル商会なりの関係者を装っているのだろうから、疑われない程度に「そこそこ」の宿を利用する必要はあると考えた――と、言うことなんだろう。

 さすがにセルマに関しては、距離的に以前「念話」を使用したシーカサーリからナリスヴァーラ城よりも更に遠いため、仮にイデオン公爵領防衛軍関係者に魔道具を使える者がいたとしても、使用は恐らく厳しいとの話らしい。

 セルマまで、一般的な馬車で半日とちょっとなら、将軍たちが馬を飛ばしたとして、多少は短縮出来るだろう。

 フォルシアン公爵家の護衛と合流したところで、状況次第でウリッセの妹さんを即救出して貰おう。

「……えーっと、ゼイルスは近くにいる?」

 さっきフィトが、ここへ来るのにフォルシアン家の護衛には「ひと声かけた」と言っていた。

 多分、自家の中で他家の護衛や王都警備隊関係者を野放しにしておくことはないだろうと思って声を出してみたところ、案の定ベランダから見える木の下、月明かりの中蠢く影があった。

 街灯がない以上は顔の判別が出来ない。
 とは言え、多分護衛のトップなら自らがこのベランダの監視に動くだろうと思ったのだ。

「多分聞こえたと思うけど、セルマの街にはイデオン公爵家側から、防衛軍のベルセリウス侯爵を始め、軍関係者が計5人向かうことになったから。ひときわ背も高いし体格も良いし、多分すぐ分かると思うけど……待ち合わせとか、今なら場所を伝えておけるよ?」

 いつどうやって、とか余計なことは〝鷹の眼〟でなくとも、彼も聞かない。

 フォルシアン家は〝青い鷲〟と言うらしいけど、彼らも魔道具を持っているのかどうかなど、根掘り葉掘り聞けるほど、まだ交流らしい交流もない。 

 結局、一度セルマに行っているゼイルス曰く「宿の向かいに宿泊者割引のあるレストランがあって、見張りにも向いている」とのことなので、将軍たちにはそこで食事をしながら待機をして貰って、ゼイルスから声をかけて貰うことにした。

「空もちょっと明るくなってきたし、そろそろ出るんでしょう?将軍の合流に関しては、お義兄様には私から詳細伝えておくから、あとは可能な限り『生け捕り』の方向でお願い」

「……ユティラお嬢様は……」

 一瞬の沈黙のあと、ゼイルスからは思いがけない言葉が零れ落ちていた。

「え?」

「お嬢様も、我々を必要以上に下に見ることなく、割り切って『依頼』をされる方だから……少し、驚いただけだ。委細承知した」

 ユティラお嬢様、いや、今は「お義姉さま」か。

 どんな依頼をしていたのか気にはなるけれど、今は詐欺集団の一網打尽が最大の課題だ。

 そこは今度、アムレアン侯爵領から戻って来たところで、こっそり聞いてみることにしようと思った。


*         *         *


 そして夜も明けた朝。

 食堂ダイニングで席につくなりエリィ義母様が、今朝はイル義父様もエドヴァルドも朝食の席には顔を出せないのだと言った。

「今朝はどうしても、陛下の朝食の席に同席をして、お話をするしか時間が取れなかったそうなのよ」

「あぁ……」

 それを聞いて、思わず遠い目になる。

 恐らく、各公爵が三国会談の下準備に追われる以上は、通常公務は国王陛下フィルバートにも何かしらの公務負担はいくのだろう。

 ナルディーニ侯爵家やエモニエ侯爵家、最終的には〝痺れ茶〟とバリエンダールとの関係についての話を彼の耳に入れようとすると、他者に聞かれづらいと言う点からいっても、国王の私的空間プライベートスペースである王専用食堂ダイニングが最適だとの判断になったんだろう。

「埋め合わせはまた今度、とあの人からの伝言があったの」

 私の「ああ」が、しゅんとしているように見えたのかも知れない。
 エリィ義母様が、イル義父様からのそんな伝言も付け加えてくれた。

 仮にそれがエリィ義母様なりの気遣いだったとしても、エリィ義母様がそう言えばいずれ埋め合わせはされる。きっと。どこかで。

 もっとも、朝食に来られないとなれば、イル義父様がエリィ義母様に連絡を入れない筈がないわけで、多分その伝言は埋め合わせ云々のところまで、間違いなくイル義父様からの伝言として入ったんだと思う。

「エリィ義母様、それなら今度、イデオン公爵邸ので、ピクニックしましょう!私の居た国の言葉なんですけど、そうですね……ガーデンパーティーよりもっとくだけた集まりで、親しい人たちで集まって、座って食事しながら会話を楽しむんです。天気が良ければ気持ちが良くて、いい気分転換になりますよ?」

 より街中にあるフォルシアン公爵邸でも出来なくはないけれど、外から隠すための、ガーデニングに近い庭と木の集まりなので、あくまで「ガーデンパーティー」が出来る場所であって、ピクニック感はちょっと薄い気がする。

 山菜狩りまで出来るイデオン公爵邸の、裏庭ならぬ裏森の方が、よりピクニック気分を味わえると言うものだった。

「あら、レイナちゃんの居た国の形式でのパーティーなのね?面白そうね」

「はい、ぜひ!」

 せっかくならお義姉様ユティラが帰って来てからの方が良いのか、三国会談終了後にお疲れ様会的にやっても良いか――などと考えていると、不意に家令のラリが、食堂ダイニングへとやって来た。

「奥様。コンティオラ公爵家の馬車がこちらに向かっているとのことです。恐らく中にはコンティオラ公爵令息が乗っておられるのではないかと……」

「!」

 恐らく、学園見学に行くてい邸宅やしきを出発してきたのだろう。

 ――いよいよ、事態が動き出したのだ。
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