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第三部 宰相閣下の婚約者
766 選択のお時間です(前)
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カプート子爵とは、今回のお茶会が始まる直前に少しだけ会話を交わしている。
フラーヴェク子爵とは確かに「初めまして」で、そう言う意味ではコデルリーエ男爵家の関係者とも挨拶をして、今後の鉱山の展望について聞いてみたいところだったけれど、どうやらそこはダリアン侯爵家の領主か弟さんかが、まずは動かなくてはならない「課題」となっていたようだった。
名義貸しに関しては、きっと王都商業ギルドのイッターシュギルド長たちも経緯と結論を知りたいだろうから、そこはエリィ義母様に、ユングベリ商会も情報の共有がしたいと、伯父か叔父に伝えて貰うしかなさそうだ。
エドヴァルドに続いて部屋に入って来たのが、カプート子爵とフラーヴェク子爵の二人だった時点で、私はエリィ義母様をじっと見て、目で訴えた。
「……そうね。私もフォルシアン公爵家の人間として、コデルリーエ男爵家のことは放置しておけないものね。弟はこれ以上領地を空けておけないでしょうから、兄に何とかして貰うしかなさそうね」
どうやら私が何かを訴えるまでもなく、エリィ義母様も今ここにコデルリーエ男爵家の関係者が誰もついて来ていないことに、何かしら思うところがあったみたいだった。
「夫人」
そして私とエリィ義母様との間のアイコンタクトに、当然エドヴァルドは気付いていた。
コデルリーエ男爵家、と名前が口をついて出ていたこともあり、恐らくは「何故ここにいないのか」と言葉の裏で問われていたことも察していた。
だからまず、この部屋の誰の目にも分かりやすいようにと、エリィ義母様へと話しかけたんだろう。
ただ、私とエリィ義母様以外に、何の繋がりもない子爵が二人いることも鑑みて、名前は呼ばないようにしているみたいだ。
以前に聞いたところによると、かつては他の公爵家関係者と同様に家名呼びだったそうだけど、イル義父様の「他人行儀だ」で、何度も何度も訂正させられるうちに、エドヴァルドの方が折れたらしい。
反クヴィスト公爵派と見做されるかも知れなくても、イル義父様は態度を曲げなかったのだ。
とは言え、エドヴァルドが折れるのはイル義父様がその場にいる場合にまだ限られているようで、それ以外の場では今のように「夫人」「フォルシアン公爵夫人」と、礼儀に則った対応を通しているような気はした。
これからは義理の父子になるのだから、さらにくだけてくれて構わない――と、イル義父様は笑っているけれど、果たしてどこまで実行されるのかは未知数だ。
そんな「無表情」と名のついたエドヴァルドの仮面に対して、にこやかな淑女の笑みを返したエリィ義母様も、慣れているのか、さすがと言うべきなのか。
「――あら、失礼。余計なことを申し上げましたわ」
イル義父様の妻として、長年エドヴァルドを近くで見てきているであろう経験値が十二分に活かされているようです。ぜひ見習いたいです。
一瞬、エドヴァルドのこめかみが微かに動いた気もしたけれど、気のせいと言われても仕方がないほどの、それは僅かな動きだった。
事実だったら、私も慣れたか学習したか――としみじみ思うところだけれど、今確認する必要もなければ、したところでどうしようもないので、ここはお口にチャック一択。
それに当然と言おうか、エドヴァルドの口をついて出た言葉からは、微塵の感情の揺らぎも読み取れない。
「……今、廊下でフォルシアン公爵とレンナルト卿とすれ違った。まずは管轄上の公爵として採掘量の減少と名義貸しによる現金稼ぎの件に関して追及して貰うことになった。フォルシアン公爵はこの後会議も控えているから、レンナルト卿が戻ってくれば、自ずと事情は分かって来るだろう」
まずは自領の尻拭いは自領で。報告だけは忘れずに。
要はそう言うことなんだろうと、私は一人納得しておくことにした。
「そう言うことでしたら、構いませんわ」
答えたエリィ義母様も、私と同じ認識で受け取ったように見えた。
「我が領へのご配慮、夫に代わりまして御礼を」
公爵夫人として文句のつけようもない綺麗なカーテシーを見せたエリィ義母様に、エドヴァルドは軽く片手を上げた。
「私や彼女に先んじて、アルノシュト伯爵令息の様子を見に行っていることはどうかと思っているんだが。そうは言ってもただでさえ時間の足りない中だ。ヤーデルード鉱山を管理する者としては必要なことだったのだと、あくまで妥協したまでのことだ」
「!」
どうやら、廊下ですれ違った際に、どこへ行っていたのか――を、さらっと聞いたんだろう。
「エドヴァルド様……」
カトル・アルノシュトの容態はどうなっているんだろう。
ファルコは、こっそり確認について行ったりしたのか。
色々と聞きたいことはあれど、黙って首を横に振るエドヴァルドの仕種から察するに、ここでは聞くなと言うことなんだと、私は納得せざるをえなかった。
多分、あとで一緒に行こうと声をかけられる気はしていたから、ここでは空気を読んで、口を噤むことにしておく。
「レイナ。先に王都商業ギルドへの義理立ての手前、カプート子爵とフラーヴェク子爵との話し合いを済ませておいて欲しい。五公爵会議における手札は、少しでも多い方がいい」
「あっ……はい」
話し合い、それすなわち「口裏合わせ」とも言う。
問題の〝痺れ茶〟が、どこから来てどこに流れたのか。
確認して、どこまでをギルド上層部に伝えるのか。
最終的な取捨選択が、いったい誰の為になるのか。
判断の難しい選択を、私は迫られようとしていた。
フラーヴェク子爵とは確かに「初めまして」で、そう言う意味ではコデルリーエ男爵家の関係者とも挨拶をして、今後の鉱山の展望について聞いてみたいところだったけれど、どうやらそこはダリアン侯爵家の領主か弟さんかが、まずは動かなくてはならない「課題」となっていたようだった。
名義貸しに関しては、きっと王都商業ギルドのイッターシュギルド長たちも経緯と結論を知りたいだろうから、そこはエリィ義母様に、ユングベリ商会も情報の共有がしたいと、伯父か叔父に伝えて貰うしかなさそうだ。
エドヴァルドに続いて部屋に入って来たのが、カプート子爵とフラーヴェク子爵の二人だった時点で、私はエリィ義母様をじっと見て、目で訴えた。
「……そうね。私もフォルシアン公爵家の人間として、コデルリーエ男爵家のことは放置しておけないものね。弟はこれ以上領地を空けておけないでしょうから、兄に何とかして貰うしかなさそうね」
どうやら私が何かを訴えるまでもなく、エリィ義母様も今ここにコデルリーエ男爵家の関係者が誰もついて来ていないことに、何かしら思うところがあったみたいだった。
「夫人」
そして私とエリィ義母様との間のアイコンタクトに、当然エドヴァルドは気付いていた。
コデルリーエ男爵家、と名前が口をついて出ていたこともあり、恐らくは「何故ここにいないのか」と言葉の裏で問われていたことも察していた。
だからまず、この部屋の誰の目にも分かりやすいようにと、エリィ義母様へと話しかけたんだろう。
ただ、私とエリィ義母様以外に、何の繋がりもない子爵が二人いることも鑑みて、名前は呼ばないようにしているみたいだ。
以前に聞いたところによると、かつては他の公爵家関係者と同様に家名呼びだったそうだけど、イル義父様の「他人行儀だ」で、何度も何度も訂正させられるうちに、エドヴァルドの方が折れたらしい。
反クヴィスト公爵派と見做されるかも知れなくても、イル義父様は態度を曲げなかったのだ。
とは言え、エドヴァルドが折れるのはイル義父様がその場にいる場合にまだ限られているようで、それ以外の場では今のように「夫人」「フォルシアン公爵夫人」と、礼儀に則った対応を通しているような気はした。
これからは義理の父子になるのだから、さらにくだけてくれて構わない――と、イル義父様は笑っているけれど、果たしてどこまで実行されるのかは未知数だ。
そんな「無表情」と名のついたエドヴァルドの仮面に対して、にこやかな淑女の笑みを返したエリィ義母様も、慣れているのか、さすがと言うべきなのか。
「――あら、失礼。余計なことを申し上げましたわ」
イル義父様の妻として、長年エドヴァルドを近くで見てきているであろう経験値が十二分に活かされているようです。ぜひ見習いたいです。
一瞬、エドヴァルドのこめかみが微かに動いた気もしたけれど、気のせいと言われても仕方がないほどの、それは僅かな動きだった。
事実だったら、私も慣れたか学習したか――としみじみ思うところだけれど、今確認する必要もなければ、したところでどうしようもないので、ここはお口にチャック一択。
それに当然と言おうか、エドヴァルドの口をついて出た言葉からは、微塵の感情の揺らぎも読み取れない。
「……今、廊下でフォルシアン公爵とレンナルト卿とすれ違った。まずは管轄上の公爵として採掘量の減少と名義貸しによる現金稼ぎの件に関して追及して貰うことになった。フォルシアン公爵はこの後会議も控えているから、レンナルト卿が戻ってくれば、自ずと事情は分かって来るだろう」
まずは自領の尻拭いは自領で。報告だけは忘れずに。
要はそう言うことなんだろうと、私は一人納得しておくことにした。
「そう言うことでしたら、構いませんわ」
答えたエリィ義母様も、私と同じ認識で受け取ったように見えた。
「我が領へのご配慮、夫に代わりまして御礼を」
公爵夫人として文句のつけようもない綺麗なカーテシーを見せたエリィ義母様に、エドヴァルドは軽く片手を上げた。
「私や彼女に先んじて、アルノシュト伯爵令息の様子を見に行っていることはどうかと思っているんだが。そうは言ってもただでさえ時間の足りない中だ。ヤーデルード鉱山を管理する者としては必要なことだったのだと、あくまで妥協したまでのことだ」
「!」
どうやら、廊下ですれ違った際に、どこへ行っていたのか――を、さらっと聞いたんだろう。
「エドヴァルド様……」
カトル・アルノシュトの容態はどうなっているんだろう。
ファルコは、こっそり確認について行ったりしたのか。
色々と聞きたいことはあれど、黙って首を横に振るエドヴァルドの仕種から察するに、ここでは聞くなと言うことなんだと、私は納得せざるをえなかった。
多分、あとで一緒に行こうと声をかけられる気はしていたから、ここでは空気を読んで、口を噤むことにしておく。
「レイナ。先に王都商業ギルドへの義理立ての手前、カプート子爵とフラーヴェク子爵との話し合いを済ませておいて欲しい。五公爵会議における手札は、少しでも多い方がいい」
「あっ……はい」
話し合い、それすなわち「口裏合わせ」とも言う。
問題の〝痺れ茶〟が、どこから来てどこに流れたのか。
確認して、どこまでをギルド上層部に伝えるのか。
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判断の難しい選択を、私は迫られようとしていた。
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