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第三部 宰相閣下の婚約者
787 復讐の未亡人~幕間~
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「私がギルドに残しておいた手紙は、もはや意味を為さないと仰いますの?」
エモニエ先代侯爵夫人の声は、少し震えていたかも知れない。
耐えて耐えて、ようやく反撃の機会を得たと思っていたものが、一瞬にしてふいになったと思ってしまったんだろう。
そうじゃない。
私は緩々と首を横に振った。
「手紙は重要です。隣国の某公爵家を追い詰めるのに、これ以上はない一手になると思います。何しろ問題の茶葉に関わっている家門、商会がこれみよがしに書かれているのですから」
「では……」
「その手紙、きっと内容は一言一句違うことなく覚えておいでですよね? ブラーガ領都商業ギルドに保管されているのは、あくまで夫人ご自身の身に何かがあった時のためのもの。本来であれば写しを作って、ご自身でご実家に乗り込まれるおつもりだったのでは?」
「!」
エモニエ先代侯爵夫人が、その他「閣議の間」に居並ぶ面々が、それぞれの為人に応じた驚きの表情を見せる。
一方は言い当てられた驚きに。もう一方は、夫人の覚悟を見せつけられたことに、だ。
返り討ちにあったらどうするつもりだ、などというのは愚問だ。それさえも見越しての、ギルドでの原本保管だったはずだ。
そしてここに居並ぶ面々は、さすが五公爵家と元王族ということだろう。誰もそう言って、エモニエ先代侯爵夫人を窘めなかったのだ。
そこで命を落としたとしても、原本が残るのであればやむなしと思っていたから。
……夫人本人も含めて。
下手をすれば無駄死にだ。いくら後をテオドル大公に託して実家やその後ろ楯の権力を失墜させたいにしても、それはあまりにも勿体ない。
今なら、夫人をバリエンダールに乗り込ませずとも、手紙だけを「地獄への招待状」に変えて送りつけられるし、ついでに次代の王家にだって恩も売れるのだから。
「少なくとも夫人ご自身が、写しを片手にご実家の伯爵家に乗り込まれる必要はなくなった――私が申し上げたかったのは、そういうことです」
エモニエ先代侯爵夫人の方は、まだ三国会談のことやミラン王太子が目論むベッカリーア公爵家派閥の一掃も、何も知らされてはいない。いち侯爵家の、しかも先代夫人の立場であれば、殊ここに至っても詳細を知らされることはないはずだ。
だから私も、結論だけをここでは口にしたのだ。
「そもそも、ご自身と手紙の組み合わせより、テオドル大公殿下と手紙の組み合わせの方が、より信憑性も増すと思われたのでしょう? 今回の件が発覚してからも、逃亡も自害も企てず、じっと身を潜めていらっしゃったのは、何より大公殿下と繋ぎが取れる機会を窺っていたから……ですよね?」
手紙が来るまでは、きっとエモニエ侯爵家に連なるブロッカ商会やナルディーニ侯爵、その息子と言った周囲の人々を踊らせて、じわじわと実家の伯爵家に圧力をかけるつもりだったのだ。
それが、自分の預かり知らぬところで〝痺れ茶〟の流通ルートが次々と暴かれ、崩壊していった。それこそ、保身を図る間も己の手で幕引きをする間もないうちに、だ。
実家から手紙が届いたのと、ナルディーニ侯爵家のやらかしの連座で捕まってしまったのと、もしかしたらそれほどタイムラグはなかったのかも知れない。
ギルドに預けてしまった手紙をどうするか。そう考えた時に、とっさに浮かんだのが、この国でもっともバリエンダールに太いパイプを持つテオドル大公だったに違いない。
「ふむ……ミルテ王女主催のあの茶会は、こんなところにまで影響を与えておったのか」
口元に手をやりながら、テオドル大公が呟いた。
大丈夫です、大公殿下。多分あのお茶会に参加した皆がそう思っています。
「長年のバリエンダール王家との交流が、こんな形であてにされようとは思わなかったな」
そうは言っているものの、その声に不快感はない。
分かる。
エモニエ先代侯爵夫人は、手持ちの札を増やし、心のうちにしまった復讐の刃を研ぎつづけ、ただひたすらに機会を待っていたのだ。
私が家族の軛を離れるために費やした六年の歳月よりも……はるかに長い年月を、彼女は耐えた。
ナルディーニ侯爵父子やエモニエ侯爵家一族の私利私欲と、エモニエ先代侯爵夫人のソレとは、決して同じではない。
長い年月をかけて、彼女は己と国との利害を一致させたのだ。
彼女は無実じゃない。確かに裁かれなくてはならない。
けれど誰も、彼女を蔑むことはないだろう。
「……恐らくはその手紙をあちらの王太子に献上すれば、かなり大きな貸しを作ることが出来ましょうな」
テオドル大公も、だからこそ手紙を活用しないとは言わなかった。
視線をエモニエ先代侯爵夫人ではなく自国の国王へと向けたのも、彼女の意図を汲んだということの表れに見えた。
「ほう……メダルド国王ではなく、か?」
視線を向けられたフィルバートも、目が「何を企んでいる?」とでも言いたげに輝いているので、この場を止めるつもりがないことは明白だ。
それが「続けろ」という意味だと解釈をしたテオドル大公も、小さくため息を洩らしながらも、話を続けた。
「メダルド国王に手渡したところで、すぐには動けんでしょう。とは言え、報告を王太子よりも後にするというのも禍根を残すやも知れませんしな。ここはメダルド国王への報告と、ミラン王太子への手紙の手渡しを同時に行うというのが最も効率的ではないかと」
三国会談がある以上、アンジェス国に到着して手紙を見せられたところで、メダルド国王も対応に困るだけだろう。
帰国後に対応すると約束する以外のことは、その場では出来ないはずだ。
ならば国王が三国会談のために国を空けている間に、国内の「膿」に対して大々的な外科手術を行うつもりでいるミラン王太子に送りつけてしまう方が、ベッカリーア公爵家が証拠隠滅に動く時間も減らせるだろうし、間違いなく王太子にとっての強力な後押しともなる。
穏健派と言われている現国王と異なり、ミラン王太子は目的のためには自分の手を汚すことも厭わない派だ。
しかもそんなミラン王太子の本質も、フォサーティ宰相家の密かな後ろ楯も、父であるメダルド国王は把握していない。
把握していないだろうと察してはいても、アンジェス国の側からわざわざ教えるつもりはないというのがテオドル大公の考えのようで、私もその方がいいだろうとは思っていた。
次代に恩を売る。大事なことだ。今後の付き合いは、間違いなくミラン王太子との方が長いのだから。
「だが今、その手紙の原本とやらをブラーガ領都商業ギルドに取りに行けて、かつ、ミラン王太子に渡せるような人材の余力は――いや、いないわけでもないのか」
「!?」
目が合った。合ってしまった。
フィルバートの目も口も、明らかに獲物を見つけたかのごとく笑っている。
私は思わず、ぶんぶんと首を激しく横に振ってしまった。
離れたところにいるエドヴァルドも、椅子を揺らしたほどだ。
「無理です、無理です! 私は一人では〝転移装置〟は使えませんし!」
「誰か連れていけばいいだろう。無論、宰相は論外だが」
な……っ、と声を洩らしたのは私ではなく、エドヴァルドだ。
確かに今のこの状況下で、宰相であり公爵家当主でもあるエドヴァルドが手紙の原本を受け取りに行くなんてことは論外だ。それは私でも分かる。だけど。
「仮に委任状の一枚でも書いて貰ったとして、それでも私にはまだ商会長としての実績がほとんどありません!」
「だがエモニエ先代侯爵夫人に取りに行かせるわけにいかないことくらいは分かるだろう?」
「分かります! もちろん分かりますが、それなら、ブラーガなら、カプート子爵に行って貰うのが一番いいと思います!」
とっさに口から出た一言ではあるけれど、カプート子爵は元ブラーガ領都商業ギルド長だ。婿入りしたためにギルドの所属を外れたとは言え、まだその顔を知る職員はいるはずだ。
新興商会の小娘商会長が行くよりも余程信があり、更に委任状があれば誰も拒みはしないだろう。
今回の件における尻拭いの一つだと言えば、カプート子爵にだって拒否権はないし、裏で破棄したり改竄するようなこともないはずである。
「…………なるほど」
どうやら、それは思いがけずこの場の皆にとっても正当性のある提案だったらしい。
フィルバートはおろか、誰からも反対の声が上がらなかった。
「陛下」
そして、危うく私がブラーガに行かされそうになったところで黙っていられなくなったのか、そこでエドヴァルドが軽く片手を上げた。
「それこそ、ミラン王太子にはまず『写し』の方を送られてはいかがですか。テオドル大公殿下の一筆があれば、その信憑性は疑われないでしょう。そしてブラーガから回収する原本をメダルド国王陛下にお渡しすれば、こちらの国としての面目も保てます。王を蔑ろにしていないことの、何よりの証になりますから」
同時に話を通すだけではなく、写しと原本を渡すことによって、アンジェス国側の独断専行のイメージを薄め、かつ一方的なミラン王太子への肩入れの印象もなくす。
反論の余地のない、現実的な、それは提案だった。
「大公も、メダルド国王との長年の友誼を壊さずに済むか。うむ、いいだろう。宰相の提案を是としよう。皆もそれでいいな? ああ、あくまでエモニエ先代侯爵夫人の持つ手紙の扱いについての話だ。刑罰の部分にまで口を挟んではいないから、五公爵会議の存在意義を壊したことにはなるまい?」
詭弁だな……と、きっと誰もが思っているだろうけど、誰も口にはしない。建前大事。
「では、エモニエ先代侯爵夫人には、あとで貴族牢で手紙の写しを作成して貰うとしよう。何、我らと違って時間は余っているだろうからな。……ああ、恩情ではないぞ? そこは勘違いをするな」
「……もちろんでございます……」
うん。この時点なら、夫人でなくともそうとしか答えようはない気がした。
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【告知&書影解禁!】
いつも読んでいただいて、そして応援いただいてありがとうございます!
「聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?3」
書影が解禁となり、出荷日も、3月26日(火)が予定日との情報がレジーナ通信(レジーナブックスのメルマガ)にて発表になりました!
甘塩コメコ先生に、今回も美麗に仕上げていただきました!!
ネット上の予約についてはまだのようなので、そちらは始まり次第また告知させていただきます!
なんと前回を越える、同日9冊発売の大・大・大激戦!!((((;゚Д゚))))gkbr
4巻に繋がるよう、どうか、どうか宜しくお願いします……!m(_ _)m
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「手紙は重要です。隣国の某公爵家を追い詰めるのに、これ以上はない一手になると思います。何しろ問題の茶葉に関わっている家門、商会がこれみよがしに書かれているのですから」
「では……」
「その手紙、きっと内容は一言一句違うことなく覚えておいでですよね? ブラーガ領都商業ギルドに保管されているのは、あくまで夫人ご自身の身に何かがあった時のためのもの。本来であれば写しを作って、ご自身でご実家に乗り込まれるおつもりだったのでは?」
「!」
エモニエ先代侯爵夫人が、その他「閣議の間」に居並ぶ面々が、それぞれの為人に応じた驚きの表情を見せる。
一方は言い当てられた驚きに。もう一方は、夫人の覚悟を見せつけられたことに、だ。
返り討ちにあったらどうするつもりだ、などというのは愚問だ。それさえも見越しての、ギルドでの原本保管だったはずだ。
そしてここに居並ぶ面々は、さすが五公爵家と元王族ということだろう。誰もそう言って、エモニエ先代侯爵夫人を窘めなかったのだ。
そこで命を落としたとしても、原本が残るのであればやむなしと思っていたから。
……夫人本人も含めて。
下手をすれば無駄死にだ。いくら後をテオドル大公に託して実家やその後ろ楯の権力を失墜させたいにしても、それはあまりにも勿体ない。
今なら、夫人をバリエンダールに乗り込ませずとも、手紙だけを「地獄への招待状」に変えて送りつけられるし、ついでに次代の王家にだって恩も売れるのだから。
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だから私も、結論だけをここでは口にしたのだ。
「そもそも、ご自身と手紙の組み合わせより、テオドル大公殿下と手紙の組み合わせの方が、より信憑性も増すと思われたのでしょう? 今回の件が発覚してからも、逃亡も自害も企てず、じっと身を潜めていらっしゃったのは、何より大公殿下と繋ぎが取れる機会を窺っていたから……ですよね?」
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実家から手紙が届いたのと、ナルディーニ侯爵家のやらかしの連座で捕まってしまったのと、もしかしたらそれほどタイムラグはなかったのかも知れない。
ギルドに預けてしまった手紙をどうするか。そう考えた時に、とっさに浮かんだのが、この国でもっともバリエンダールに太いパイプを持つテオドル大公だったに違いない。
「ふむ……ミルテ王女主催のあの茶会は、こんなところにまで影響を与えておったのか」
口元に手をやりながら、テオドル大公が呟いた。
大丈夫です、大公殿下。多分あのお茶会に参加した皆がそう思っています。
「長年のバリエンダール王家との交流が、こんな形であてにされようとは思わなかったな」
そうは言っているものの、その声に不快感はない。
分かる。
エモニエ先代侯爵夫人は、手持ちの札を増やし、心のうちにしまった復讐の刃を研ぎつづけ、ただひたすらに機会を待っていたのだ。
私が家族の軛を離れるために費やした六年の歳月よりも……はるかに長い年月を、彼女は耐えた。
ナルディーニ侯爵父子やエモニエ侯爵家一族の私利私欲と、エモニエ先代侯爵夫人のソレとは、決して同じではない。
長い年月をかけて、彼女は己と国との利害を一致させたのだ。
彼女は無実じゃない。確かに裁かれなくてはならない。
けれど誰も、彼女を蔑むことはないだろう。
「……恐らくはその手紙をあちらの王太子に献上すれば、かなり大きな貸しを作ることが出来ましょうな」
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穏健派と言われている現国王と異なり、ミラン王太子は目的のためには自分の手を汚すことも厭わない派だ。
しかもそんなミラン王太子の本質も、フォサーティ宰相家の密かな後ろ楯も、父であるメダルド国王は把握していない。
把握していないだろうと察してはいても、アンジェス国の側からわざわざ教えるつもりはないというのがテオドル大公の考えのようで、私もその方がいいだろうとは思っていた。
次代に恩を売る。大事なことだ。今後の付き合いは、間違いなくミラン王太子との方が長いのだから。
「だが今、その手紙の原本とやらをブラーガ領都商業ギルドに取りに行けて、かつ、ミラン王太子に渡せるような人材の余力は――いや、いないわけでもないのか」
「!?」
目が合った。合ってしまった。
フィルバートの目も口も、明らかに獲物を見つけたかのごとく笑っている。
私は思わず、ぶんぶんと首を激しく横に振ってしまった。
離れたところにいるエドヴァルドも、椅子を揺らしたほどだ。
「無理です、無理です! 私は一人では〝転移装置〟は使えませんし!」
「誰か連れていけばいいだろう。無論、宰相は論外だが」
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確かに今のこの状況下で、宰相であり公爵家当主でもあるエドヴァルドが手紙の原本を受け取りに行くなんてことは論外だ。それは私でも分かる。だけど。
「仮に委任状の一枚でも書いて貰ったとして、それでも私にはまだ商会長としての実績がほとんどありません!」
「だがエモニエ先代侯爵夫人に取りに行かせるわけにいかないことくらいは分かるだろう?」
「分かります! もちろん分かりますが、それなら、ブラーガなら、カプート子爵に行って貰うのが一番いいと思います!」
とっさに口から出た一言ではあるけれど、カプート子爵は元ブラーガ領都商業ギルド長だ。婿入りしたためにギルドの所属を外れたとは言え、まだその顔を知る職員はいるはずだ。
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今回の件における尻拭いの一つだと言えば、カプート子爵にだって拒否権はないし、裏で破棄したり改竄するようなこともないはずである。
「…………なるほど」
どうやら、それは思いがけずこの場の皆にとっても正当性のある提案だったらしい。
フィルバートはおろか、誰からも反対の声が上がらなかった。
「陛下」
そして、危うく私がブラーガに行かされそうになったところで黙っていられなくなったのか、そこでエドヴァルドが軽く片手を上げた。
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反論の余地のない、現実的な、それは提案だった。
「大公も、メダルド国王との長年の友誼を壊さずに済むか。うむ、いいだろう。宰相の提案を是としよう。皆もそれでいいな? ああ、あくまでエモニエ先代侯爵夫人の持つ手紙の扱いについての話だ。刑罰の部分にまで口を挟んではいないから、五公爵会議の存在意義を壊したことにはなるまい?」
詭弁だな……と、きっと誰もが思っているだろうけど、誰も口にはしない。建前大事。
「では、エモニエ先代侯爵夫人には、あとで貴族牢で手紙の写しを作成して貰うとしよう。何、我らと違って時間は余っているだろうからな。……ああ、恩情ではないぞ? そこは勘違いをするな」
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