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国盗り編

兄弟を助ける

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「この村の住人じゃないってどういうこと?たまたま他の村とか町から来てるってこと?」
僕は馬車の近くで僕達を待っていた男の子に聞く。
栄養が足りていないのか痩せこけている。

「村から追い出されたから……」

「追い出された……?え、なんで?」
この子の言っていることがよくわからなかった。
こんな子供を追い出した?

「半年くらい前にお父ちゃんが死んじゃって、お兄ちゃんと今は2人なの。お母ちゃんは僕が生まれた時に死んじゃったって言ってた」
親を亡くして孤児になっちゃったのか……。

「お兄ちゃんと2人で暮らしてるんだね。それでなんで村から追い出されたの?」

「うん。お父ちゃんが残してくれた畑はほとんど育たなくて、食べるものがないから村の人に分けてくれるようにお願いしたの。でも分けてくれなくて……。それでも生きるには分けてもらうしかなかったから、何度もお願いしてたら追い出された」
自分のことで精一杯だったのかもしれないけど、子供2人くらいなんとか出来なかったのかと思ってしまう。

「今はどこに住んでるの?食べるものは?」

「村の近くの森の側で寝てる。食べるものは森で木の実とか探して…」

「そっか。怪我を治して欲しいんだよね。どこを怪我したのかな?」

「治してほしいのは僕じゃなくてお兄ちゃんなんだ。森で怪我してずっと動けないの」

「わかった。お兄ちゃんの所に案内してくれるかな」

「うん」

僕は男の子も馬車に乗せて、お兄ちゃんがいる所まで向かう。

そこには家なんて呼べるものはなかった。
木と葉っぱを重ねて屋根を作ってあるだけの外である。
正直テントの方が何倍も快適だろう。

「お兄ちゃん、治癒士さんを呼んできたよ」
そこには全身ボロボロの男の子が寝ていた。

僕達の事を治癒士と言うところを見ると、村長はこの子達に話をしてないのだろう。多分、治療して欲しい人は広場にって話をどこかで偶然聞いただけなのだと思う。

「呼ばなくていいって言っただろ。治してもらう金なんてないんだ」

「で、でもこのままだとお兄ちゃんが死んじゃうよ……」

「こいつが勝手な事を言ってすみませんでした。治療は結構です。お支払い出来るものがありませんので。……迷惑なのは承知の上ですが、お願いを聞いてくれませんか?弟をどこか別の町まで乗せてやって下さい。このままだと弟まで死んでしまう」
仲の良い兄弟だ。お互いの事を自分よりも大切にしている。

「元々治療にお金をもらうつもりはありませんよ。ミア頼んでいいかな?」

「うん」
ミアが治療する。

「委員長って毒を治せる?」

「治せるわよ。治癒系なら大体なんでも出来るわ」

「2人の体に毒が残ってるみたいだから解毒してもらえる?」
2人を鑑定したら微毒状態だった。毒のあるものも食べてしまっていたのだろう。

「任せて」
委員長に毒を治してもらう。

「これで大丈夫だね」

「ありがとうございます」
お礼を言われる

「さっきのお願いだけど、2人とも乗っていくといいよ。ちゃんと生活できるようにしてあげるから」
僕は2人を乗せて行く事にした。
別の町と言っていたけど、今の状況だとどこにいても苦労するのは分かりきっているので、このまま王城まで連れて行くつもりでいる。

次の村に行く前にやる事が増えたので、僕はミア達を馬車に残して歩いて村に戻る。
兄弟も一緒だ。

「さっき僕が言った通りに村長に話をするんだよ。それから村長には僕の姿は見えていないからね。2人しかいないと思って話をするんだ。出来るね?」
僕は隠密を使っている。兄弟が僕を認識している状態で発動したので、2人は僕のことが見えているけど、他の人には見えていない。

「うん」

僕はこの兄弟を見て考えを少し改める事にした。
どうするか確認するため、2人に演技を頼んだ。

「そ、村長さん」
お兄ちゃんの方が村長を呼ぶ

「……貴様らか。何しにきた?村には入るなと言ってあったはずだが?」

「ご飯を分けて下さい」

「またか……。前も言ったはずだ。お前ら兄弟はもうこの村の住民ではない。分けるものは無いから帰れ」
僕はショックを受けながらも、感情を抑える
この時点でアウトではあるけど、度合いを確認する為まだ姿は現さない。

「でも、さっき豪華な馬車に乗ってたお兄ちゃんが村長から食料を分けてもらえって言ってたよ」

「……そんな嘘をつくな。どこで嗅ぎつけてきたか知らないが、あれは村の食料だ。いいから村から出て行け」

僕は2人に村長との話はもういいと言う
「……わかりました」

「なかなか良かったよ。次は家を回っていくからね」

「うん」

兄弟に一軒ずつ家を回って食料を分けてもらうように話をしていってもらう。
村長の時と違うのは、村長から分けてもらえなかったと伝えることだ。他は同じような内容である。

反応は半々といったところだった。
村長と同じく「出て行け」と言われることもあったが、「今まで助けてあげられなくてごめんね。まだ村長から食料をもらってないから少ないけど、なくなったらまた来ていいわよ」と言って家にあった食料を分けてくれる人もいた。

この村に住む人の全てがこの兄弟の事を蔑ろにしていたわけでは無いようだ。本当に余裕がなかっただけ。
自分や自分の家族がギリギリの状態の時に他人にまで救いの手を差しのべる事が出来るのは一握りだけだ。
それが出来なかったからと僕は冷たい人だとは思わない。

でも余裕がある時は別だ。
しかも食料を渡した人がこの兄弟ももらっていいと言っているのだから迷わずに渡すべきだ。村長が渡さないのであれば、村人経由でも兄弟に分けてあげればいい。

僕は兄弟に食料を分けようとした家には説明をして食料を渡す。それからその中でも1番親身になってくれた人に水が出る魔道具を渡した。
冷たくあしらった人には当然何もない。

僕は兄弟を馬車まで送った後、井戸と倉庫に寄ってから村長の所に行く。

「村長、話があります」

「これはこれは、ハイト様。どうされましたか?」
兄弟に対する対応との違いにイラつきを隠せない。

「男の子供が2人村長のところを訪ねてきましたか?」

「え、あ、はい」
村長は困惑を隠せない。

「ちゃんと食料は分けましたか?村から追い出されたと言っていたので、ちゃんと分けてもらえたか心配になって戻ってきたのです」

「……も、もちろんです」
村長は嘘をついた。どう答えたところで対応を変えるつもりはなかったけど、やったことは間違ってなかったと再確認出来ただけだ。

「そうですか……。実は僕のスキルでさっきの一部始終を見ていたんです。そもそもあの兄弟に村長の所に行くように言ったのは僕ですので」

「え……」
村長の顔が真っ青になる

「人に優しく出来ないのに、自分は施しを受けようなんて図々しいとは思いませんか?」

「いや、あの、その……」

「何を言っているのかわかりません。ちゃんと答えてください」

「……その通りです」

「ですよね。なのでこの村へ食料を渡すのはやめる事にしました。魔道具も既に回収させてもらいました。それでは今度こそ次の村に向かいますので」

「ま、待ってください。それでは冬を越せない者が出てきます」
そうなる可能性はもちろんある。わかっている

「大丈夫です。ちゃんと人に優しく出来る人の家には食料を渡してきましたので。冬を越せなくてもそれは自分の選んだ道です。少なくてもあのままではあの兄弟は死んでいた。言っておきますけど、食料を渡した家から盗もうとするのであれば、盗賊として捕まえて処刑します」

「そ、そんな……」

僕は村長を無視して馬車に転移する。

「よし、次の村に行こうか」
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