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国盗り編

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次の村に向かいながら、さっきの村の村長との話を説明する。

「それだと本当に冬を越せない人が出てくるんじゃないの?」
委員長に聞かれる

「そうかもね。でも僕があの村に行く前の状態に戻っただけだし、王城に向かいながら支援しているわけだから、通り道にない村と比べればチャンスがもらえただけラッキーなんだよ。その幸運を自ら投げ捨てただけだと僕は思ってる」

「そうかもしれないけど、助けられた命だよ?」

「実際に冬を越せない人は出ないと思うよ。この兄弟に食料を分けてくれた人にはちゃんと支援しておいたからね。しかも多めに渡してある。多分その人達が分けてるはずだよ。分けるなとは言ってないからね。まあ、絶対ではないから命を落とす人がいるかも知らないけどね」

「ちゃんと考えてはいるのね。ならいいわ。影宮君らしくないと思ったから聞いただけだから」

「そう。次の村からはさっきと同じような感じで支援していく事にするからね」

次の村では先に村長の所に行くのはやめて、村の中をとりあえず1周した。
村人にジロジロと見られるけど無視する。

先程の兄弟のような孤児は居ないようなので、村長の所に行き、食料を分けてくれるように頼む事にした。

「村長さんはいますか?」

「はい、村長は私です。どうされましたか?」

「王城に向かう途中だったのですが、途中で盗賊に襲われてしまって積荷を全て奪われてしまいました。幸いな事に命まではとられませんでしたが、食料もお金も奪われてしまいました。お返しできるものはありませんが、食料を少しでいいので分けてはもらえませんでしょうか?」
僕は逆に食料を分けてもらう事にする。
実際に分けてくれなくても、対応を見れば大体はわかるだろう。

村長は家の奥に行き、小さな袋を持って戻ってきた。
「見ての通りこの村の住人が食べるものも足りていない状態なのです。このくらいしか分けることは出来ません」
そう言って村長は持ってきた小さな袋を手渡した。

僕は中を見る。村長は馬車の方を見ていたので何人くらい乗っているのかはわかっているだろう。
御者を入れて7人。なんとか1食分といったところだろうか。

多くはないけど、これだけあれば次の村や街まで耐え凌ぐ事が出来る。次の村でも同じだけもらうを繰り返して行けばギリギリながらも王城に辿り着ける。

そう考えると少なくはない。それに村の状況を考えるとこの量を渡すのも厳しいはずだ。

僕は村長に本当のことを打ち明けて、騙していたことを謝罪する。
そして、困っていることを聞くと、やはり困っているのは食料のようだ。さっきの村と違って井戸は枯れておらず、多くはないけど収穫も出来たらしいが、せっかく収穫した麦などの作物のほとんどは税として持っていかれたらしい。

僕は食料を支援して、治療が必要な人に集まってもらい治してから村を出る。

同じように対応していき、村長が優しい人であれば村長に村全体で分けるようにと支援をして、村長が冷たい村には家を回って優しい人を見つけてその人達に支援していく。

後は、そこの村を治めている領主についての情報も集める。税をとるにも、どのくらい納めないといけないのかとか、不作の時はその分納める分も減らしてくれるのかとか。

そうこうしながら進んでいると、馴染みのある村に到着した。

僕はミアと2人で村長のところへと向かう。

「村長さん、いますか?」
僕は村長を呼ぶ。

「はい、誰ですか?……ああ、お久しぶりです。ハイト君にミアちゃん」

「お久しぶりです。カルロさん。あの時はお世話になりました」
出てきたのはおじいさんではなく、カルロさんだった。

「今日はどうしたんだ?」

「村長さんに用があってきたんですけど、今は留守ですか?」

「ああ、村長は俺に代わったんだ」

「え……。」

「勘違いしないでくれ。親父はもう歳で腰をやってしまったから俺に代わっただけだ。親父は生きてる」

「あ、そうでしたか。良かったです」
亡くなったのだと勘違いしてしまった。

「親父に用か?それとも俺の方がいいか?」

「それじゃあカルロさんにお話しします」

僕はカルロさんに王国が戦に負けたことと、その結果僕が領土を奪って王になったことを説明する。

「は?いやいや、冗談はよしてくれ」
カルロさんは信じないようだ

「本当ですよ。しばらくしたらこの村にも正式に知らせが届くんじゃないかな」

「本当なのか?王の名を騙ってるのがバレたら処刑されてもおかしくないぞ?」

「本当なので大丈夫です。僕が王です。それで他の村でも聞いているんですが何か困ったことはありませんか?」

「いや、そんなことよりも本当に王になったのか?いやなられましたのでしょうか?」

「いつも通りの話し方でいいですよ。それで困ったことはありますか?」

「本当にいいのか?そうは言っても以前とこの村は変わってない。見ての通りだ。前にハイトさん達が猪の肉を置いていってくれたおかげでなんとか生活は出来ているが、それも一時凌ぎだ。安定的に生活できる基盤が必要だと思っている」
カルロさんの願いは難しい。
困っているのは他の村と変わらずに食料のようだけど、食料を渡したところでそれは確かに一時凌ぎにしかならない。

簡単な話ではない。カルロさんは子供や孫の世代のことも考えて話をしている気がする。
単純にレベルを上げて魔物に怯えずに狩りが出来るようにしても、そういうことではない気がする。

「それは……難しいですね」

「ああ。だから気長にやろうと思っている。まずは畑の改良からやるつもりだ。頼みを聞いてくれるなら税をなんとかして欲しい。どれだけ作ったところで生活できるギリギリまで持っていかれる。不作の時は関係なく持っていくのにな。これだといつまで経っても生活は良くならない」

「それはなんとかするつもりです。王国の体制は完全に変えるつもりでいます。弱者が搾取され続けて、地獄から抜け出すチャンスも貰えないようなことにはしないつもりです」

「それは頼もしい。どうかお願いします」

「また一時凌ぎにしかなりませんが、食料を置いていきますね。それから体調が優れない方を治してまわってます。治して欲しいところがある人を広場に集めてください。病気でも怪我でも大丈夫なので。おじいさんの腰も治しますよ?」

「ありがとうございます。腰が治ると親父は村長の座を返せと言いそうです」

村長は前に僕達が使わせてもらった離れにいるそうなので、向かうことにする。

カルロさんは村の人たちに話をしに行った。

「お久しぶりです。腰を悪くしたと聞きましたけど大丈夫ですか?」
離れに失礼して前村長に声を掛ける

「これは懐かしい顔ですな。腰を痛めてからは思うように動けずに、見ての通り一気に老けてしまいましたわ」

「治癒魔法を掛けてもいいですか?痛みがとれると思います。あの時にお世話になったお礼をさせて下さい」

「お礼なんていりませんよ。人は助け合いで生きているんです。わしはもう長くはないでしょう。こうして会いにきてくれただけで嬉しいのです」
動けないと言っていたから、一気に体の調子が悪くなっているのだろう。
環境も良くはないし、長くないと思ってしまうのも仕方ないかもしれない。

「ミア、お願いしていい。まだおじいさんには元気に生きてもらわないと」

「うん。もちろんだよ」
ミアがおじいさんに治癒魔法を掛ける。

「まだ腰は痛みますか?」

「……うう、ん?痛くないな。それに膝の痛みも無くなっている」

「そうですか。それはよかったです。それじゃあ今夜は快復祝いで宴会ですね。あの夜みたいに騒ぎましょう」

「ありがとうございます。カルロに準備させます。……カルロにはもうお会いになりましたか?」

「さっき話をしました。村長が代わっていて驚きましたが、他の村の村長よりも先を見据えていていることにさらに驚きましたよ」
他の村長は今を生きるのに精一杯という感じだった。

「そうですか。わしには強がりばかり言っているように見えましたが、ちゃんとやれているようですな」
おじいさんは嬉しそうだ。

おじいさんと別れて、広場に行き治療する。
嬉しい事に、治療してもらうために集まったのではなく、僕達の顔を見に集まってくれたようだ。

治療が全て終わったところで集まってくれたみんなに宴会のことを伝える。

「先程、前村長の腰が治り元気になりました。今夜は前村長の快復を祝って宴会をします。料理はもちろんお酒もありますので騒ぎたい人は夜にまたここに集まってください」

「「「おおぉぉぉ」」」
既にテンションが高い。

夜になり、委員長達も一緒に宴会に参加する。

騒ぎながらあの時に辿り着いたのがこの村で良かったなと思う。快く寝るところを貸してくれて、ご飯まで出してくれた。
王国の惨状を嫌になるほど知った今、あの時に村長がどれだけ身を削ってくれていたかがわかる。

楽しい時間が過ぎ、目を覚ますと僕は村長の家の離れにいた。
僕はあの時と同じように飲み過ぎて寝てしまいここまで運ばれたようだ。
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