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6 塔のミリアン

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「取り合えず、私の家に参りましょうか。公爵閣下の返事を待ちましょう」
「有難うございます!」

 警備隊の詰め所を出ると、オーハン先生の家まで風魔法で一っ飛びだ。

 住宅街の外れにある塔の形をした家の扉を開けると15~16歳に見える少年が出迎えた。
 深緑の髪にシトリンの瞳の少年は落ち着いた柔らかな雰囲気をしている。

「師匠、こちらは?」
「しばらく預かるバレンシアお嬢さんだ。面倒見てやってくれ」
「すみません、お世話になります」

「綺麗な目ですね。金色の瞳は魔力が強い証です」
「こらこら女性の顔を不躾に見るんじゃない」
「すいません。弟子のミリアンです、良しなに」
「いえ、こちらこそ良しなに」

 5階建ての塔の2階部分に部屋を与えてもらった。
 3階より上は立ち入り禁止と念を押される。

 ミリアンさんに何か手伝いをと申し出たが断られた。
「魔法でパパッと片付けるので、お気遣いなく」
「そうですか。何かあれば言って下さい」
「シアさんって呼んでいいですか?」
「いいですよ」
 優しそうなミリアンさんとは仲良くなれそうだ。


 その夜、夕食時に先生から眼鏡の魔道具を渡されて掛けてみた。

「ああ、シアさんの美貌が半減ですね」
「危険も半減。目は両方茶色に見えるので安心だな」

「有難うございます。これで街に買い物に行けます」
「僕もお供して案内しますよ」
「お願いします」
 ミリアンさんの料理は美味しくて、久しぶりに柔らかいお肉を食べた。


 公爵はどうやって用紙を盗んで、印を押したか聞いてくるだろう。
 鏡の世界で盗めば、現実でなんでも手に入るなんて言えないし、困ったな。

 公爵の返事を気にしながらベッドに横になると、どこからか視線を感じた。

「バレンシア?」
 鏡に呼び掛けてみたが、返事はなかった。


     ***


 翌朝、ミリアンさんと市場に出かけた。

「付き合ってもらってすみません」
「いえ僕も買い物がありますから、お気になさらず」

 私は着替えと日用品を買うと、ミリアンさんは主に食料品を買っていた。

「そうだ、図書館で特待生の過去問題が閲覧できますよ」
 市場を離れて、広場から十数分歩いた場所に図書館はあった。

 過去問題は持ち出し禁止で閲覧のみ。
 宿に泊まって、ここに通って勉強しようと気合を入れた。

「ミリアンさんは魔法学校に通わないのですか?」
「僕は適齢期が過ぎてます。魔法は師匠から習えば必要ありませんから」

「今はおいくつなんですか?」
「もう50歳過ぎたかな」
「へ?」
 見た目は16歳くらいなのに?50歳?

「僕には妖精の血が流れているんですよ。成長期からゆっくり年を取るんです」
「妖精って、人間と結婚できるの?」

「出来ますよ。魔女や獣人とだって可能です。異類婚姻だと普通の人間とは変わってきます」
「そうなんですか。結婚できるんだ~」

「春の花まつりには妖精がやって来て、気に入った人間を見つけると誘惑するんです」
「おとぎ話みたいですね」

「一般常識の話なんですけど知らなかったのですか?試験は大丈夫かな」
「常識なんですか・・・頑張ります」


 塔に戻ると公爵から返事が来たので1階の食堂で開封を待つ、ここはサロンも兼ねている。

「魔法学校に提出した申し込みは破棄。ハサウェイ公爵家を名乗らずに一般人として特待生入学するなら認める。ただ、公爵の印をどうやって持ち出したのか、それを答えなければならない、とありますな」

 やっぱりそう来るか。

「答えは私が特殊スキルを持っているからです」
「へぇ」「ほぉ」

「私は・・・夜になったら透明人間になれるんです!」

「・・・凄いスキルですね、羨ましい」
「アサシンのスキルですな。夜限定なのかな?」

 二人は疑っていないようだ。正直に鏡に入れると言うべきだが、いろいろ聞かれて私が偽物だと知られてしまいそうで嫌だった。

「はい、姿を消すことが出来るんです。悪いと分かっていても学校の寮に入りたくて、書斎に忍び込みました。後は土魔法を使って開錠し、印を持ち出しました」

「見てみたいですね、シアさんが透明になるのを」
「あぅ、そ、その・・・・裸にならないといけないので!」
「じゃぁ無理ですね。すみません」

「ではそう返事しておこう。バレンシア嬢、そのスキルは封印しなさいよ」
「はい、二度と盗んだりしません。封印します」

 信じて貰えた。嘘ついてごめんなさい!

「まさか透明人間とは、意外でした」
「内緒にして下さいね」

 山を一つ乗り切った、後は特待生になれるよう頑張るだけだ。



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