37 / 38
エピローグ ~『祖父の想い出と親友』~
しおりを挟む
エピローグ『あやかし古書店の名探偵』
これは夢だと、美冬は見ている景色からそう判断する。本に囲まれた薄暗い土蔵《どぞう》の二階で、亡くなったはずの祖父が生きていたからだ。
祖父は死ぬ間際よりも若々しく、赤ん坊の女の子が膝の上で眠っていた。女の子が赤ん坊の頃の美冬だとすると、二十年以上前の記憶が夢になって現れたのかもしれない。
「寝てしまったか。ここからが面白いというのに……」
祖父の手元には栞が挟み込まれた『宮川舎漫筆《きゅうせんしゃまんぴつ》』が置かれている。彼は残念そうな口ぶりではあるが、頭を撫でる手つきには優しさが込められていた。
「そこにおるか、親友よ」
祖父が虚空に呼びかけると、じんわりと空間が歪み、銀髪の美青年、善狐が姿を現す。彼はいつものように慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。
「この娘が儂の孫じゃ。可愛いじゃろ?」
「…………」
「相変わらず無口な男じゃの。我らもすでに十年以上の付き合いじゃ。そろそろ口を利いても良いじゃろうに」
だが善狐は笑みを浮かべるだけで口を開こうとしない。話せないなら仕方ないと、祖父はふぅと一息吐く。
「思えば出会いは偶然じゃったな。古書店でワゴンセール品として売られておった『宮川舎漫筆《きゅうせんしゃまんぴつ》』を見つけた時の喜びは今でも思い出せる」
「…………」
「それからお主は儂の前に現れ、今まで尽くしてくれた……妻との出会いもお主がハンカチを風で飛ばしてくれたおかげじゃったし、娘が病気で苦しんでいた時は隣町から医者を呼んでくれた」
「…………」
「義理堅いお主のことじゃ。きっとこれからも儂の味方でいてくれるじゃろ。だがそれでは駄目なのだ。儂は欲張りでのぉ。儂は孫娘のことを永遠に守り続けたいのじゃ」
「…………」
「だが酒にも煙草にも目がない儂じゃ。いつ死んだとしてもおかしくない。故にな、もし儂が死んだら、今度は孫娘を幸せにしてやってくれぬか?」
「…………」
「答えはいらぬ。儂はお主を信じておるからな……頼んだぞ、無口な親友よ」
善狐は何も口にせず、ただ微笑みを浮かべる。『任せてください』と、そう伝えているような笑みだった。
これは夢だと、美冬は見ている景色からそう判断する。本に囲まれた薄暗い土蔵《どぞう》の二階で、亡くなったはずの祖父が生きていたからだ。
祖父は死ぬ間際よりも若々しく、赤ん坊の女の子が膝の上で眠っていた。女の子が赤ん坊の頃の美冬だとすると、二十年以上前の記憶が夢になって現れたのかもしれない。
「寝てしまったか。ここからが面白いというのに……」
祖父の手元には栞が挟み込まれた『宮川舎漫筆《きゅうせんしゃまんぴつ》』が置かれている。彼は残念そうな口ぶりではあるが、頭を撫でる手つきには優しさが込められていた。
「そこにおるか、親友よ」
祖父が虚空に呼びかけると、じんわりと空間が歪み、銀髪の美青年、善狐が姿を現す。彼はいつものように慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。
「この娘が儂の孫じゃ。可愛いじゃろ?」
「…………」
「相変わらず無口な男じゃの。我らもすでに十年以上の付き合いじゃ。そろそろ口を利いても良いじゃろうに」
だが善狐は笑みを浮かべるだけで口を開こうとしない。話せないなら仕方ないと、祖父はふぅと一息吐く。
「思えば出会いは偶然じゃったな。古書店でワゴンセール品として売られておった『宮川舎漫筆《きゅうせんしゃまんぴつ》』を見つけた時の喜びは今でも思い出せる」
「…………」
「それからお主は儂の前に現れ、今まで尽くしてくれた……妻との出会いもお主がハンカチを風で飛ばしてくれたおかげじゃったし、娘が病気で苦しんでいた時は隣町から医者を呼んでくれた」
「…………」
「義理堅いお主のことじゃ。きっとこれからも儂の味方でいてくれるじゃろ。だがそれでは駄目なのだ。儂は欲張りでのぉ。儂は孫娘のことを永遠に守り続けたいのじゃ」
「…………」
「だが酒にも煙草にも目がない儂じゃ。いつ死んだとしてもおかしくない。故にな、もし儂が死んだら、今度は孫娘を幸せにしてやってくれぬか?」
「…………」
「答えはいらぬ。儂はお主を信じておるからな……頼んだぞ、無口な親友よ」
善狐は何も口にせず、ただ微笑みを浮かべる。『任せてください』と、そう伝えているような笑みだった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる