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最終話 そのポーター、すべてを終わらせる
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「マジで昼夜逆転現象なんて起こせるの?」
僕がたずねると、ハルミは「もちのろんろんです!」と返事をしてくる。
「でも、その〈昼夜逆転〉スキルはボクが持つスキルの中でも秘奥義に相当するスキルなので、ますます勇者さまとは濃密で熱いキスをしなくてはなりません」
「どういうこと?」
「つまり、勇者さまが昼でボクが夜ということです」
うん、さっぱりわからない。
僕はこういうときこその神頼みと、カーミちゃんに目をやった。
「うむ……まあ……その……頑張れ、カンサイ」
…………どうやらカーミちゃんもわからなかったらしい。
そうこうしている間に、ハルミは僕に激しく抱き着いてくる。
「とにかくキスです、勇者さま。ボクとキスをすれば秘奥義スキルの1つ――〈昼夜逆転〉がバッチリと発動できます」
待って待って。
1つってことは、自然現象を覆すスキルをまだ他に持っているってこと?
ハルミ・マクハリ……恐ろしい子!
何て馬鹿をやっている暇はない。
とにかく今は人生で最大級の超絶ピンチなのだ。
だったら躊躇している場合ではないだろう。
もうこうなったら、あとは野となれ山となれである。
「わかった……行くよ、ハルミ」
ブチュッ、と僕はハルミとキスをした。
全員の視線が僕たち2人に向けられる。
するとどうだろう。
たった今まで暗闇が支配していた夜が、あっという間に太陽が燦然と輝く朝になったではないか。
「そ、そんな馬鹿なあああああああああああああああ――――ッ!」
アホみたいに絶叫したのはヌイモリだ。
嘘みたいな自然現象を見て動揺している。
だが、僕のほうは違う。
全身に眩い朝日を受けたことで、腹の底から凄まじい何かが湧き上がってくるを感じた。
それは力だ。
神をも凌駕するツッコミの力である。
僕はハルミの身体をそっと離すと、全身を震わせているヌイモリと対峙した。
ヌイモリは両目を大きく見開いている。
どうやら今の僕の力を肌でまざまざと感じているらしい。
ふっ……だが、今さら僕の力を見て驚いてももう遅い!
魔人ヌイモリ、覚悟しろ!
僕がそう思いながら睨みつけると、ヌイモリは顔中に大量の冷や汗を流しながら平伏してきた。
「も、申し訳ないのであ~る! 今の貴様……いや、あなたさまには吾輩は天地が逆転しても勝てないのであ~る! どうか「ごめんなさい」を100回言うから許してほしいのであ~る!」
「100回程度で許されると思っているのか?」
「では1000回……いえ、10000回は謝らしてもらうのであ~る! だから命だけは許してほしいのであ~る!」
僕は満面の笑みを浮かべた。
「いいよ。10000回五体投地をしたら許してあげよう」
ちなみに五体投地とは、両手・両膝・額を地面に投げ伏して、対象への絶対的な降伏を表す土下座の上位互換のことだ。
ヌイモリは一転してパッと顔を明るくさせる。
「そ、それをすれば本当に命だけは許してくれるのであ~るか?」
「もちろん」
そう表向き答えた直後、僕は右手の掌を上に向けて「チャンバラトリオ」とつぶやいた。
僕は具現化させた〈神のハリセン〉を右手でしっかりと握る。
「ま、待つのであ~る! ど、どうして許してくれるのに〈神のハリセン〉を出すのであ~るか!」
へえ……僕の〈神のハリセン〉のことを知っているということは、バルハラ大草原で僕と魔人ルイボ・スティーの闘い(もしくは一方的な虐殺)をどこかで見ていたんだね。
僕は右手に持った〈神のハリセン〉の腹を、開いた左手の掌にバンバンと打ちつける。
これだけでヌイモリは気づいたようだ。
僕が本当はまったくこれっぽっちも許さないことに。
「あっ、吾輩ちょっと用事を思い出したのであ~る! 非常に申し訳ないのだがここら辺で失礼させていただくのであ~る!」
ヌイモリは一方的にまくしたてると、巨大な翼を羽ばたかせて空中に浮いた。
そのまま天高く飛翔していく。
「カンサイに1つ大事なことを言い忘れたのあ~るが、こう見えて吾輩は魔人ではなくただのコウモリの突然変異なのであ~る! だから本気の本気で見逃してくれなのであーーーーーーーーーーる!」
バサバサと翼を羽ばたかせてどこかへ飛んでいくヌイモリ。
「そうかそうか、ただのコウモリが突然変異しただけか。だったら、このまま大人しく見逃してあげなくちゃね…………って、ナンデヤネエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエンッ!」
僕はクソ寒い言い訳をして逃げていくヌイモリにツッコミを入れた。
同時に〈神のハリセン〉をヌイモリに対して力強く振る。
するとどうだろう。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――ッ!
僕の〈神のハリセン〉からは、黄金色に煌めく通常の数万倍の威力の〈気力封魔撃滅金剛烈破〉が放たれる。
いや、もはやそれは普通の〈気力封魔撃滅金剛烈破〉ではなかった。
〈真・気力封魔撃滅金剛烈破〉と呼ばれるものである。
「ひぎゃああああああああああああ――――…………」
津波のような黄金色の奔流となった〈真・気力封魔撃滅金剛烈破〉は、飛翔していたヌイモリを跡形もなく粉砕した。
それだけじゃない。
〈真・気力封魔撃滅金剛烈破〉はヌイモリを消滅させたあとも消えず、そのまま空の彼方に向かってどこまでも伸びていく。
この場にいた人たちはもちろん、プロテインの街にいた人たちも一斉に空を見上げただろう。
僕ことカンサイ・ウメダが放った〈真・気力封魔撃滅金剛烈破〉。
それは、地上から大宇宙へと昇っていく一条の流星のようであったことに。
王国歴1720年。
こののちウメダ領の領主となったカンサイは、仲間たちとともにS級のドラゴンと闘ったり領地を治めたりなどして長く領民に愛される存在となる。
それだけではなく、やがてカンサイはなぜか勇者パーティーのリーダーとして魔王討伐に向かう羽目になったりもする。
しかし、のちの世の人々は知らない。
この魔王討伐の陰には、稀代のトラブルメーカーとして名が広まる1人の黒髪の少女がいたことに――。
〈完〉
僕がたずねると、ハルミは「もちのろんろんです!」と返事をしてくる。
「でも、その〈昼夜逆転〉スキルはボクが持つスキルの中でも秘奥義に相当するスキルなので、ますます勇者さまとは濃密で熱いキスをしなくてはなりません」
「どういうこと?」
「つまり、勇者さまが昼でボクが夜ということです」
うん、さっぱりわからない。
僕はこういうときこその神頼みと、カーミちゃんに目をやった。
「うむ……まあ……その……頑張れ、カンサイ」
…………どうやらカーミちゃんもわからなかったらしい。
そうこうしている間に、ハルミは僕に激しく抱き着いてくる。
「とにかくキスです、勇者さま。ボクとキスをすれば秘奥義スキルの1つ――〈昼夜逆転〉がバッチリと発動できます」
待って待って。
1つってことは、自然現象を覆すスキルをまだ他に持っているってこと?
ハルミ・マクハリ……恐ろしい子!
何て馬鹿をやっている暇はない。
とにかく今は人生で最大級の超絶ピンチなのだ。
だったら躊躇している場合ではないだろう。
もうこうなったら、あとは野となれ山となれである。
「わかった……行くよ、ハルミ」
ブチュッ、と僕はハルミとキスをした。
全員の視線が僕たち2人に向けられる。
するとどうだろう。
たった今まで暗闇が支配していた夜が、あっという間に太陽が燦然と輝く朝になったではないか。
「そ、そんな馬鹿なあああああああああああああああ――――ッ!」
アホみたいに絶叫したのはヌイモリだ。
嘘みたいな自然現象を見て動揺している。
だが、僕のほうは違う。
全身に眩い朝日を受けたことで、腹の底から凄まじい何かが湧き上がってくるを感じた。
それは力だ。
神をも凌駕するツッコミの力である。
僕はハルミの身体をそっと離すと、全身を震わせているヌイモリと対峙した。
ヌイモリは両目を大きく見開いている。
どうやら今の僕の力を肌でまざまざと感じているらしい。
ふっ……だが、今さら僕の力を見て驚いてももう遅い!
魔人ヌイモリ、覚悟しろ!
僕がそう思いながら睨みつけると、ヌイモリは顔中に大量の冷や汗を流しながら平伏してきた。
「も、申し訳ないのであ~る! 今の貴様……いや、あなたさまには吾輩は天地が逆転しても勝てないのであ~る! どうか「ごめんなさい」を100回言うから許してほしいのであ~る!」
「100回程度で許されると思っているのか?」
「では1000回……いえ、10000回は謝らしてもらうのであ~る! だから命だけは許してほしいのであ~る!」
僕は満面の笑みを浮かべた。
「いいよ。10000回五体投地をしたら許してあげよう」
ちなみに五体投地とは、両手・両膝・額を地面に投げ伏して、対象への絶対的な降伏を表す土下座の上位互換のことだ。
ヌイモリは一転してパッと顔を明るくさせる。
「そ、それをすれば本当に命だけは許してくれるのであ~るか?」
「もちろん」
そう表向き答えた直後、僕は右手の掌を上に向けて「チャンバラトリオ」とつぶやいた。
僕は具現化させた〈神のハリセン〉を右手でしっかりと握る。
「ま、待つのであ~る! ど、どうして許してくれるのに〈神のハリセン〉を出すのであ~るか!」
へえ……僕の〈神のハリセン〉のことを知っているということは、バルハラ大草原で僕と魔人ルイボ・スティーの闘い(もしくは一方的な虐殺)をどこかで見ていたんだね。
僕は右手に持った〈神のハリセン〉の腹を、開いた左手の掌にバンバンと打ちつける。
これだけでヌイモリは気づいたようだ。
僕が本当はまったくこれっぽっちも許さないことに。
「あっ、吾輩ちょっと用事を思い出したのであ~る! 非常に申し訳ないのだがここら辺で失礼させていただくのであ~る!」
ヌイモリは一方的にまくしたてると、巨大な翼を羽ばたかせて空中に浮いた。
そのまま天高く飛翔していく。
「カンサイに1つ大事なことを言い忘れたのあ~るが、こう見えて吾輩は魔人ではなくただのコウモリの突然変異なのであ~る! だから本気の本気で見逃してくれなのであーーーーーーーーーーる!」
バサバサと翼を羽ばたかせてどこかへ飛んでいくヌイモリ。
「そうかそうか、ただのコウモリが突然変異しただけか。だったら、このまま大人しく見逃してあげなくちゃね…………って、ナンデヤネエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエンッ!」
僕はクソ寒い言い訳をして逃げていくヌイモリにツッコミを入れた。
同時に〈神のハリセン〉をヌイモリに対して力強く振る。
するとどうだろう。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――ッ!
僕の〈神のハリセン〉からは、黄金色に煌めく通常の数万倍の威力の〈気力封魔撃滅金剛烈破〉が放たれる。
いや、もはやそれは普通の〈気力封魔撃滅金剛烈破〉ではなかった。
〈真・気力封魔撃滅金剛烈破〉と呼ばれるものである。
「ひぎゃああああああああああああ――――…………」
津波のような黄金色の奔流となった〈真・気力封魔撃滅金剛烈破〉は、飛翔していたヌイモリを跡形もなく粉砕した。
それだけじゃない。
〈真・気力封魔撃滅金剛烈破〉はヌイモリを消滅させたあとも消えず、そのまま空の彼方に向かってどこまでも伸びていく。
この場にいた人たちはもちろん、プロテインの街にいた人たちも一斉に空を見上げただろう。
僕ことカンサイ・ウメダが放った〈真・気力封魔撃滅金剛烈破〉。
それは、地上から大宇宙へと昇っていく一条の流星のようであったことに。
王国歴1720年。
こののちウメダ領の領主となったカンサイは、仲間たちとともにS級のドラゴンと闘ったり領地を治めたりなどして長く領民に愛される存在となる。
それだけではなく、やがてカンサイはなぜか勇者パーティーのリーダーとして魔王討伐に向かう羽目になったりもする。
しかし、のちの世の人々は知らない。
この魔王討伐の陰には、稀代のトラブルメーカーとして名が広まる1人の黒髪の少女がいたことに――。
〈完〉
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