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童貞を死守します(その2)
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目が覚めた……。
ここは宿屋の俺の部屋だな。
ん? 非常にお腹が空いているぞ。
俺は……どれだけ寝ていたんだ!?
え、窓の外には夜空が見える……!
もう……夜になってしまったんだ!
「勇者様……? 心配しました! めっちゃ寝てましたね!」
部屋の中にはケーミーがいた。
「おお……もう夜になっちゃったね。どうしちまったんだ……俺の身体」
「かなり疲労が溜まっていたんですね。それともお年だからなのか……。そもそも徹夜でしたからね。死んでいるかのように眠っていたので、お医者さんを呼んだ方がいいかなぁ……って思っていたところでした」
若干煽られたけど、心配してくれていたんだな。
「ありがとう、ケーミー」
「いえいえ。……そうだ! 勇者様が眠っている間、町では勇者様がサキュバスを討伐した話で持ちきりでした」
「あ、本当? それは良かった……!」
「本当ですよ! 評価が上がって良かったですね。お城の兵士さんも、勇者様の安全確保のために宿屋を見張ってくれていました」
おお……!
なんて手厚い対応だ!
「あと、大罪人の脱走の話も広まり始めています」
「マジか。情報収集をしてくれていたんだね、ケーミー。ありがとう!」
なんて働き者なんだ。
ケーミー……感謝しているぜ。
「いえいえ、そんな。……ご飯でも食べに行きますか?」
俺は頷き、ケーミーと一緒に外に出た。
お店に向かう途中、兵士をよく見かけたぞ。
脱走犯のカリバデスを探しているのだろう。
お店に入ると、俺は周囲のお客さんから注目を浴びた。
「あれ、勇者様じゃないか!?」
「確かに! 掲示板に出てたな!」
「スワン王国を救ってくれて、ありがとうございます……!」
お、おお……!
正当に評価されているぞ。
う、嬉しいぜ……!!
「やりましたね、勇者様」
「うん、やったね」
称えられながら席に案内してもらい、料理を注文した。
いやぁ、なんか良い感じの時間だな……。
久々にゆっくりできるぞ。
「こんばんは……」
ん?
誰か女性が話しかけて来たぞ。
サインなら書くよ!
って、この子は……
「……ス、スカーレン!?」
「はい。すごい探しましたよ、勇者アキスト。サキュバス戦ではどうも……」
ちょちょちょっ!!?
ちょっと待ってよ、どういうこと!?
スカーレン……堂々と町の中に入って来たな……?
あ、尻尾を着物の中に隠しているんだな。
なるほど……。
おっと……ケーミーがスカーレンの顔を見ながら考えているぞ。
「スカーレン……さん? あっ! ……もしかして、ま……魔族!?」
理解したようだ。
事前に話をしていたので、わりと冷静みたいだな。
「あ、どうも」
スカーレンが返事をした。
「よくここが分かったね? ……って、水晶玉とやらで見ていたのか」
「いや……私は見ていないんですけどね」
あ、あれ……?
なんかムスっとしたぞ。
スカーレンは水晶玉を見ていないのか。
前にグチってたし、また魔王と何かあったのかな……。
「町の中を探し回って、ようやく見つけました。尻尾は隠していましたけど、けっこうジロジロ見られるのでバレちゃうかと思いましたよ」
たぶん……着物と刀が珍しいのだろう。
みんなジロジロ見ちゃうんだろうな。
そもそも、スカーレンは可愛いしね……。
「……その後、どうでしょうか? 何か困っていますか?」
え……スカーレン?
俺たちの悩み相談をしてくれるのか?
ど、どういうことなんだろう?
彼女は魔王軍の幹部なんだよ……?
と、思いながらも、俺はデヴィルンヌ戦で助けてくれたスカーレンのことを信用している。
残り香の影響ではあるけど、おっぱいでチンコを挟んでもらった仲だしね。
俺としてはこれからもスカーレンと共闘したいな……って気持ちがある。
……まぁ、情報を漏らしたところで、どうせ魔王は水晶玉を使ってこちらの動きを読むことができるんだ。
俺の行動は筒抜けなんだよね。
牢屋のボルハルトと相談しているところも見ているはずだ。
魔法陣を使うことが予想されている可能性は高い。
「じつは……」
俺はボルハルトの魔法陣を利用しようと思っていることを話した。
「なるほど……そういうことですか。けど、ボルハルトの魔法陣で魔王城に突入したとしても、向こうでは罠が張られていると思いますよ? どうせ……サリーヌあたりが魔王様から命令を受けているのでしょう。私には何も知らされていませんけどね」
「あ……」
そうか。
罠……張るよね。
当然、もうボルハルトもデヴィルンヌも魔王城にいない。
魔王城にある魔法陣のことは魔王が把握しているわけだ。
「アキスト達の動きも水晶玉で見えていますし……魔法陣から来ることは想定していると思います」
スカーレンが考えてくれている。
「な、なんか2人は仲良いですね……? これからの計画まで喋っちゃって……」
ケーミーが訝しげな表情を浮かべているぞ。
俺とスカーレンは仲良し……だね。
サキュバスの残り香の影響はもう切れているはずだ。
俺のムラムラはとっくに収まっているぞ。
魔王も効果はもう切れているって言っていたしな。
それなのに、なぜかスカーレンが真剣に相談に乗ってくれている。
「魔王城ですか……他に行く方法があるのか……」
スカーレンが考え続けている。
いやいやホント、なんでそんなに真剣に考えてくれるんだ?
魔王軍が嫌になって、寝返ったのかな……?
さっきもグチってたし。
ケーミーも怪しんでいることが表情から分かる。
スカーレンの立ち位置がよく分からないけど、本当に真剣に考えてくれているからなぁ。
スカーレンにこんな演技ができるとは思えないし。
『罠が張られるだろう』……っていう意見もごもっともだし。
ズバっと『どっちの味方なの?』って聞くのもなぁ。
変な空気になりそうだ。
スカーレンに嫌われたくないし……。
あのエッチな件があったから、スカーレンのことを意識してしまうぜ。
う~ん、とにかく相談に乗ってくれているから、一緒に魔王城に行く方法を考えてもらおうか。
「あ……魔王城に行く方法、ないことはないな。俺が射精すると、一度魔王城に飛ばされるんだ。四天王のサリーヌに鎖で縛られて、魔王といろいろ話して、魔王にエッチなことをされて……魔力を注入されて、それから過去に時間が遡る」
俺の言葉にケーミーが立ち上がって反応する。
「い、いや……え!? 魔王城に行ってるんですね!? それは聞いていませんでした! ……って、魔王とも仲良さげですね!? 勇者様……魔王城で何をやってるんですか!?」
「ま、まあね……話だけ聞いていると、そう思っちゃうかな? 実際は俺の精神を削ってきてるんだよ。呪いの内容があんなんだからね……絶頂直前の状態にされた後で旅のやり直しをさせられるんだ」
ケーミーは頷きながら席に座る。
「あ、なるほど。魔王……狡猾ですね」
納得したようだ。
「え、ちょっと待ってください……魔王様とエ、エッチなことを……!?」
スカーレンが頬を赤らめている。
怒っているようにも見えるな。
余計なことを言ってしまった……!
え……怒るってことは、スカーレンも俺のことを意識してくれているのだろうか!?
これだから俺は……! 思慮が足りないんだ!
あ……それとも、スカーレンの信念に背くようなことを俺と魔王がやってるから怒っているのか?
な、何を考えているんだ!?
「えっと……じゃあ、そのときに勇者様とスカーレンさんが協力すれば……2対2になりますよね?」
ケーミーがスカーレンに話しかける。
「え、私ですか!? いや……魔王様に直接逆らうわけにはいかないですよ……」
「その……スカーレンさんはどっちの味方なんですか? 今回だけじゃなく、以前も魔王の指示を無視して勇者様を殺しに来たんですよね? 勇者様を呪いで痛ぶるのではなく、正々堂々戦うために。勇者様からそう聞いています! 私は覚えていませんけど!」
ケーミーがズバズバ質問し始めたぞ!?
「あ、あなた……以前の話も聞いているんですね……? まぁ、そうですけど……そのときは魔王様の真意を知らなかったので」
「真意……ですか!? なんですか、それ?」
「え……いや、なんでもないです!」
「あ、怪しいですね……」
確かに。
スカーレン……怪しいぞ。
「もう1度聞きます。スカーレンさんは……どっちの味方なんですか?」
うお!?
ケーミーの追求が止まらない!
ケーミーからしたら初対面なのにすごいズバズバ追い込んでいるぞ……!!
「そ、それは……」
スカーレンは答えにくそうだ。
少し間を置いた後で再び口を開く。
「いや、その……私、帰りますね!」
え!? 帰る?
ス、スカーレン……!?
このタイミングで!?
なっ……?
ちょ、ちょっと待ってよ!!
「ええっ!? スカーレン? このタイミングで!?」
「はい……! また会いましょう、アキスト!」
「待ってくださいよ! じゃあ、これだけ教えてください! 以前の勇者様の仲間はどうなってますか!? 戦士の男の人は……ぶ、無事ですか……!?」
ケーミー!
そうだ、彼女にとって最も大切な情報だ。
「俺からもお願いだ! 教えてくれ!」
「えっ!? そ、それは……魔王様に聞いてください! どうせ私は仲間外れなんですから……!」
「ちょっ! 戦士は私の恋人なんです! お願いします!」
「えっ!? そうだったんですね!? そ、それでも……ごめんなさいっ!」
え……ええぇっ……!?
スカーレンが消えた。
せっかく尻尾を隠して町の中まで来たのに……。
……そして病んでるな。
ちょこちょこ魔王軍の不満を漏らしている気がする。
「き、消えましたよ……!? あれが瞬間移動ですか……。スカーレンさん、絶対なんか隠してますよ……私の恋人のことと、魔王の真意……でしたっけ? 嘘とか絶対につけない感じですよね。勇者様以上に真っ直ぐな人です」
た、確かに……。
「ああ……そうだな」
魔王の真意……か。
それは俺を魔王軍に引き込みたいってことか……?
よく分からないんだよなぁ……魔王は。
「あ、勇者様からも、私の恋人のことを聞いてくれてありがとうございます」
「いや、俺は何も……。スカーレン、なかなか教えてくれないんだよな……。魔王にも聞いたけど教えてくれなかったし」
「モヤモヤしますね。 ……で、スカーレンさんはどっちの味方なんですか!?」
「それは……分からない。彼女は彼女で色々と魔王軍に納得がいかないことがあるみたいで……」
「なんか色々と不満げでしたね。まったく……よく分からないですね。今日、人間に見つかるリスクを冒してまで何故スワン王国に来たのかもよく分からないですし」
「うん……」
「まぁ、考えていても仕方がないですね。……で、これからどうしましょうか?」
「よし、もうこうなったら……地上の果て、魔界の入り口に行くか!」
「あの……それ、具体的にはどれだけの時間が掛かるんですか?」
「行き方は分かっているんだけど、まぁ……半年以上は掛かるかな」
「いっ!? いや……その間、射精しないなんて、絶対にムリですよ……。分かってますか? 勇者様は射精したらやり直しなんですよ?」
「う! た、確かに……分かっているけどさ、やるしかないじゃん!」
「射精……させられますよね!? またサキュバスみたいのが出てきちゃうかもしれませんし、スカーレンさんとの関係も何だか怪しくないですか? 勇者様もちょっと優し過ぎますよね? 怪しいです。……私の目はゴマかせませんよ!」
「うぅっ……!!」
マ、マジか……!?
スカーレンとの距離感……変わっていたか。
よく分かったね!?
ケーミー……そのことも怪しんでたのか!?
この子は恋愛経験が豊富そうだもんな。
がんばって否定しよう。
「……な、何を言ってるんだよ、ケーミー? そんなことないよ!」
「怪しいですね……。なんか目が泳いでますし。もうホント……男ってやつは大きなおっぱいに弱いんですから。魔族との恋愛はさすがに禁忌ですからね!?」
ケーミーがジト目だ。
大きなおっぱいに弱い……それは否定できない。
こういうときは否定すればするほど怪しまれるのだろう。
もうノーコメントだ!
「……」
「なんですか、その目は。まぁ、これ以上は追求しませんよ。じゃあ……話を戻しますね。だいたい、地上の果てに行くまでに半年も掛かったら、夢精しちゃうかもしれないじゃないですか? そこら辺はどうなってるんですか……!」
む、夢精……!!
この子は男が夢精することまで知っているのか!?
夢精はどうなんだろう……。
うん、それは俺も気にしていた!
確かスカーレンと戦ったときに聞いたんだけど、彼女は何も知らなかったな。
「勇者様、ちゃんと聞いてますか!? この世の中、頑張れば報われるわけじゃないんですよ? ちゃんと短期間で成果が出ること、かつ確実性の高いことから取り組んでいきましょうよ!」
「う! うぅっ……!」
……ごもっともだ。
若いのにしっかりしているな。
いや、若さは関係ないか……。
彼女はウェイウェイしながらも行動的で、恋愛やら人間関係やら魔法使いとしての道やら色々な困難を乗り越えてきたのだろう。
「さっきの話だと、射精したら魔王城に行くってことでいいんですよね? そこで勇者様が単身、暴れて魔王を倒せばいいんじゃないですか……!?」
「む、無茶言うな……! さっき言ったでしょ! 射精後、気づくと俺は基本的に鎖で固定されているんだよ……!?」
「え……ああ、言ってましたね。まったく逃げ出せないんですか?」
「あ……そういえば、前回は2人きりになったな。魔王と2人で話したいって言えば、もしかしたら……」
なぜか前回は2人で話した。
そのときは鎖も緩んでいた。
魔王が、サリーヌともう1人の魔族に部屋から出て行くように指示を出したんだ。
「えっ!? チャンスじゃないですか! それならチャンスを作って……」
「あ……ダメだ。勇者の聖剣がね、見当たらないんだよ。必ず取られちゃってるんだ……」
「あ……それはダメですね。そうですよね、さすがに敵もそこまでバカじゃないですよね……」
す、すごい物言いだな……。
ケーミーが興奮気味である。
……恋人のことが心配なんだな。
彼がどうなっているか分からないけど、早く解決してあげたい。
「じゃあ、やっぱりボルハルトのおじさんですね。交渉を早めるため、私たちでさっさとグリトラル王国に戻りましょうよ。で、勇者様からも交渉してください。どうせ王国同士で契約を交わすのなんてめちゃめちゃ遅いですよ。しかも犯罪者の脱走でゴタついていますし。勇者様の権限があれば、少しぐらいは早くなるんじゃないですか? ダメかもしれないですけど、とりあえず話ぐらいは聞いてくれるはずです。やらなきゃ損ですよ」
「た、確かに……」
グリトラル王国か……あの国では、とくに俺の印象が悪いんだよな。
戻るの嫌だなぁ。
「あとは、罠への対策だね……。スカーレンの言うとおり、魔王城で罠を張って待ち構えているかもしれない」
「まぁ、そうですけど。そこはスカーレンさんから聞き出して対策しましょう」
「う、う~ん……。よく分からないけど、彼女はなんだかんだ魔王を敬っている感じはするんだよ。これ以上、協力してくれるかな? ……そもそも、俺からスカーレンを呼ぶことはできないよ?」
「でも……またスカーレンさんは勇者様に会いに来ますよね?」
「え? なんで?」
「へっ!? さっき言ってたじゃないですか。『また会いましょう、アキスト』って。2人の距離感がおかしいです。もうスカーレンさんは『勇者様に会いたいー』って感じが出てましたよ」
「え、ええっ!? そ、そうかな……? 何も感じなかったけどな……。スカーレンとも何もなかったし……」
俺の嘘……通じてくれ!
「スカーレンさんが今日ここに来たのも、勇者様に会いたかったからじゃないですか? 具体的な用事は何もなかったですよね? 彼女は今、シンプルに恋する乙女なんですよ」
「そ、そうなのかなぁ……?」
ま、まさかな……。
そうだったら、ちょっと嬉しいと思ってしまっている。
この気持ちは顔に出さないようにしよう。
「……何があったか知りませんが、絶対にスカーレンさんは勇者様に気がありますよ。待ちましょう。どうせすぐに来ますから」
「う、うん。そうだといいね……」
「まさか魔族と恋愛関係になったりしないと思いますけど……!!」
おおっ!? 再びケーミーがジト目だぞ……。
確かにスカーレンとの距離は縮まった。
ちょっと良い感じな気がする。
サキュバスの残り香の効果が切れているにもかかわらず……だ!
う~ん……それにしてもケーミーは本当に鋭いな。
釘を刺されてしまったぞ。
「勇者様! とにかくグリトラル王国に行きましょうよ!」
ケーミー……このガンガン攻めていく感じがすごいぜ!
スワン王国、そしてグリトラル王国を相手にしていると言うのに……!
俺はグリトラル王国の王様も大臣も、あとはとくに王女様たちが苦手だぜ……!!
ぜんぜん評価されていないからね。
ああ、なんか頭が痛くなってきたな。
「ケ、ケーミー……ちょっとまだ……身体がだるい。頭もちょっと痛い。休ませて」
「えっ!? 勇者様!? ま、まだ寝る気ですかー!?」
「うん。ご飯を食べたら寝る……」
「30代を過ぎると、そんな感じになっちゃうんですね。まぁ、さすがに私ももう寝ますけど……」
彼女のスタミナもメンタルも羨ましいわ。
って思ったけど、ケーミーも眠そうだぞ。
とうわけで、再び眠りにつくことにした。
ここは宿屋の俺の部屋だな。
ん? 非常にお腹が空いているぞ。
俺は……どれだけ寝ていたんだ!?
え、窓の外には夜空が見える……!
もう……夜になってしまったんだ!
「勇者様……? 心配しました! めっちゃ寝てましたね!」
部屋の中にはケーミーがいた。
「おお……もう夜になっちゃったね。どうしちまったんだ……俺の身体」
「かなり疲労が溜まっていたんですね。それともお年だからなのか……。そもそも徹夜でしたからね。死んでいるかのように眠っていたので、お医者さんを呼んだ方がいいかなぁ……って思っていたところでした」
若干煽られたけど、心配してくれていたんだな。
「ありがとう、ケーミー」
「いえいえ。……そうだ! 勇者様が眠っている間、町では勇者様がサキュバスを討伐した話で持ちきりでした」
「あ、本当? それは良かった……!」
「本当ですよ! 評価が上がって良かったですね。お城の兵士さんも、勇者様の安全確保のために宿屋を見張ってくれていました」
おお……!
なんて手厚い対応だ!
「あと、大罪人の脱走の話も広まり始めています」
「マジか。情報収集をしてくれていたんだね、ケーミー。ありがとう!」
なんて働き者なんだ。
ケーミー……感謝しているぜ。
「いえいえ、そんな。……ご飯でも食べに行きますか?」
俺は頷き、ケーミーと一緒に外に出た。
お店に向かう途中、兵士をよく見かけたぞ。
脱走犯のカリバデスを探しているのだろう。
お店に入ると、俺は周囲のお客さんから注目を浴びた。
「あれ、勇者様じゃないか!?」
「確かに! 掲示板に出てたな!」
「スワン王国を救ってくれて、ありがとうございます……!」
お、おお……!
正当に評価されているぞ。
う、嬉しいぜ……!!
「やりましたね、勇者様」
「うん、やったね」
称えられながら席に案内してもらい、料理を注文した。
いやぁ、なんか良い感じの時間だな……。
久々にゆっくりできるぞ。
「こんばんは……」
ん?
誰か女性が話しかけて来たぞ。
サインなら書くよ!
って、この子は……
「……ス、スカーレン!?」
「はい。すごい探しましたよ、勇者アキスト。サキュバス戦ではどうも……」
ちょちょちょっ!!?
ちょっと待ってよ、どういうこと!?
スカーレン……堂々と町の中に入って来たな……?
あ、尻尾を着物の中に隠しているんだな。
なるほど……。
おっと……ケーミーがスカーレンの顔を見ながら考えているぞ。
「スカーレン……さん? あっ! ……もしかして、ま……魔族!?」
理解したようだ。
事前に話をしていたので、わりと冷静みたいだな。
「あ、どうも」
スカーレンが返事をした。
「よくここが分かったね? ……って、水晶玉とやらで見ていたのか」
「いや……私は見ていないんですけどね」
あ、あれ……?
なんかムスっとしたぞ。
スカーレンは水晶玉を見ていないのか。
前にグチってたし、また魔王と何かあったのかな……。
「町の中を探し回って、ようやく見つけました。尻尾は隠していましたけど、けっこうジロジロ見られるのでバレちゃうかと思いましたよ」
たぶん……着物と刀が珍しいのだろう。
みんなジロジロ見ちゃうんだろうな。
そもそも、スカーレンは可愛いしね……。
「……その後、どうでしょうか? 何か困っていますか?」
え……スカーレン?
俺たちの悩み相談をしてくれるのか?
ど、どういうことなんだろう?
彼女は魔王軍の幹部なんだよ……?
と、思いながらも、俺はデヴィルンヌ戦で助けてくれたスカーレンのことを信用している。
残り香の影響ではあるけど、おっぱいでチンコを挟んでもらった仲だしね。
俺としてはこれからもスカーレンと共闘したいな……って気持ちがある。
……まぁ、情報を漏らしたところで、どうせ魔王は水晶玉を使ってこちらの動きを読むことができるんだ。
俺の行動は筒抜けなんだよね。
牢屋のボルハルトと相談しているところも見ているはずだ。
魔法陣を使うことが予想されている可能性は高い。
「じつは……」
俺はボルハルトの魔法陣を利用しようと思っていることを話した。
「なるほど……そういうことですか。けど、ボルハルトの魔法陣で魔王城に突入したとしても、向こうでは罠が張られていると思いますよ? どうせ……サリーヌあたりが魔王様から命令を受けているのでしょう。私には何も知らされていませんけどね」
「あ……」
そうか。
罠……張るよね。
当然、もうボルハルトもデヴィルンヌも魔王城にいない。
魔王城にある魔法陣のことは魔王が把握しているわけだ。
「アキスト達の動きも水晶玉で見えていますし……魔法陣から来ることは想定していると思います」
スカーレンが考えてくれている。
「な、なんか2人は仲良いですね……? これからの計画まで喋っちゃって……」
ケーミーが訝しげな表情を浮かべているぞ。
俺とスカーレンは仲良し……だね。
サキュバスの残り香の影響はもう切れているはずだ。
俺のムラムラはとっくに収まっているぞ。
魔王も効果はもう切れているって言っていたしな。
それなのに、なぜかスカーレンが真剣に相談に乗ってくれている。
「魔王城ですか……他に行く方法があるのか……」
スカーレンが考え続けている。
いやいやホント、なんでそんなに真剣に考えてくれるんだ?
魔王軍が嫌になって、寝返ったのかな……?
さっきもグチってたし。
ケーミーも怪しんでいることが表情から分かる。
スカーレンの立ち位置がよく分からないけど、本当に真剣に考えてくれているからなぁ。
スカーレンにこんな演技ができるとは思えないし。
『罠が張られるだろう』……っていう意見もごもっともだし。
ズバっと『どっちの味方なの?』って聞くのもなぁ。
変な空気になりそうだ。
スカーレンに嫌われたくないし……。
あのエッチな件があったから、スカーレンのことを意識してしまうぜ。
う~ん、とにかく相談に乗ってくれているから、一緒に魔王城に行く方法を考えてもらおうか。
「あ……魔王城に行く方法、ないことはないな。俺が射精すると、一度魔王城に飛ばされるんだ。四天王のサリーヌに鎖で縛られて、魔王といろいろ話して、魔王にエッチなことをされて……魔力を注入されて、それから過去に時間が遡る」
俺の言葉にケーミーが立ち上がって反応する。
「い、いや……え!? 魔王城に行ってるんですね!? それは聞いていませんでした! ……って、魔王とも仲良さげですね!? 勇者様……魔王城で何をやってるんですか!?」
「ま、まあね……話だけ聞いていると、そう思っちゃうかな? 実際は俺の精神を削ってきてるんだよ。呪いの内容があんなんだからね……絶頂直前の状態にされた後で旅のやり直しをさせられるんだ」
ケーミーは頷きながら席に座る。
「あ、なるほど。魔王……狡猾ですね」
納得したようだ。
「え、ちょっと待ってください……魔王様とエ、エッチなことを……!?」
スカーレンが頬を赤らめている。
怒っているようにも見えるな。
余計なことを言ってしまった……!
え……怒るってことは、スカーレンも俺のことを意識してくれているのだろうか!?
これだから俺は……! 思慮が足りないんだ!
あ……それとも、スカーレンの信念に背くようなことを俺と魔王がやってるから怒っているのか?
な、何を考えているんだ!?
「えっと……じゃあ、そのときに勇者様とスカーレンさんが協力すれば……2対2になりますよね?」
ケーミーがスカーレンに話しかける。
「え、私ですか!? いや……魔王様に直接逆らうわけにはいかないですよ……」
「その……スカーレンさんはどっちの味方なんですか? 今回だけじゃなく、以前も魔王の指示を無視して勇者様を殺しに来たんですよね? 勇者様を呪いで痛ぶるのではなく、正々堂々戦うために。勇者様からそう聞いています! 私は覚えていませんけど!」
ケーミーがズバズバ質問し始めたぞ!?
「あ、あなた……以前の話も聞いているんですね……? まぁ、そうですけど……そのときは魔王様の真意を知らなかったので」
「真意……ですか!? なんですか、それ?」
「え……いや、なんでもないです!」
「あ、怪しいですね……」
確かに。
スカーレン……怪しいぞ。
「もう1度聞きます。スカーレンさんは……どっちの味方なんですか?」
うお!?
ケーミーの追求が止まらない!
ケーミーからしたら初対面なのにすごいズバズバ追い込んでいるぞ……!!
「そ、それは……」
スカーレンは答えにくそうだ。
少し間を置いた後で再び口を開く。
「いや、その……私、帰りますね!」
え!? 帰る?
ス、スカーレン……!?
このタイミングで!?
なっ……?
ちょ、ちょっと待ってよ!!
「ええっ!? スカーレン? このタイミングで!?」
「はい……! また会いましょう、アキスト!」
「待ってくださいよ! じゃあ、これだけ教えてください! 以前の勇者様の仲間はどうなってますか!? 戦士の男の人は……ぶ、無事ですか……!?」
ケーミー!
そうだ、彼女にとって最も大切な情報だ。
「俺からもお願いだ! 教えてくれ!」
「えっ!? そ、それは……魔王様に聞いてください! どうせ私は仲間外れなんですから……!」
「ちょっ! 戦士は私の恋人なんです! お願いします!」
「えっ!? そうだったんですね!? そ、それでも……ごめんなさいっ!」
え……ええぇっ……!?
スカーレンが消えた。
せっかく尻尾を隠して町の中まで来たのに……。
……そして病んでるな。
ちょこちょこ魔王軍の不満を漏らしている気がする。
「き、消えましたよ……!? あれが瞬間移動ですか……。スカーレンさん、絶対なんか隠してますよ……私の恋人のことと、魔王の真意……でしたっけ? 嘘とか絶対につけない感じですよね。勇者様以上に真っ直ぐな人です」
た、確かに……。
「ああ……そうだな」
魔王の真意……か。
それは俺を魔王軍に引き込みたいってことか……?
よく分からないんだよなぁ……魔王は。
「あ、勇者様からも、私の恋人のことを聞いてくれてありがとうございます」
「いや、俺は何も……。スカーレン、なかなか教えてくれないんだよな……。魔王にも聞いたけど教えてくれなかったし」
「モヤモヤしますね。 ……で、スカーレンさんはどっちの味方なんですか!?」
「それは……分からない。彼女は彼女で色々と魔王軍に納得がいかないことがあるみたいで……」
「なんか色々と不満げでしたね。まったく……よく分からないですね。今日、人間に見つかるリスクを冒してまで何故スワン王国に来たのかもよく分からないですし」
「うん……」
「まぁ、考えていても仕方がないですね。……で、これからどうしましょうか?」
「よし、もうこうなったら……地上の果て、魔界の入り口に行くか!」
「あの……それ、具体的にはどれだけの時間が掛かるんですか?」
「行き方は分かっているんだけど、まぁ……半年以上は掛かるかな」
「いっ!? いや……その間、射精しないなんて、絶対にムリですよ……。分かってますか? 勇者様は射精したらやり直しなんですよ?」
「う! た、確かに……分かっているけどさ、やるしかないじゃん!」
「射精……させられますよね!? またサキュバスみたいのが出てきちゃうかもしれませんし、スカーレンさんとの関係も何だか怪しくないですか? 勇者様もちょっと優し過ぎますよね? 怪しいです。……私の目はゴマかせませんよ!」
「うぅっ……!!」
マ、マジか……!?
スカーレンとの距離感……変わっていたか。
よく分かったね!?
ケーミー……そのことも怪しんでたのか!?
この子は恋愛経験が豊富そうだもんな。
がんばって否定しよう。
「……な、何を言ってるんだよ、ケーミー? そんなことないよ!」
「怪しいですね……。なんか目が泳いでますし。もうホント……男ってやつは大きなおっぱいに弱いんですから。魔族との恋愛はさすがに禁忌ですからね!?」
ケーミーがジト目だ。
大きなおっぱいに弱い……それは否定できない。
こういうときは否定すればするほど怪しまれるのだろう。
もうノーコメントだ!
「……」
「なんですか、その目は。まぁ、これ以上は追求しませんよ。じゃあ……話を戻しますね。だいたい、地上の果てに行くまでに半年も掛かったら、夢精しちゃうかもしれないじゃないですか? そこら辺はどうなってるんですか……!」
む、夢精……!!
この子は男が夢精することまで知っているのか!?
夢精はどうなんだろう……。
うん、それは俺も気にしていた!
確かスカーレンと戦ったときに聞いたんだけど、彼女は何も知らなかったな。
「勇者様、ちゃんと聞いてますか!? この世の中、頑張れば報われるわけじゃないんですよ? ちゃんと短期間で成果が出ること、かつ確実性の高いことから取り組んでいきましょうよ!」
「う! うぅっ……!」
……ごもっともだ。
若いのにしっかりしているな。
いや、若さは関係ないか……。
彼女はウェイウェイしながらも行動的で、恋愛やら人間関係やら魔法使いとしての道やら色々な困難を乗り越えてきたのだろう。
「さっきの話だと、射精したら魔王城に行くってことでいいんですよね? そこで勇者様が単身、暴れて魔王を倒せばいいんじゃないですか……!?」
「む、無茶言うな……! さっき言ったでしょ! 射精後、気づくと俺は基本的に鎖で固定されているんだよ……!?」
「え……ああ、言ってましたね。まったく逃げ出せないんですか?」
「あ……そういえば、前回は2人きりになったな。魔王と2人で話したいって言えば、もしかしたら……」
なぜか前回は2人で話した。
そのときは鎖も緩んでいた。
魔王が、サリーヌともう1人の魔族に部屋から出て行くように指示を出したんだ。
「えっ!? チャンスじゃないですか! それならチャンスを作って……」
「あ……ダメだ。勇者の聖剣がね、見当たらないんだよ。必ず取られちゃってるんだ……」
「あ……それはダメですね。そうですよね、さすがに敵もそこまでバカじゃないですよね……」
す、すごい物言いだな……。
ケーミーが興奮気味である。
……恋人のことが心配なんだな。
彼がどうなっているか分からないけど、早く解決してあげたい。
「じゃあ、やっぱりボルハルトのおじさんですね。交渉を早めるため、私たちでさっさとグリトラル王国に戻りましょうよ。で、勇者様からも交渉してください。どうせ王国同士で契約を交わすのなんてめちゃめちゃ遅いですよ。しかも犯罪者の脱走でゴタついていますし。勇者様の権限があれば、少しぐらいは早くなるんじゃないですか? ダメかもしれないですけど、とりあえず話ぐらいは聞いてくれるはずです。やらなきゃ損ですよ」
「た、確かに……」
グリトラル王国か……あの国では、とくに俺の印象が悪いんだよな。
戻るの嫌だなぁ。
「あとは、罠への対策だね……。スカーレンの言うとおり、魔王城で罠を張って待ち構えているかもしれない」
「まぁ、そうですけど。そこはスカーレンさんから聞き出して対策しましょう」
「う、う~ん……。よく分からないけど、彼女はなんだかんだ魔王を敬っている感じはするんだよ。これ以上、協力してくれるかな? ……そもそも、俺からスカーレンを呼ぶことはできないよ?」
「でも……またスカーレンさんは勇者様に会いに来ますよね?」
「え? なんで?」
「へっ!? さっき言ってたじゃないですか。『また会いましょう、アキスト』って。2人の距離感がおかしいです。もうスカーレンさんは『勇者様に会いたいー』って感じが出てましたよ」
「え、ええっ!? そ、そうかな……? 何も感じなかったけどな……。スカーレンとも何もなかったし……」
俺の嘘……通じてくれ!
「スカーレンさんが今日ここに来たのも、勇者様に会いたかったからじゃないですか? 具体的な用事は何もなかったですよね? 彼女は今、シンプルに恋する乙女なんですよ」
「そ、そうなのかなぁ……?」
ま、まさかな……。
そうだったら、ちょっと嬉しいと思ってしまっている。
この気持ちは顔に出さないようにしよう。
「……何があったか知りませんが、絶対にスカーレンさんは勇者様に気がありますよ。待ちましょう。どうせすぐに来ますから」
「う、うん。そうだといいね……」
「まさか魔族と恋愛関係になったりしないと思いますけど……!!」
おおっ!? 再びケーミーがジト目だぞ……。
確かにスカーレンとの距離は縮まった。
ちょっと良い感じな気がする。
サキュバスの残り香の効果が切れているにもかかわらず……だ!
う~ん……それにしてもケーミーは本当に鋭いな。
釘を刺されてしまったぞ。
「勇者様! とにかくグリトラル王国に行きましょうよ!」
ケーミー……このガンガン攻めていく感じがすごいぜ!
スワン王国、そしてグリトラル王国を相手にしていると言うのに……!
俺はグリトラル王国の王様も大臣も、あとはとくに王女様たちが苦手だぜ……!!
ぜんぜん評価されていないからね。
ああ、なんか頭が痛くなってきたな。
「ケ、ケーミー……ちょっとまだ……身体がだるい。頭もちょっと痛い。休ませて」
「えっ!? 勇者様!? ま、まだ寝る気ですかー!?」
「うん。ご飯を食べたら寝る……」
「30代を過ぎると、そんな感じになっちゃうんですね。まぁ、さすがに私ももう寝ますけど……」
彼女のスタミナもメンタルも羨ましいわ。
って思ったけど、ケーミーも眠そうだぞ。
とうわけで、再び眠りにつくことにした。
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