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破滅

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そしてある日事件が起きた。
僕は身体中に渦巻く熱を持て余しながら、どうにか大学に通っていた。いつも熱があるようで、怠くてふらふらする感覚が抜けない。
その日座学を終えて講義室を出ようとしたとき、上野とぶつかった。

「あ! ごめん……」

僕は咄嗟に謝ったが、これは話しかけたことにはならないよね? とちょっと気になった。そのまま通り過ぎようとしたけど、大きな手で手首を掴まれて講義室の中に引きずり込まれた。
――え……?

「お前、そんな姿で男を誘惑して抱いてもらおうっていうのか?」
「え、なに?」
「自分がどんな顔してるかわかってる?」
「そんなの知らな……」
「いやらしい奴だ!」

講義室の机の上に押し倒された。
なに――? どうしたの?
いつもの優しい上野とはまるで人が違っていた。目は落ち窪んでギラギラと光っている。しばらく見ないうちに痩せたようにも感じる。

「上野……? 話しかけられたくないんだと思ってたんだ。嫌なことしたんなら謝るから、どけてよ」
「はっ! 謝るだって?」
「重たいよ。悪いけど今体調が良くないんだ。乱暴しないで」
「黙れ!」
「ひっ」

大きな声で威嚇いかくされて僕はビクッと首をすくめた。

「お前のせいで……お前のせいで俺は……くそ!」

そう言って彼は噛み付くようにキスしてきた。

「んんっ――!」

唾液で口の周りがベタベタになるほど貪られる。僕は顔を背けた。

「上野、怖いよ。お願い止めて!」

僕が懇願しても、上野はもう聞こえていないようだった。

「お前が俺を誘惑したんだ……! お前が……」

その声を聞いて僕はハッとした。
――僕が誘惑した?
そして痣のある脇腹を無意識に手で押さえた。

「僕のせい……」

だとしたら今すぐに止めさせないと!
このまま最後までしたら、上野は正気に戻れなくなる。

「ダメ、上野やめて! お願い……いや!」
「静かにしろ……」
「んっ、嫌だったら! 上野お願いやめて!」

僕がそうやってなんとか抵抗していたその時だ。

「おい、どうした?」と講師が部屋に入ってきた。僕と上野は硬直した。

「お前! 何やってるんだ!」

そう言ってその講師は僕から上野を引き剥がした。

「君大丈夫か!?」
「だ、大丈夫……です……」
「ここをどこだと思ってるんだ!」

ヤバい……どうしよう……。
僕は顔中唾液で濡れているし、着ていたシャツはボタンを引きちぎられて肩まではだけている。なんとか説得して喧嘩してただけということにしないと、このままでは上野の立場が危うい。

「すいません……俺が無理やり犯そうとしました」

――はあ!? なんてこと言うんだよ!
僕は驚いて咄嗟に上野をかばおうとした。

「ち、ちがいます! あの、ふざけてただけで……」
「ふざけてるようには見えない。悪いがこのままにしておくわけにはいかないから」

そして上に報告されることになってしまった。
なんで……? なんでこんなことになるの……。
言い訳できたかもしれないのに、どうして上野は犯そうとしたなんて言ったの……?
僕には上野の言動が理解できなかった。
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