あなたの幸せを願っています

まんまる

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「ヴァン⋯?どうして⋯ここに⋯」

「シスリー、俺から離れるなと言ったはずだ」

「でも、それは、僕に責任を感じて⋯。だから、僕の事なんか忘れて、ヴァンには幸せになって欲しかったんだ」

「シスリーが笑っていないのに、俺が笑えるわけない。シスリーがいないのに、俺はどうやって幸せになればいいんだ」





◇◇◇◇◇

ヴァンと僕は、王都にある孤児院で育った。
まだ産まれたばかりだった僕たちは、ちょうど同じ時期に、孤児院に置き去りにされていたと聞かされた。

親が恋しいとか、親が憎いとか、そんな感情を持った事がなかった。
なぜなら、親というものがどういう存在なのかさえ、僕には分からなかったから。
それに、いつもヴァンと一緒だったから、寂しいと思った事も一度もなかった。

ヴァンがずっと傍にいてくれる、僕はそう信じていた。

でも、あれは僕たちが10歳の時だった。
子宝に恵まれず、養子にする子どもを探しているという伯爵夫妻が、孤児院を訪ねてきた。
夫妻は優しげな眼差しで、一列に並んだ子どもたちの前を、一言二言、言葉を交わしながら、ゆっくりと歩いていった。

「シスリー、どうした?緊張してるのか?」
「ヴァン⋯、う、うん、だって、貴族と話した事なんてないから」
「大丈夫だ、シスリー、俺がいるだろ?何があっても、俺が傍にいるから」
「本当?」
「ああ、俺たちは、いつも一緒だっただろ?だからこれからも、ずっと一緒だ」
「う、うん!」

コツ コツ

夫妻が僕とヴァンの前に来た。
僕がヴァンの手をぎゅっと握り締めると、ヴァンも力強く握り返してくれた。

「あなた、お名前は?」

頭の上から夫人の優しい声が聞こえて、ドキドキしながら僕がそっと上を向くと、伯爵夫妻の視線は、真っ直ぐにヴァンに注がれていた。

あっ⋯僕じゃなかった。

僕より背の高いヴァンの顔をちらりと見上げると、ヴァンは背筋をしゃんと伸ばし、伯爵夫妻から目を逸らす事なく、堂々と前を向いていた。

「ヴァンです」
「歳はおいくつかしら?」
「10歳です」
「まあ!もっと上かと思ったわ。随分しっかりしているのね。それに、なんて立派な体格なのかしら。ねえ、あなた」

夫人は伯爵に腕を絡ませ、嬉しそうに微笑んだ。

「ああ、この子なら申し分ないな」

伯爵は、夫人と目を合わせて大きく頷いた後、横に控えていた院長に声を掛けた。

「院長、今から時間は取れるだろうか」
「ええ、もちろんですとも。どうぞこちらへ」

院長はにこりと笑うと、右手を差し出して、奥の部屋を指し示した。

一瞬、何が起こっているのか分からなかった。
体の感覚が鈍くなり、どうやって息をしていたのかさえ分からなくなった。
ただ、冷たくなった僕の手が、小刻みに震えている事だけは分かった。

「待ってください」

その時、ヴァンの落ち着いた声が、塞がりかけていた僕の耳を通り抜けていった。
ヴァンは僕の手をぎゅっと握ったまま、伯爵夫婦を正面に見据えた。

「俺はシスリーが一緒じゃないと、どこへも行きません」

えっ⋯?

「なっ!?ヴァン!伯爵に向かって、何て口の利き方をするんだ!早く謝りなさい!」
「まあまあ、院長、友人思いで、しっかりした子じゃないか。民を大事に思う気持ちがなければ、貴族の務めは果たせない。そういう意味では、この子は私たちの希望通りの子のようだ」

伯爵は、目を細めてヴァンを見た。

「院長、2人とも私の邸に連れて行こう」
「えっ!?よろしいのですか!?」
「ああ、2人とも養子という訳にはいかないが、引き離すのは忍びない。まあ、とにかく、詳しい話が先だ」
「え、ええ、そうですね。こちらへどうぞ」

伯爵夫妻が院長に案内されて、奥の部屋へ入っていくのを、僕はぼんやりと見ていた。
それからしばらくして僕たちは院長から呼ばれ、伯爵夫妻がいる部屋へ入った。

その間、ヴァンが僕の手を離すことはなかった。

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