悪役令嬢は断罪されたい

東 るるる

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1章 〘 悪役令嬢は投げ出したい 〙

4話 【次期宰相を甘やかす】

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私は馬鹿ではないので。
ええ、何度だって言いましょう。

私は馬鹿じゃないです。

失礼。目の前にいる攻略対象者である次期宰相に苛立ってしまって。
それは図書館で静かに本をたしなんでいるときだった。
「へぇ…馬鹿でも本は読むんですね」
だァれが馬鹿じゃい!!
「あら。レヴァン・バールウォルダ公爵令息殿。ごきげんよう」
「ええ、ごきげんよう。イリア・ラビニュル公爵令嬢殿」
そう。1話の、かの暗殺者。
みなさんは覚えているでしょうか。
『バールウォルダ公爵家からの…!!』
あの発言をした暗殺者。
結局あれは暗殺者の出任せだったが、あれ以来バールウォルダ公爵家というワードが苦手になってしまった。
なんか悔しい。
コイツに見下されてる気がして。
ああ、そうだ。
まずは、「私は馬鹿ではない」ことを証明せねば。
王太子とのお茶会で話された話。
今、一妻一夫制が検討されていることに関して。
多分、宰相である父の口からもう聞いたであろうその話題。
口にしてみる価値はあるのかもしれない。
「そういえば。バールウォルダ公爵令息殿は一妻一夫制について討論されている件について、ご存じですか?」
本に栞を挟んでぱたん、と閉じる。
「ええ。知っていますよ。
私もつい先日、父上から聞かされました」
「そうですか。それはよかったです。
バールウォルダ公爵令息殿は、この制度についてどう思われますか?」
さて、ここから討論が始まる。
………そう、私からすれば絶対に負けられない戦争が。
「そうですね。
私はこの制度について、正味反対ですね」
「なるほど…?
私は賛成なんですけどね」
「ほう。
理由を聞かせてもらっても?」
「そもそも、一妻一夫制は和の國などで実施されている制度ですよね。
そして、この制度を導入している国は非常に少ない。
一妻一夫制にすることで他国から一目置かれ、知名度を上げることが今回の目的だと考えています。
ですので、これを施行しなくてはならないほど現在自国は困っているか、貪欲かですよね。
…バールウォルダ公爵令息殿のご意見をお聞かせ願えますか?」
「わかりました。
…確かにラビニシュル公爵令嬢殿が仰る通り、一目置かれ、知名度を上げることが目的だと私も思っています。
ですが、過去に一妻一夫制を施行して滅びかけた歴史ある一門もあり、王家も過去に滅びかけたことがあります。
なので、施行する際はそこをどうするかです。」
「ですが前々代の国王は前例がないほどにひどかった。
子は沢山いるのにそれでもなお愛人を囲い続け、居住する場所に困った方だっているのです。
それに、ご存じでしょう?
生血の窮決いきちのきゅうけつ」を」
「!」
「妾の子、愛人の子、正妻の子…全て合わせ50人あまりの王子が殺し合い、その殺し合いに罪なき民間人まで巻き込まれたことを。
あのような事件を、また起こしかねません。
性に関して非常に寛容的なこの国は、基本的に奴隷以外は性に関しての所謂「他国から見ての犯罪行為」も認められています。
それは存じ上げているとは思いますが、一応言っておくと、他国から見ると犯罪なのです。
国際問題に発展する前に、早めに法の改正をした方がいい」
「うぐっ…」
「この周辺国との折り合いの悪さだと、あなたが宰相になる前にこの国は他国との争いによって滅びる」
「…ッ!!!」
「自らの「知識」を過信しないでください。
知識はその場の状況をよく知って、考えることではじめて本物の知識となるのです」
「………そうですね」
「では、私は失礼します。
私は、馬鹿ではないでしょう?」
満面の笑みを浮かべて失礼する。
論破(?)できて嬉しい。
論点がずれてた気がしなくもないが、まあいっか。

ーーーー
『私は、馬鹿ではないでしょう?』
満面の笑みを浮かべる彼女の顔が浮かぶ。
女はみんな、馬鹿なものだと思っていた。
頭の中が花畑で、男を顔と身分でしか見てない。
私に馬鹿と言われても頬を染めて喜ぶ女もいるから、彼女もそういう部類だと思っていたのに。
見つめられても、顔色一つ変えない彼女。
はじめはおかしい、という印象があった。
なぜだ?私は他人よりも、女たちにチヤホヤされて当然な筈なのに。
ここで、自らの思考に疑問を抱く。
…私は、チヤホヤされることにしか存在意義を見出だせなかったのだろうか。
頭の中でグルグルと同じ思考が堂々巡りする。
「………」
そもそも、私は愛されたことなどあっただろうか。
「人間として、愛されたことなど…」
道具としてしか見てくれなかった親を、どうにかして感心させたくて全て完璧にこなしてきた。
今年、9歳で15歳レベルのテストで満点を取った。それでも、反応は努力に見合わないほどに軽薄なものだった。
まるで、厄介払いをするかのように「そうか。おつかれ」とだけ言った。
せめて、「頑張ったね」とだけは言ってほしかった。褒めるなんて高望みしないから、労いがほしかった。
「はあ…考えても過去は過去だ。」
早く帰ろう。
希望を持って。
ーーーー

「…おはようございます、バールウォルダ公爵令息殿」
私は驚きつつも挨拶する。
まさか、また馬鹿って言いに来たのか…?
「おはようございます、ラビニシュル公爵令嬢殿。
今日は討論ではなく、私的な悩みを聞いてほしいんです」
珍しく勢いがない様子のレヴァンに首をかしげながらもVIPルームに入る。
「それで、お悩みというのは…?
私が聞けそうなものだったらいいんですけど…」
「ええと…そうですね、どこから切り込みましょうか…」
要領がよくて話が聞きやすいレヴァンが悩むほど複雑な話なのだろうか。
「今回話したいと思っているのは私のことなのです」
「バールウォルダ公爵令息殿の…?」
ますます答えが出せるか不安だ。
「はい。私は、…その、人として愛されたことなどなかったのです。
だからチヤホヤされることでしか、自分の存在意義を見出だせなかった気がして…。
だいたいの人は何を言われても喜ぶのに、あなたは見つめても頬を染めて喜ぶどころか、顔色一つ変えない。
そんなあなたにお願いしたいんです」
「はあ…?」
く、上手くハメられた。
相談じゃなくてお願いか…。
「嘘でもいいので、今この瞬間から愛してください」
「!?!?!?」
紅茶飲んでたら吹くわ…。
いやいや、向こうは大真面目だもんな。
「…分かりました。
とことん甘やかしましょう。おいで」
子供に接するペースなら…。
ちょいちょいと手招きをする。
よし、甘やかしタイムスタートである。
「そういえば…聞いてください。
15歳レベルのテストで満点を取ったんですよ」
その声は、自慢とかではなくただ単純にほめてほしいだけで。
「わあ…すごいですね!
だって今同い年ですから…6歳上のレベルを完璧に習得している訳ですよね…。
たくさん努力したんでしょうね、よく頑張りました」
頭をぽすぽすと撫でる。
それを嬉しそうに頬を染めて受け止めるレヴァン。
いくら秀才といえど、子供なのだ。
定期的に愛情は必要だ。
「それに満点なんて、そうそう取れるものじゃないですし…将来がすごいことになりそうですね」
「…」
口こそ開かないものの、嬉しそうだ。
「…あ、そうだ。
この前、王太子殿下のお付きになることが決まったんです。
ですが、馴染めるか心配で…」
長い睫毛を伏せて思案するレヴァンに、私は声をかけた。
「そんなこと気にしなくても、彼は馴染みやすくなるように話しかけてくれますから、心配しなくてもいいと思います」
掴みどころがない不思議な人だとは想うけど。
ミステリアスって言うよりも、どこか変態チックなんだよね…。
「そうですか…よかった」
「二人がよき友人になれると良いですね」

ーーーーあとがき
長くなってしもうた…前編後編に分けようと思ったんですけど、ちょっと不公平な気がしたので1話に無理矢理詰め込んだらとんでもない文字数に…キェァァァァ
よし、発狂も治まりましたし作者はこの辺で。
次回はあやつとあやつの戦争勃発します。
お楽しみにィェァアアアア!!!!
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