家出少女は昔振られた幼馴染と瓜二つ

ナックルボーラー

文字の大きさ
22 / 66

恩人との出会い

しおりを挟む
 私は先生を追いかける為になけなしのお小遣いを移動費に使い、お金が殆ど残らなかった私は知らぬ土地で1人彷徨っていた。
 何とかギリギリに食い繋ぎ生きていた私だが、日々大きくなる子供に栄養を全て取られた。

「は、ハハッ……この子は意外に丈夫だな……。不衛生な生活をしているのに……すくすく育つなんて……」

 先生に捨てられ何日経っただろう。
 もう何日もお風呂に入っていない。もう何日も膨れる程にご飯を食べてない。
 なのに、お腹の子は育っている。普通なら死産する恐れがあるのに……。
 1人彷徨う私は一目を避けて歩き、県を跨いだ時に遂に限界が訪れた。

「もうお金も尽きた……。食べられる物もないから、そろそろ潮時かな……」

 学生だった私にお金は無く。
 お金が無ければ宿も借りれない、ご飯も食べられない。
 もう先には絶望しかなかった。
 いつ、私は道を踏み外してしまったのだろう。
 こーちゃんとの男女間に不安を持たずに過ごしていたら、今頃は幸せに付き合えたのだろうか。
 あの時の私はこーちゃんとの日々を思い出す事だけが生き甲斐だった。
 そうしないと私は……今すぐにでも自らの命を投げ捨てかねなかったから……。

 私は服の上からでも分かる程に小さく膨らんだお腹を摩り、涙した。

「ごめんね……ごめんね。こんな馬鹿なお母さんで……。貴方もこんな私の所に産まれてこなかったら、もっと幸せだったのにね……」

 過去への後悔と同じぐらい、私はお腹の子供への罪悪感に苛まれた。
 私がもっとしっかりしていれば、お腹の子も真っ当に産まれさせたはずなのに……。
 孤独な私はこのまま1人……いや、2人で死ぬのだと覚悟した……その時だった。

「あれま。どうしたのそんな所で。怪我か何かい?」

 後の大家である林おばあちゃんに出会ったのだ。
 身体が汚れ、空腹で細々になった私に声を掛けて来た林おばあちゃん。
 人とまともに話したのは何日ぶりだろう。私は空腹と乾いた喉の所為で声が出せなかった。
 そんな私に買い物の帰りだったおばあちゃんは水とパンをくれた。

 空腹が限界に来ていた私は獣の様にパンを貪り、水を飲み干した。
 そんな私をおばあちゃんは汚い目ではなく優しい目で見守っていた。
 
 少しのパンと水だったけど、大分マシになった私は、改めておばあちゃんにお礼した。

「あ、ありがとうございます。助かりました」

「どう致しまして。それにしてもどうしたんだい。身体も大分汚れて……。お父さんとお母さんは?」

 おばあちゃんは聞いて来るが私は答えられずに口籠る。
 言える訳がない。妊娠した事で絶縁したなんて……。
 答えずに俯く私におばあちゃんは手を伸ばし、私のお腹を摩った。

「貴方……妊娠しているね……?」

 私は飛び跳ねた。
 私の成りから未成年だと知られたら、また……学校で皆に向けられた軽蔑の目で見られると思った。

「ち、違います! こ、これはただ単に太っているだけで……」

「嘘を言わない! あんだけパンにがっついてた子がお腹だけ太るわけがないでしょ! 嘘を言わずに本当の事を言いなさい!」

 私はおばあちゃんに諭され素直に答えることにした。

「…………はい。私、妊娠しています。それで両親と喧嘩して家出を……」

「そう……。付いて来なさい」

 普通ならここでの対応は、私の両親に直接連絡するか警察に連れて行くかだろう。
 私はおばあちゃんに警察署に連れて行かれるのだろうと覚悟したけど、着いた場所は警察署ではなく、ボロイ木造のアパートだった。
 おばあちゃんは一階の右から2番目の部屋の扉を開き。

「貴方、もし行く当てがないのなら、ここに住みなさい」

「…………え?」

 私は訳が分からなかった。
 確かに行く当てがない私だけど、なんでここに住んでいいと言うのか。

「け、警察の所に連れて行かないんですか……?」

 私の疑問におばあちゃんは深く息を吐き。

「そうだね。常識に考えればそうした方がいいのだろうけど。間違ってたらごめんだけど、私の予想だと……両親にその子を堕ろすように言われたんでしょ」

 私は驚き後ずさる。それが図星と取られおばあちゃんは言う。

「やっぱりね。なら、常識が欠けていると言われても、私は貴方を警察の所には連れて行かない。せめて、その子が産まれるまでは」

 おばあちゃんは私のお腹を指さし言う。
 私は膨らむお腹を摩り、

「……どうして?」

 短い言葉で聞くとおばあちゃんは悲嘆する様に遠い目をして。

「私ね……天涯孤独の身なんだよ。子供はおらず、夫には先立たれてね」

「そう……なんですか」

 何故、そんな話をするのか分からなかったが、おばあちゃんは自らのお腹を摩り。

「夫に先立たれたのは病気だから仕方ないけど。子供の方は……元々いなかったって訳じゃないんだよ」

 おばあちゃんの目から一筋の涙が頬を伝い落ちる。

「まあ、男の子か女の子かも分からない内に……死んでしまったけど」

 私はおばあちゃんの言葉に息をするのも忘れる程の衝撃を受けた。
 分からない内に死んだって……それってつまり。

「私たち夫婦には子供が出来にくくてね、けど、子供を諦めきれなかった私たちは、治療とか食生活の見直しとか努力して子供作りに励んだ。そして、奇跡的に私たちの間に子供が芽生えたの」

 おばあちゃんは辛さを堪えるように必死に微笑みを浮かべて語る。

「夫と私は本当に喜び、今か今かと子供が産まれるのを楽しみにした。2人で子供の名前をどれにしようか日夜話し合ったりして、産まれたら色々な思い出を作りたいってね。幸せだった……けど、ある日に私の不注意で階段から転び……流産してしまったの」

 私はおばあちゃんになんて声をかければいいのか分からなかった。
 子供を熱望して、念願叶って妊娠した子供をこの世に生誕する前に殺してしまった。
 
「夫は気にするな。また今度頑張ればいい。お前は何一つ悪くないって私を励ましてくれたけど……医者が私に叩きつけた現実は過酷だった。その流産によって私の子宮は損傷して……子供が望めなくなったの」

 おばあちゃんは腰に手を回して部屋を歩き、窓から見える景色を眺める。
 私に背を向けたのは、もしかしたら泣いている自分の顔を見られたくないからか。
 
「夫は子供がいる人生が全てではない。お前と一緒にいられればそれで良いってね。本当に出来た人だったよ。あの人と一緒に居られて私も幸せだった。けど、2年前に先立ってしまったけど」

「……おばあちゃんの辛い過去は分かったけど、それと私を警察署に連れていかないのにどういった関係が」

 当初の質問から大きく外れ、私が修正しようと質問すると、おばあちゃんは真剣な目で私を見据え。

「あなたを警察署に連れて行かないのは……。多分、私は許せないだからだと思うの……」

「許せないって……誰をですか?」

「……本当なら警察署に連れて行って、貴方を両親の所に帰した方がいいのだろうけど、もし貴方を両親の許に送り返せば、その子は中絶する事になるでしょ?」

 私はお父さん達の勧める中絶に反発して家を飛び出した。
 もし私が家に帰れば十中八九中絶させられるだろう。警察に送り届けられれば必然的にお父さん達の方にも情報は行くから……。

「これはおいぼれの勝手な正義感ってやつね。産まれるはずの子を大人の勝手な都合で惨く殺させたくないから」

 おばあちゃんは昔に不慮の事故で我が子を殺めてしまい、産まれる前に死なせてしまった。
 その自責の念と我が子が死んだのに、産めるはずの子を見す見す死なすのを見逃せないのかもしれない。
 多分、おばあちゃんは頭の中で自分の行いが間違っていると分かっているはず。
 だけど、子供の命を大人の勝手な判断で殺めさせられない。芽生えた時点で命は皆平等だから。

「けどね。これは私の勝手に言っていること。決めるのは貴方母親の判断よ。どうするか貴方が決めなさい」

 結局決めるのは私の意思。
 この子を殺すのも生かすのも、私の判断に委ねられる。
 けど、私の意思はとっくに決まっている。
 お父さん達に反発して家を飛び出した後からずっと……。

「私は……この子を産みたい。この子を幸せにしたい……」

 私の中でこの子を産む決心は付いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】経理部の女王様が落ちた先には

Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位 高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け ピンヒールの音を響かせ歩く “経理部の女王様” そんな女王様が落ちた先にいたのは 虫1匹も殺せないような男だった・・・。 ベリーズカフェ総合ランキング4位 2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位 2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位 関連物語 『ソレは、脱がさないで』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位 『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位 『初めてのベッドの上で珈琲を』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位 『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位 私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。 伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。 物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

三年間片思いしていた同級生に振られたら、年上の綺麗なお姉さんにロックオンされた話

羽瀬川ルフレ
恋愛
 高校三年間、ずっと一人の女の子に片思いをしていた主人公・汐見颯太は、高校卒業を目前にして片思いの相手である同級生の神戸花音に二回目の告白をする。しかし、花音の答えは二年前と同じく「ごめんなさい」。  今回の告白もうまくいかなかったら今度こそ花音のことを諦めるつもりだった颯太は、今度こそ彼女に対する未練を完全に断ち切ることにする。  そして数か月後、大学生になった颯太は人生初のアルバイトもはじめ、充実した毎日を過ごしていた。そんな彼はアルバイト先で出会った常連客の大鳥居彩華と少しずつ仲良くなり、いつの間にか九歳も年上の彩華を恋愛対象として意識し始めていた。  自分なんかを相手にしてくれるはずがないと思いながらもダメ元で彩華をデートに誘ってみた颯太は、意外にもあっさりとOKの返事をもらって嬉しさに舞い上がる。  楽しかった彩華との初デートが終わり、いよいよ彩華への正式な告白のタイミングを検討しはじめた颯太のところに、予想外の人物からのメッセージが届いていた。メッセージの送り主は颯太と同じ大学に進学したものの、ほとんど顔を合わせることもなくなっていた花音だった。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...