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鈴音の本心
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こーちゃんの提案で頭を冷やす為という名目でこーちゃんの家に泊まる事になった私と鈴音の母娘。
こーちゃんは私たちに気遣ってか、自分の家なのに出て行って今はいない。
正直、色々と言いたい事は沢山あるんだけど、今は目の前の事を解決しないといけない。
田邊鈴音。
私の一人娘で最も大切な宝と言っても過言ではない肉親。
その鈴音と私は約2週間前に喧嘩をして、鈴音は家出をしてしまった。
私は鈴音を必死に探した。
望み薄だったけど警察に捜索届を出して、自分で可能な範囲で探し回った。
だけど尽力しても私では鈴音を探し当てる事は出来ず、正直……心の隅で諦めかけていた。
鈴音が自主的に帰って来る事だけが望みだったけど、それが今宵。
上司であり幼馴染である酔い潰れたこーちゃんを自宅まで送り届けたら、驚天動地な事にこーちゃんの家に鈴音がいた。
状況が理解出来なかった。
何故、なんで、鈴音がこーちゃんの家に……。
確かに昔、私が昔語りでこーちゃんの事を話した事はあったが、私もこーちゃんの所在なんて知らなかったし、鈴音が偶然見つけ当てたにしては怖すぎる。
もう色々あり過ぎて頭の中がぐわんぐわんと混雑している中、私たちは気まずそうに互いに背中を向けている。
もうどれだけ時間が経っただろう。
部屋に掛けられた針時計の羅針の動く小さな音さえも聞こえる程に静寂な部屋。
家族なのに、娘なのに、なんで声を掛けられないの私。
鈴音に色々な事を聞かなければいけないのに。
こーちゃんが折角私たちが冷静に話し合える場を設けてくれたのに、このままではこーちゃんの厚意を無駄にしてしまう。
だけど……再会したとはいえ、私たちは仲直りした訳ではない。
私の心無い言葉が鈴音を深く傷つけてしまった事は事実で、鈴音に謝らないといけないのだけど……一向に腰が上がらない。
世間話をまず入れるか……そう言えば鈴音の好きなバンドが今度アルバムを発売するって言ってたし……。
私が娘相手に二の足を踏んでいると、鈴音が先に動いた。
が、鈴音は言葉を言う訳でもなく、テレビの画面を点けて、テレビ台の棚からゲーム機を……え?
「ん。これやろ」
鈴音は棚から取り出したゲームのコントローラーを私に渡す。
唖然とする私は渡されるがままにコントローラーを受け取るが、全然理解出来なかった。
「えっと……なんでゲーム?」
「このまま無言だと時間の無駄だからね。気まずいよりもゲームした方が互いに気がまぎれるでしょ」
「いや、そうだとしても……てか、これこーちゃんのゲームだよね? 勝手にしちゃ」
「別に。ここ毎日こーちゃんと一緒にゲームしていたし、これぐらいでは怒らないでしょ」
娘ながらに頭の片隅でイラっとしてしまった。こーちゃんとずっとゲームって……。
内心の隅で羨ましいと言う感情を必死に押さえこんだ私を他所に、ゲームの電源を入れた鈴音はゲームを進める。
テレビ画面に映し出されたのは、グラフィックとかは全然別物だけど、どこか見覚えが……。
「これって、もしかしてス〇ッシュブ〇ザーズ?」
ゲーム画面のタイトルを読んで私は思い出す。
懐かしい。これ、昔よくこーちゃんと一緒にしていたゲームだ。
多分、昔していたゲームの新作なんだろうけど、まだ続編が出来てたんだ知らなかった。
ゲームなんてシングルマザーで贅沢があまり出来ない私たちにとって無縁の代物だったから、ゲームに触れるのも15年以上ぶりだ。
「それじゃあ、ルールはスタンダードの大乱闘で、キャラを選ぼう」
鈴音は慣れた手つきでゲームを進める。そして映し出されたキャラ選択画面で私は目を剥く。
「キャラクター多っ! 私がしていた時はこれの半分もいなかったよ!?」
私がこーちゃんと日夜ゲームしていたのは64時代だ。
その時のキャラはうろ覚えで正確には覚えてないけど10体ちょいだったはず。
なのに、このゲームではその3倍以上のキャラクターがいて豊富だ。
「そんな驚いてないで早くキャラを選んでよお母さん。私はもう決まったよ」
私が続編の進化に面を喰らっている間に鈴音の方は先にキャラクターを選択済み。
私は慌ててキャラ画面の方を目で泳がすと、慣れ親しんだキャラを発見。新作でもあのキャラはいたんだ。
「へえ。お母さん、カ〇ビ〇使うんだ?」
「ふふん。前の作品で一番使ってたからね。それにアニメとかも全話観たりと、案外私はこのキャラ好きなんだ」
「前のゲームはしてたんだ。なら、経験者みたいだから最初から本気で行こうかな」
「これでも昔はこーちゃんと接戦を繰り広げてたからね。舐めてかかると私が勝つよ」
私が昔を懐かしみながらに返答した時に気づいた。
先ほどまで気まずそうに無言だった私たちはいつの間にか普通に会話をしていた。
鈴音の言った通り、何かしらの共通の話題で気晴らしになって、無言の空気が払拭されている。
…………娘に気を使わせて、私って情けない母親だな……。
いつまでも子供だと思っていたけど、鈴音も身も心も成長しているんだなと実感しながらにゲームは開始される。
先程あんな大口を叩いた私だけど、ゲーム自体に15年以上のブランクがある。
コントローラーだって、形やボタンの配置も違くて、どのボタンが攻撃でジャンプなのか手探りするしかない。そもそもそれぐらい鈴音が教えてくれてもいいような気がするけど。
「えっとこのボタンがパンチだから弱攻撃で、これが吸い込んだから技かな? ん。なんか丸い球が出て来た。鈴音がそれを取って、なんか光出してって、え!? なにそのシステム!? 最後の切り札? 知らないそんなシステム!」
操作性とゲーム性の変わり様にしどろもどろしている内にゲームは決着。
結果は勿論、私の惨敗だ。一回も鈴音を落すことが出来なかった。
「お母さん弱すぎ」
「うるさいな! ゲームなんて久々なんだから仕方ないでしょ! てか、鈴音は凄く手慣れた動きしてたけど、どれだけこのゲームやってたの!?」
「うーん。康太さんと殆ど毎日していたね。最初はボロ敗けしていたけど、今では接戦出来る程に上達してるんだ」
この子……家出している間にそんな自堕落な生活を……。
しかも毎日こーちゃんとゲームって……まるで昔の私のようだ。
「そう言えば、こーちゃんは昔はこのゲーム好きだったもんね。けど、強すぎたからいつの間にか誰とも遊べなくなって、私がいつも相手していたっけ」
別にこーちゃんは遊び相手がいなかった訳じゃないけど、ゲームは勝つか負けるかが分からない瀬戸際の戦いが面白いからするもので、一方的に敗られれば遊ぶ気も無くすからね。
私がそんなことをサラッと零すと、再戦でゲームが始まったのにも関わらずに鈴音のキャラは動かない。
どうしたんだろ?と私が横を見ると、鈴音はコントローラーを床に置いていた。
「……聞きそびれてたけど、お母さんが昔話してくれた幼馴染ってさ……康太さんなんだよね?」
沈ませた顔に陰りが差す表情で鈴音がそう聞いて来る。
私もコントローラーを置いて答える。
「うん。本当に驚いたよ。まさか鈴音が……こーちゃんの所に居て」
「偶然だよ。この街に来た事も康太さんに出会った事も……。まあ、顔は前にお母さんの部屋にあった学生の頃の写真は見てはいたけど、正直今日までただの似た人だって認識だったから、私も驚いてはいるんだよ」
正直な話、複雑な気持ちがある。。
私が最も信頼出来るこーちゃんの許に鈴音が居て、多分保護してくれたんだと思うけど、なら直ぐに教えて欲しかった不満と、他の知らない相手ではなく鈴音を保護してくれた人がこーちゃんで良かったという安堵。だが、それらに敗けないぐらいに鈴音がここにいた事に驚いている。
「……康太さん、良い人だね。昔お母さんが話してくれた通り」
私は昔に一度、鈴音にこーちゃんの話をした事がある。
こーちゃんは私にとってカッコよくて、優しくて、最高の幼馴染だったっと。
今の私に資格はないはずだけど、鈴音にそう言われ少し誇らしくなり、「そうでしょ」と悦を浮かべる。
鈴音の肩は震え始め。
「ごめん……お母さん。私ね。本当は嘘を吐いていたの……」
「嘘……って、なにを」
私は突拍子も無く言った鈴音に困惑する。
鈴音は演技力があって鈴音の嘘を見破るのは難しい。それで何度も私は騙されたことか……。
何処から何処までで、何処が嘘なのか聞くと、鈴音は涙ぐんで言う。
「お母さんの事、許していないってこと……本当はね。私、別にお母さんに怒ったりしてないんだよ」
私は声に出さなかったが大きく目を見開いて驚く。
怒ってないって……さっきこーちゃんの前ではあんだけ感情を露わにしていたのに。
しかし、嘘を吐くときは平然とした顔の鈴音の涙する表情から嘘は見受けられなかった。
鈴音の目からポタポタと涙が落ち。
「私がお母さんの後悔の末で産まれた事には変わりない。けど、それでもお母さんは私の事、凄く大事に育ててくれた。風邪を引いた時も次の日仕事なのに寝ないで看病してくれた。運動会で一位を獲った時は私以上に喜んでくれた。誕生日とかの祝い事の時はいつも手を抜かずに祝福してくれた……。私がどんな理由で産まれたとしても、お母さんは私にいつも愛情を注いでくれた……そんなお母さんを私は憎めないよ……」
その言葉を聞いて私は目頭を熱くする。
私は片親でこの子を育てようと決意した時からこの子を最優先で生きていた。自分の身体も二の次にして、この子の喜びは私の喜びで、この子の辛さは私の辛さ、どんな時でもこの子に寄り添っていこうって……まさか、この子はそんなことを思っていてくれたなんて……。
私は嬉しさでこの子を抱きしめてあげたい。けど、私はその気持ちをグッと堪えて尋ねる。
「なら……なんであの時、あんな嘘を吐いたの……」
嘘を吐く時には必ず理由がある。
大半の理由は怒られたくないであるが、あの場合は逆効果に過ぎない。
だから、その理由を私が尋ねると、鈴音は俯き。
「私ね。この2週間、康太さんと過ごして楽しかったんだ」
私は言葉を失った。
これはショックってよりも鈴音の心情を察してしまったからだった。
「私たちの家にお父さんがいないから、ずっと思ってたんだ。もしお父さんがいたらどんな人なんだろう。どんな人だったら楽しかっただろうって……」
私は……知っていた。
鈴音が父親に憧れを持っていることを。
この子が産まれる前から我が家には男親はおらず、ずっと女2人で侘しい生活を過ごしていた。
一度、この子が小学生の頃に、授業で書いた作文を私に見せなかった事があった。
内容が気になった私は鈴音が就寝した後にこっそりとその作文を見ようとしたら、その作文はくしゃくしゃに丸められてゴミ箱に捨てられていた。私はそれを拾い、広げて中身を見ると開いた口が塞がらなかった。
作文の題は多分、父親に対する感謝。
だが、家には父親がいないから感謝の意は込められておらず、まるで鈴音がもし父親がいたらって妄想が書かれていた。
鈴音は子供ながらに分かっていたのかもしれない。これを見せれば私が気に病んでしまうのではと。
だからゴミ箱に丸めて捨てて、私の目に入らないようにしていたのだろう。
私はそれを見て、自分が情けなくなって。鈴音に対して申し訳ない気持ちで涙を流した。
そう言えば鈴音は小さい頃は、何度か何でうちに父親がいないのかを聞いて来たり、父親が欲しいと駄々を捏ねたりしたけど、成長するにつれてそれを口にすることはなかった。
だけど……まだ父親への憧れがあったなんて。
「最初は私は康太さんを利用しようとした。康太さんの善意に甘えて、お母さんから逃げる隠れ蓑にしようと。だけど……康太さんと過ごしていく内に、少し良いなって思っちゃった。この人が父親ならって」
私は……鈴音になんて声をかけていいのか分からない。
叱るべきか、諭すべきか、母親として我が子にどんな声をかけていいたのか答えが出ない。
「だらしがなくて、口うるさくて、だけど……優しくて。他人なのに私の我儘もなんだかんだ言って聞いてくれて……申し訳ない気持ちが沢山あるのに、嬉しかった……こんな人が父親なら、楽しんだろうなって考えちゃって……」
膝を抱えて顔を膝に埋める鈴音の声は震えていた。
私が知らない鈴音の2週間は本当に楽しかったんだろうって想像が出来る。
「本当は分かってる。私がここにいたら迷惑がかかるって。本当は家に帰らないといけないって頭の中では分かってる……だけど、もう少し甘えていたいって我儘な事を考えてた。……だから、唐突にお母さんが現れて混乱して、お母さんにあんなひどい事を言っちゃった……」
「いいんだよ鈴音。私は気にしていない。貴方の気持ちに気づいてない私が悪かったんだから……」
私は最適な慰めの言葉は出なかった。
鈴音はまだ学生で子供だ。心だって成熟していない子にこんな気持ちにさせるなんて……私は母親失格だ。
私が鈴音の肩に手を乗せると、鈴音は顔を上げ、揺れる瞳で気魄な表情で叫ぶ。
「ねえお母さん! 康太さんとお母さんって幼馴染だったんでしょ! 本当は相思相愛の両想いだったんでしょ! 見た感じ、康太さんはお母さんと普通に話してるじゃん! もしかしたら過去の遺恨なんてないよ! なら、お母さんが康太さんにアプローチをかければ――――――」
「鈴音!」
私は自暴自棄となる鈴音の叫びを遮り、鈴音を抱きしめる。
私は見るに堪えなかった。そして、悲しみで震える鈴音の身体をただ強く抱きしめて謝る事しか出来なかった。
「ごめんね鈴音……ごめんね」
鈴音は気付いていないのだ。
過去の遺恨がないなんて事はない。こーちゃんが私を許しているなんて事は無い。
何故なら―――――――こーちゃんは私と話す時、最初私から目を逸らすから。
昔にこんな癖はなかった。他の人と話す場合も普通に話している。
私の時だけだ。こんな癖を見せるのは……多分、私はこーちゃんに許されていない。
今は仕事上の付き合いや、鈴音の手前で普通に話してたけど、プライベートで一対一で話した事がない。
「鈴音、こんな馬鹿な母親でごめんね。不甲斐ない母親でごめんね……」
私はただ謝る事しか出来ない。
いつもそうだ。
大人の身勝手で傷つくのは罪の無い子供だ。
本当はこの子に頼りになる父親が必要なのだろうが、鈴音の願いは叶わない。少なくともこーちゃんは絶対に無理だ。
「鈴音……帰ろう、お家に。ここにいたら多分、辛さが募るだけだから。ごめんね鈴音……本当に……ごめんね」
「……私もごめん、お母さん……我儘な娘で……ごめんなさい」
過去の自分の愚かな行動が未来の子供に深く傷つけてしまったことを後悔した。
私は私の胸で泣く鈴音をただ抱きしめながらに、過去と現在の自分を責めるように悲嘆して涙を堪える事しか出来なかった。
こーちゃんは私たちに気遣ってか、自分の家なのに出て行って今はいない。
正直、色々と言いたい事は沢山あるんだけど、今は目の前の事を解決しないといけない。
田邊鈴音。
私の一人娘で最も大切な宝と言っても過言ではない肉親。
その鈴音と私は約2週間前に喧嘩をして、鈴音は家出をしてしまった。
私は鈴音を必死に探した。
望み薄だったけど警察に捜索届を出して、自分で可能な範囲で探し回った。
だけど尽力しても私では鈴音を探し当てる事は出来ず、正直……心の隅で諦めかけていた。
鈴音が自主的に帰って来る事だけが望みだったけど、それが今宵。
上司であり幼馴染である酔い潰れたこーちゃんを自宅まで送り届けたら、驚天動地な事にこーちゃんの家に鈴音がいた。
状況が理解出来なかった。
何故、なんで、鈴音がこーちゃんの家に……。
確かに昔、私が昔語りでこーちゃんの事を話した事はあったが、私もこーちゃんの所在なんて知らなかったし、鈴音が偶然見つけ当てたにしては怖すぎる。
もう色々あり過ぎて頭の中がぐわんぐわんと混雑している中、私たちは気まずそうに互いに背中を向けている。
もうどれだけ時間が経っただろう。
部屋に掛けられた針時計の羅針の動く小さな音さえも聞こえる程に静寂な部屋。
家族なのに、娘なのに、なんで声を掛けられないの私。
鈴音に色々な事を聞かなければいけないのに。
こーちゃんが折角私たちが冷静に話し合える場を設けてくれたのに、このままではこーちゃんの厚意を無駄にしてしまう。
だけど……再会したとはいえ、私たちは仲直りした訳ではない。
私の心無い言葉が鈴音を深く傷つけてしまった事は事実で、鈴音に謝らないといけないのだけど……一向に腰が上がらない。
世間話をまず入れるか……そう言えば鈴音の好きなバンドが今度アルバムを発売するって言ってたし……。
私が娘相手に二の足を踏んでいると、鈴音が先に動いた。
が、鈴音は言葉を言う訳でもなく、テレビの画面を点けて、テレビ台の棚からゲーム機を……え?
「ん。これやろ」
鈴音は棚から取り出したゲームのコントローラーを私に渡す。
唖然とする私は渡されるがままにコントローラーを受け取るが、全然理解出来なかった。
「えっと……なんでゲーム?」
「このまま無言だと時間の無駄だからね。気まずいよりもゲームした方が互いに気がまぎれるでしょ」
「いや、そうだとしても……てか、これこーちゃんのゲームだよね? 勝手にしちゃ」
「別に。ここ毎日こーちゃんと一緒にゲームしていたし、これぐらいでは怒らないでしょ」
娘ながらに頭の片隅でイラっとしてしまった。こーちゃんとずっとゲームって……。
内心の隅で羨ましいと言う感情を必死に押さえこんだ私を他所に、ゲームの電源を入れた鈴音はゲームを進める。
テレビ画面に映し出されたのは、グラフィックとかは全然別物だけど、どこか見覚えが……。
「これって、もしかしてス〇ッシュブ〇ザーズ?」
ゲーム画面のタイトルを読んで私は思い出す。
懐かしい。これ、昔よくこーちゃんと一緒にしていたゲームだ。
多分、昔していたゲームの新作なんだろうけど、まだ続編が出来てたんだ知らなかった。
ゲームなんてシングルマザーで贅沢があまり出来ない私たちにとって無縁の代物だったから、ゲームに触れるのも15年以上ぶりだ。
「それじゃあ、ルールはスタンダードの大乱闘で、キャラを選ぼう」
鈴音は慣れた手つきでゲームを進める。そして映し出されたキャラ選択画面で私は目を剥く。
「キャラクター多っ! 私がしていた時はこれの半分もいなかったよ!?」
私がこーちゃんと日夜ゲームしていたのは64時代だ。
その時のキャラはうろ覚えで正確には覚えてないけど10体ちょいだったはず。
なのに、このゲームではその3倍以上のキャラクターがいて豊富だ。
「そんな驚いてないで早くキャラを選んでよお母さん。私はもう決まったよ」
私が続編の進化に面を喰らっている間に鈴音の方は先にキャラクターを選択済み。
私は慌ててキャラ画面の方を目で泳がすと、慣れ親しんだキャラを発見。新作でもあのキャラはいたんだ。
「へえ。お母さん、カ〇ビ〇使うんだ?」
「ふふん。前の作品で一番使ってたからね。それにアニメとかも全話観たりと、案外私はこのキャラ好きなんだ」
「前のゲームはしてたんだ。なら、経験者みたいだから最初から本気で行こうかな」
「これでも昔はこーちゃんと接戦を繰り広げてたからね。舐めてかかると私が勝つよ」
私が昔を懐かしみながらに返答した時に気づいた。
先ほどまで気まずそうに無言だった私たちはいつの間にか普通に会話をしていた。
鈴音の言った通り、何かしらの共通の話題で気晴らしになって、無言の空気が払拭されている。
…………娘に気を使わせて、私って情けない母親だな……。
いつまでも子供だと思っていたけど、鈴音も身も心も成長しているんだなと実感しながらにゲームは開始される。
先程あんな大口を叩いた私だけど、ゲーム自体に15年以上のブランクがある。
コントローラーだって、形やボタンの配置も違くて、どのボタンが攻撃でジャンプなのか手探りするしかない。そもそもそれぐらい鈴音が教えてくれてもいいような気がするけど。
「えっとこのボタンがパンチだから弱攻撃で、これが吸い込んだから技かな? ん。なんか丸い球が出て来た。鈴音がそれを取って、なんか光出してって、え!? なにそのシステム!? 最後の切り札? 知らないそんなシステム!」
操作性とゲーム性の変わり様にしどろもどろしている内にゲームは決着。
結果は勿論、私の惨敗だ。一回も鈴音を落すことが出来なかった。
「お母さん弱すぎ」
「うるさいな! ゲームなんて久々なんだから仕方ないでしょ! てか、鈴音は凄く手慣れた動きしてたけど、どれだけこのゲームやってたの!?」
「うーん。康太さんと殆ど毎日していたね。最初はボロ敗けしていたけど、今では接戦出来る程に上達してるんだ」
この子……家出している間にそんな自堕落な生活を……。
しかも毎日こーちゃんとゲームって……まるで昔の私のようだ。
「そう言えば、こーちゃんは昔はこのゲーム好きだったもんね。けど、強すぎたからいつの間にか誰とも遊べなくなって、私がいつも相手していたっけ」
別にこーちゃんは遊び相手がいなかった訳じゃないけど、ゲームは勝つか負けるかが分からない瀬戸際の戦いが面白いからするもので、一方的に敗られれば遊ぶ気も無くすからね。
私がそんなことをサラッと零すと、再戦でゲームが始まったのにも関わらずに鈴音のキャラは動かない。
どうしたんだろ?と私が横を見ると、鈴音はコントローラーを床に置いていた。
「……聞きそびれてたけど、お母さんが昔話してくれた幼馴染ってさ……康太さんなんだよね?」
沈ませた顔に陰りが差す表情で鈴音がそう聞いて来る。
私もコントローラーを置いて答える。
「うん。本当に驚いたよ。まさか鈴音が……こーちゃんの所に居て」
「偶然だよ。この街に来た事も康太さんに出会った事も……。まあ、顔は前にお母さんの部屋にあった学生の頃の写真は見てはいたけど、正直今日までただの似た人だって認識だったから、私も驚いてはいるんだよ」
正直な話、複雑な気持ちがある。。
私が最も信頼出来るこーちゃんの許に鈴音が居て、多分保護してくれたんだと思うけど、なら直ぐに教えて欲しかった不満と、他の知らない相手ではなく鈴音を保護してくれた人がこーちゃんで良かったという安堵。だが、それらに敗けないぐらいに鈴音がここにいた事に驚いている。
「……康太さん、良い人だね。昔お母さんが話してくれた通り」
私は昔に一度、鈴音にこーちゃんの話をした事がある。
こーちゃんは私にとってカッコよくて、優しくて、最高の幼馴染だったっと。
今の私に資格はないはずだけど、鈴音にそう言われ少し誇らしくなり、「そうでしょ」と悦を浮かべる。
鈴音の肩は震え始め。
「ごめん……お母さん。私ね。本当は嘘を吐いていたの……」
「嘘……って、なにを」
私は突拍子も無く言った鈴音に困惑する。
鈴音は演技力があって鈴音の嘘を見破るのは難しい。それで何度も私は騙されたことか……。
何処から何処までで、何処が嘘なのか聞くと、鈴音は涙ぐんで言う。
「お母さんの事、許していないってこと……本当はね。私、別にお母さんに怒ったりしてないんだよ」
私は声に出さなかったが大きく目を見開いて驚く。
怒ってないって……さっきこーちゃんの前ではあんだけ感情を露わにしていたのに。
しかし、嘘を吐くときは平然とした顔の鈴音の涙する表情から嘘は見受けられなかった。
鈴音の目からポタポタと涙が落ち。
「私がお母さんの後悔の末で産まれた事には変わりない。けど、それでもお母さんは私の事、凄く大事に育ててくれた。風邪を引いた時も次の日仕事なのに寝ないで看病してくれた。運動会で一位を獲った時は私以上に喜んでくれた。誕生日とかの祝い事の時はいつも手を抜かずに祝福してくれた……。私がどんな理由で産まれたとしても、お母さんは私にいつも愛情を注いでくれた……そんなお母さんを私は憎めないよ……」
その言葉を聞いて私は目頭を熱くする。
私は片親でこの子を育てようと決意した時からこの子を最優先で生きていた。自分の身体も二の次にして、この子の喜びは私の喜びで、この子の辛さは私の辛さ、どんな時でもこの子に寄り添っていこうって……まさか、この子はそんなことを思っていてくれたなんて……。
私は嬉しさでこの子を抱きしめてあげたい。けど、私はその気持ちをグッと堪えて尋ねる。
「なら……なんであの時、あんな嘘を吐いたの……」
嘘を吐く時には必ず理由がある。
大半の理由は怒られたくないであるが、あの場合は逆効果に過ぎない。
だから、その理由を私が尋ねると、鈴音は俯き。
「私ね。この2週間、康太さんと過ごして楽しかったんだ」
私は言葉を失った。
これはショックってよりも鈴音の心情を察してしまったからだった。
「私たちの家にお父さんがいないから、ずっと思ってたんだ。もしお父さんがいたらどんな人なんだろう。どんな人だったら楽しかっただろうって……」
私は……知っていた。
鈴音が父親に憧れを持っていることを。
この子が産まれる前から我が家には男親はおらず、ずっと女2人で侘しい生活を過ごしていた。
一度、この子が小学生の頃に、授業で書いた作文を私に見せなかった事があった。
内容が気になった私は鈴音が就寝した後にこっそりとその作文を見ようとしたら、その作文はくしゃくしゃに丸められてゴミ箱に捨てられていた。私はそれを拾い、広げて中身を見ると開いた口が塞がらなかった。
作文の題は多分、父親に対する感謝。
だが、家には父親がいないから感謝の意は込められておらず、まるで鈴音がもし父親がいたらって妄想が書かれていた。
鈴音は子供ながらに分かっていたのかもしれない。これを見せれば私が気に病んでしまうのではと。
だからゴミ箱に丸めて捨てて、私の目に入らないようにしていたのだろう。
私はそれを見て、自分が情けなくなって。鈴音に対して申し訳ない気持ちで涙を流した。
そう言えば鈴音は小さい頃は、何度か何でうちに父親がいないのかを聞いて来たり、父親が欲しいと駄々を捏ねたりしたけど、成長するにつれてそれを口にすることはなかった。
だけど……まだ父親への憧れがあったなんて。
「最初は私は康太さんを利用しようとした。康太さんの善意に甘えて、お母さんから逃げる隠れ蓑にしようと。だけど……康太さんと過ごしていく内に、少し良いなって思っちゃった。この人が父親ならって」
私は……鈴音になんて声をかけていいのか分からない。
叱るべきか、諭すべきか、母親として我が子にどんな声をかけていいたのか答えが出ない。
「だらしがなくて、口うるさくて、だけど……優しくて。他人なのに私の我儘もなんだかんだ言って聞いてくれて……申し訳ない気持ちが沢山あるのに、嬉しかった……こんな人が父親なら、楽しんだろうなって考えちゃって……」
膝を抱えて顔を膝に埋める鈴音の声は震えていた。
私が知らない鈴音の2週間は本当に楽しかったんだろうって想像が出来る。
「本当は分かってる。私がここにいたら迷惑がかかるって。本当は家に帰らないといけないって頭の中では分かってる……だけど、もう少し甘えていたいって我儘な事を考えてた。……だから、唐突にお母さんが現れて混乱して、お母さんにあんなひどい事を言っちゃった……」
「いいんだよ鈴音。私は気にしていない。貴方の気持ちに気づいてない私が悪かったんだから……」
私は最適な慰めの言葉は出なかった。
鈴音はまだ学生で子供だ。心だって成熟していない子にこんな気持ちにさせるなんて……私は母親失格だ。
私が鈴音の肩に手を乗せると、鈴音は顔を上げ、揺れる瞳で気魄な表情で叫ぶ。
「ねえお母さん! 康太さんとお母さんって幼馴染だったんでしょ! 本当は相思相愛の両想いだったんでしょ! 見た感じ、康太さんはお母さんと普通に話してるじゃん! もしかしたら過去の遺恨なんてないよ! なら、お母さんが康太さんにアプローチをかければ――――――」
「鈴音!」
私は自暴自棄となる鈴音の叫びを遮り、鈴音を抱きしめる。
私は見るに堪えなかった。そして、悲しみで震える鈴音の身体をただ強く抱きしめて謝る事しか出来なかった。
「ごめんね鈴音……ごめんね」
鈴音は気付いていないのだ。
過去の遺恨がないなんて事はない。こーちゃんが私を許しているなんて事は無い。
何故なら―――――――こーちゃんは私と話す時、最初私から目を逸らすから。
昔にこんな癖はなかった。他の人と話す場合も普通に話している。
私の時だけだ。こんな癖を見せるのは……多分、私はこーちゃんに許されていない。
今は仕事上の付き合いや、鈴音の手前で普通に話してたけど、プライベートで一対一で話した事がない。
「鈴音、こんな馬鹿な母親でごめんね。不甲斐ない母親でごめんね……」
私はただ謝る事しか出来ない。
いつもそうだ。
大人の身勝手で傷つくのは罪の無い子供だ。
本当はこの子に頼りになる父親が必要なのだろうが、鈴音の願いは叶わない。少なくともこーちゃんは絶対に無理だ。
「鈴音……帰ろう、お家に。ここにいたら多分、辛さが募るだけだから。ごめんね鈴音……本当に……ごめんね」
「……私もごめん、お母さん……我儘な娘で……ごめんなさい」
過去の自分の愚かな行動が未来の子供に深く傷つけてしまったことを後悔した。
私は私の胸で泣く鈴音をただ抱きしめながらに、過去と現在の自分を責めるように悲嘆して涙を堪える事しか出来なかった。
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