家出少女は昔振られた幼馴染と瓜二つ

ナックルボーラー

文字の大きさ
37 / 66

確信した気持ち

しおりを挟む
 私は宣言通り、こーちゃんが眠りに付くまで見守った。
 
 風邪の影響か少し興奮状態だったこーちゃんだが、お腹の満腹感と私とのやり取りでの疲労感でか、寝息を立ててぐっすり眠っている。
 顔も体も私が知っている時よりも大人びて、逞しくなっても寝顔は変わってない。
 こーちゃんを見てると、まるで昔に戻った様な気分だ。

「…………そろそろ帰らないと」

 栄養が摂取できる御粥を食べさせ、風邪に効く薬も飲ませたなら、後は安静に眠るだけ。
 少し部屋が汚いけど、掃除で物音を立てて起こす訳にはいかない。
 なら、ここに残り続ける理由もないから、帰るしかない。

 最後に私は、温くなったタオルを氷水に入れて冷やし、それをこーちゃんの額に乗せる。
 私個人の感覚だけど、市販の額に貼るタイプのよりも、氷水で濡らしたタオルの方が気持ちいい。
 まあ、あれって意外にも高いってのも理由の1つなんだけど……。

 私は最後に眠るこーちゃんの髪を軽く撫で。

「そろそろ帰るね。じゃあね、こーちゃん」

 まるで子供の時の様な別れの言葉を言い、私は部屋を出て玄関に向かう。
 そして私は玄関のドアノブに手を掛けた時、ふと、こーちゃんの言葉を思い出す。

『初体験どころかファーストキスもまだな程、小心者の俺がそう易々と出来るかよ』

「……ファーストキスもまだ、か。やっぱり知ってるはずがないよね」

 今日、どこかこーちゃんは今回のと昔の出来事重ねた様な言動を言った。
 砂糖入ってないよな……あれは、私がこーちゃんに初めて料理を作った時のことかな。
 今回みたいに風邪を引いて、私が御粥を作ったんだけど、塩分補給で入れるはずの塩と間違えて、砂糖を入れた……こーちゃん、あの時のこと、覚えてたんだ……。

 けど、こーちゃんは知らない。あの、こーちゃんが風邪を引いた時、私がこーちゃんにしたことを。

 小学生の頃、風邪には無縁と思っていたこーちゃんが風邪を引き学校を休んだ日。
 私は朝にこーちゃんのお母さんから今日こーちゃんが学校を休むと聞いていた。
 そして、もし良かったら見舞いに来てくれないかとも頼まれ、私はこーちゃんの家の鍵を借りた。
 
 学校が終わり早足で帰宅した私は自宅でお母さんが持つレシピ本を借りて一人で御粥を作り、こーちゃんに届けようとした。

『ふふん♪ 上手にできた。こーちゃん。喜んでくれるといいな』

 後々にその御粥は塩と砂糖を間違えるという古典的なミスを犯しているのだが、初めて食べて貰う料理に私は不謹慎ながらにウキウキしていた。
 こーちゃんの部屋の前に行った私はいつもはノックしないけど、こーちゃんが病人だから事前に確認とノックする……が返事は無かった。

『……こーちゃん、入るよ~』

 声と音を潜めて私が部屋に入ると、こーちゃんはぐっすり寝ていた。
 寝ているのなら黙ってた方がいいかと思ったけど、こーちゃんのお母さんから薬を頼まれていたから、飲ませないと思い、私は足音を立てずに部屋を歩く。
 ぐっすり眠るこーちゃんは私の存在に気づいていない。
 一旦お盆に乗った御粥をテーブルに置くと、私はこーちゃんの顔を観察する。
 
 今朝は高熱を出したと言っていたが、時間が経過して少しは下がったのか顔色は少し良かった。
 私は揺らしてこーちゃんを起こそうとしたが、その手は止まり。

『……濡れたタオルがあった方がいいよね……』

 私のお母さんが私が熱を出した時によく、氷水で濡らしたタオルを私の額に置いていた事を思い出した私は、無許可でお風呂から洗面器と水を冷蔵庫から氷を持ちだし、それでタオルを濡らして、こーちゃんの額に乗せようとした……が、私は寸での所で手が止まる。

『……こー……ちゃん』

 私はこんな無防備なこーちゃんを間近で見るのは初めてだった。
 いつもは起きている間に顔を近づけても距離を取られたりしていた。
 大人になった今なら分かるけど、多分、あの時の反応は思春期前の恥ずかしさだったのかもしれない。
 けど、この頃にはこーちゃんを一人の男性として意識していた私は、嫌われているのではと不安だった。
 だからか、こんな間近に顔を近づけた私は……少し理性が可笑しくなったのか、

『……ごめんね』

 謝りながら私は………こーちゃんの唇を自らの唇で奪ったのだ。
 風邪を引いて弱っている相手の寝込みを襲う様な真似で、今となっては黒歴史だけど……あの時の私は気持ちを押さえられなかった。
 起きている相手に気持ちを伝えられない臆病者で、相手から気持ちを伝えて来てもらいたいと思う卑怯者だけど、私はこーちゃんの事が好きだった。

 正直、あの時のキスの事は寝てて当たり前だけど、覚えてない事に対して少し残念な気持ちがある。
 けど……それでいいのかもしれない。

 ファーストキスの定義は曖昧で、キスをした時点で失うのか、それとも本人が覚えていなければノーカンなのか。今は後者が良いと思う。
 私なんかでファーストキスが無くなっていたなんて分かれば、こーちゃん、傷つくだろうな。
 こんな先生と性交をして、子供を孕んで逃げた女なんかにファーストキスを奪われてたなんて。
 ……だからこれは、私が墓の下まで持っていくつもりだ。こーちゃんはまだ穢れてないのだから。

 けど、そう思うにつれて私は後悔の感情が込み上げる。
 もし、私が道を間違えず、自分から想いを伝えて、交際していたのなら、この思い出はもっと輝いていただろう。もっと……大切に思えただろう。

 今日、私はこーちゃんと会って、1つ……確信した事がある。
 
 私は……こーちゃんに未練がある。
 もっと一緒にいたい。もっと傍にいたい。もっと時間を共有したい……その想いが強くなる。
 本当は他の女性と付き合って欲しくない。出来る事なら私がこーちゃんの奥さんになりたい。
 
「……なんてこと、言える訳がない……。本当は今でもこーちゃんが好きだって、言えるわけがない……。私は一度こーちゃんを振った、私を好きでいてくれたこーちゃんを私は裏切った……。そんな女が—————今更好きでしたなんていえるわけが、ない……よ」

 涙で霞む視界、ポタポタと涙は落ち、私は冷たい鉄の扉で顔を隠す。
 
 私は矛盾をしている。
 こーちゃんの幸せの為に私はこーちゃんとの関係を断ちたいと思っている。
 けど、再会した幼馴染で初恋の相手に恋心を抱いて、傍にいたいと思っている。
 私の心の天秤は……今、どっちに傾こうとしているのか、自分でも分からないでいた。
 
 私は涙を袖で強引に拭って止め、扉のドアノブに手をかける。

「……ごめんね、こーちゃん。馬鹿な女が……幼馴染で」

 私は彼に聞こえぬ言葉を呟き、初恋の相手の家を出る。









「…………独り言なら、誰にも聞こえない様に言えよ。……馬鹿女」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】経理部の女王様が落ちた先には

Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位 高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け ピンヒールの音を響かせ歩く “経理部の女王様” そんな女王様が落ちた先にいたのは 虫1匹も殺せないような男だった・・・。 ベリーズカフェ総合ランキング4位 2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位 2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位 関連物語 『ソレは、脱がさないで』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位 『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位 『初めてのベッドの上で珈琲を』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位 『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位 私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。 伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。 物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

三年間片思いしていた同級生に振られたら、年上の綺麗なお姉さんにロックオンされた話

羽瀬川ルフレ
恋愛
 高校三年間、ずっと一人の女の子に片思いをしていた主人公・汐見颯太は、高校卒業を目前にして片思いの相手である同級生の神戸花音に二回目の告白をする。しかし、花音の答えは二年前と同じく「ごめんなさい」。  今回の告白もうまくいかなかったら今度こそ花音のことを諦めるつもりだった颯太は、今度こそ彼女に対する未練を完全に断ち切ることにする。  そして数か月後、大学生になった颯太は人生初のアルバイトもはじめ、充実した毎日を過ごしていた。そんな彼はアルバイト先で出会った常連客の大鳥居彩華と少しずつ仲良くなり、いつの間にか九歳も年上の彩華を恋愛対象として意識し始めていた。  自分なんかを相手にしてくれるはずがないと思いながらもダメ元で彩華をデートに誘ってみた颯太は、意外にもあっさりとOKの返事をもらって嬉しさに舞い上がる。  楽しかった彩華との初デートが終わり、いよいよ彩華への正式な告白のタイミングを検討しはじめた颯太のところに、予想外の人物からのメッセージが届いていた。メッセージの送り主は颯太と同じ大学に進学したものの、ほとんど顔を合わせることもなくなっていた花音だった。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...