家出少女は昔振られた幼馴染と瓜二つ

ナックルボーラー

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娘の幸せは

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 私にできる範囲で看病を終えた後、自宅に着く。
 玄関を通った私は肺の息を全て吐き捨てる様に長いため息を吐き、携帯を取り出す。
 
 こーちゃんからの間違いメールを見た後私は買い物の途中で今日の約束の断りのメールを大平さんに送った。そして数分後に帰って来た内容が、

『そうですか。残念でありますが、”ご家族”が体調を崩されては仕方ありません。次の機会に宜しくお願いします』

 と返信が来ていた。
 大平さんには私からのメールで『家族が体調を崩して看病することになったから、今日の食事には行けません』的な風でメールを送った。
 馬鹿正直に会社の上司又は異性のもとに看病に向かったなどと送れば反感を買うのは必然。
 だから私は嘘を吐いた。だが、大平さんは約束を断ったことへの嫌味は一つなかった。

 ……だが私は、少し大平さんを疑っている。
 いや、違う。大平さんだけじゃない。私は男性全員に疑心の目がある。
 人は裏で何を思っているのか分からない。上辺では優しい仮面があっても、それを取れば豹変する人は沢山いる。
 そもそも、人には必ず表と裏がある。裏がない人間の方が極稀だ。
 だから……裏がある事への批判はない。だが、その裏がどれだけ黒いのか、私はそれを知るのが怖い。
 
 裏表全てをひっくるめて、私が信頼できる男性は唯一…………。

「…………鈴音にご飯作ってあげないと」

 私は考えるのを辞めて玄関で靴を脱ぐ。
 方便としてであるが、嘘でも病人扱いしてしまった罪悪感から、今日は鈴音の大好物のミートスパゲティ―を作ろうと思った。確か材料は家にあったはず。
 別の事を考え、気を紛らわす私の前にあの子が立ちはだかった。

「人には散々部屋を散らかすなって怒ってた癖に、服を散乱させた状態で何処に行ってたのかな、お母さん」

 眉をへの字にして仏頂面の鈴音。帰って来た母親にお帰りの一言はないのだろうか……。

「あぁ……ごめん。ちょっと急用があってドタバタしちゃった。部屋は直ぐに片付けるから」

 娘に怒られて若干へこむ……いつもは立場が逆なのに……。

「急用、ね……。そう言えば取引先の人と会食があったはずだけど、帰って来たってことはもう終わったの?」

「えっと、その急用で断ったんだ。だから、今日は貴方と食事するから、あ、夜食代として渡してた千円は返してね」

 急用を掘り下げられる訳にはいかないと強引に話題を切り替える私だが、私が鈴音の横を通過した直後、鈴音が口を開く。

「そうだお母さん—————とはどうだったの?」

「あ~こーちゃんなら御粥を食べさせてぐっすりと…………ッ!?」

 今、鈴音はなにを!?
 もしかして知ってた!?てか、うっかり零してしまったんだけど!
 口を手で塞ぐ私だけど、バッチリ聞こえてたのか呆れた細めの目で私を見る鈴音……。

「……お母さん。カマをかけて言ったつもりだけど、そんな簡単にボロを出されたら、流石に呆れると言うか……推理する気が失せるんだけど」

 カマをかけたって……つまり知ってたわけじゃ……。

「貴方、将来探偵とかになるつもり?」

「これぐらいで探偵になれるなら世界中の探偵に対して謝罪案件だから。ただ、お母さんがザルなだけ」

 減らず口で母親を諫める娘。
 そんな娘は嘆息して、私が出た後にも半開きの私の部屋の扉を見て。

「綺麗好きのお母さんが部屋を散らかした状態で家を飛び出すのは余程なこと、わたし関連なら有り得るかもだけど、現に私には覚えは無い。なら、お母さんが慌てて家を飛び出すぐらいなら、康太さんが絡んでいると思っただけ」

 この子、私に似なずに鋭い……男を見る目は無い癖に(特大ブーメランが刺さる)。
 と、内心子供じみた意趣返しを吐露している私に、鈴音は更に溜息を吐き。

「まあ、まだ夕方を過ぎた早い時間でのご帰宅なら、何も無かったみたいだけど。康太さんが相当な早漏じゃない限り」

「あなた、その卑猥な言葉は何処で覚えているの? 貴方のスマホの履歴見せなさい」

 嫌だ、と断れたが、ここまで見透かされていると隠す意味もないか。

「別に疚しい事は一切ないから。ただ、こーちゃんが体調を崩したから看病に行っただけ」

「ふーん。体調を、ね」

 と何気ない表情の鈴音だが、

「ちょっと、どこに行こうとしているのかな?」

 私のトタトタと玄関に向かう鈴音の首根っこを捕まえ尋問する。
 拗ねた様に口を尖らす鈴音は言う。

「…………ちょっとお見舞いに」

「……貴方ね。こーちゃんは体調が悪いんだからこれ以上心労を与えない。貴方がいけば長引くでしょ!」

 え~とぶうたれる鈴音を無言で威圧すると鈴音は諦める。
 メールを貰った時に鈴音に一切言わなかったのは、この子に伝えたら無理やりにでも付いて来ると思ったから言わなかったんだよね……。
 目を離せばこの子は勝手に行きそうだし、今日はこの子が寝るまで起きとくか。

 行かないことを了承した鈴音を解放した私だが、鈴音は少し神妙な顔で聞いて来る。

「ねえ、お母さん……本当に康太さんとは何も無かったの?」

 私は針が喉に詰まった様に痛く、言葉が出なかった。
 少し間を空けて私は冷静に答える。

「こーちゃんとは何もないよ。これからも、ずっと」

 鈴音に言い聞かせる様に言った言葉だけど、何故か自分の言葉が胸に重く感じた。
 そうだ。これから先、私とこーちゃんの間に何もない。
 今回のだっていきなり過ぎて頭が回らなかったけど、次は……無視、するんだから。

「お母さんと康太さんの間で昔に何があったのかは知っている。そう簡単に割り切れる事でもないってことは知っている。お母さんの気持ちも理解している。……けど、一つだけ聞かせてくれるかな」

 鈴音は真剣な表情で私に尋ねた。

「お母さんは、自分の幸せを考えたことはあるの?」

「私の……幸せ?」

 私がオウム返しをすると鈴音は頷き。

「そうだよ。お母さんはずっと苦労して来た。子供を一人で育てることがどれだけの苦労か、育てた事なくても分かっている。けど、お母さんは自分の幸せとか、考えたことがあるの?」

 私の幸せ……そんなの迷うことはない。

「私の幸せは、貴方が幸せになってくれること。そのためなら、私はどんな苦労も厭わないから」

「そういうことじゃないよ!」

 私の答えが間違いだと言わんばかり鈴音は声を荒げる。

「私が言っているのは母親としてじゃない、一人の女としての幸せだよ!」

 私は心臓を貫かれた様な衝撃で動けなくなる。
 まさか娘にそんなことを問われるなんて夢にも思わなかった。

「な……なにを言ってるの鈴音。女の幸せなんて、私、もう33であなたもいるのよ? 今更そんな……」

「恋愛に歳なんて関係ないよ! お母さん、私を使って逃げてない!? 自分の気持ちから!」

 鈴音の言葉に私は何も言い返せなかった。 
 声を荒げる鈴音は息を吐き、冷静になったのか静かな声音で語りだす。

「私は父親って存在に憧れてた。ずっと、周りの友達の父親のいる家庭を羨ましく思えた。私にも私の事を愛してくれるお父さんがいてくれればいいなってずっと思ってた……。けどね、本当はそれだけじゃないんだよ」

「それだけじゃないって……」

「……実際の所は、康太さんが私のお父さんになってくれればいいなって思ってた。私の理想のお父さん像は康太さんみたいな人だったから。けど、お母さんが苦しいなら、康太さんじゃなくてもいいよ」

 そもそもこーちゃんが鈴音の父親になるみたいな前提は可笑しいが、あれだけこーちゃんに父親を押し付けていた鈴音がそんなことを言うなんて……。

「ねえ、鈴音。聞かせてくれるかな。その貴方が父親を欲しがる、他の理由を」

 私が訊くと鈴音は少し恥ずかしそうに頬を掻き。

「そんなの……お母さんの幸せだよ……」

 鈴音は自らの胸にそっと手を当て。

「私はずっとお母さんが苦労している姿を間近で見てきた。お母さんは辛くないよって気丈に笑うけど、辛そうにしていたのは知っている。だから……思ったんだ。いつかお母さんに、お母さんが心の底から自分の人生を捧げられる様な良い人が現れればって。そうなればお母さんは幸せになれるって」

「鈴音………」

 私は目頭が熱くなり涙が出そうになる。
 鈴音はそんな事をずっと思ってたなんて……。

「お母さんの気持ち、本当は凄く嬉しいよ。ここまで私の幸せを思ってくれるお母さんを誇りに思う。けどね。1つだけお母さんは勘違いしているよ。娘はね—————母親が幸せじゃないと幸せには、なれないんだよ」

 私は……この子よりも未熟こどもだ。
 
「だから、お母さんは私の事は気にせずに幸せを探してよ。相手が誰だろうと私、本気で祝福するから」

 子供を産んで母親になったことで、大人になったんだと自惚れていた。
 私は道を踏み間違えた頃から何一つ成長していない。あの頃のままだ。

 少しは考えていいのだろうか。
 道を踏み外し、自分の気持ちから目を逸らし、大切な人を傷つけた最低な女だけど。
 自分の幸せを……見つけることを。
 
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